あくまで冒険者やってます   作:よっしゅん

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今更だけどタイトル、冒険者じゃなくて旅人にした方が良かったかな…


第5話

 

少し広がった草原をレジスは歩いていた。道から多少逸れてはいるが、寄りたい所があったので道から逸れる必要があった。

少し歩いているとやがて、木々に囲まれた林のようなものが見えてきた。その林を入ってすぐに小さい湖があるがレジスはそこを目指していた。

以前この辺に来た時に偶然見つけ、その時は水辺に巣を作る習性を持ったフィッシャーマンという魚のような顔をしている半魚人みたいな怪物が数体住処にしていたがレジスの手によって既にこの世から退場していた。ユグドラシルにはいなかったモンスターだったので初めて見た時はかなり警戒したが、やはりと言うべきかまったく強くなくあっさりと倒せてしまった。

やがてその湖にたどり着き辺りをグルッと見回す。念のため探知系の魔法も使うが近くに敵対心を持つ存在はいなかった。

 

「また巣を作って住み着いてるかと思ったが…手間が省けたな」

 

またフィッシャーマンが巣を作っているかとも思ったが、大丈夫なようだ。たとえまた住み着いてたとしても前のやつと同じようにこの世からご退場してもらうだけだが、手間が省けたので素直に喜んだレジス。

 

「さてと……」

 

レジスがこの小さな湖に来たのには理由があった。その理由とは……

 

「この辺で水浴びできるのここしかないんだよなー」

 

そう言って背負っている剣を2つとも地面に降ろし、服を脱ぎ始める。

そう湖に来た理由とは水浴びをするためであった。

別にわざわざ湖を探さなくても、魔法で水をだして上から水を被るだけでも汚れは落ちるのだがレジスは旅の醍醐味の1つ……自然を利用することを好んでいた。

できるだけ戦闘以外では魔法に頼らず、自然の力などを利用する……それが旅をする上での醍醐味だとレジスはそう思っている。

 

「よいっしょっと……おーなかなか冷たいな」

 

服を脱ぎ終えて綺麗に畳んだ服を地面に置く。そして湖の縁に腰を降ろし、両手で水を掬って身体にかけていく。

ちなみに今は女の姿だから許されるかもしれないが、元の姿……悪魔の姿でこんなことしたらある意味地獄絵図かもしれない。

やがて全身に水を掛け終えて、縁から腰を浮かせそのまま湖に落ちる。

湖の深さは思ったよりあり、足がつかなかったが溺れるなんてことはないのでそのまま肩まで浸かる。

 

「あー……ちべたくてきもちいいー……」

 

やがてレジスは頭のてっぺんまで水に浸かるように潜ると、そのまま水中で全身の力を抜く。

 

(あー……なんかこうしてると不思議な感じがするな……)

 

誰にも邪魔されずに静かな場所で力を抜く……なんだか不思議な感じがするが嫌いな感じではなかった。

 

(…そろそろ上がるか)

 

妙にしんみりとした感覚になってきたので湖から出ようと浮上を開始する。数秒ほどで水面に到着し、そのまま陸に上がる。

体を拭こうとアイテムボックスから拭くための布を取り出そうとする……だが、その前に林の方から音が聞こえた。

 

(……話し声? ……複数いるみたいだが……)

 

もし盗賊の類なら間違いなく襲われるだろう……2つの意味で。

だが、この辺の地域はモンスターも少なく比較的安全な所なので、村人などが護衛に冒険者などを雇って薬草を採取しに来ることもある。

とにかく警戒するに越したことはないのでレジスは地面に置いてた剣を1本拾い上げ、いつでも抜刀できるようにする。

時間にして数秒……話し声の正体が明らかになった。

 

「間違いないって言ってるだろー? 地下から水が流れてる音もしたし、地図にもこの辺だって書いてあるだろ?」

 

「そう言ってさっきから一向に見つからないじゃないか……湖どころか水溜り1つすら見つけられてないぞ」

 

「しょうがないだろー俺らこの辺あまり来ないし、仕方なくチームの目であり耳であるこの俺がこうして先導してやってるじゃんか」

 

「お前が方向音痴だって知ってたら任せなかったよ……」

 

「ま、まぁまぁ2人とも……まだ時間はありますしゆっくり探せば……」

 

「その通りであるな。焦って探すより、心を落ち着けた方が絶対にいいである」

 

ちょうどレジスの正面の木々から4人組の冒険者が姿を現した。首に全員同じ鉄のプレートをさげているからおそらくこの4人はチームを組んでいるのであろう。

会話からするにこの湖を探していたようだ。

冒険者ならいきなり襲いかかるなんてことはそうそうないだろう。レジスは構えてた剣をさげる

 

「お? ……ほらみろ! ちゃんとここに湖があ…る…だろ……」

 

先導していた弓を背負っている若い男がレジスを視界に入れるなり固まる。

 

「はぁ……やっと見つかった…の…か?」

 

次に腰に剣を携えてるこれまた若い男も固まる。

 

「2人ともどうしたんです……か」

 

杖を持った、少年……顔立ちはだいぶ少女に近いがともかく魔法詠唱者らしき少年が若い男2人の後ろから現れこちらを確認するなり固まる。

 

「みんなどうしたであるか……?」

 

最後にやってきた少し大柄な男が他の3人の反応を不思議に思う。そして固まる。

 

(なんだ……? 何故俺を見て……あぁ……そりゃそうか)

 

いきなり目の前に全裸の女がいたら殆どの人はビックリするだろう

 

「「「「………」」」」

 

「………」

 

お互いこの場をどうしたらいいかわからず無言が続く。ここはこんな空気を作ってしまったレジスが先に言葉を出そうとするが……。

 

「………」

 

「あぁ!ペテルが倒れました!」

 

「あーこいつこういったことに免疫ないからなぁ……」

 

「まだまだ邪念を捨てきれてないようであるな。ペテル」

 

他の3人はやけに冷静であった。

 

「あーすまないなお美しいお嬢さん…こいつ起こすんでその間服着といてくれないか?」

 

「あぁ……何かすまないな色々と……」

 

とりあえず布で体を拭いて少し急いで服を着る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にすみませんでした!」

 

先ほど倒れた若い男……名をペテルと言うらしいが、そのペテルにさっきから何度も謝られてる。別に彼に悪い点は1つもないのだが、根が真面目なのか土下座までしている。

 

「こちらこそ……つまらないものを見せてしまってすまないな……だから君が謝る必要はないって言ってるんだが、いつになったら顔を上げてくれるんだ? もう服は着てるぞ」

 

レジスは濡れた髪を拭きながらそう何度も言ってるのだが一向に土下座をやめないペテル。

 

「ほらー本人も気にしてないって言ってるんだからよ。むしろ良いもん見れたんだからそこは喜んどけよ」

 

「お前も少しくらい謝れよ……すいませんうちの仲間が……」

 

これは無限ループに入ってるかもしれない。

 

「もうわかった……わかったから今すぐ謝るのをやめて顔を上げてくれ。じゃないと逆に許さんぞ」

 

「……わ、わかりました」

 

ようやく土下座をやめてくれたが、顔を合わせようとしない。多分こちらの顔を見たら色々と思い出してしまうのであろう……。

 

「あ……申し遅れました。私達は冒険者で『漆黒の剣』というチームの者です。私がリーダーのペテル・モークです」

 

土下座男が自らの素性を明かす。

 

「んで、この俺がチームの目や耳である野伏のルクルット・ボルブだ。よろしくなかわい子ちゃん」

 

見た目や言動からしてチャラそうだなと思ったが予想通りチャラ男だった。

 

「私は森司祭のダイン・ウッドワンダーという……よろしくお願いする」

 

こっちも見た目野蛮人じみた感じだったが、非常に温厚そうな人だ。

 

「最後になりましたが、僕はニニャといいます。まだまだ未熟ですが魔法詠唱者です。よろしく」

 

このチームの中では最年少であろう。顔立ちもなかなかの美形だった。

きっと将来はモテモテになるに違いない。

 

自己紹介を終えた4人がこちらをじっと見つめてくる。おそらくこちらの自己紹介を待ってるのだろう。

 

「……私はレジス……レジス・エンリ・フォートレスという。旅をしている者だ……」

 

あまり気乗りはしないので少し暗めな自己紹介をする。何故なら冒険者相手に自己紹介をすると大抵返ってくる反応が同じだからだ。

 

「え、てことは貴女があの有名な銀狼のレジスさんですか!?」

 

「二本の立派な剣に長い銀髪……聞いてた特徴とまったく同じですね」

 

「まじかよ……こんな所に女が1人で何してるのかと思えばエ・ランテルの英雄様だったのか……これは納得するしかないな」

 

「英雄の貫禄とは凄まじい物であるな……」

 

ほらな。とレジスは内心でそう思う。

冒険者ならレジスのことを知らない者なんて殆どいないのだ。むしろレジスに憧れて冒険者になった者の話も聞くぐらいだ。

街の酒場に行けば吟遊詩人がレジスのことを詩にした物を歌ってたりもする。

もちろん普通に街を救ったのなら、少しは誇らしく思うがレジスの場合そうはいかなかった。なにしろ犯人は他でもないレジス自身なのだから。

まるで自作自演をしたかのような感覚で、自分の噂を聞くたびに耳が痛かった。

 

「あー……それで君たちはどうしてここに? 依頼か何かでか?」

 

ひとまず話題を逸らすことにした。

 

「あ、はい。街の錬金術士からの依頼で、3日以内に必要な材料を揃えてきてほしいという依頼でした」

 

「依頼の内容のわりには報酬に随分と色が付いてたから、他の奴らに取られたらマズイと思いすぐに依頼を受けたんだけどなぁ……」

 

ルクルットが頬をかきながら言葉を濁す。

 

「どうやらうまくいってないようだな」

 

「えぇ……お恥ずかしながら」

 

先程の会話からするに、この辺の地理にあまり詳しくなく、しかも錬金術に使う材料などはそこら辺に生えてるものから一定の場所にしか生えてないもの……はたまた見つけやすかったり見つけにくかったりするものだ。

普通ならそういったものに詳しいものを同伴させるのがセオリーなはずだが、大方森司祭のダインがいるから大丈夫だと思ったのだろう。

 

「なんとかダインの力添えもあって半分ほどは採取できたんですけど……このペースでいくともう半分を揃える頃には期限が過ぎてしまうかもしれないんです」

 

「ふむ……あと残ってる材料はなんだ?」

 

「えーと……ホコリダケと龍根草とあとは……水辺に生えてるというスミレ草です」

 

ニニャが材料のことを書いてあるだろうメモを見ながら答える。

 

「そのくらいならこの辺を探せば全部揃うぞ」

 

レジスは錬金術の職業を取っていないので、錬金術をすることはできないがこの世界で知り合った錬金術士の手伝いをしていたことがあったので多少の知識はあった。

 

「本当ですか!?」

 

そう教えて上げると4人とも嬉しそうな表情をする。

 

「あぁ。例えばペテルの足元にあるのがスミレ草だな」

 

「えっ! これがスミレ草ですか!?」

 

その言葉にペテルは慌てて自分の足元を見て、青色の花びらが咲いてる植物を確認した。

 

「思ってたより小さい花だな……いや草か?」

 

「でも資料にある特徴と一致してますし、これで間違いないですね」

 

「強さだけでなくて、知識にも優れているとは……いやはや、同じ人間とは思えないであるな」

 

本当に人間じゃないんだけどね。という声は心の中にしまっておく。

 

「あの……レジスさん。もしよろしかったら……」

 

「あぁいいぞ」

 

「私たちの手伝いを……って……え? よ、よろしいんですか?」

 

「ここで知らん顔してさよならなんてできないしな……その代わり報酬は私の分も分けてくれよ?タダ働きは生憎好きではなくてね」

 

「も、もちろんです!」

 

ペテルだけでなく他の3人も喜びの表情が読み取れた。

 

「まずホコリダケは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある一室の椅子に立派なガウンを羽織っている存在……形は人のものをしていたが、明らかに人外だと誰もがわかるような姿をしていた。

何故ならガウンの顔の隙間からは骨の顔が覗いていたからだ。

本来なら眼球が入っているはずの窪みには赤く小さな炎のようなものが揺らめいていた。

手の方も目の前の鏡に向けてせわしなく動かしていたが、皮膚や筋肉すらもなく骨だけであった

おそらく他の部位も骨しかないのだろう。簡単に表すなら学校の理科室に置いてある骨格標本がガウンを羽織って動いているようなものだ。

 

(うーん…動かし方がまったくわからないな)

 

そんな学校の七不思議の1つに出そうな骸骨はそんなことを思いながら必死に目の前の鏡に手を横に振ったり上下に動かしたりしていた。

鏡と言っても普通の鏡ではないようだ。本来鏡の真正面にあるものを写し出すはずだが、どういうわけか写っているのは目の前にいる骸骨ではなくどこかの草原だった。

 

(ほっ!やっ!それともこうか!)

 

心で叫びながら必死に骨の手を動かす。

 

「…ダメか」

 

さっきからずっと草原しか写ってなく、どうやら鏡の中の景色を動かそうと奮闘しているようだ。少し疲れたような素振りをする骸骨。

すると部屋にいたもう1人の老人が骸骨に向けて呼びかけた。

 

「少しご休息を取られてはどうでしょうか? モモンガ様」

 

「うむ…そうしてもいいのだがもう少しで何か掴めそうなのだ、セバス」

 

骸骨の名前はモモンガ。老人の名前はセバスというらしい。

 

「そうでしたか。差し出がましいことを発言してしまい申し訳ございません……」

 

「いや良い……私の安否を気遣っての発言だったのだろう? ならばそれを責めることはできん」

 

「はっ……ありがとうございます」

 

(しかし……ほんとなんでこんなことになったのだろうか)

 

骸骨……モモンガは自分が何故今ここでこうしているのかその経緯を思い出していた。

かつて人気のゲームであったユグドラシルのサービス終了日にサーバーダウンするまでギルドに残っていたら、気がついたらまったくの異世界に来てしまった……何度思い返しても信じられないような出来事であった。

しかしおそらく異世界であるこの世界に来てからはや数日……色々と実験した結果信じがたいが、どうやらゲームのアバターと強さを持ったままギルドごと異世界に来てしまったとしか考えられなかった。しかもギルドのNPCもゲームとは違い、自らの意思を持ち生きているのだ。

モモンガに忠誠心マックスというおまけ付きで。

そして、今はこの異世界のことを知ろうと、ギルドの周りをこの鏡を用いて探っているのだが……

 

(ゲームだと指でフリックするだけだったのに……)

 

明らかにゲームのように動かすことができずに長い時間悪戦苦闘していた。

試行錯誤のすえ幾つかの操作方法は判明したのだが、ズームとかのやり方がさっきからわからずにいた

 

(ゲームだと二本の指をこう……引き離したたり縮めたりすればできたんだが……)

 

それとも腕全体でやるのか。そう思い両手を広げてみる……するとズームができた。

 

「おっ!」

 

これでようやく殆どの操作が判明したことになる。

そしてつい歓喜の声を上げてしまう。その声に応えるようにセバスから拍手が起こる。

 

「おめでとうございます、モモンガ様。このセバス、流石としか申し上げようがありません!」

 

この程度のことでこんなに称賛されても照れるだけだが、モモンガは生憎骨しか無いので表情が変えられない。なので代わりに言葉で示す。

 

「ありがとうセバス。お前も長く付き合わせて悪かったな」

 

「主人に仕える執事として当然のことでございます」

 

そしてモモンガは再び鏡による作業を再開しようと鏡に向き合う。とりあえずはこの世界にも人となる者がいるか確認するため、街や村などの人工物が自分の今いる場所……ナザリックの近くに無いか確認をする。

ナザリックの近くには、草原と森しかなかったが今度は森を抜けた先を鏡で見てみる……

やがてどこかの村らしき光景が映った。

近くには森があり、麦畑があたりに広がっていた。ぱっと見では文明レベルはさして高くないように見える。

モモンガは先ほど覚えたばかりのズーム機能を使い、村の風景を拡大する。そして違和感を覚えた。

村にある家らしきものから人が入ったり出たり、走ったりとなんだか慌ただしい。

 

「……祭りか?」

 

素朴な疑問を口にすると、横にいたセバスが少し近寄ってきて鏡の中の光景を確認するなり、少し力のこもった声で言う。

 

「いえ、これは違います」

 

モモンガも気になるので、さらに拡大をしてみる。そしてその光景に無い眉をひそめた。

村人らしき人々がフルプレートで武装した奴らに次々と剣で斬り付けられたりしている。村人達は何の抵抗もできないのかただ逃げ回るだけであった。

要するにこれは殺戮だ。

 

「ちっ!」

 

ようやく人を見つけたというのに、これでは村人が生き残ることは無いだろう。

もう、モモンガの中ではこの村には価値はなく、助けに行こうにも今は情報が少なすぎる。現段階では見捨てるしかないと判断をする。

 

(……あれ? 俺人が死ぬところを見ても何も感じない?)

 

普通ならここで憐れみや怒りなどの感情が出てもおかしくはないはずだ。なのに今モモンガはナザリックの利益のことだけを考えて判断した。

テレビでよく見る、虫番組で虫同士を戦わせている。そんな光景を見ているような感覚しかモモンガにはなかった。

心の中で自分はアンデッドだから、人間を同族として見てないのか? そう思い始める。

やがてそんな考えを捨てようと、必死に心の働きを正当化しようと言い訳を考えるモモンガ。

 

(俺は正義の味方なんかじゃない…)

 

モモンガのレベルは100。そしてこの世界の一般人もレベル100かもしれない未知の世界だ。もし自分が助けに行ったとしても様々なリスクが伴う。それを考慮すると助けに行くのは浅はかなことかもしれない。

だがそんな考えは鏡に映っている光景を見た瞬間揺らぐ。

騎士らしき者に剣で貫かれた男が地面に倒れ、モモンガの目と目があった気がした。

モモンガは偶然だろうと思うが不思議とその光景を凝視してしまう。

男は口から血をこぼしながら口を必死に動かす。

 

――娘達をお願いします――

 

モモンガにはそう言っているように感じた。

 

「どういたしますか?」

 

タイミングを見計らっていたように、セバスが尋ねてくる。

それでもモモンガの答えは変わらず冷静に答えた。

 

「見捨てる。助けに行く理由も価値も利益すらもないからな」

 

「かしこまりました……」

 

そしてふと、セバスの方に視線をやり……その背後にかつてのギルドメンバー……仲間の姿を幻視した。

 

「なっ……たっちさん」

 

たっち・みーはモモンガにとっての正義の味方であった。彼がいなければモモンガはユグドラシルなんて既にやめていただろう。

そしてそのたっち・みーがよく言う言葉を思い出す。

 

――誰かが困っていたら助けるのは当たり前――

 

(……わかりました。たっちさん……恩は返します。どちらにせよこの世界での自分の戦闘力を調べなきゃならないですしね)

 

「セバス……」

 

モモンガは他に生きている村人を探しつつ、セバスに指示を出した。

やがて騎士2人に追われている女の子2人を見つけ、ひとまずはその近くに転移をしようと魔法を唱えるモモンガ。

 

転移門(ゲート)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー大量大量! こりゃ追加報酬にも期待できそうだなペテル」

 

ルクルットが手に持った袋を軽く叩きながらそう言う。ルクルットだけでなく他の3人も袋を持って満足そうな表情をしていた。

 

「あぁそうだな。まさかレジスさんとこうして一緒に仕事ができるなんて……夢のようです」

 

「ペテル……ちゃんと前見て歩かないと危ないですよ」

 

「ペテルは英雄の話とかが好きであるからな」

 

ダインがそう言うと前を歩いていたルクルットが、歩を緩めこちらに近づいてくる。

 

「なぁレジスさん。実はペテルはレジスさんの大ファンなんだぜ……」

 

「ほぉ……」

 

ルクルットにそう言われ何気なくペテルの方を見てみる。ペテルはというとルクルットの言葉が聞こえてたのか、少し顔を赤くしていた。

 

「ルクルット!別に言わなくてもいいことだろ!」

 

「何言ってんだよぉ。折角こうして憧れの人に会えたんだからサインくらいはお願いしてみたらどうよ?」

 

「う、うるさい! お前はちゃんと周りの索敵をしろ!」

 

「へいへーい」

 

そしてルクルットは再び前を歩き始めていった。

 

「すいませんレジスさん……うちの仲間が」

 

「いや構わんさ……サインくらいなら別にいいぞ?」

 

「えっ!? いやその……だ、大丈夫です……」

 

「ふむ……そうか」

 

見てて少し可愛いかった。これはルクルットがからかいたくなるのもわかる気がした。

こういった感じで5人でお喋りをしながら道を歩いていたが、やがて変化が起きた。

 

ギャアアアアアアアア

 

「………」

 

「……な、なんですか今の悲鳴?」

 

ニニャが言う。

 

「ルクルット。この先に何かいるか?」

 

「ちょいまち……特に反応はないな」

 

何かが起きるとこうしてすぐに警戒をできるあたりやはりこのチームは中々優秀なようだ。

 

「急ごう、今のは人間の悲鳴だ。おそらく何かあったんだろう」

 

レジスが先導して悲鳴が聞こえた先へと向かう。

やがて何かが見えてきた。

 

「こ、これはいったい……」

 

悲鳴の発生源に着くと、そこには死体が2つと、体中血まみれの男が震えながら座り込んでいた。

 

「おい…大丈夫か?」

 

「あ、あああ…や、やめてくれぇ! 殺さないで!」

 

明らかに錯乱していた。見たところ血だらけではあるが怪我をしてないようでおそらく返り血か何かだろう。

つまりは目の前でこの死体が死体になる前の最期を見てしまったのだ。

それなら錯乱してもおかしくはない。とにかく話を聞きたいので手っ取り早く落ち着かせるため魔法を唱える。

 

「落ち着け。ここにお前を殺す存在はいない」

 

混乱解除(コンフィグリカバー)

 

するとすぐに落ち着き始め、ゆっくり呼吸をし始めた男。

 

「落ち着いたか? ならここで何があったか話せるか?」

 

「はぁはぁ……あ、あぁ……」

 

男は数回深呼吸をして、話し始める

 

「お、俺はこの辺で採れる薬草のために冒険者組合に護衛の依頼を出して、3人組の冒険者が依頼を受けてくれたんだ……朝から薬草を採取していて、そろそろ帰ろうと街へ向かって歩いてたら……」

 

男は未だに震えた声だったが、さっきみたいに錯乱する様子はないので続けさせる。

 

「向こうの平原から“何か”が物凄いスピードでやってきて……き、気がついたら冒険者の1人が短い悲鳴とともに血を吹きながら倒れたんだ……もう1人は人間が出せると思えないほどの大きな悲鳴を上げて……お、俺も殺されるかと思った……でも気がついたらあんた達がこうして来てくれてたんだ」

 

さっきの悲鳴はおそらく後者の殺された冒険者のものだろう。確かに凄まじい悲鳴だった。

 

「その……“何か”とは何だ? もう少し具体的に説明できるか?」

 

「わ、わからない……目にも止まらない速さでこっちに近づいてきて……ただ1つだけはっきりしてることがある……あれは人間じゃねぇ化け物だ……」

 

「そうか……」

 

どうしてこの男だけが殺されなかったのか不思議ではあったが、ひとまずは調べるのが先決だ

 

「あの……レジスさん。俺たちは……」

 

ペテルが恐る恐るといった感じで聞いてくる。

 

「そうだな……私と一緒に死体の検死でもしてもらおうか。勉強になるからな」

 

「え…け、検死……ですか?」

 

「あぁ。死因を調べることによって情報を得ることができる……どんな奴にどんな風に殺されたのかを知ることができるんだ」

 

「な、なるほど」

 

そういうわけで半端強制的に漆黒の剣のメンバーを検死に立ち寄らせる。

 

「さて、まず1人目だが……死因は見て何だかわかるか?」

 

「え…と、この胸の大きな切り傷……でしょうか?」

 

1人目の死体は、お腹から胸の上あたりまで大きな傷ができていた。しかも同じ大きさほどの傷が縦に3本並んでいた。

 

「ああそうだな、この傷による出血死が原因だろうな。おまけにこの傷はだいぶ深くまで抉られてるのがわかるか? 内臓や骨まで切り裂かれてる」

 

「うへぇ…こりゃ確かに人間技じゃねぇな」

 

レジスはさらに説明を続ける。

 

「この傷は剣などで斬られた傷ではないのはわかったか? 多分相当鋭い爪か何かに近いもので斬られた傷だ」

 

「……あの、剣で斬られた傷と爪で切り裂かれた傷ってどう違うのですか?」

 

ペテルが頭にハテナを出しながら聞いてくる。

 

「剣で斬られた場合、傷口の端の方は浅く入っている。逆に先が尖っていたりするもので斬られた時は深く入っているものだ」

 

要するに傷口の抉れ方でだいたいわかるものだ。

 

「……浅くとか深くとかはどうやって見分ければ……」

 

「それは経験だな。私みたいに何年もこうしたことをしてると自ずとわかってくるものさ……さてそろそろ2人目を見に行くとしよう」

 

2人目の亡骸はそう遠くない場所に転がっていた。

おまけに上半身と下半身が見事に別れている状態で。

 

「――うっ……」

 

ニニャが少しえずきながら口元を手で押さえる。

当然といえば当然だ。さっきの1人目はともかくこっちはあたりに血と一緒に臓器までバラバラに飛び散り、血の匂いが充満していた。

他の3人も少し嫌そうな顔をしている。

だがレジスはそんなの御構い無しに死体に近づいていく。

 

「さて死因は……まぁわかるよな?」

 

4人は首を縦に振って肯定する。

しばらく2つに分かれた死体を観察してみるが、特に他の外傷は見つからなかった。つまり胴体を切り裂かれて普通に絶命してしまったのだろう。

 

「いや……これは切り裂かれたと言うより、千切られたと言った方が正解か」

 

切断面を見てみると、切り裂かれた傷のように切れているのではなく力任せに引っ張られ胴体が千切れたようだ。

 

「ち、千切れたって……本当なんすか?」

 

「あぁ千切られてるな。まるでパンを食べやすくするようにな」

 

1人は鋭いもので切り裂かれ、もう1人は柔らかいパンのように千切られ死んでいた。

ここでレジスの中で疑問が生まれる。

 

「ふむ……あの男は3人組の冒険者と言っていたが……あと1人はどこだ?」

 

「そういえば見当たりませんね……」

 

男の話が本当ならもう1人いるはずだ。だがこの辺にもう1つ死体は見当たらなかった。

つまりはあの場を生き延びてどこかに逃げたか、もしくは……

 

「あの男にもう一度聞きに行くか」

 

幸いにも男はまだその場にいて、レジスが血を拭かせるためにあげた布で顔の汚れを落としていた。

こちらに気づくなり、立ち上がって少し慌てたような口調で言う。

 

「あ、あんたら……怪物はいたか?」

 

「いや、残念だがまだ見つかってない……それより聞きたいことがあるんだが」

 

「ああいいぞ。何でも聞いてくれ」

 

さっきの震えた声はもうなく、だいぶ落ち着いたようだ。

魔法様々である。

 

「あんたは3人組の冒険者が依頼を受けたと言ったな? だが死体は2人分のしかなく、最後の1人の行方がわからないんだが……どうなったか知らないか?」

 

男は一瞬考える素振りをして答える。

 

「いや…多分俺の後ろを歩いてた女の冒険者のことだろうが、俺もどうなったかはしらねぇ。俺は頭が真っ白になってたから何が何だか……死体がないなら逃げたんじゃないか?」

 

「ふむ……そうか」

 

これはもう少し調べる必要がありそうだ。逃げたとしたなら慌てて逃げたはずだ……ならばこの土の地面には足跡が残っているはずなのでそれを探し出すレジス。

だが見つけた足跡は思っていたものとは違うものだった。

 

「これは……血の付いた足跡か。面白い……」

 

おそらく冒険者達を襲った者が、血だまりを踏んでしまってできた足跡だろう。

再び漆黒の剣のメンバー達と足跡を追う。

少しすると多少広がった草原に出た。

 

「いたぞ。3人目の冒険者だ」

 

少し先に倒れてる女の冒険者がいた。

だが、やはりというべきか地面には大量の血が流れていて小さな血だまりができていた。あれだけ血を流していれば生きてはいないだろう。

 

「うわぁ……首が抉れてやんの……女の子に酷いことするもんだ」

 

ルクルットが死体に近づき、開いていた目を手のひらで閉じる。

ルクルットが言った通り死体の首筋は一部分抉れていた。

 

「どうやら噛みちぎられたようだな……抉れた部分がその辺にないということはそのまま呑み込んだのか?」

 

これは怪物の仕業で間違いないようだ。もっとも人肉を好む人間がいないとは限らないが今までの状況からするに人間の仕業である線はないだろう。

さらにレジスが死体を調べているとある一点が気になった。

 

「……? おかしいな、首筋を抉られたというのに傷口あたりに血がついてないな」

 

まるで綺麗に血を舐めとったような感じだ。

 

「ものすごい速さ……鋭い爪…怪力、それに人肉と血を好む。これは間違いないな、吸血鬼の仕業だ」

 

吸血鬼と言った瞬間空気が変わる。正確には漆黒の剣のメンバー達のだ。

 

「き、吸血鬼って……だとしたら早く組合に報告して応援を……!」

 

この世界での吸血鬼はどうやら強者の部類に入るらしい。たとえ下級吸血鬼でも金級の冒険者が何十人という人数でなければ倒せないレベルらしい。

 

「落ち着け、吸血鬼と言っても強さはピンからキリだ。そして今回の吸血鬼はおそらく下級吸血鬼だ。倒し方さえ心得ているならお前達だけでも対処できるはずだ」

 

「ど、どうして下級吸血鬼だってわかるんですか……?」

 

「まずこんな白昼堂々と冒険者達を襲い食事をするという時点で決まったようなものだ。高い知性を持つ上級吸血鬼なら吸血鬼らしく夜中にこっそり食事を楽しむはずだ……人目のつかない所でな。あとは食事の仕方だな、首を噛み切ってそこから溢れ出す血を飲むなんて気品も欠片もないことは上級吸血鬼はしないはずだ」

 

「なるほど……ですが念のために増援を要請した方が」

 

「大丈夫だってペテル。なんたってエ・ランテルの英雄様がここにいるんだぜ? それプラスこの漆黒の剣が合わされば下級吸血鬼なんて屁でもねぇよ」

 

「そうですよ! レジスさんがいるならきっと大丈夫ですよ!」

 

「その通りであるな」

 

「ルクルットだけでなくニニャにダインまで……レジスさん」

 

「なんだ?」

 

「もう一度、我々と一緒に仕事を手伝ってくれませんか?」

 

ペテルが決心した顔つきで聞いてくる。

 

「あぁもちろんだ」

 

断る理由はないのでレジスは承諾する。

 

「ではまずあの男を村まで届けてやろう。それから作戦を練るとしようじゃないか……」




え?今回も意味不明な意味のない話だったって?
アインズ様と再会するまでの辛抱でござるよ…(震え声
まぁ再会した後もこんな感じのやつ懲りずにやると思いますけどね…

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