ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。 作:投稿参謀
時間は遡り、コンテナ置き場の戦いより前の昼間のこと。
冬木某所の公園では、何組かの親子連れが遊具で遊んでいたり、小学生の集団がサッカーに興じていたりする。
血で血を洗う聖杯戦争が始まらんとし、殺人鬼が巷を騒がせているにも関わらず危機感が薄い……というのは、あまりにも一方的な物言いだろう。
そんな子供たちに交じって、4才くらいの白人の少年が転げまわっていた。
さらに、丸っこくて青と白のロボットも動いている。
「おい、ルーク! オレにもR2に触らせてくれよ!」
「あたしもあたしもー!」
「いいよー! でもボクが一番だからね!」
ルークをはじめ子供たちは、ロボットことR2-D2に群がっていた。
神秘の秘匿?
どうみても機械の塊を神秘だと思う奴がいるとでも?
ルークは自然と彼らに溶け込んでいるようだった。
そんな光景を、魔術師殺し衛宮切嗣の弟子にして右腕である久宇舞弥はベンチに腰かけて眺めていた。
彼女に課せられた仕事は、セイヴァーことルークの世話であるが、子供の面倒などみたことがない。
……かつては腹を痛めて生んだ子もいたが、生んですぐに引き離されたので、どうにも実感が薄い。
だから、こうして公園で適当に遊ばせているのだ。
まあ、子供の足だ。
遠くへ行くこともないだろう。
そんな風に考えていると……。
「あれ、ルークどこ行ったんだ?」
「わかんない」
「かくれんぼしてたら、いなくなっちゃったー!」
どうやら、甘い考えだったらしい。
* * *
「いったいどこに……」
公園の森の中、ルークを探す舞弥だが、中々見つからない。
まさか仮にも戦闘職の自分の目を逃れるとは……。
あのドロイドもいつの間にかいないし。
切嗣から承った任務は、ルークの世話、護衛だけでなく監視も含まれているのに大失態だ。
まさか、こんなことで切嗣に令呪を使わせるワケにもいかない。
「どこにいるんだ……」
目を凝らし耳を澄ませるが草木をかき分けるが、影も形も捉えられない。
そのうち不安になってくる。
あんな小さな子が、いつまでも一人でいられるはずがない。
と、ピキャピキャと言う電子音を舞弥の耳が捉えた。R2-D2の機械言語だ。
その声を頼りに森を進むと、太い樹木の根本でR2が騒いでいた。
「R2……ルークはどこです?」
事務的にたずねると、R2はマニピュレーターで上を指す。
見上げれば高い木の上に、ルークがいた。
「あー、見つかっちゃったー!」
呑気に笑っている。
内心でホッとしつつ、努めて事務的に言う。
セイヴァーと呼ぶと嫌がるので、真名で。
「ルーク、ここにいましたか……。かくれんぼは終わりです。降りて来なさい」
「ええと、あのね……」
しかし、ルークは恥ずかしそうにしている。
R2が鳴らす音が、どこか呆れているように聞こえる。
「まさか……」
「うん、おりられなくなっちゃった……」
悲しそうにするルークに、舞弥は我知らず溜め息を漏らす。
「ジッとしていなさい。今、そちらに行きます」
そう言って、舞弥は木を登り出す。
伊達に体を鍛えているワケではなく僅かな出っ張りや枝に手を掛け、アッという間にルークのいる天辺付近までやってくる。
「さあ、ルーク。手を伸ばして」
「あのね、今はダメなんだ!」
「何を言っているんです……?」
何故かごねるルークに舞弥が首を傾げると、ルークの後ろからひょっこりと子猫が顔を見せる。
「この子もおりられないんだって……」
「……ルーク、あなたはまさか、そんな子猫のためにここまで登ってきたんですか?」
「うん」
「それは愚かなことです」
バッサリと、舞弥は言い切る。
「他者のための無償の善意で自分を傷つけるなど、愚かです。ましてあなたは切嗣の願いを叶えるために必要な存在、子猫とあなたの命は等価ではない。どうしても子猫を助けたいのなら、大人を呼べばよかった」
理路整然と、舞弥はルークを説き伏せる。
だが舞弥は知らなかった。
子供に、大人の理屈は通用しないのだ。
「う、う、う、うわぁぁあああん!!」
「え!? ち、ちょっと!?」
「マイヤが言ってること、わかんなぁぁい!」
いきなり泣き出すルークに、舞弥は面食らう。
泣く子の相手なんてしたことない舞弥はオロオロとするばかりだ。
だが、忘れてはならない。
ここは高い木の上だと言うことを。
二人と子猫の乗っている枝が、その体重を支えきれずに折れてしまった。
「うわあああ!!」
「ッ!」
舞弥は咄嗟にルークに手を伸ばし、彼を胸に抱えるようにして地面との激突から庇おうとする。
瞬間、舞弥の目に信じられない物が映った。
R2-D2が、飛んでいる。
脚部の側面から展開したブースターから、ジェット噴射して宙を舞っている。
考える暇もなく、舞弥はルークと子猫ごとR2にしがみつく。
ゆっくりと、空飛ぶアストロメイクドロイドは地上に降りた。
「ルーク! 無事ですか!」
「うん……えへへ、この子もダイジョブだよ!」
ルークの胸に抱かれ、子猫は呑気にニャーと鳴く。
そんな姿に、舞弥は毒気を抜かれてしまった。
「まったく……重ねて言いますが、あまり無茶をしないように。お父様が心配しますよ」
「はーい……」
舞弥の理屈は通じずとも、父の名は効果覿面のようだ。
「はあ……もう。さあ、戻りましょう」
「うん! この子、公園にいた子のトモダチなんだ! みんなにダイジョブだったって知らせてあげないと!」
一転、笑顔になるルークに、よく表情が変わるものだと感心してしまう舞弥。
それと同時に、本当にこの子は他人思いだとも思う。
戦場では早死にするタイプだが、少なくともこの平和な日本では美徳と言えるだろう。
「それにしても、あなたにそんな機能が……ならば何故、最初から飛んで子猫を助けなかったんです?」
舞弥はR2にそう問わずにはいられない
そうすれば、ルークを危険な目に合さずに済んだだろうに。
「……いえ、だからこそ、ですか? いざとなれば助けられるから、まずは自分の力でやらせてみたと?」
まさか、と舞弥は首を振る。
機械にそんな複雑な……まるで人間のような思考が出来るはずがない。
R2-D2は謎めいて機械音声を鳴らすのだった。
* * *
その後、公園に戻って子供たちに子猫を返したルークと舞弥。
まだ時間もあるので、舞弥は屋台でアイスを買って食べることにした。
「すいません、私はダブルをバニラとミントで。この子には……」
「チョコとストロベリー!」
「はいはい、ダブルでバニラとミント、それにチョコとストロベリーね。お姉さん、いつもありがとう! そっちは息子さんかい?」
「いえ、知人の子を預かっているだけです」
馴染みの店主からアイスを受け取り、片方をルークに渡す。
さっそくアイスを舐めたルークは、大きな笑顔を浮かべた。
「おいしい!」
「それはよかった」
あの店は屋台ながら、舞弥が甘味食べ歩きの末に見つけた隠れた名店なのだ。美味で当然。
今度はいなくならないようにルークの手を空いている方の手で引っ張る舞弥。
やはり、この店のアイスは美味だと満足していたのだが……。
「ああー!!」
突然ルークが悲鳴を上げたので下を見れば、ルークのアイスが地面に落ちていた。
泣きそうな顔になるルークに、舞弥はまたしても我知らず溜め息を吐いた。
そして、自分のアイスを差し出す。
「これをお食べなさい」
「いいの?」
「いいですよ」
短い会話の後、アイスを食べだすルークは、すぐに笑顔に戻った。
単純なものだと思いながら、舞弥は自分の分のアイスを買い直すために踵を返すのだった。
* * *
夕刻。
切嗣から連絡を受けた舞弥とルーク、R2-D2はアイツベルンの城を目指して移動していた。
ある程度近くまではレンタカー、その後は徒歩だ。
しかし、ルークが車に揺られるうちに眠ってしまったので、舞弥がおぶっている。
本当に、本当に、呑気なものだ。
「マイヤー……アイス、おいしかったー……」
寝言もどこまでも平和だ。
幼い彼の世界に、危険や悪徳などなく、あったとしても父が倒してしまうのだろう。
「まったく、人の気もしらないで……」
思わずごちる舞弥。
今日一日でドッと疲れた。
だが、悪くない気分だった。
……子供とは皆、こうなのだろうか? ……自分の子供でも? あの子を、母として育てていたら何かが違ったのだろうか?
バカバカしい考えだ。
そんな有りえない『もしも』など、意味はない。
「……明日は、とっておきのケーキバイキングにでも連れていってあげますか」
自分の口元に薄く笑みが浮かんでいることに、舞弥はついぞ気が付かなかった。
Q:R2-D2のジェットブースターって型落ちして部品が無いんじゃ?
A:ダース・ヴェイダー「フルスクラッチすればいいじゃない」
そんなワケで、実は旧三部作本編より高性能なR2。
甘い物大好きだし(仕事だからとはいえ)面倒見はよさそうなので、意外と仲良くなっている舞弥とルーク、そしてR2でした。