あくまで冒険者やってます   作:よっしゅん

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な ん だ こ の 駄 文
今回特に読みにくいかもしれません
何度か書き直したのですが今の自分にはこれが限界です。申し訳ありません


第6話

 

 

そろそろ日が暮れる夕暮れ時、草が風で揺らめいてる草原でレジスと漆黒の剣のメンバーが吸血鬼を倒すための作戦を立てていた。

 

「い、今……なんとおっしゃいましたか? レジスさん」

 

漆黒の剣のリーダーであるペテルは唖然とした表情で今しがた自分に向けて言われた言葉の意味の咀嚼ができずに聞き返すことしかできなかった。

そんなペテルに対しレジスは軽いため息をついてから、もう一度同じ言葉を放った。

 

「いいかペテル。お前が吸血鬼にトドメを刺すんだ」

 

もう一度言われたペテルは再度言葉の意味の咀嚼をし始める。

2回目でようやく言われた言葉が理解はできたが、納得はいってない様子だった。

 

「何故……私なんでしょうか?」

 

漆黒の剣は冒険者組合での階級は鉄だ。下から2番目に属する鉄プレートの階級は要するに“駆け出し冒険者”といったところだろう。

レジスがトドメを刺すと言われれば普通に納得はしただろう。だが何故冒険者ではなくとも強さで言うとアダマンタイト級、と言われているレジスではなくて駆け出しの自分がトドメを刺すなんてことになるのだろう。

そんな思考を張り巡らせながらペテルは質問をする。

混乱してるペテルにレジスはまるで答えを予め用意していたかのように即答した。

 

「ペテル、お前が疑問に思うのも無理はない。正直言ってしまうと私1人でも下級吸血鬼相手なら対処はできる……」

 

確かにペテルだけでなく他の3人もその事は考え付いていた。

たとえ自分達が居ようと居なくても、レジスさえいれば下級吸血鬼なんて簡単に倒せてしまうのだろうと。

だけど、それでも漆黒の剣は自らも吸血鬼と戦わなくていけない理由があることもわかっていた。

 

「仇を討ちたいんだろう? 同じ冒険者を虫のように殺されて許せないんだろう? ……なら私がやるよりお前達がやる方がいいだろう」

 

あの殺された3人がどんな理由で冒険者になったかは知るよしもない。

単にスリルを求めた仕事をしたかったのか、それともそれしか道がなかったのか。様々な理由が考えられる。

生前の彼らと話した事もない赤の他人だ。それでも同じ冒険者として彼らを殺した吸血鬼を許すことは漆黒の剣は出来るわけがなかった。

 

「……他人のためにそこまでやろうとすることは、私は正しい事だと思うぞ。お前達はきっといいチームだ、そしてもっといいチームになれるだろう」

 

ここまでレジスが言うと、先ほどは不安げな目つきをしていたペテルも既にやる気の満ちた目をしていた。他の3人もよりいっそう闘気を込めた目をしていた。

 

「やる気はでたようだな……なら、あとは吸血鬼の首を刎ねるだけだ。それとお前達の安全は私が絶対に守る、安心して自分達の役割を全うしてくれ」

 

4人から元気な返事が返ってくる。

 

「あぁ、それと念のためにこれを……」

 

そう言いポーチに手を突っ込み、あるアイテムを4つ出した。

一見すると単なるリストバンドにしか思えない。だが、これもれっきとしたマジックアイテムで、ユグドラシル時代にレジスが課金ガチャを回したところゲットした代物である。

それを漆黒の剣のメンバー1人ずつ渡していく。

 

「これは……?」

 

「お守りだ。付けておけ」

 

嬉しそうに受け取った後すぐに腕に取り付ける4人は、まるで誕生日プレゼントを渡された子供のようだった。

カラーリングも黒なので漆黒の剣という名前にあったトレードマークにも見えるような気もする。

 

「さて……心構えが既にできているなら早速行こうじゃないか。蝙蝠退治をしにな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吸血鬼を殺すのに必要なのはなんだと思う? そう聞かれると大抵は、ニンニク、十字架、日光や心臓に杭を打ち込むなどと答えるかもしれない。リアルでもおとぎ話や、アニメやゲームでも吸血鬼はそういう殺し方という決まりのようなシチュエーションが多かったことをレジスも知っていた。

だが、この世界の吸血鬼にはそういうものはまったく通用しない。

ニンニクなんて効くわけない。十字架も意味もない、日光もせいぜい少し動きが鈍るだけで、まして心臓に杭を打ち込んでもアンデッドである吸血鬼に意味はない。

と言っても殺し方がないわけではない。人間と同じように首を刎ねてやれば、下級吸血鬼なんて普通に死ぬ。

 

「……来たか」

 

女の冒険者が死んでいた草原でレジスは獲物を待っていた。

下級吸血鬼程度の知能なら狩場をすぐに離れる事はないので、この辺を待ち伏せていればいずれまた現れるだろうと思い待っていたが思ったより早く来てくれたようだ。

 

「カカ…オ、オオオンナノチ…」

 

どうやら多少喋れるだけの知性はあるらしい。

だが話し合いで解決出来ることはないので、レジスは剣を抜き戦闘態勢に入る。

 

「ほぉ……どうやら好みがうるさいようだな」

 

男の冒険者2人は普通に殺し、女の冒険者だけ血を吸って殺した理由がわかった。単に女の血が好みなだけなようだ。

 

「カカカカカカ!」

 

勢いをつけてレジスに突進してくる吸血鬼。

このままだと女の冒険者同様、首元を噛まれ血を吸われてしまうだろう。

レジスは剣を振り回し牽制をする。その気になればこのまま叩き斬って一撃で葬る事もできるが、それでは意味がない。あくまで彼らがやらなくてはならないのだから。

吸血鬼はレジスになかなか近づけなくて痺れを切らしてる様子だった。

このままでは埒があかないと踏んだのか、自慢の鋭い爪を振るいながらこちらの腕を狙ってきた。

武器さえなければどうとでもなると思っているのだろうか。

レジスも勢いに負けないように剣で爪を受け止める。剣と爪が接触するたびに小さい火花と金属がぶつかるような音がするので、吸血鬼の爪も剣並みには硬いことがわかる。

しばらくそんな攻防が続いた後、吸血鬼が大きく跳躍しそのまま重力に従いレジスに落ちていく……両手の爪を振りかぶりながら。

だが、その勢いがありながらも、レジスは楽々と剣で受け止める。

吸血鬼もまだ負けないとばかりに爪に力を込めてくる。お互いの武器である剣と爪がギチギチと音を立てながら小刻みに震えてる。

 

「ガガカ……!」

 

「無駄だ。お前ごときのレベルでは私に傷1つすら付けることができ……ないよ!」

 

レジスが一気に剣に力を込め吸血鬼の爪を押しのける。バランスを崩した吸血鬼にすかさず第一位階魔法の『衝撃波(ショック・バースト)』を唱え吸血鬼を吹っ飛ばす。

単に相手を吹っ飛ばすだけで、大したダメージは与えられないがそれで充分だ。

少し先に吹き飛ばれた吸血鬼が諦めまいともう一度突っ込もうとしてくる。

だがそれはレジスの後方から飛んできた物体により阻止された。

 

「オガァ!」

 

飛んできた者の正体は矢だった。飛来してきた矢は吸血鬼の左膝に直撃し貫く。

 

「よっしゃあ!命中!」

 

レジスの後方でガッツポーズをするルクルット。狙い通りに膝に矢を当てられたルクルットに素直に心で称賛を送るレジス。

 

(できれば足を狙ってくれとは言ったが……本当に当てるとは大した奴だな)

 

だが、かつての仲間に空を飛びながら正確に相手に弓の攻撃を当てられるほど凄まじいAIM力を持った人がいたため、その人に比べたらあまり驚きはなかった。

 

(……ペロロンチーノさん絶対シューティングゲームやったら世界レベル狙えると思うのに、エロゲとユグドラシルぐらいしかやらない人だったなぁ)

 

10数年の年月が経った今でもユグドラシル時代のことはレジスははっきりと覚えていた。

そんなことを考えていると、膝に矢を受けた吸血鬼が少し怒った様子で叫び出す。

刺さった矢を抜こうともせずに、レジスを無視して矢を放ったルクルットに向かって走り出す。

 

「おっと。どうやらお怒りのご様子で……ニニャ! 今だ!」

 

ルクルットの声とともにルクルットの少し後ろにいたニニャが魔法を唱える。

 

魔法の矢(マジック・アロー)!」

 

ニニャの詠唱により、魔法の光弾が2つほど放たれ吸血鬼は胸と首元付近を貫かれた。

だが、腐っても吸血鬼なのか、くぐもった声はするがまだまだ元気そうだ。

吸血鬼はその目でニニャを捉え、殺意がこもった視線を向けてくる。

 

「キシャアアアア!!」

 

さっきよりも大きい雄叫びを上げ、ルクルットとニニャ目掛けて再度走り出す。ここまで単純すぎると、呆れてくる。

レジスは吸血鬼よりも速いスピードでルクルット達と吸血鬼の間に入り込むやいなや剣で受け止める、かと思いきや、両手で吸血鬼の両腕を掴み突進を止めた。

 

「………」

 

「ギ……ギギ」

 

どう見てもレジスの2倍以上の大きさの吸血鬼を、細くて白い腕だけで抑えていた。

後ろの2人がポカンとした表情をするが、すぐに納得をしたような表情に変わる。多分魔法か何かで能力を向上させているのだろうと解釈しているのであろうか。

実際には、見た目をアイテムで変えているだけなのでレジスのステータスなどに変化はない。つまりレジスは100レベルの筋力という力で抑えているだけであった。

 

「ダイン。頼んだ」

 

レジスがそう言うと、ニニャの近くに潜んでいたダインが魔法を唱え、植物の蔓を吸血鬼の足元に蔓延らせ、しだいに下から上へと吸血鬼の体を拘束していく

レジスに抑え付けられ、全身を拘束された吸血鬼は唸り声をあげている。

吸血鬼は素早い。そんな吸血鬼を仕留めるために立てた作戦はいたって単純であった。

まず吸血鬼の注意を引き、そして動きを鈍くする。そのあとは簡単だ。

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

不意をついて、首を切り落とせばいい。

吸血鬼の注意を引いている間に、吸血鬼の後ろへと回り込んだペテルが怒号とともに吸血鬼の首目掛けて剣を横に一閃……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の帳が降りた草原を歩く存在が2つ。1つはモモンガの物であった。

そしてもう片方は黒のフルプレートを着ていて、兜だけを装備していない。それは二本の角が生えている美女の物であった。

この美女はモモンガと共にこの異世界らしき世界に一緒に転移してきたナザリックのNPCの1人、名をアルベドと言う。

あの鏡で襲われている村人らしき女の子を2人発見し助けることにしたモモンガは、護衛が必要と思いアルベドを呼んだのだ。

 

(あのあと色々ありすぎて何だか疲れちゃったな……でも色々とわかったこともあったし、あとはあの捕まえた奴らからさらに情報を引き出せばさらに情報が得られる……来て正解だったかな)

 

モモンガは今日起きたことを順番に思い出していた。

ひとまずあの襲われていた女の子2人を助けることに成功して、村を襲っていた連中をデス・ナイトを使って一掃した後、王国戦士長とか言われているガゼフ・ストロノーフが村にやってきて、そのガゼフを狙っていた奴らを逆に叩きのめして何人か捕虜にして……ともかく半日近くで色々なことがあった。

今はガゼフを狙っていた連中を叩きのめした後なので、ひとまず助けた村……カルネ村に戻っている最中だった。

 

「しかし、アインズ様。何故、あの人間を助けたのですか?」

 

モモンガの少し後ろを歩いていたアルベドがそう聞いてくる。ちなみにアルベドがモモンガのことをアインズ…ギルド名で呼んでいるのはモモンガがそう呼べと言ったからだ。

モモンガはモモンガと言う名を捨てた……とまでは行かないが、今ナザリックには自分以外のギルメンはいない。せめてギルドの証を残しておきたい……そんな気持ちがあったので、アインズ・ウール・ゴウンと名乗ることにしたのだ。

アルベドの問いに答えて、少しばかりの雑談をしながら歩いているとカルネ村が見えてきた。

モモンガ……いやアインズは赤い仮面をアイテムボックスから取り出すとそれを着ける。骸骨の顔は良い印象にはならないのでこうして骨が出てる部分は隠しているのだ。

もっとも女の子達を助けた時は骸骨の顔を見られてしまったが。そこは記憶操作魔法で最初から仮面を付けていた……という記憶にしたので問題はないはずだ。

村へと入ると、アインズたちを、デス・ナイトを先頭にして村人たちが取り囲む。次々と村人から無数の賛辞や感謝の言葉を受けていると、ガゼフが姿を見せた。

軽い挨拶をし、少し話した後少し長居しすぎたと感じていたのでアインズはナザリックに帰ることにした。

 

「帰るか。我が家に」

 

その言葉にアルベドは嬉しそうに頷く。先ほどと違い、アルベドも顔を……というより角を隠すため兜を付けているせいで表情はわからないが、嬉しそうなのはわかった。

 

「あ……あの!」

 

どこか人気のないところでゲートを開けて、そこからナザリックへ帰ろうとしたアインズとアルベドを引き止めたのは、アインズが最初に助けた女の子姉妹の姉の方であった。

引き止められてアルベドは見るからに不機嫌になる。どうやらアルベドは人間を嫌っているらしい。

 

「アルベド。先に行って待っててくれ」

 

アルベドがいたら話しにくいだろうと思いひとまずアルベドを遠ざけようとする。

実はアルベドは最初、姉妹を殺そうとしたのだ。記憶操作をした時に、姉妹からはその記憶も消しておいたが多少の不安はあったのでアルベドはいない方がいいだろう。

 

「しかし……」

 

案の定アルベドが不満そうな声をする。

 

「大丈夫だ。少し話すだけだ」

 

「……承知しました」

 

さっきまでの喜びは消え失せ、森の方にトボトボと歩いていくアルベド。

 

「さて……何か用かな?」

 

アルベドが遠ざかったのを確認すると、改めて少女に向き合い優しく問い掛ける。

少女は深くお辞儀をし、お礼の言葉を述べる。

 

「ゴウン様……本当にありがとうございます……。私と妹を助けて下さって。本当に……」

 

「なに。その謝罪は1回で充分だ。頭を上げたまえ……えぇと」

 

ここでアインズは気付く。そういえばこの少女の名前を知らない。

助けた時も自分の名前を名乗っただけだったし、その後も聞くタイミングはなかったのだ。

アインズの心中を悟ったのか少女は顔を上げる。

 

「あ……失礼しました。私ったら名前も言わずに……」

 

「いいさ。聞かなかった私も私だ。差支えがないなら、名前を教えてもらえないか?」

 

別に名前なんて聞こうが聞かまいがアインズはどうでもよかったが、ここで名前も聞かずにはいさよならは、人としてどうなのだろうか。今はアンデッドだけどね……と心で喋るアインズ。

 

「私の名前は……」

 

少女の名前を聞いた後、すぐにナザリックに戻ってこれからの事を考えないとな……とアインズは考えていた。何よりアルベドをあまり待たせるのはよろしくないと感じていた。

だけどその考えは少女の口から発せられた言葉により、一瞬で消え去った。

 

「エンリ……エンリ・エモットです」

 

アインズはエンリという単語を聞いた途端、少なからず動揺した。

かつてのギルドメンバーの1人に同じ名前を持った人がいたからだ。

そしてあの日…ユグドラシルがサービスを終了した日のことをアインズは思い出していた。

 

(……レジスさん、結局来てくれなかったな)

 

名をレジス・エンリ・フォートレスといって、かつてのギルドメンバーの1人であった彼もユグドラシルがサービス終了する前に既に引退をしていた。

そんな彼から、アインズがサービス終了1週間まえを迎えた日に引退した人も含めてかつてのギルメンの人達に送ったメールに返信が来たのだ。

返信の内容は、仕事が終わり次第残りの日を一緒に楽しみましょう。という内容であった。

結論から言うと、彼……レジスは一度もログインしてこなかった。

仕事の方が長引いてしまったのだろうか。それとも単に来たくなかったのか。今となってはそれを確かめることはできない。

 

「あの…ゴウン様?どうかされたんですか?」

 

少し固まりすぎていたようで、少女……エンリにそう聞かれた。

 

「いや、なんでもないさ……ただかつての私の友人に君と同じ名前の人がいてね。少し驚いてただけだ」

 

「そうだったのですか。実は私のこの名前も両親が考えてくれたものじゃなくて、とある旅の人につけてもらったらしいんです」

 

「旅の人……とな」

 

もしこの少女の名前がエンリではなかったら、既に別れの挨拶をしてアルベドの下に行こうとしてただろう。

だが、そのエンリという名を付けたという旅人のことをアインズは気になっていた。

 

「はい。なんでも15年ほど前にカルネ村が盗賊の集団に襲われたところをその旅の方が救ってくれて、まだお腹に私がいた母のピンチも助けてもらったそうなんです」

 

気がつけばアインズはエンリの話を真剣に聞いていた。

聞かなければならない気がしていた。

 

「それで旅の方はしばらく村に滞在されてたのですが、滞在中に私が産まれて、まだ私の名前を決めていなかった両親がその旅の方に私の名前を付けるようにお願いしたらしくて、その結果その旅の方の名前の一部……エンリという名前を付けてくださったそうです」

 

名前の一部ということは、その旅人の名前にもエンリという名が入っている。そういうことになる

 

「その……旅人の名前はわかるか?」

 

どうしてそんな事を聞いたのかアインズ自身わからなかった。

だけどもしかしたら…そんなことを思っていたのかもしれない。

 

「はい、父と母がよく話してくれました。名前は確か……レジスさん。レジス・エンリ・フォートレスさんって名前でした」

 

瞬間、アインズにはないはずの心臓が大きく跳ねた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パチパチと焚き火の炎が音を立てる。

焚き火の周りには焚き火を取り囲むように、レジスと漆黒の剣のメンバーがいた。

それぞれの手には、木製のボウルとスプーンを持っておりボウルの中には切り刻んだ野菜がいくつかと、少し濃い色をした液体が入っていた。要するに野菜スープだ。

各々それを口に運びながら、適度に手を止めながら話をしていた。

 

「いやー! 最後のペテルの一撃は凄かったなぁ! あんな鮮やかな剣筋俺初めて見たよ」

 

ルクルットがあの吸血鬼の首を切り落としたペテルの姿を思い出しながらそう語る。

 

「本当に凄かったですよペテル」

 

「うむ。実に見事である」

 

他の3人に褒められてる当のペテルはというと、褒められるのに慣れてないのか照れ臭そうにしている。

 

「謙遜することはないぞ。実に良い太刀筋だった」

 

レジスも流れに乗りペテルを褒める。

ペテルはまさかレジスに褒められるとは思っていなかったのか、不意をつかれたような顔をする。

 

「えっ…あ、その。あ、ありがとうございます」

 

「お、ペテルお前照れてんのかぁ? 良かったな尊敬する人に褒めてもらってよ」

 

ルクルットが笑いながらペテルをからかう。

からかわれたペテルの反応を見てニニャもダインも笑い出し、しまいにはペテル本人も楽しそうにしていた。

本当にこのチームは仲が良い……羨ましくなるほどに。

 

(どうして俺は……引退なんてしてしまったのだろうか)

 

確かにユグドラシルに飽きてきてはいた。それは本当だ。

だけど引退する必要はなかったのではないか? レジスはいつだったかそんな事を考えることが何回かあった。

職業柄忙しかったりすることはあまりない。故にユグドラシルをやる時間がないというわけではなかった。

それなのに、ギルドメンバーの続く引退により全盛期の頃の楽しさは感じられなくなっていてしまったため、楽しくないならやる意味はない……そんなことをレジスは思ってしまい引退してしまったのかもしれない。

 

(……本当に最低だな俺は)

 

何もユグドラシルの楽しみがまったく無くなったというわけではない。

フィールドに出て冒険したり、イベントを楽しむことだけではないはずだ。例えば仲間と楽しく雑談したり、愚痴をこぼしあったりするだけで案外楽しく感じられるものだ。

実際何回かは雑談だけでその日が終わってしまったこともあった。

それなのに、レジスはそんな簡単なことも考えずに引退してしまい、結果モモンガを悲しませてしまったのかもしれない。

モモンガは最後の時までユグドラシルを続け、最後には仲間と過ごしたくてあのメールを送ったのだろう。

レジスにはそれに付き合う時間はあったはずだ。引退なんかせずにたとえモモンガと2人だけになったとしても、充分にユグドラシルを楽しめたはずだ。

だがレジスはそのことに気付かず引退してしまった。そして最後の時も約束を破ってしまった。

後に残るのは自責の念だけだった。

だからこそレジスは必ずモモンガを探し出して己の罪を謝らなければならない。

謝って、謝罪して、許しを請いて……もし許してもらえないとしたられはそれは仕方のないことだ。そしたら自らの命で許してもらうとしよう。

許してもらえるならなんだってする覚悟だ。

ともかく絶対にモモンガに合わなくては永遠にレジスの罪は消えない。

消すことができない……。

 

「あの……レジスさん。どうかしましたか? 何だかお顔が怖いですよ……」

 

「……あぁ、すまない。考え事をしてただけだ」

 

気がつけば4人とも心配そうにこちらを見ていた。そんなに怖い顔をしてたのだろうか。

なんだか微妙な空気になってしまったのをレジスは感じ取る。

せっかくいい雰囲気であったのにそれをぶち壊してしまっては何だか申し訳なさがこみ上げてくる。

この空気を作り出してしまった張本人のレジスは何とか変えれないかと思考するがすぐには思いつかなかった。しかし、意外にも助け舟を出してくれたのはルクルットであった。

 

「あ…あー、そういえばなんですけど! レジスさんって恋人とかいるんですか?」

 

不意にそんな質問をされいきなり何だと思うが、すぐに理由を察しできた。ルクルットなりに空気を変えようとしてくれたのだろう。

だけど、だからといってその質問のチョイスは果たして褒めて良いものなのか。

何はともあれせっかく助け舟を出されたのだ、ここは乗っておくべきだろう。

 

「いや、いないな」

 

「へー、意外ですね。じゃあ気になる人とか好みとかは……」

 

「ルクルット、あまり失礼なこと聞くなよ……」

 

ペテルがルクルットにそう言う。しかしここで引き下がるルクルットではないだろう。

 

「だってよー。気になるじゃないか、英雄様も恋をするのか」

 

「だからって……」

 

ルクルットの疑問は正しいとは言えないが、普通なのかもしれない。

誰しも自分の憧れの人物がいたとしたら、その人のことをよく知りたいと思うのは不思議なことではない。しかもその相手が異性であれば尚更知りたいことがあるのかもしれない。

ルクルットはペテルの制止を無視して続ける。

 

「それでそれで? レジスさん恋人いないって本当なんですか? その見た目でモテないなんてことはないだろうし……やっぱり好みのハードルが高いとかですか?」

 

レジスのユグドラシルで作ったこのアバターの外見は、この世界からしたら絶世の美女の部類に入るらしい。確かに街を歩けば何度か声を掛けられたりすることもあったし、いきなり求婚されたこともあった。それをモテていると言うのは微妙かもしれないがまぁモテているということだろう

確かに外見は女だがレジスは実際は男だ。レジスからしたら同性にモテても嬉しくも何ともない

故に今レジスがルクルットの質問に答えるとしたら言えることは1つしかない。

 

「好みか……そうだな。強いて言うならば……」

 

なんだかんだペテルも気になってはいたのか、それ以上ルクルットを止めようとはせずレジスの言葉に耳を傾けている。他の3人も同様だ。

時間にして数秒の間が空き、レジスが口を開く。

 

「女の子が好きだな」

 

「………え」

 

レジスの言葉に誰かの呟きが溢れる。もしくはレジス以外の4人全員が溢したのかもしれない。

 

(あれ?おかしいな。ここでまたまた〜みたいな反応を期待してたんだけど)

 

予想に反して返ってきた反応は無言だった。無言というか固まっているというか。

実際嘘は言ってない。しっかりと心は男で同性愛者というわけでもないので、レジスの恋愛対象は女性である。

だが外見は女なので、女が女の子を好きだーなんて言ったらウケを取れるかと思いそう発言したのだが

 

「……そ、その。まぁあれですよ、好みは人それぞれと言います……し。な、なぁみんな!」

 

「あ、あぁそうだな……」

 

「ははは……」

 

「う、うむ」

 

何故か全員が気をつかうような反応をする。

確かに自分と対等な存在の人が冗談のようなことを言っても笑って過ごせるかもしれない。だが、自分より格上、それも憧れという感情を抱いている人が冗談のようなことを言っても信じてもらえるかはだいぶ怪しい。

故に4人はこういう反応をするしかない。

またもやレジスのせいにより空気が壊れてしまった。

 

「………ん。どうやら夜が明けたようだな」

 

ひとまず話題を逸らすことにした。丁度辺りを包んでいた暗闇は徐々になくなり太陽の光による明るくなってくる。

 

「え…ほ、本当だ。もうそんなに経ってたのか」

 

吸血鬼を倒し、焚き火を始めたのは丁度日付が変わるくらいの時間だった。

しばらく雑談をした後、朝まで軽く一睡をしそれから漆黒の剣の依頼達成の報告と吸血鬼退治の報告をしに、エ・ランテルに向かう予定だったのだが、どうやら全員雑談に夢中で時間を忘れていたようだ。

 

「うわー。こんなにテンション上がったせいか眠気なんて感じなかったぜ」

 

「ふむ…今から暫く睡眠をとった後に出発するか? それとも直ぐに出発するか? 私はどちらでも構わないが」

 

レジスが提案する。

しばらくペテルが考え込む。そして案外早く答えは出たようだ。

 

「ではこのまま街へ向かうとしましょう。ここで寝るより街でゆっくりした方がいいですしあまりレジスさんを待たせたくはないです。……みんなもそれでいいよな?」

 

他の3人に異論はないようだ。

 

「そうか。なら行くとしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルベドは1人、村から少し離れた場所でそわそわしていた。

 

(アインズ様……まだなのかしら)

 

そわそわしている理由は明白だ。自分の愛する主人の帰りが遅いからである。

先程アインズを呼び止めた人間の相手をするからと、アルベドに先に行って待っててくれと言ってから体感で10分ほどだろうか。

アインズは未だに来ていない。

 

(……まさかアインズ様に何か……? でもたかが人間ごときがアインズ様に何かできるとは思えない……)

 

では何故こんなにも遅いのだろうか。話をするとは言ってたが、流石にそろそろ心配になってきたアルベド。

 

(……はっ! まさかあの人間……私の超超愛しいアインズ様に色目を!?)

 

アルベドが人間の女の目を見た時感じたものがあった。それは尊敬の眼差しだった。

確かにあの人間からしたらアインズは正義のヒーローに見えているのかもしれない、そしてその尊敬がやがて愛に変わっていきアインズに色目をつけに来たのかもしれない。

アルベドの脳内にはそんな解釈が生まれていた。

 

(おのれぇ……! 人間の分際でアインズ様に色目!? 許さない……細切れにしてから◯◯◯して✖️✖️✖️してからその命を……)

 

脳内でどうあの人間を料理していくか考えていると、アルベドの視界にようやくアインズが映る

 

「すまないアルベド。待たせたな」

 

「いえ! アインズ様の為ならいつまでも待ちます! ……それよりあの人間はどう致しましょうか?」

 

「は?」

 

アインズからそんな言葉が溢れるが、若干興奮しているアルベドには気づかなかった。

 

「アインズ様に色目を付けるという大罪を犯したあの人間は苦しんで死ぬべきだと思います。そして私に是非やらせてください!」

 

「え? 色目?」

 

「あ、もしかしてアインズ様が既に裁きをしてしまいましたか? でしたら蘇生させてあとは私におまかせ下さい。生まれてきたことを後悔させてみせましょう!」

 

「いや、え? ……オホン! アルベドよ」

 

「はい! 何でしょうかアインズ様」

 

「別にエn……あの人間には、今日のことのお礼を言われたのと軽い世間話をしていただけだ。だから変なことは一切なかったから安心しろ。

それとあの村の者に手を出すのは私の計画に支障が出る。だから余計なことはするな」

 

「……承知しました」

 

「さて、今度こそ帰るとしよう。アルベド」

 

アインズがそういうとアルベドは一気に嬉しくなる。

というより先程からアインズの様子が何処となく嬉しそうだった。

残念ながらアルベドにはその理由はわからないが、好きな人が嬉しそうにしていると自分も嬉しくなってくる。その気持ちを噛み締めるため他の考えは考えずにいた。

そして、転移門をアインズとアルベドは潜っていきその場から消えた。




次で一章終わりです

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