ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。 作:投稿参謀
そして久しぶりの投稿なのに、今度はSW分がほとんどない件。
冬木市が誇る高級ホテル、冬木ハイアットホテル。
そのワンフロアを丸々貸し切った奇妙な客がいた。
客の名はケイネス・エルメロイ・アーチボルト。
ロンドンに存在する魔術師のための教育機関、時計塔の講師にして名家アートボルト家の当主。
天才的な魔術師であり、ロード・エルメロイの異名を持つ彼は、聖杯戦争に参加するために、このハイアットホテルに滞在しているのだった。
* * *
宿泊している部屋の中で、ランサーとケイネスは向き合っていた。
無論、これからの戦いについて話し合うためである。
もう一人、赤毛の美女……ケイネスの婚約者であるソラウ・ヌァザレ・ソフィアリが興味無さげな様子で椅子に腰かけていた。
「……ではマスター。キャスターの討伐に名乗りを上げると」
「無論だ。言うまでもなく、追加の礼呪は魅力的であるし、あの外道をのさばらせておくのは、私の美意識に反する」
ランサーの問いに不敵に笑って答えるケイネス。
まずは、あの
もちろんそれは、キャスターの非人道的な行いに対する義憤などではなく、魔術の秘匿を行わずに暴れるキャスターとそのマスターに対する魔術師としてだったが。
「私とて、キャスターの行いは決して見過ごせる物ではありません。しかしマスター、ソラウのことを考えれば、慎重に期するべきではないかと」
ランサーの提言に、ケイネスは眉をひそめる。
このサーヴァントは、ケイネスが婚約者を連れてきたことに、ずっと文句を言い続けていた。
ケイネスの魔術の腕によって、ランサーの魔力はソラウが供給しているにも関わらず、である。
都合、二人分の魔力を得られるのは、そこにいるだけで魔力を消費するサーヴァントにとって大きなアドバンテージなのだが、ランサーは戦場にソラウを連れ出すことに難色を示していた。
しかしケイネスとしてもこの見た目麗しい女騎士の言うことを、一から十まで無碍には出来ない。
彼女は英国が誇る大英霊、アーサー王に他ならないのだから。
これが例えば古代ケルトの戦士であったりしたなら単なる礼装、使い魔の類いと割り切ることも出来たろうが、生憎とケイネスは魔術師であるが同時に生まれも育ちもイギリスだ。
イギリス人にとって、アーサー王と言うのは特別な意味を持つ。
あの忌々しいウェイバー・ベルベットめに征服王のマントの切れ端を盗まれたケイネスは、急遽代わりの触媒を用意することになった。
最初は古代ケルトのフィオナ騎士団所縁の品を使おうと思ったのだが、ギリギリの所で何と彼のアーサー王がカムランの丘で使ったという神槍ロンゴミニアドの現物を入手できたのだ。
召喚のために使用したら本来の持ち主に返還する約束で借り受けたそれを触媒にして呼び出すことが出来たのは、やはりアーサー王その人であった。
まあ、女性であったことにはソラウ共々死ぬほど驚いたが。
本人は女を捨てたと言っているが、ソラウ一筋のケイネスをして思わず視線が吸い寄せられるほどのタワワな果実をお持ちなので説得力に欠ける。
それはともかく、最優たるセイバーとして召喚出来なかったのは残念だが、ランサーとしても彼女は優秀極まるし、考えてもみればロンゴミニアドはエクスカリバーに比べて知名度の低い品なのだからランサーとして呼び出せたことは真名の秘匿にはプラスに働くだろう。
いやそもそも、アーサー王が実は女性とか、誰も思いもよらないだろうが。
ケイネスとしては「この戦い我々の勝利だ!」とか言いたくなるような状況なのだが……。
「慎重と言われてもな。このフロア一つ借り切って構築した魔術工房は万全にして無欠。結界二十四層、魔力炉三器、猟犬がわりの悪霊・魍魎数十体、無数のトラップに、廊下の一部は異界化させている空間もある。ソラウにはこの工房にいてもらえば防備は完璧だ。後は私とお前で敵を討ちに出ればいい。互いの秘術を尽くした魔術師同士の決闘と洒落込もうではないか」
改めて、ランサーの意見を一蹴するケイネス。
そんなマスターに、ランサーは形の良い眉をひそめる。
どうにもこのマスターは、戦いを甘く見ている節がある。
最愛の婚約者を連れて来たのが、その際たる例だろう。
「まあ、このホテルに魔力を持った者が入れば結界ですぐに分かる……ムッ!」
余裕を見せるケイネスだったが、突如として表情を硬くする。
「マスター?」
「どうやら、お客人のようだ……しかし、こんな真昼間からとはな」
しかし、余裕を崩さず霊装の一つである遠見の水晶球を取り出してテーブルの上に置き、そこに映像を映す。
ランサーも、今まで興味なく気だるげにしていたソラウも水晶を覗き込む。
果たしてそこには、侵入者……ギョロリとした目が特徴的な異相の、あのキャスターの姿があった。
それ自体は驚くほどのことでもない。
あのジル・ド・レェを名乗るキャスターは、ランサーをジャンヌ・ダルクと間違えるほどに正気を失っている。
ならば、この昼間に攻めてくることもあるだろう。
「な、何だと!?」
「こんなこと……!」
「この男は……狂っているとはいえ、そこまで……!」
しかし、キャスターのいる場所はそれでも三人を愕然とさせるには十分だった。
冬木ハイアットホテルのエントランス。
キャスターはそこに堂々と立っているのだ。
* * *
「ご覧になっているのでしょう! 聖処女よ!!」
キャスターは大きく腕を広げ、霊体化もせず、エントランスのど真ん中で高らかに声を上げる。
「どうやら不埒な魔術師共々、結界の奥に籠っているようですね。その結界は私の手では破壊すること叶いますまい。……ならば、引きずり出させていただく!!」
周囲に客やホテルの従業員たちが何事かと集まってくる。
普通ならば、警察を呼ぶ事態だ。
だがキャスターの常人離れした雰囲気に飲まれ、ほとんど動くことが出来ない。
危険だ。何か分からない、理屈は無いが、とにかく危険だ。
多くの者がそう思っているのに、動けない。
「さあ!! 狂乱の宴を始めましょうぞ!!」
キャスターが手に持った本……宝具、
するとどうだろう。キャスターの周辺に海星とも蛸とも付かぬ異形の存在が次々と現れたではないか。
悲鳴を上げる宿泊客や従業員に、異形の海魔が襲い掛かっていく。
「この建物の上階に陣を敷いたのは下策でしたね。我らは下の階を制圧し、あなた方が出てくるのを待っていればいい!」
次々と召喚される海魔はホテルのエントランスを埋め尽くし、それに飽き足らず他のフロアへとなだれ込んでいく。
「何よりも、聖処女よ! 高潔なあなたに、無辜の民が食い散らかされるのを黙って見ていることは出来ますまい!!」
狂気のままに笑うキャスター。
今ここに冬木ハイアットホテルは地獄と化した。
* * *
「何と言うことを……!!」
水晶球に映る惨劇に、ランサーは愕然とする。
さらに、ケイネスも不愉快そうに顔を歪める。
ソラウは、思わず吐き気を催していた。鉄のような女と言えど、人間が貪り喰われる態を見て平気ではいられない。
それでも吐かないのは、彼女のプライド故だった。
「行くぞ、ランサー。……あの愚か者を倒しにな」
「!? マスター!」
ケイネスの突然の言葉にランサーが驚愕し、次いで反論を始める。
「確かにあの下種を放ってはおけません! しかし、あなたとソラウは脱出を! ここは私に任せてください!」
第一にマスターとその婚約者の安全を優先するランサー。
そんなランサーにケイネスは鋭い視線を向ける。
「この私が、あんな外道に遅れをとるとでも?」
「マスター……この際です、ハッキリさせておきましょう。これは戦争です。魔術師同士の決闘などでは無い! 力が足りなければ、知恵が及ばなければ、油断すれば、その全てが足りていてなお、人が死にゆくのが戦いです! あなたがすべきことは、愛する者を守ることではないのですか!」
「……ふむ、まったくもってその通り。……しかし、どうやら私は魔術師として未熟であったらしい」
ギラリとケイネスは、目を光らせる。
「……キャスターの暴挙を見て、私は魔術の秘匿をしていないことに憤るべきなのだ。……それなのに、私は奴の行いの残虐さにこそ怒りを感じている」
ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。
あるいは異なる時間軸に置いては、魔術師殺しに翻弄され無様な最期を遂げる男。
その有り方はあくまで魔術師であり、常人や凡人など意にも介さない。
「なれば、真正面からあの下種を討ち果たし、この未熟さを削ぐとしよう。……それと、ついでに……あくまでもついでに、途中で一般人を拾うとしよう。何、記憶の処理などどうとでもなる」
それでも…………それでも、彼は誇り高い男なのだ。
ケイネスの目から覇気を感じ取ったランサーは、もはや説得は無理と考える。
覚悟を決めて戦場に向かう男を、どうして止められよう?
かくなる上は、剣として、盾として、彼とその婚約者を守るのみ。
「ケイネス……」
ソラウは婚約者の横顔を意外な物を見るような顔で見ていた。
彼女にとって、ケイネスは貴族的で学者然とした男であり、こんな顔が出来るとは思ってもいなかったのだ。
婚約者の意外な姿に、思わぬ衝撃を受けるソラウだった。
* * *
キャスターのハイアットホテル襲撃。
真昼間に、それも一般人の大勢いる場所で堂々と魔術を行使するという、普通の魔術師ならば有り得ない行動は、有り得ない行動であるが故に多くのマスターたちの虚を突く物だった。
遠坂時臣はこの事態をどう収束させるか頭を抱え。
間桐雁夜は飛び出そうとした所を臓硯に止められ。
言峰綺礼は外道の滅殺を進言する兵士たちを宥めねばならず。
ウェイバー・ベルベットは狼狽するばかりの所を征服王に張り倒され。
雨生龍之介は人知れず狂喜の声を上げていた。
当のキャスターがそこまで考えていたかは定かではないが、魔術師にとって秘匿は最低限の原則であり常識であるため、それを完全に無視したキャスターの行動にほぼ全ての陣営が混乱し、動きが鈍っていた。
……たった一つの陣営、いやたった一人を除いて。
* * *
ハイアットホテル近くのビルの上。
黒い装甲服とマントに身を包んだ男は、警察、消防、マスコミに野次馬が集まっているのを見下ろしながら、何処かへと通信を飛ばしていた。
「ああ、そうだ。501大隊を降下させろ。大至急だ」
その全身から殺気がオーラの如く立ち昇る。
シスの暗黒卿、ダース・ヴェイダーは怒りに燃えながらも、声は絶対零度の刃のように冷たく鋭かった。
「……奴らに、我々の戦争を見せてやるとしよう」
てなわけで、死亡フラグから逃げられなかったハイアットホテルでした……。
いや、アルトリアがこっちにいる以上、遅かれ早かれこっちに来るだろうと思って……。
青髭の旦那は、狂人ゆえに普通ならやらないことをやってのけるので、ある意味動かしやすいです。