あくまで冒険者やってます   作:よっしゅん

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少し投稿が遅れました。ごめんなさい。
風邪を引いたり忙しかったりでなかなか執筆できませんでした。
この話も急ピッチで書き上げたので、すかすかの文と誤字脱字だらけかもしれないので、ご注意です。


第9話

 

 

 

 

エ・ランテルの内周部には中央広場や冒険者組合、神殿などもあり基本的に市民の住居区はここにある。様々な建物が建ち人で賑わっているが、そんな場所とは裏腹にスラム街などもある。

そんなエ・ランテルの住居区にある一軒の建物……建物と言っても人が住みそうな家ではなく倉庫に近いような形状をしている建物があった。その建物の周りには雑草が自由に伸びていて、植物のツタなどが壁を張っているところを見るとこの建物は使われていないということを物語っていた。

そんな建物の前にレジスはいた。

 

「 なぁ姉ちゃんや。本当にここなのか?」

 

「あぁ、多分な」

 

匂いを追って最終的にたどり着いたのはここだった。つまりこの建物の中かその周辺に盗人がいる可能性が高い。

しかし、ずっとブドウ酒の匂いを嗅いでたせいか無性に飲みたくなってきてしまった。追加報酬として1本貰えないだろうかと考え始めたレジス。しかしすぐにハッとしてその考えを散らす。

 

(いけないいけない。『仕事が終わるまで報酬のことは考えるな。終わった後ゆっくり考えればいい』……だったよな)

 

子供の頃にそう教えられ、レジスはそれを守っていた。かつての懐かしい昔を思い出し、少しばかり感傷に浸りたかったが今は仕事中だ……そちらに集中しなくてはと心の中で葛藤をする。

既に捜索を始めてから1時間が経とうとしていた。お頭と呼ばれていた男のあの話が本当だったのなら、あと1時間以内に盗まれた物を取り戻さなければこの隣の男はクビになってしまうらしい。

 

「さてと……」

 

レジスは生命探知の魔法を発動させる。いつもなら魔法に頼らず痕跡で探すのだが時間が惜しいためここは魔法で手っ取り早く探すことにした。

周辺にいくつか反応があったがこれは市民のものだろう。レジスは怪しいと思われる建物の中にまで魔法の効果を広げると案の定反応があった。

 

「……?」

 

ふと違和感を覚える。確かに建物の中から反応が1つありおそらく例の盗人の可能性が高いが、明らかにおかしいと感じたことがあった。

この生命探知の魔法は対象の生命力の強さにより反応の強さが変わるという効果を持っているのだ。例えば産まれたばかりの赤ん坊や子供は死に至る病気や怪我をしてない限り、生命力が溢れている証拠に反応が強く出る。逆に死にかけの場合や、歳をとり生命力が弱まると反応が限りなく小さくなる。そして男の話からすると人間の女が犯人と思われるが、明らかに建物の中からする反応は人間と比べる必要もないくらい大きく反応をしていた。つまりはこの中にいるのは人外の存在という可能性がレジスの中に浮かび上がってきた。

 

「おい……」

 

人外……モンスターかもしれない場合もあるので危険な可能性がある。男にそう忠告しようと後ろにいた男に呼びかけようとするが何やら様子がおかしかった。何かに驚いているように口を開けて目を見開いていた。

 

「……呼んでる……おいらを」

 

「どうした? 何が呼んでるんだ……?」

 

しかし男はレジスの問いに答えようともせずにいきなり走り出した。

走った先は建物と建物の間にある道とも言えない小さな隙間だった。しかし小柄な男はスルスルとその隙間に入っていき奥に行ってしまった。

 

「一体なんだ……? 精神支配か……いや、《誘導/リード》の魔法か」

 

《誘導/リード》はユグドラシルにはなかったこの世界特有の魔法の1つで、「この場所にいかなきゃならない」という気をかけた相手にさせる魔法だ。

本来は逸れた仲間などを呼び寄せたりする魔法なのだが、逆に誘き寄せるためにも使えたりしてしまうのだ。しかし男が何の違和感もなく魔法にかかってしまったところを見ると、詠唱者はそこそこの魔力を持っている可能性が高い。

ともかくすぐに男を追いかけなければ彼が危険だろう。レジスは男が入っていった隙間に体を横にして入ろうとするが背中の2本の剣の柄がつっかえてしまって入れなかった。

仕方なしに背負っている剣を降ろし手に持つと、再び隙間に入ろうとする。がしかし、今度は別の物が引っかかってしまった。

 

「………ぐっ」

 

なんとか押し込めないかと体を押し込んではみるがやはり通れる気がしなかった。

 

「む、無理か…」

 

視線を下にして胸を軽く触りながらそう呟く。

どうしてもこの無駄にデカくしすぎた胸が引っかかってしまって通れなかったのだ。いや、こんな狭い隙間はよっぽど膨らみが小さくない限り通れないだろう。

それにしてもどうしてこんな大きさにしたのだろうか。アバターコンテストに出す作品は、自分の中での最高の美少女というテーマを基にこの姿を作ったのだが……ふとこんな時に昔の思い出が頭をよぎった。

 

 

 

 

 

 

『いっえーい。やっと仕事終わったぜ! ……ありゃ? レジスさん1人ですか?』

 

『ペロロンチーノさん…お仕事お疲れ様です。みんななら今モモンガさんの装備作りのための素材集めに行ってますよ』

 

『あっちゃー……少し遅かったか。レジスさんは行かなかったんです?』

 

『俺はちょっと……期限が迫ってきてるんで先にこっちを済ませたくて』

 

『あーアバターコンテストのやつかー。俺はもう出しちゃいましたよ』

 

『どんなの作ったんですか?』

 

『“自分をギャルゲーの主人公にしてみた”というテーマのアバター作ったぜ!』

 

『はは……ペロロンさんらしいですね。俺は自分が考える最高の美少女作ってますよ』

 

『ほう! 美少女とな!? 見せて見せて!』

 

『食い付きがいいですね……とりあえず顔の方はできたんですけど体の方をどんな感じにしようか迷ってまして』

 

『ほうほう、銀髪……いや白髪に近い色ですな。それに真っ白な肌に眉毛や睫毛の色までもが白だと!? ……こ、これはまさか伝説のアルビノ少女!?』

 

『あ、いや……色の方もまだ決めかねててとりあえず真っ白にしてるだけですよ。そうですね、無難に黒髪か金髪で……』

 

『いーや! ならこのままアルビノっ娘にしましょう!ちょうど俺が今やってるエロゲのヒロインにいますのでそれを参考にしましょうそうしましょう!』

 

『これ俺のアバターコンテスト用なんですが……はぁ、なら一緒に考えましょうか。ペロロンさん』

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ……そうだったな」

 

この姿はペロロンチーノと共に作り上げた姿だったのを思い出した。胸の方もペロロンチーノの趣味でこの大きさにしたのだが、思いもよらぬ所でアダとなってしまったようだ。

そういえばこの2人の合作のアバターを基に、ペロロンチーノがNPCを作っていたが予想通り趣味全開のNPCができて思わず苦笑したのもいい思い出だ。

 

「おっと、感傷に浸るのは後にしなくてはな……さてどうするか」

 

さりげなくもう一度生命探知の魔法を使ってみるが、どうやら既に男は建物の中にいるようだ。多分あの隙間から建物に入れる穴か何かがあるのだろう。別に壁を壊して入ってもいいのだが、いくら今は誰も使ってないとはいえ所有者はおそらくいるだろうし色々と面倒を起こすのは極力避けたい。

 

「まぁ、窓の1枚くらいはいいか」

 

壁と窓。どちらが修理するのに手間取るかは予想できるので、念のため周りに誰もいないのを確認してから木の板を貼り付けてできている窓を壊して建物に入る。案の定中はカビ臭く、今は誰も使っていないようだ。そしてぼーっとした様子で男もいるようで、みた感じまだ無事な様子だ。

 

「おい、しっかりしろ」

 

近づいて頬を軽く叩いてみる。すぐにはっと目を覚ました男が辺りをキョロキョロと見回してから頭にハテナを浮かべる。

 

「あ、あれ?なんでこんなとこ来たいと思ったんだろ…」

 

「魔法だ。もしかしたら盗人はただの盗人じゃないかもしれない。お前ははやく……」

 

外に出て避難しろ。そういう前に辺りに響く笑い声で遮られてしまった。

 

「ひぇ!ななななんだ!?オバケか!?」

 

腰を抜かしたのか尻もちをつきながら地面に倒れ伏す男。臆病そうな見た目だとは思っていたがどうやら当たっているようだ。

しかし男の言うオバケ……幽鬼や死霊系のモンスターなら先程の生命探知に引っかからないはずなんだが。

再び生命探知の魔法を発動させる。するとレジスと男の上空周りをぐるぐると回りながら移動している反応を捉えた。しかし辺りを見回しても何もいない……これが笑い声の持ち主なのかは不明だがひとまずこちらから仕掛けてみることにしたレジスは別の魔法を発動させる。

 

「そのまま伏せてろ」

 

《電気網/エレキック・ネット》

 

魔力系の魔法を殆ど習得しているため、攻撃用の魔法はたくさんあるが足止めといった魔法は数える程度しかない。そんな数少ない足止めの魔法の1つを発動させる。するとレジスの周りから糸のようなものが上に向かって覆うように四方八方に飛び散った。

この魔法は直接的なダメージは入らないが、ヒットした対象を硬直状態にしてさらにレジストに失敗すると追加で麻痺のバッドステータスを与える魔法だ。所詮は足止めにしか使えないうえに、高レベルの相手にはあまり効果がなかった魔法なのでユグドラシルでは全く使わなかった魔法である。

 

あびゃ!

 

そんな小さく、やけに可愛らしい声が聞こえた。そしてドサっと何かが地面に落ちてきた音を捉えたと同時に魔法も解除する。どうやらうまく魔法にかかってくれたようだ。

 

「……な、なんだこのちっこいの?」

 

男が近くに落ちてきた物体を認識した途端に発した言葉だった。レジスも近寄ってその存在を確かめようと目を光らせる。

 

「まさか……妖精か? しかもリトルフェアリー……」

 

「妖精? このちっこいのが?」

 

落ちてきた物体は、手のひらほどのサイズしかなく、背中から小さな羽が生えていてまさに妖精といった感じを表している。

この小さな妖精のような存在はユグドラシルにもいて、リトルフェアリーという名で森のフィールドのあちこちに中立モンスターとして飛んでいた。こちらから攻撃しなければ敵対はしてこないが、リトルフェアリーの落とすドロップ品はどれも利用価値が高く乱獲をするプレイヤーが沢山いたものだ。もっともそのサイズの小ささといい、逃げ足の速さといい、おまけに撹乱用の魔法も使ってくるので倒すのはだいぶ苦労をさせられるというある意味で強敵だったのかもしれない。まさかこっちの世界にもいるとは思わなかったが、ユグドラシルのアイテムや魔法がある時点で別にいてもおかしくはないだろう。

 

「ただなんでこんな街中にいるんだ……?」

 

いるのなら森の中とかなら納得するが、こんな人だらけの街中にいるとは想像もしなかった。やはりユグドラシルとは違う習性や違う種類なのかな……などと思っていると、魔法の効果がきれたのか妖精が目を覚ましたようだ。

そのまま辺りを見回してこちらに気づくなり、ピューっと慌てて外に飛んでいってしまった。

 

「な、なんだったんだ?」

 

「……おそらくだが、単にイタズラしただけなんじゃないか?ほら、あそこにあるのは例の荷物なんじゃないか?」

 

レジスが指をさした先には隅っこに置かれている荷物があった。

 

「あぁ! そうだ! 早く届けないとクビになっちまう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう。やっと戻ってきたか」

 

奪われた荷物を持って急いで中央広場に戻ると、大柄の男が腕組みをしながら待ち構えていた。

 

「へ、へい親方! この通り取り戻してきましたぁ!」

 

「ならさっさと準備してこい。もうお前以外は全員準備完了してるぞ」

 

「へい! すぐにぃ!」

 

さっきの妖精並みのスピードで舞台の方へ走っていく小柄な男を見ながらレジスは言う。

 

「なんだ。時間には間に合わなかったがクビにはしないのか?」

 

「へっ。あぁでも言わないとやる気になんないだろうからな。それにあぁみえてあいつは優秀な奴だよ……あいつをクビになんてしたら勿体無いさ」

 

初めて見たときのあの高々しい様子はなく、目の前にいる大柄の男は優しそうな雰囲気を出していた。案外いい人なのかもしれない。

 

「それよりほら……あいつを手伝ってやったんだろ?」

 

そう言ってポケットから出した小袋を軽くこちらに投げた。それをキャッチするレジス。音からして中身は硬貨であろう。

 

「えらく準備がいいんだな。それともあのときクビにするとか言ったのは、同情した私を手伝わさせる目的もあったのかな……」

 

「まぁそう思っていてくれてもいいさ。それに英雄様は困っている人を見ぬフリしたりはしないだろう?銀狼さんよ」

 

「……気づいてたのか?」

 

確かに顔をフードで隠しただけでは絶対に気づかれないとは思ってはいないが、あの短時間の間でお互い少し視線を合わせただけで気づかれるとは思わなかったため素直に驚いた。

 

「これでも大ファンなんだぜ? あんたのカードもわざわざ大金払って買うくらいだからな」

 

懐から一枚のカードを出してこちらに見せてきた。確かにそこにはレジスを描いたカードがあった。

このカードはこの世界のカードゲームに使うためのものだ。トランプとは違った面白さがあり、この世界の有名な人物やモンスターなどをモチーフにカードは作られておりどこの街に行ってもこのカードゲームは普及しているくらいに人気なものである。もちろんレジスもカード化されていて、レアカードとしてかなりの額でやり取りされてるらしい。ちなみにレジスもいくつかデッキを持ってたりする。

 

「それは光栄だな……」

 

「……それでだな」

 

男が急にこちらに寄ってきて小声で話してきた。

 

「……?」

 

「このカードにサインしてくんね?」

 

子供のような笑顔を浮かべてレジスのカードとペンを渡してくる男の願いをレジスは断れなかった。

それから暫く芸を見ながら待っていると、漆黒の剣のメンバーがやってきてしばらく共に芸を楽しんだ後約束通り夕食を奢ってもらった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい天気だなぁ……絶好の旅日和じゃないか」

 

夕食を奢ってもらった後、宿で一泊をして朝にエ・ランテルを出ようと宿の前でそんなことを呟いた。

 

「さて……今度はどこに行こうかな」

 

久しぶりに遠くに旅に出るのもいいかもしれない。もしくはアゼルリシア山脈にはドワーフが住んでいると聞いたことがあるので、そういったまだ行けてない所に行くのもいいなと1人で考えていると不意に声をかけられた。

 

「すまない。少し聞きたいことがあるんだが……」

 

「ん?」

 

後ろから声を掛けられたので、振り向くとそこには立派な漆黒のフルプレートを着ていて、背中には赤いマントにレジスと同じように二本の剣を背負っている男がいた。違うところといえばレジスのような直剣ではなく、グレートソードであることだ。

 

「……冒険者組合を探しているんだが、生憎ここに来るのは初めてでね。場所がわからなくて困っているのだが、知っていたら教えてもらえないだろうか?」

 

「………」

 

レジスは素早く声をかけてきた人物の全身をフード越しで見る。見た感じ相当な逸品の鎧を着ているようだ。冒険者組合を探しているということは冒険者になりにきたということなのだろうか。それともナンパの類か?

色々と目の前の人物に対して疑問が出るが、すぐに考えるのをやめた。長年の経験からおそらくだが嘘を言っている様子はなく本当に冒険者組合の場所を知りたがっているのだろう。ならばここは失礼なことは考えずに親切に教えてあげるべきだろう。

 

「そこの道を左に曲がってそのまま真っ直ぐ行くだけですぐに着くよ」

 

「すまない。助かったよ」

 

そしてフルプレートの男は教えた道を歩いていった。

レジスもそれ以上気にはせずに、これからどうしようと再び考えながら街の外に向かって歩き出した。




次はモモンさん視点からです。

11月/10日
追記

第1話から第9話まで誤字脱字や点の入れ直しをして方がいらしたので、ご厚意に甘えて適用させていただきました。ありがとうございますm(._.)m
ただ甘えてばっかではダメですね!自分でもいい文章が書けるようにしていきたいと思ってますので、どうか暖かい目で見守ってくださいまし。

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