あくまで冒険者やってます   作:よっしゅん

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グロ表現とかちょっとエッチィ表現があるので注意です


第2話

しばらく森の上空を飛行の魔法で飛んでいると、人工物を発見した。人工物と言っても木で出来た家がいくつか固まっている場所だ。

 

(家があるということは……よし! 人間発見だ!)

 

飛んで僅か数十分で人間を見つけられたのは幸運だった。この世界で何をするか具体的にはまだ決まってなかったが、グの話によると人間の社会には冒険者という職業があるらしい。冒険者とは具体的には何なのか頭の悪いグにはわからなかったが冒険者ということはきっとその名の通りあちこちを冒険するのであろう。

レジスは好奇心が旺盛なので未知という言葉に弱かった。よってグから冒険者の存在を聞いた途端冒険者になることを決意した。別に冒険者にならなくてもあちこち旅はできるがどうせなら仲間とか作って一緒に冒険したりしてみたかった。

 

(あそこに例の冒険者なる存在がいたらさらに幸運なんだが…)

 

そう思いながら村に降りようと急降下を始めようとした途端ハッと気が付いた。

 

(俺って……今人間じゃなくね?まずくね?)

 

そう今の外見は明らかに人外だ。こんな姿で人間に会いに行ったら確実に敵対心を持たれるであろう。

 

(ど、どうする…何かいい手は……)

 

何かないかとアイテムボックスを探る……全身を覆えるコートみたいのがあればギリギリバレないかもしれないが、そんな都合よくアイテムボックスには入ってなかった。

適当にアイテムボックスから色んなアイテムを出しては戻し出しては戻しを繰り返してると、1つのアイテムに目が釘付けになった。

 

「これは……確か」

 

それはクリスタルのような形をしたアイテムだった。どんなアイテムかというとこのクリスタルは通称「外装データ変更クリスタル」だ。名前の通りクリスタルに登録した外装データに変えるというアイテムであった。

 

このクリスタルはかつてユグドラシルでのイベントの1つ「アバターコンテスト」というイベントでプレイヤー全員に配布されたアイテムだ。要は1番凄いアバターを作ったプレイヤーが優勝という単純なイベントであった。

このクリスタルに自分が作った外装データを登録してそのクリスタルを使うことで登録した外装データになれるので、キャラメイクのやり直しをわざわざしなくてもいいのである。

登録した外装データに変わったらスクリーンショットをしてアバターの写真を運営に送るだけでエントリー完了だ。

もちろんこんな面白そうなイベントにはアインズ・ウール・ゴウンのメンバーは全員参加した。

 

 

レジスももちろんこのイベントに参加した。そしてどんな外装データを作ったかというと……自分が考えた美少女を作ったのだ。

自分が思う美少女を何日もかけて作り上げたのだ。

そういったイベントも有って記念に取っておいたこのクリスタルはアイテムボックスに放り込んだままだったのである。重量も0なのであってもなくても関係ないので放り込んだまま忘れていたのだ。

 

(これを使えば……見た目人間の女になれる……だが……)

 

1つ問題があった。外装データを変えた後、元の外見に戻るには別のアイテムが必要であった。そのアイテムも運営から送られてきたが、そのアイテムがアイテムボックスの中に入っていないのだ。

恐らくギルドの自分の部屋のチェストにでも入っているのだろう。

つまりこのクリスタルで外見を変えてしまえば、ギルドに戻らない限り元の悪魔のアバターに戻ることはできないのだ。

そして、そのギルドはサービス終了したユグドラシルの中……。

 

(これを使ったら……二度と戻れない)

 

別に外見を変えたからといってステータスなどに影響はない。しかし長年苦楽を共にしてきたこのアバターと別れるなんて……そんな……そんなこと……

 

 

 

 

 

 

「できちゃうんですけどね〜」

 

そう言いクリスタルを起動させる。別にアバターには特に思い入れはなかったので、今後の事も考えると人間の姿の方が何かと都合がいいだろう……そう思い即座に起動させた。

しばらく視界が真っ白に染まる。やがて光が収まると先程まで真っ赤な皮膚だったのが白に近い綺麗な肌になっていた。

 

水流玉(ウォーター・ボール)

 

魔法を唱えると同時に手の上に大きな水の塊が現れる。それを鏡代わりに自分の顔を覗き込む。

そこには銀髪のロングで赤い目をしていて顔立ちは幼さがあるが綺麗な顔立ち。そして、胸はそこそこ出ていて身長は160cmくらいの女の子の姿があった。

 

「我ながらいい出来だ……」

 

何日もかけて作り上げた最高の容姿に自分で惚れ惚れする。決してナルシストではない。

 

「さて、これで外見は問題ない…あとはこの防具かな」

 

女の子に相応しくない鎧では怪しく思われる。ここでまた魔法の出番。

 

上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)

 

装備していた防具を解除してから魔法を唱える。この魔法により先程の鎧の姿ではなく、ズボンに普通のシャツといった簡単な服装になっていた。さらにそこに全身を覆えるマントを背中に着ければあら不思議、そこらへんにいる旅人のような格好になった。

剣は背中に背負うことにした。

 

「よし…これで完璧な人間だ」

 

そしてふとこう思った。

 

(あれ?上位道具創造で好きな格好できるなら全身フルプレートの格好でもすればわざわざアバター変えなくてもよかったんじゃね?…)

 

時すでに遅しである。

 

(まぁいいか)

 

ともかくこれで怪しまれないはずだ。今度こそ村に向かって急降下を始める。

ただ急に村の中に降りるとあれなので、少し離れたところから着地する。

 

(あとは旅人を装って近づけば大丈夫だな。……しかし、さっきからどうも様子がおかしいな)

 

空から見た時は確かに人はいたが何人か倒れてる人もいるような感じだった。遠目ではよく見えないのでなんともいえないが。

なんだか悪い予感がすると探偵としての勘が囁いていた。そして見事的中してしまった。

 

「…これは」

 

村の入口辺りに人が血まみれで倒れていた。

近づいて様子を見てみる。

 

「ふむ…腹に何箇所か斬り傷があるな。恐らく剣で斬りつけられたんだろう……しかし、死因は大量出血によるものだな。斬られた時点ではまだ生きてたんだろう」

 

相当苦しかっただろう。とりあえずできることといったら遺体の目を閉じてあげる事だ。

 

「さて…どうなってんだか」

 

村の中央に向かっている途中でもいくつか人の死体があり、辺りは血痕だらけだった。

 

「…お?あれは生きている人だな」

 

前方に生きている人を発見した。もしかしたらその人達がこんな有様にした犯人かもしれないが、泣きながら死体を一箇所に集めている所をみると違うであろう。

 

「こんばんは……少しよろしいですか?」

 

こちらが声をかけると全員こちらを注目した。すると少し歳を食った男が話しかけてくれた。

 

「……貴女みたいな美しいお嬢さんが何の用かな……?」

 

声には力がこもっておらず今にも消えてしまいそうな声だ。

 

「私は旅をしている者なんですが……ここの村が目に入った時何か様子がおかしいなと思い勝手ですが村に入らせて頂きました……それで何があったんですか?」

 

「……数時間前にここに盗賊たちが襲撃してきたんだ。盗賊たちは家中の金品を根こそぎ取っていくと次は若い女や子供を攫って行ってしまった……もちろん俺たちも抵抗はしたさ、でも鍬ぐらいしか振った事しかない俺たちじゃ勝ち目はなかったよ」

 

男が事情を説明してくれると他の人達が泣き出してしまった。

 

「若い男は殆ど殺され、女は全員連れ去られた…残ってるのは老いぼれと死にかけた奴くらいなのさ……すまんなこんな事嬢ちゃんに話しても仕方ないのにな」

 

なるほど……盗賊か。

 

(あの弱さでグが強い方だと言うのだから人間はもっと弱いのか……? その疑問を確かめるためにここは……)

 

「そうですか。じゃあ私が何とかします」

 

「……は?」

 

ポカンとした顔を浮かべる男。男だけでなく近くにいた他の人もポカンとしている。

 

「……はっははは……冗談はよしてくれよ嬢ちゃん。盗賊は数人じゃなくて何十人もいたんだ……剣を持っているという事は多少腕に自信があるんだろうが数の暴力だ、やめときな。気持ちだけ受け取っとくさ」

 

「ではこのまま盗賊たちを放っておくので?」

 

「いや。このあと街まで行って冒険者組合に依頼を出そうと思う……俺たちに出来るのはそれと死んだやつらの葬いしかできないからな」

 

冒険者組合という単語に反応するがそれはあとでじっくり聞くとしよう。まずはこの村を助けてからだ。

 

(誰かが困っていたら助けるのは当たり前……だったかな?たっちさん……)

 

かつてのギルメンの1人のセリフを思い出す。

 

「心配してくださってありがとうございます。でも私は大丈夫です……これでも魔法も使えますから」

 

そう言ったら驚かれた。

 

「ま……魔法も使える? だって嬢ちゃん剣持ってるから剣士じゃないのか?」

 

「剣も魔法も使えるんですよ。自分で言うのもなんですがこう見えてもかなり強いですよ私……」

 

これで盗賊たちが全員レベル100とかだったら……とかでない限り負ける事はないだろう。

 

「……わかった、お願いしよう」

 

男の言葉に周りが騒ぐ。

 

「おい! 村長どうかしちまったのか!? こんなお嬢さんにそんなこと頼むなんて……!」

 

「わかっている! しかし、この現状俺たちは何もできないだろう? ならせめてこの嬢ちゃんに盗賊たちの居場所ぐらい探って貰うしかないだろう!」

 

周りが一斉に静まる。

恐らく言い返せないのだろう。

 

「お嬢さん……というわけだ。頼まれてはくれないか? 最悪奴らの居場所を見つけて教えてくれればすぐに冒険者組合は対処できるだろう」

 

「えぇわかりました……それで盗賊たちはどこに向かって行ったかわかりますか?」

 

「えぇ。あちらの方に行きました」

 

指を差した方を見たところ、森の中に逃げたようだ。

 

とりあえずは手がかりを探そうと指を指した方に向かう。すると別の今度はなかなか若い男に話しかけられた。

 

「なぁお嬢さん……俺の妻を助けてくれないか? 妻のお腹には今……子供がいるんだ……もうすぐ産まれる予定なんだ。だから…だから必ず助けてやってくれ……うっうっ……」

 

話してる途中で泣き出してしまった。

 

「えぇ任せてください。女達を攫ったということは恐らく理由は察しがつきます。つまりすぐには殺したりしないはずです」

 

そう言い残し再び盗賊達が向かった方向へ歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「足跡だな……それも大量の」

 

案の定足跡が残っていた。

あとはこれを辿っていくだけだ。

 

「こんな大人数で森に入ったのか……?」

 

森には草がたくさん生い茂っている。つまり足跡がつきにくいのだ。

平原の方を歩いていれば追跡は楽なんだが文句は言ってられない。

だが幸いにも大人数で歩いたものだから草が折れ曲り足跡はくっきり残っていた。

しばらく足跡を追っていると変化があった。

 

「――これは血の匂いか?」

 

前に進むごとにつれて匂いが強くなっていく。そして少し開けた場所にでるとそこは血だらけの草原になっていた。

そして死体が男2人と女1人の計3人の亡骸が地に倒れ伏していた。

 

「ふむ…男と女は腹を何かで貫かれてるな。槍か何かか?」

 

ぽっかりとお腹に大きな穴ができていた。

 

「さてもう1人は……こいつはすごい力で地面に衝突しているな……骨と内臓がめちゃくちゃだ」

 

恐らく巨大な何かに掴まれて地面に叩きつけられたのだろう。骨はあらぬ方向に曲がり身体のあちこちで内出血を起こしていた。さらにひどく折れ曲がった両腕には爪痕のようなものが残っていた。

 

「格好からするに男2人は盗賊の一味で女は攫われた人の1人だと思うが……仲間割れでもしたのか?」

 

だとすると盗賊の中に化け物がいるということになる。この状況からするにとても人間技とは思えない

 

「さて……もう少し何か手掛かりは……と」

 

辺りを見渡す。そして1本の木に目がいく。

 

「木に何かこびりついてるな…これは毛か?それも血がついた毛か」

 

なにやら獣の毛のようなものがこびりついていた。

 

「――これまでのことを整理しよう。まず盗賊たちは森を通っていたところ巨大な怪物に襲われたのだろう……そして盗賊たちは慌てて逃げたんだろうな。いくつか荷物が散らばっている」

 

食べ物に飲み物、何かの布や武器もあちこちに散らばっていた。

 

「そして、怪物は3人を殺め満足したかどうかは知らんが逃げていった盗賊たちを追うことはせずに、返り血か何かで汚れた毛を木で擦っていた……そして森の奥に行った。そんなところかな」

 

しかし、盗賊たちも結構な人数がいた筈だ。そんな盗賊たちを慌てて逃げさせるほどに強いやつだったのだろうか。その怪物にも興味があるが今は依頼が優先だ。

 

「また足跡を追うか」

 

再び逃げていった残りの盗賊たちを追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リ、リーダー……こんな所で休憩なんてしてて大丈夫なんですかね? またさっきの魔獣が襲ってきたら……」

 

「はんっ!心配することはねぇよ。こんだけ開けた場所なんだ、たとえどこから来ようがすぐ気付くさ。それにさっきは油断してただけだ! あんなデカブツ俺が叩き潰してやるよ!」

 

「よっ!流石リーダー! ヒューヒュー!」

 

「そ、それよりリーダー…! この女達もう犯っちゃっていいですか? 俺もう限界っすよ!」

 

「なんだよお前。抜け駆けはずるいぞ」

 

「じゃあ俺はこっちのガキ妊娠してるやつを貰おうかな」

 

「妊娠中の女犯るとか悪趣味だなお前! 俺にもまわせよ?」

 

そんな会話が聞こえてくる。ようやく追いついたので少し様子見で近くの茂みでひとまず隠れる。

見た所20人前後いるな……そして攫われた人達は12人……1人は既に死んでいたから13人攫われてたのか。

 

(しかしほんと大人数だな……そりゃ森に入ったら怪物に気づかれるわけだ。……女達は全員拘束されてるな…人質に取られたら少し厄介か?先に助けておくとしよう)

 

「へへ……怖がることねぇよ。その内何も考えられなくしてやるからな」

 

盗賊の1人の手が1人の女に近づく。このままだと表現したらまずいような状況になるだろう。

 

結晶の魔法壁(クリスティア・ウォール)

 

盗賊の手が女に触れる前に素早く魔法を唱える。すると女達の周りだけに透明の壁ができ、盗賊の手が弾かれる。

 

「いてっ!? ……な、何だこれは?」

 

「どうした!?」

 

他の盗賊達も何事だと集まる。

 

「そ、それが女達の周りに変な壁が……」

 

「女達の中に魔法詠唱者でもいたのか!?」

 

「どけぇ! こんな薄っぺらいものなんて!」

 

盗賊の1人が剣を抜き壁に叩き付ける。しかし傷1つつかない。他の盗賊も様々な武器で壁を攻撃するが以前と変わらず壊れる様子はない。

女達は何が起きたのか理解できずに全員ポカンとしてる。

 

(おいおい……あの魔法その場凌ぎにしか使えないと言われてる魔法だぞ……それに傷1つ付けられないとかレベル10くらいしかないのか?)

 

ユグドラシルではある一定のダメージ量までガードできる魔法だが、レベル50くらいもあれば魔法職しか取ってないプレイヤーでも殴れば一撃で壊れるくらいの強度しかない魔法だ。それにまったくダメージが与えられてないということはレベル10くらいの筋力しかないということだ。

 

(やはりこの世界の平均レベルは低いのか? それともあいつらやグが弱すぎるだけなのか……まぁいずれわかることか)

 

とりあえず女達の安全は確保された。相手の強さも大体わかった。もう隠れてる必要はない。

 

「いい夜だな…悪党ども」

 

声を出すと全員がこちらを注目してきた。

 

「こんなに綺麗な星が輝いてるんだ……そんなつまんない事はやめにしないか?」

 

「なっ……なんだてめぇ! ……へへっなかなか上玉じゃねぇか」

 

こちらの顔をみた瞬間顔が変わる。

 

「んっ……あーあー。えーこちらの要求はたった2つ。女性達を解放しお前達は即刻立ち去れ。そして二度とこの辺りに来るな。もし拒むならあっちで死んでた2人のあとを全員追わせてやるよ」

 

まずはできるだけ友好的?に交渉する。まぁここで素直にはいと言うわけないだろうがお約束というやつだ。

 

「なんだぁ!? 偉く強気じゃねぇかたった1人でよ! ……もしかしてこの変な壁もお前の仕業か?」

 

「そうだと言ったら?」

 

「へへっ……お前ら! 全員で取り囲め!」

 

リーダーと言われた男が叫ぶとすぐさまこちらを囲んでくる。

 

「……これは交渉決裂ということか?」

 

「あぁそうだよ。お前魔法詠唱者だろ?なら直ぐにあの魔法を解除させて女達と一緒に犯してやるよ」

 

大方魔法詠唱者なら複数でかかればどうとでもなると思ってるのだろう。まぁ普通は正解である。

ユグドラシルでも魔法詠唱者1人がこんな大人数に囲まれたらもうどうしようもないだろう。

しかしレジスは魔法詠唱者ではなく魔法剣士である。それにレベル10が幾ら束になろうとレベル100には敵わない。

 

「はぁ…せっかくチャンスをやったというのに」

 

「かかれぇ!」

 

リーダーの叫びでまず2人が左右から突っ込んでくる。

そして剣を振り下ろしてきたのでそれを避けて、1人を剣で首を刎ねて、もう1人の顔面に剣を握ってない方の手で顔に向けてパンチを繰り出す。

首を刎ねられたやつは糸が切れた人形のように倒れ、顔面にパンチされたやつは顔がグチャグチャに吹っ飛ぶ。

 

(…やっぱり何も感じないな)

 

オーガを灰にした時から違和感があった。殺しをしたというのに何も感じないのだ。まるで飛んでいる虫を殺すような感覚だった。

オーガはゲームでも何回も倒しているから何も感じなかった……最初はそう思ったが先程森で死体を見た時も特に思う事はなかった。リアルでも何度か死体は見てきたが何も感じなかったわけではない。

極め付けは今人を殺したというのにやはり何も感じなかったこと。

 

(人を辞めてしまったということかな? まぁ見た目は人だけどね)

 

そんなことを考えてると周りから化け物という呟きが聞こえた。まぁ剣で首を刎ねるのはともかくパンチで顔を吹っ飛ばしたからそう思うだろう。

 

「ま、魔法詠唱者じゃなかったのか……!? お、お前ら全員だ!全員でかかれ!」

 

リーダーの掛け声で今度は全員で攻めてくる。まぁそうしてもらったほうが好都合だ。

 

『回転乱舞』

 

今度は魔法ではなく剣のスキルを発動させる。

そして剣を横に持ちその場で1回転する。すると周りにいた盗賊達が血を吹き出しながら全員倒れた。

このスキルは周りの一定範囲内の敵に切断攻撃を食らわせるスキルだ。

 

「うん!やっぱり雑魚一掃するのに使うと気持ちがいいねこの技」

 

「な……なんなん……何しやがった!」

 

残ったリーダーが叫ぶ。

 

「別に知る必要はないぞ。お前も死ぬんだから」

 

剣を片手で振り回しながら残ったリーダーに近づいていく。

 

「ひっ! ま、まて! 待って下さい! 俺が悪かったです! 女達も返します! だだだから命だけは……!」

 

「断る」

 

「か、金もいくらでもあげます!」

 

「いらん」

 

「も、もう2度とこんなことしません! だから許して……」

 

「許さん」

 

とうとう握手できる程度の距離まで来た。リーダーは腰を抜かしたのか倒れこみ股間の辺りが濡れていく。

 

「か、神さま…」

 

神様……ねぇ。

 

「神に祈るくらいなら最初からこんなことするべきではなかったな……だがお前にも様々な事情があってこんなことをしたのかもしれないな……せめてもの情けだ、苦痛なく殺してやるよ」

 

そして剣で首を刎ね飛ばす。

結局あれだけの人数がいたというのに5分も掛からず全滅させてしまった。

 

「さて……もう大丈夫ですよ」

 

魔法の壁を解除して女達に近づこうとすると怯えられた。まぁ近くであんな虐殺見せられれば仕方のないことだろう。

 

「あ、大丈夫ですよ。貴女達の村の人達に頼まれて助けに来たものです。何もしませんよー、ほらこんな剣ポーイしちゃいますよー」

 

そして血塗れになった剣を投げ捨てる。別にあの剣も魔法で作ったやつなので捨てても問題はない

とにかく敵意がないことを示さなくては。

 

(うーん…まだ怯えられてるな。なんかアンモニア臭もしてきたぞ……)

 

ここは1つ魔法の出番だ。

 

混乱解除(コンフィグ・リカバー)

 

すると女達の表情が和らいでいく。

 

(良かった効き目あって…これで無理だったら流石にお手上げだぞ)

 

「あ、あの……ありがとうございます」

 

お腹が膨らんだ女の人がお礼を言ってくる。

もしかしてこの人かな?

 

「いえいえ。お腹のお子さんも守れて良かったですよ……さて早くここを出ましょう。どうやら怪物がうろついてるらしいですから」

 

「!! か……怪物……そうよマリーが…マリーが盗賊に盾にされて怪物に……」

 

あの死んでた女性はマリーという名前らしい。

 

「あぁ……あそこも見てきました……残念ですが彼女は既に事切れてました」

 

「そ、そんな……」

 

蘇生アイテムとかあれば生き還らせることもできたかもしれないが生憎アイテムボックスにはなかった。蘇生アイテムを補充する前にそのまま引退してしまったのだ。それに死んだ人を生き還らせると色々と面倒くさそうなことになりそうだ。

 

「さぁ急いで村へ行きましょう。彼女の遺体も回収しておきますので」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程盗賊達のいた場所に巨大な獣が森の中から現れた。

 

「おや?それがしの縄張りに侵入しておきながらあまりに大人数だったから殺すのも面倒なので見逃してやったというのに、いつまでも森を出る気配がないから片付けようと思ったのでござるが……全員死んでるでござるな」

 

その巨大な獣を一言でいうなら……ハムスターである。

 

「仲間割れでもしたでござるか? まぁ手間が省けて良かったでござるな……さっさと寝るでござるよ」

 

そう言い再び森の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に……本当に感謝致します旅人様」

 

女達を無事村まで届けたら村の人からずっとお礼を言われまくってる。なんだか照れてしまう。

 

「いえいえ。困ったときは助け合いですからね。それに全員救えたわけではないですから……」

 

「マリーのことは残念でした……ですが貴女が来てくれなかったらみんな失ってしまうところでした。それだけで充分なことをしてくれましたよ」

 

「そう言ってもらえると助かります。……ついでとは言ってはなんですがマリーさんを殺した怪物も退治してきましょうか?」

 

どんな奴か気になるし。

 

「……恐らくその怪物は森の賢王と呼ばれてる強力な魔獣のことでしょう。ここら一帯の森を支配してる奴ですね」

 

「ほぉ森の賢王とな」

 

名前だけならすごくかっこいい。

 

「旅人様ならもしかしたら森の賢王も倒せてしまうかもしれませんが……森の賢王を倒してしまうとこの村がモンスターに襲われるかもしれないのです。森の賢王があそこを縄張りにしてるおかけで今までモンスターに襲撃されることはなかったのです。もちろん人間にも今日まで襲われることはなかったんですが……」

 

「なるほど……つまり森の賢王はそのままにしておくのがベストということですね?」

 

「えぇ。縄張りに近づかなければあっちから攻撃してくることはありませんので」

 

「了解です」

 

少し戦ってみたかったがそういうことなら仕方がない諦めるしかない。

 

「それでお礼をぜひさせて頂きたいのですが……何分小さな村でして。ご満足いただけるかはわかりませんがこれを」

 

そう言い小さな袋を渡してきた。中身はどうやらこの世界のお金らしい。

 

(ユグドラシルの金貨とは違うな)

 

中身を見ると銅色のコインが幾つかと銀色のコインが2枚入っていた。

 

「本来なら金貨も入れておきたかったのですがそれが限界でして……申し訳ない」

 

「いえいえとんでもない」

 

(金貨もあるのか……色々とこの世界のことも知らないとまずいだろうな。ここは1つ)

 

「あの……もしよろしかったらこの世界のことを教えてくれませんか?」

 

「?この世界のこととは?」

 

「あぁ実は私……」

 

異世界から来たんです……と言おうとしたがすんでのところで止める。

正直に言っても信じてもらえるか怪しい。ここは怪しまれないようにするのが得策かと思った。

 

「実は私……記憶喪失なんです」

 

「き、記憶喪失?それは本当なんですか?」

 

「えぇ、自分の名前や戦い方とかは覚えてるんですが、一般常識といった簡単なことまで忘れてしまったようで……気がついたらこの辺りにいて何か記憶を取り戻す手掛かりがないかと探していたところこの村に来た次第でして」

 

「なるほどそうでしたか……そういうことでしたらお任せください。俺が知ってることなら全て教えましょう」

 

「助かります」

 

(よし!これでこの世界のこと少しはわかるはず!)

 

心の中でガッツポーズをしてると若い男女がやって来た。

 

「お嬢さん……妻と子供を助けてくれて本当に感謝します……!」

 

「ありがとうございます……」

 

やっぱりこの2人は夫婦だったか。

 

「私も約束を守れて良かったです」

 

人助けするのは実に気分がいい。

 

「ところでお嬢さんはこのあとどうするんで?もし良かったらうちに泊まっていきませんか?」

 

「え?いいんですか?」

 

「えぇ。むしろお礼も兼ねたいのでぜひ泊まってってください」

 

「ではお言葉に甘えて……というわけで村長さん。明日辺りにお話しましょう」

 

「わかりました。ゆっくりしていってください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃー。なかなか美味しかった……リアルじゃあんな料理食べたことなかったからな」

 

ご飯までご馳走になったしまった。今は若い夫婦……エモット夫婦の家の倉庫を寝床として貸して貰ってる。

 

「さて……しばらくはこの村にいさせてもらって準備が出来たら冒険に出かけようかな」

 

実に楽しみである。

 

「そろそろ寝るかな……」

 

人間を止めても眠気や食欲といったものは持ち合わせてるらしい。ふぁーと欠伸をして羽織っていたマントを脱ぐ。そしてふと自分の今の体に目がいく。

 

「………」

 

ユグドラシルでは18禁行為に関することは厳しく制限されていた……つまり今ここでこういう事ができたとしたら……

 

「か、確認するだけだし……決してやましい気持ちはない……ないよ」

 

そして自分の胸や下半身近くに手をやり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ堪能した」

 

もう一度言おう。

決してやましい気持ちはない。




追記
9月6日
誤字修正
桑ぐらいしか降ったことがない→鍬ぐらいしか振ったことがない

誤字報告ありがとうございます

10月/13
誤字報告ありがとうございます

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