英雄の境界   作:みゅう

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30話の続き、飯田くんの武者修行編。


第32話 露天風呂にて

 突然報告の入った土石流災害の報。偶々近くに居た俺達は突入ポイントへと先行し、降車すると共に自らの足で現地へと向かうことになった。しかし────

 

「完全にこれは崖、ではありませんか」

「そう呼ぶ人も居るわね」

 

 あっけらかんと答えるピクシーボブだったが、これは斜面なんて生温いものじゃない。俺が手を掛けているガードレールの先の風景、これは限りなく垂直に近い。高さは優に五階建ての建物を超えるどころか倍ぐらいあるかもしれない。

 

「天哉、日本史は得意か?」

「はい。得意だという自負はありますが、それが何か?」

「一ノ谷の戦いは知っているな?」

「源義経ですね」

 

 そう答えた俺の背に冷たい一筋の汗が流れる。

 

「まさか、鵯越の逆落としを(崖を下れと)?」

 

 恐る恐る尋ねてみた俺に対し、ニヤリと犬歯を輝かせた虎が言う。

 

「個性のない時代の人間でも成せたのだ。我らに成せないはずはない」

「ごちゃごちゃ言わない! 人の生命がかかっているのよ! お手本を見せてあげるから同じ足場を辿って遅れず着いてきなさい」

 

 そう言って真っ先にピクシーボブが飛び降りた。何を迷っていたんだ俺は。そうだ人の生命がかかっているのだぞ。この一瞬の躊躇が生死を分けかねないというのに!

 

「行きます!」

 

 ガードレールを飛び越え、先行するピクシーボブに続く。斜面の僅かな出っ張りを見極め、足場から足場へ跳躍する。後方から虎の叱責を受けながら、俺は何とか遅れないように崖を駆け下りた。

 

 そうして、森の中の道なき道を走ること一時間強だろうか。

 

「顔を上げろ天哉、下ではない。前を向け。周りをもっと良く見るのだ!」

「次の足場だけじゃない。傾斜、足場の安定性や丈夫さ、そして何より経路全体を把握して最適ルートを逐次計算するのよ!」

 

 個性の関係上、他人よりも基礎体力にも足の速さにも自身はあった。しかし俺は肩で息をしているのに対し、虎とピクシーボブの二人は俺に対して常に大きな声で指導しながらも森を駆け抜ける余力があった。これが学生とプロの差か。

 

「違う。その草は湿気を好む上に潰れた粘液が良く滑る。決してそれは踏むな、足を捻るぞ!」

「急ぐのは良いけど、救助者を輸送する体力も必要よ。それに道を荒らせば後続や、帰りに支障を来すかもしれないわ。もっと歩幅は小さく、踏み込む力も控えめで良いから、ピッチを上げるのとルート計算でカバーしなさい!」 

 

 整地されていない森の悪路における走行テクニック、体力の温存方法や山で迷わないための方法。学校では学べなかった様々な事をこの短い時間で俺はドンドン学んでいた。ここで学んだことはきっと山だけでなく都市災害で活かせることもあるだろう。やはりこの事務所を頼って正解だった。

 

「何をボッっとしている!? 天哉、返事は!?」

 

 いかん、気が緩んで余計な事を考えていた。

 

「イェッサー!」

 

 即座に腹の底から声を出す。気合を全身に漲らせなければ。

 

「よーし、まだまだ声出るわね。あ、ここの苔は踏んじゃだめよ!」

「はい!」

 

 10メートルほど先行するピクシーボブが指で石の上にびっしり生えた苔を示す。危ない。指摘されてから初めて気づいた。言われなければ見落としていたな。

 

 だが、あのルートは数歩の差かもしれないが少し遠回りではないだろうか。そう思って、ピクシーボブの踏んだものとは違う木の根に足を掛けるようにして、坂を一息にショートカットする。

 

「それで良いぞ、天哉! お前の方が上背がある分、歩幅もあるし超えられる高さも異なってくる。要領は掴んで来たはずだ。そうやって自分にとっての最適を常に考えろ!」

「イェッサー!」

 

 授業以上に叱られてばかりの職場体験スタートだったが、今日初めて褒められた気がする。

 

 だが決して油断をしてはいけない。この先には俺たちを待っている人たちが居るのだ。虎やピクシーボブが俺に速度を合わせて居るのはきっと俺を二次被害で遭難させないため。だから俺がもっとペースを上げることが出来れば、より早く救かる人がいるのだ。『“早く”救けることが重要だ』という兄から教わったモットーが脳内に反響する。

 

 視界を広く、目を凝らし、耳を澄ませ、腕を振り、地面を踏みしめる。この一連の作業をもっと精密に、臨機応変に。今この場での進化を俺は求められているのだと己に言い聞かせて、遅れを少しでも縮められるように俺は山道を走り続ける。

 

「天哉、ペースを落とすな! プルスウルトラだろォ!? しろよウルトラ!」

「イェッサー!」

 

 

                     ×          ×

 

 

 

 その後、急な雷雨に襲われながらも更に二時間ほど走ると土石流の現場に何とか辿り着いた。土石流に飲まれた建物は屋根部分しか見えない、ぐらいの状態だったのだが────

 

「マッチポンプ、ですか?」

「そうだ」

 

 その言葉を聞いて心が拍子抜けした途端、両肩に一気に疲労感がのしかかってくる。

 

 そういえばピクシーボブの個性は土流。土石流を現在進行系で何事もなかったかのように個性を用いて後片付けしているのを見れば、事前にそのような状況を作るのも簡単だっただろうと、容易に想像が着いた。

 

「騙してゴメンなさいね。まずは基礎能力の確認をしたかったから、試させてもらっていたのよ」

 

 災害現場の大翁岳の宿泊施設────正しくはプッシーキャッツのマタタビ荘にて待機していたマンダレイが、ふかふかのフェイスタオルを俺に渡しながらそう謝罪した。 

 

「天哉よ。人の生命がかかっていると思っていたからこそ、いつも以上に真剣になれたと思わぬか?」

「そうですね。訓練とは全く別のプレッシャーで、プロはいつもこんな緊張感の中で、一挙一動に心を配り活動しているのかと思うと、改めて尊敬の念を感じました」

 

 騙された、などと吠えるつもりは毛頭ない。この職場体験中に実際の現場に遭遇することもあるかもしれないと考えれば、失敗の許されない状況にいきなり俺を放り込むより、一度このようにワンクッションを置いたのは実に合理的な判断なのだろう。

 

「あちきがサーチの個性でここから天哉を観測しながら、マンダレイのテレパスで虎とピクシーボブに更なるアドバイスを付け加えるよう指示していたのね。ホレ、ジュースを飲め、アハハハ!」

「冷たっ!?」

 

 ラグドールがキンキンに冷えたオレンジジュースをマスクを脱いだ俺の首元に当ててきた。それを受け取り、礼と戴きますの一言を入れてからジュースに口をつける。濃厚な甘みと酸味が体中に染み渡るようだ。この一杯は本当にありがたい。

 

「ラグドール、今日のお昼は何?」

「ホッカホカの豚汁と天ぷらだー!」

「後は揚げるだけだから、さっとお風呂で一度温まって来て」

 

 マンダレイはそう言うが、しかし────

 

「すみません、俺の着替えというか私物の入ったバッグは、車の中に置き去りなんですが、どうしたら良いでしょうか?」

 

 俺の言葉に4人は顔を見合わせるが、ラグドールの笑い声が気まずい沈黙を打ち破る。

 

「アハハハ! 車のこと忘れてた! みんな気づいてなかったのウケる、腹筋がブッチブチ!」

「完全に失念していたな。天哉、補給後直ぐに現地へ戻るぞ。おさらいだ!」

「イェッサー! 迅速に補給を済ませます!」 

「これじゃあ天ぷらは夜までお預けね。ご飯は食べやすいように塩むすびにしましょうか。ピクシーボブ、次は私が行ってもいいけれどどうする?」

「どーせもう私もグショグショだし、さっきの編成でいいんじゃない?」

「珍しく乗り気ね?」

「何かね。こう本気の子見てるとね。若さ(パワー)が貰えそうな気がするのよ」

「そ、そう。疲れたでしょうから三人は座ってて。私とラグドールで用意するから。それにしても洸汰は部屋に引き籠っちゃって、もう全くあの子ったら……」

 

 生姜の効いた豚汁と塩むすびを腹八分目程度に補給し、俺はスタート地点まで復路を辿る。途中、ピクシーボブの個性で作成・操作された土で出来た魔獣と戦いながらのよりハードな山岳訓練で今日の一日のスケジュールのほとんどが完了した。夕食後の就寝前に一時間ほど座学で山の天気のことや、地図の詳しい見方や捜索活動のコツについて教えてくれるとのことだった。

 

 

 

 

 

                     ×          ×

 

 

 

 

 訓練の終わった夜にはすっかり雨も止み、雲も晴れ、三日月と無数の星々のさんざめく光が夜のキャンパスを彩る。東京で見る星とは輝きの強さも、数や密度も段違いだ。星座に詳しければ盛り上がる光景なのだろうが、生憎と俺がサッとわかるのは北斗七星ぐらいである。北斗七星から辿ることでWの文字の形をしたカシオペア座も辛うじて分かったが、俺にはここで限界のようだ。冬になればオリオン座ぐらいはわかるのだが時期が違う。

 

「それにしてもまさか職場体験先で露天風呂に入れるとは予想外だったな」

 

 湯で顔を拭い、全身に湯のぬくもりを浸透させながら想いを巡らせる。俺はかなり恵まれた事務所に来たのだと、この一日だけでも痛烈に感じていた。

 

 実際の出動こそなかったものの、緊迫感のある本物に近い体験を先取って用意してくれたこと。そして連盟事務所である故に一流かつベテランのプロヒーロー四人がかりでの指導を受けれるという利点に加え、指導そのものもラグドールの個性による綿密なフォローがあるという点で他の事務所と比べてもかなり条件が良いはずだ。本当に感謝しかない。

 

 他のみんな今日一日どんな過ごし方をしているのだろうか。約束もしていたことだし、夕食の後でまず巡理くんに連絡を取ってみるとしよう。

 

 夕食の集合時刻までまだまだ余裕はあるが、あと十分ほど星を眺めながら湯を堪能したら上がろうかと考えていた時に、入り口の方で扉が開く音がした。

 

「どうだこの露天風呂は? 中々の絶景であろう?」

「えぇ、とても星が綺麗です」

 

 立ち上る湯けむりの奥から現れた虎。その傍らには未就学児にも見える男の子がおり、虎に手を引かれていた。俺は一度湯船を出て、彼らに近づく。

 

「もしやその子がマンダレイの従甥の?」

「あぁ、洸汰挨拶しろ」

 

 どこか爆豪くんを思い出させるような目つきをしたその男の子は、押し黙ったままだ。ここは年長者がリードするべき場面だろう。

 

「こんばんは。俺は雄英高校ヒーロー科の飯田天哉だ。ヒーローを目指してプッシーキャッツのところに一週間世話になることになった。短い間だがよろしく頼む」

 

 片膝をついて視線の高さを合わせ、なるべく圧迫感がないように心がけて彼に話しかける。すると押し黙ったままの彼は不意に突然右足を蹴り上げてきた。戯れてるだけかと思ったが、その軌道の凶悪さを察した俺は、彼の蹴りを手で軽く受け止める。

 

「危ないぞ」

「ヒーローになりたいってヤツとつるむ気はねぇよ」

 

 語気から明確に感じ取れるほどの嫌悪と怒り。ご両親が敵との戦闘で殉職したと伺っていたが、この様子だと心の傷は深そうだ。この年頃の子供は普通皆ヒーローに熱狂するというものなのに、ヒーロー自体を憎んでいそうな口ぶりだった。

 

「つるむって、年齢の割にはませた言葉を使うじゃないか。ただ俺を嫌うのは君の勝手かもしれないが、暴力は良くないぞ。もう少しで俺の陰○うに当たるところだったではないか」

「ふん、虎みたいにニセち○こじゃないか、確かめたかっただけだ」

「スマンな。コイツは中々難しいのだ。洸汰、まずは頭を洗うぞ」

「ちょっ、やめ──自分でできるって」

 

 ぎゃあぎゃあと抵抗する洸汰くんを引きずって洗い場へ連れて行く。

 

「そうだ。天哉よ、良かったらコイツの頭と体を洗ってはくれぬか?」

「ふむ、裸の付き合いで仲を深めると。いい案ですね! よし、洸汰くん。俺が耳の裏までしっかり洗ってやろう」

「いらん、俺一人でできるから。てめェはくんな!」

 

 本当にこの子の言葉の汚さは爆豪くんを思い起こさせるな。俺は将来が少し心配だぞ。

 

「いつも一人にすればカラスの行水であろうが。こうなったら我がいつも通り力尽くで────」

「うっ、虎の洗い方はちょっと痛いから、まだコイツの方が良い」

 

 観念したように洗い場の椅子に座る洸汰くん。虎が手にしていたシャンプーハットを受け取り、彼の頭に装着させる。そう言えば他人の頭を洗うのは初めての経験だ。うーむ、床屋の感じの力加減で洗ってやればいいのだろうか。迷いながらシャワーのお湯の温度を確認した後、彼の頭皮の汚れを洗い流し始める。

 

「温度はどうだ? 熱くはないか?」

「チッ、ぬるすぎ」

 

 子供に舌打ちされながら、仕方ないなと温度を少し上げてみる。

 

「熱っ、急に温度を変えるなよ! 普通わかんだろ? ちょっと待たないと温度が安定しないんだって!」

 

 しまった、そういうタイプだったか。慌ててシャワーを床に向けて洸汰くんにかからないようにする。手で確かめてみると確かに少し熱い。心地よい人も居るかもしれないが、一般には不快な温度だろう。家と同じ感覚で取り扱ってしまった俺の不注意だ。

 

「火傷はないか!?」

「ないけど、てめェ本当に気をつけろよ!」 

「本当にすまない! この位の温度でどうだろうか?」

「これでいい。優しく洗えよ。虎みたいに爪立てるの嫌だからな」 

「うむ。善処しよう。では目をしっかり瞑っておきたまえ」 

 

 シャンプーを手に取り、泡が飛び散らないよう、洗い残しの部分がないように気をつけながら、作業を開始する。それにしても一回り近く下の子供の頭となれば随分と小さいものだな。自分の手と比較してみて俺はそう思う。兄さんと俺も一回り以上歳が離れていたし、兄さんもこんな風に感じていたのだろうか。感慨深いな。

 

「洸汰くん、頭の痒い所はないか?」

 

 一通り洗ったところで床屋でよくあるやり取りを真似してみる。

 

「頭の天辺がちょっと」

「よしわかった! 徹底的にそこを洗うぞ!」

「……オイ。つ、強いって! 痛いからちょっとストップだって、バカヤロー!」

「すまない。ではこうならどうだ?」

「弱い。気持ち良くない」

「難しいな。ではこれでどうだ?」

「うん、そのぐらいで続けろ」

「わかった」

「洸汰よ、天哉が嫌ならいつでも我が変わるからな」

「コイツの方がマシだからこのままでいい!」

 

 洸汰くんは気難しい少年だったが、少しだけ彼との距離が縮まった気がする。風呂の効果は偉大だ。

 

 

 

 

                     ×          ×

 

 

 

『────ということがあったんだ』

『殉職かぁ。それくらいの歳ならお父さんお母さんが世界の全てだもんね。ヒーロー嫌いになって当然だ。下手な事を言わなかった天哉の判断は間違いじゃなかったと思うよ。私のケースとは違うけど、全くの孤独でもないし、プッシーキャッツとの距離感以上には近づきすぎない方がいいかもね。ほどほどが良いと思うよ。あんまり良く知らない人からズケズケと踏み込まれるのは気持ちいいものじゃないし、特にその洸汰くんて子は気難しそうだから、多分爆豪みたいにすぐ反発しちゃいそうだもんね』

 

 電話先の巡理くんが俺の判断に同意を示してくれた。これから一週間洸汰くんと関わって行くことになるのだが、どうするべきか悩んでいたため、状況の近い彼女に助言を求めたがやはり正解だったようだ。

 

『そうか。役に立つ助言をありがとう。助かったよ』

『どういたしまして。ところで話は変わるけど天哉、ちゃんとサインはもらってくれた?』

『しっかりともらっておいたぞ!』

『ありがとう! うわー楽しみー!』

『巡理くん、そちらは今日はどうしていたんだ?』

『ひたすら組手を教えてもらってたよ。しごかれたけど流石ナンバー2だけあってすっごく強いし勉強になるね。そっちの活動の方は?』

『俺は山岳地帯の走行訓練と戦闘訓練を並行してやっていたな。あとは山岳地帯での活動について必要な座学も少しずつやっているところだ。天気や地図等な』

『成る程、天気と地図か。確かに山だと必須の知識だね。その視点は私持ってなかったや。確かにレスキュー系志望なら自分でも勉強しておいたほうが良さそうだね。また学校に帰ってきたらちょっと教えてくれる?』

『ノートは任せておけ。きちんと整理してあるからな』

 

 巡理くんなら、きっとそう言ってくると思っていたので普段以上にしっかりとメモを取ってある。

 

『頼りにしてるよ。あ、天気といえばそっちは雨とか大丈夫だった? いけてる?』

『山だからな。急に天気が変わって雨にも打たれたが、今はすっかり雲一つない空だ。夜空を見ながら電話しているんだが満天の星空で絶景だぞ。東京で育ったからこういった景色は心が躍るな』

『星かぁ。山の方にお父さんと住んでたときに、流れ星とかたまに見えたりしたのが嬉しかったなぁ。願い事は一回も間に合わなかったけれどね。天哉は流れ星見たことある?』

『そう言えば見たことないな』

『本当にあっという間でさ、スーって消えていくんだけど本当に綺麗だよ』

『一度は見たいものだな。流星群の日なら一つぐらいは見えるだろうか』

『流星群か。五十個とかいっぱい見えるんだよね? 流星群は私もないなぁ。でも、それだけいっぱい見れる日なら一個くらいお願い叶えてくれるのかな?』

『占いや言い伝えの類は信じないのかと思っていたが意外だな』

『あまり信じないけどね。でもたまにはロマンチックなことも考えるんだよ。天哉みたいにカッチコチじゃないんだから』

 

 血も涙もないような例えをするのは止めて欲しいと思うが、それを口にするのは止めておく。彼女のひねくれモードに火をつけてしまいそうだ。

 

『そういえば星と言えば七夕に願いを掛けるのも定番だな』

『七夕ねぇ。願い事見られちゃうのが恥ずかしかったから短冊はあんまり書けなかったなぁ。それに私にとってはどっちかって言うとただの誕生日ってイメージだし』

『ん? 誕生日とは君のか?』

『そうだけど。あれ? 言ってなかったっけ私? いや、言ってなかったかな……』

 

 電話の向こうの彼女は首を捻っていそうな感じだ。俺の誕生日が夏休み、麗日くんが冬休みだったので学校での誕生日会がなかったというような話題はした覚えはあるが、多分巡理くんの日については聞いていなかったはずだ。

 

『俺も初耳だと思うが、でもこれで覚えたぞ。誕生日は盛大に祝おうじゃないか』

『これってもしかして、誕生日プレゼントを期待していい流れ?』

『あぁ、何か欲しいものがあるのなら、できる限り要望に応えよう』

『ならそうだね。美味しいショートケーキが食べたいかな』

『それだけでいいのか?』

『うん、それがいいの』

『では当日までにショートケーキの美味しい店を検索しておこう!』

『ありがとうね。天哉』

 

 まだ一ヶ月半ほど先の話だが、新鮮なフルーツのたくさん乗ったショートケーキの美味しい店を事前にしっかりと探さなければ。彼女の通話が終わった後の寝るまでの間、俺は雄英近くの菓子店のレビューを片っ端から検索することに励んでいた。

 




ラッキースケベはありません
真面目主人公起用による無慈悲な定めです…私は悲しい
飯田くんはもう少し修行の後の参戦になります


9/4追記
原作最新話にて心操くんの個性について詳細がわかってきましたが、騎馬戦での下りはそのままにしておきます。次話以降は原作に沿った範囲で用いるようにします。

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