ジェダイの騎士が第四次聖杯戦争に現れたようですが……。 作:投稿参謀
結界に守られた森の奥深くにそびえるアインツベルンの城。
欧州の山奥からそのまま切り取ってきたかのような、日本とは思えぬ光景だ。
その城の一室で、ヴェイダーは豪奢な椅子に腰かけていた。
「…………」
しかし、その特徴的なマスクは外されて机に置かれていた。
その目の前ではR2-D2が機体の一部を開き、中からマジックハンドのような二本のマニピュレーターを出して、胸の生命維持装置を弄っている。
深く瞑目しているヴェイダーだが、その顔は醜い火傷の跡に覆われていた。
アストロメイクドロイドがピキャピキャと機械音声で喚くが、その内容は要約すれば「無理すんな」の一言に尽きる。
「ああ、すまないなR2。いつも苦労をかける」
深い息と共に放たれた言葉に、R2は「まったくだよ!」と言わんばかり電子音を鳴らす。
そんな様子を、切嗣とアイリスフィールは少し離れた位置から見ていた。
強大な戦士に見えたヴェイダーの今の有様は、二人にとっても驚くものだった。
ただし、それは戦闘でおった傷ではなく、元からのものだったが。
「見ただけでも全身に深い火傷。四肢は残らず欠損し、内蔵……とかく呼吸器系もほとんど機能していないようだ。目も色が判別できないらしい。機械で生命を維持しているとは言っていたが、ここまでとは……」
驚きを込めて呟く切嗣。
辛うじて人間の形を保っているだけの肉塊とでも言うべき惨状。
とても、生きていられる傷とは思えない。
魔力消費こそ少ないが、この状態で戦い続けられるのか?
「パパー!」
と、部屋の中にルークが駆け込んできた。
その後に舞弥が歩いて続く。心なし疲れているように見える。
ヴェイダーは瞑っていた目を開き、優しい視線を愛息子に向けた。
「おお、ルーク。今日は楽しかったか?」
「パパー、ねえ聞いて聞いて! ぼく、今日はマイヤとかくれんぼしたんだよ! ……あれ? パパ、どうしたの?」
「パパは少し仕事で疲れているのだ。もう少ししたら整備が終わる。それまで、マイヤに遊んでもらっていなさい」
「うん!」
父親の姿に可愛らしく小首を傾げるルークに、ヴェイダーは優しく答えた。
反対に、舞弥は小さく息を吐いた。
らしくない態度にどうしたんだと視線で切嗣が問えば、舞弥はやはりらしくなく小さく笑んだ。
疲れているが、悪くはないと言う、そんな笑み。
「子供のアグレッシブさに驚いているだけです。……まあ、まさかかくれんぼであんな所に隠れるとは思いませんでしたが」
そんな助手の姿に、切嗣は軽く驚いていた。
と、アイリスフィールが切嗣の服の裾を引っ張る。
「キリツグ、ちょっと……」
そのまま引かれて部屋の外に出た切嗣。
アイリスフィールは、戸惑いながらも話しを切り出した。
「ねえ、キリツグ。あの、ヴェイダーのことなんだけど、どう思う?」
「どう、とは?」
愛妻に問われて、その意味を問いかえす切嗣。
「ヴェイダーの話、本当だと思う? 彼は英霊ではなく生きている人間で、しかも宇宙人だなんて……」
「ああ、そのことか。……十中八九、彼の妄想だろう。確かに彼とセイヴァーは飛び切りのイレギュラーだが、考えてもごらん。知的生命体がわんさかいる銀河に、それを支配する帝国。光より早く飛ぶ宇宙船と、フォースとかいう不思議な力を使う騎士。まるでパルプフィクションかハリウッド映画だ」
苦笑しながら、切嗣はヴェイダーに聞こえないように自分の考えを述べた。
彼からすれば、ヴェイダーの言うことは荒唐無稽どころの話しではない。
恐らく、何かの理由で『そうだと思い込んで』いるのだろうと当たりを付けていた。
「だが、その方が都合がいい。有りもしない希望に縋ってくれるなら、僕たちにとっても御しやすい」
人間を操る一番のコツは、希望をチラつかせることだ。
アイリスフィールは解せぬといった顔だが、切嗣はヴェイダーの言葉をはなっから信じてなどいなかった。
……切嗣が部屋に戻ると、ヴェイダーはまだ生命維持装置の整備をしていた。
以外と時間がかかるらしい。
ルークと舞弥の姿はすでにない。
「何の用だ?」
「確認だ。この聖杯戦争の進捗について」
「……あのランサーは、とてつもない使い手だ。ライダーは良く分からないが、雷を操る時点で相性が悪い。私の生命維持装置は電気に弱いのでな」
そう言いつつも、声や口調に弱気な様子は一切なく『戦えば勝つ』とでも言いたげだ。
「それにバーサーカーもあの能力は脅威だな。金ピカは……今更言うまでもあるまい。それに……クローン・トルーパー」
ヴェイダーのが目を開き、鋭く細める。
初めて見る瞳の色は『青』だった。
「あの、アサシンか。ステータスはたいしたことはなかったが……」
「彼らは戦いのために生まれた、生粋の戦士であり兵士だ。地獄のような戦場を潜り抜けた猛者であり、死さえ厭わぬ本物の勇者たち。それが彼らだ。ステータスなんぞ当てにならん」
「他はともかく、ステータスが当てにならないのは同感だな。……しかし随分と詳しいんだな。知り合いか?」
「……かつて、共に戦った。向こうは私のことは分からないだろうが」
どこか自嘲気味に笑むヴェイダー。
その意味を測りかねる切嗣だが、今はどうでもいいだろうと割り切る。
「彼らが生まれたのは、必要に迫られたことと……巨大な陰謀が絡んでのことだったので、一概には言えんが……目的のために生み出されたと言う意味では、貴様の妻とそう変わらん」
その言いように、切嗣は表情を変えないまま眉を少し吊り上げる。
逆にヴェイダーは少しニヤリとした。
「気に障ったか?」
「別に。事実だからな」
少し視線を逸らす切嗣に、ヴェイダーはさらに言葉をかける。
「……止めておけ。妻を殺すのは」
瞬間、切嗣は凍りついた。
何とか首を回せば、暗黒卿は鋭い目つきでこちらを睨んでいた。
「貴様の願いとやらがどれだけ切実かは知らん。何故、そんな分不相応な願いを抱いたのかも知らん。……が、愛する者を手にかけるというのはな、堪えるぞ」
何故、それを知っている? アイリが死ぬだろうことは、彼には話していないのに。 そう切嗣が問うより早く、ヴェイダーは言葉を続ける。
「何もかも、どうにでもなれと投げやりになっているのに、憎しみと悲しみばかりが増大して消えることはない。やがて、それ以外は何も見えなくなる。魂が生きながら死ぬようなものだ」
「……まるで経験があるような物言いだな」
カラカラに乾いた喉でようやく絞り出したのは、そんな言葉だった。
ヴェイダーはこれまでにない、凄絶な笑みを浮かべた。
「ああ、ルークの母……つまり私の妻は……私がこの手にかけたのだ」
今度こそ、切嗣は言葉を失った。
「これは経験則だ、キリツグ。どんな理由があれ、愛する者を殺めた先には無限の後悔しかない」
「……母を奪っておきながら、ルークの父親を気取るのか」
「貴様が母を奪おうと言うのに、イリヤスフィールの父親を気取るようには」
切嗣は、身を翻した。
もう話すことなんかない。
こいつは、妄想狂で、人殺しの、英雄様だ。
柄にもなく会話してしまったが、そもそも道具として使い捨てるつもりだったのだ。
それでも、最後に言わねば気が済まなかったのは、弱さだろうか?
「……愛する者を手にかければ、後悔しか残らない。そんなことは僕が一番よく知ってる」
平坦な声は、しかしヴェイダーには血を吐くような慟哭に聞こえた。
「それでも、ここで止まれば全部無駄に……無駄死にになる」
……去りゆく切嗣の背を、ヴェイダーは睨み続けていた。
(ありゃ、こじらしてるね。以前の君みたいだ)
その暗黒卿に、整備を終えたR2-D2が機械音声で、そう言った。
「ああ、あの男の中から、果てしない後悔を感じる。苦悩はなくとも罪悪感は人並みの、面倒くさいクチだ」
(それ、君が言う?)
「……………」
長年の親友の物言いに苦笑するヴェイダー。
彼らから見て衛宮切嗣は、酷く偽悪的で割り切れていない男だ。
と、良く知る気配が近づいてくるのを感じた。
「パパー! おわったー?」
「ルーク。ああ、整備なら今終わった」
息子をヒョイと抱き上げるヴェイダー。
「ねえ、パパ? パパは今、『せいはいせんそう』っていうことをしてるんだよね。マイアから聞いたんだ!」
「ああ、そうだ。ルークは色んなことを知っているな」
「えへへ、それでね? パパはキリツグとアイリを守ってるんでしょ?」
「…………ああ、そうだな」
正直、あの二人に対する義理は無いに等しい。
それどころか、息子をこんなことに巻き込んだ怒りの方が強い。
「あのねあのね! ぼく、イリヤと約束したんだ! パパがぜーーーっ対! キリツグとアイリを守ってくれるって!!」
ルークの言葉に、一瞬ヴェイダーは固まる。
どうも、あの別れの時にそんな約束をしたらしい。
R-2が、「どうする?」と言いたげに電子音を鳴らす。
ああ、仕方がない。息子が約束したなら仕方がない。
父として、息子が友達とした約束を守れるように努力するのは当然のことだ。
「……少し、方針を変えるとしよう」
その頃のランサー陣営。
ランサー「………………」
ケイネス「………………」
青髭「ああジャンヌ! ジャンヌ、ジャンヌ! ジャンヌゥウウ!! ジャァァァンンヌゥゥウウウ!!」
ランサー「そぉい!!」(槍ビーム)
青髭「ジャンヌバアァアアア!!」
ケイネス「……何だコレ? ………………いや本当に何だコレ?」
ランサー(この聖杯戦争はこんなんばっかりか……)
愛する者をその手にかけている。
実は子供っぽく癇癪持ち。
本質的には家族大好き。
こうして並べてみると、意外と似てる切嗣とヴェイダー。
ようやく聖杯戦争一日目が終了です。
英雄王と時臣?
まあ、今語る必要はないんじゃないかと思いまして。