あくまで冒険者やってます   作:よっしゅん

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大変お待たせしました。ようやく体調が戻りました……夏はやっぱりきついですね。
今回は視点がコロコロと変わるので注意です。


第18話

 

 

 

 

「お姉ちゃん?」

 

 アウラは自分の隣で心配そうに覗き込んでくるマーレを視界の端に入れながら、困惑していた。

 主人であるアインズの命令で、この辺り一帯の監視をしていたのだが、突然アウラのレンジャーの特殊技術にある反応があった。それはものすごいスピードでアインズとシャルティアが戦っている場所へと向かっていた。

 アインズにより貸し与えてもらった集眼の屍(アイボール・コープス)でもその正体を捉えることができないほどのスピードだった。可能なら、その正体を突き止めるべく、もしくはアインズの援軍に行きたかったが、それは主人の命令を無視してしまうということになってしまうためできなかった。

 ひとまずそのことをアインズに伝えようと思念を使ったのだが、タイミングが悪かった。そのせいでアインズは注意をそらしてしまい、シャルティアの攻撃を食らってしまうという状況にしてしまった。

 自分のせいでアインズ様が殺されてしまう。自分がアインズ様を殺した。そう頭の中で考えてしまうアウラだったが、例の正体不明の反応がアインズ達のもとへたどり着いた瞬間、アウラの頭は真っ白になった。

 

「嘘……」

 

 そう呟いてしまった。それも仕方のないことなはずだ……何故なら、正体不明の反応の正体が、アインズとシャルティアの間に割り込み、シャルティアを吹っ飛ばしアインズを助けたからだ。

 てっきりシャルティアを精神支配した奴か、その仲間かとアウラは思った。しかしそれが事実だとしたら、アインズをシャルティアから助ける理由がない。

 さらに驚くべきことは、その反応が止まったことにより、特殊技術でようやくその姿を捉えることができたのだが、その正体はなんと人間だった……いや、人間の形をした何かだろうか。少なくともただの人間が弱っているとはいえ、シャルティアをただの蹴りで吹っ飛ばせるはずがないからだ。

 長い銀髪に真っ白な肌、その真っ赤な瞳は友人であるシャルティアに似ているといっていいほどの姿をしているが、アウラには見覚えがなかった。しかし、見覚えはなくとも、アウラは感じていた。

 それは懐かしくもつい先ほどまでアインズと会話していたときに感じていた、支配者としてのオーラ。自らが忠誠を誓っているアインズや、自分の創造主とその仲間の方達……そういった気配を何故かアウラは感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レジスは困惑していた。

 アインザックの頼みで、吸血鬼退治をすることになり、目的地に向かっていたのだが……ちょうど目的地である森の入り口に到着したとき、レジスはありえないものを目撃した。

 

「あれは……〈失墜する天空(フォールンダウン)〉!?」

 

 森の上空に展開されていく魔法陣。その様子にレジスは見覚えがあった。

 超位魔法〈失墜する天空〉。それはユグドラシルにおいて幾度もなく見たことがある超位魔法の一つだった。

 ありえない、レジスはそう思った。この世界では超位魔法の存在すら知られていない可能性がある。知っていたとしても、この世界で生まれ育ったものでは絶対に使用することはできないはずだ。なんせ第七位魔法で神話の魔法扱いなのだから。

 しかし実際にそれは起きている。つまり超位魔法を発動させているのは自分と同じようにこの世界にやってきたプレイヤーなのでは? 超位魔法が発動している位置から推測するに、アインザックの言っていた吸血鬼が目撃された場所と一致している……となるとその吸血鬼が実はユグドラシルプレイヤー、もしくは……

 

「モモン……」

 

 単なる偶然なのか、アインザックが言っていたそのモモンという名前。レジスが所属していたギルドのギルド長であるモモンガに似ている。

 まさかモモンガさんなのか、あの超位魔法を発動しようとしているのは。心の中で期待する自分と、期待するだけ無駄と考えてる自分がぐるぐると回っている気がして、なんだな気分が悪くなってくる感じがした。

 と、そのとき、浮かび上がっていた超位魔法の魔法陣が突然消えてしまった。

 

「発動はしてない……なら魔法を止めたか中断させられたか」

 

 とにかくさっきから妙な胸騒ぎがする。それにモモンガさんにしろそうでないにしろ、何か手がかりとなるものがあるかもしれない。

 移動速度上昇の支援魔法を自分にかけ、森の中を全力で走り抜ける。

 

 走る、走る、走る。とにかく走る。

 やがて自分の耳に何者かが戦っている音が聞こえてきた。それと同時に〈飛行〉の魔法で空中に飛び上がり、辺りを見回す。

 するとやや前方に、紅い鎧に包まれた人影と、ボロボロのローブを着た、全身骨しかない動いてる骨格標本を視界に捉えた。

 

「あ、あれは……」

 

 レジスはそのどちらとも見覚えがあった。

 紅い鎧に包まれている方は、その手にはランスのような武器を持っており、その鎧も武器も自分は知っている。あれらはユグドラシルでギルド仲間のペロロンチーノが作り出したNPC、シャルティア・ブラッドフォールンに与えていたものだ。

 そしてボロボロのローブを着た骸骨……

 

「モモンガ……さん?」

 

 馬鹿な、ありえない、確証なんてない、期待なんてするな、そもそもなんでナザリックのNPCが動いていてそれと戦っているのか。そんな色々な疑問や疑念が響く。

 しかし何故だろうか、確証なんてないしあれはただのスケルトンモンスターだけなのかもしれない。それなのに、あれはモモンガさんだと思えるのは何故だろう……

 

「もらったあああああ!」

 

 そして気が付けば、シャルティアらしきNPCが距離を詰め、その手に持った武器でモモンガらしき骸骨を貫こうとしていた。

 

「っ……!」

 

 そして考える間も無く飛行の魔法を解除して、二人の間に割り込むような形で急落下をし、武器を振りかざそうとしていたシャルティアを蹴りで吹っ飛ばした。

 

「…………」

 

 後ろを振り返るのが少し怖かった。真実が理想と違ったらどうしよう。仮に真実だとして、その真実から拒絶されたらどうしよう。久しぶりに感じる、人間らしい感情の一つ、恐怖というものを感じながらも、ゆっくりと後ろを向き、口を開く……

 

「モモンガさん……ですか?」

 

 何をどう聞けばいいのかわからない、だから率直にそう尋ねた。

 違うのならそれで良い、しかしもし本当にモモンガさんだったら……

 

「ぐっ……! 邪魔をするなあああああ!」

 

 そして答えを聞く前に、怒号を撒き散らしながらシャルティアがこちらに突っ込んできていた。

 もちろんこのシャルティア……あのナザリックでペロロンチーノに作られたNPCなのかは不明だが、このシャルティアが何故生きているように動いているのか興味はある……しかし今はそちらよりも重要なことがある。

 

「『眷属(デイドラ)召喚』」

 

 スキルを一つ使う。するとシャルティアの目の前に、大剣を持ち、黒い皮膚に覆われ、角が生えた人型の物体が三体立ちはだかる。

 これは召喚スキルによるもので、強さはプレイヤーのレベルに依存する。しかしシャルティアが相手だと時間稼ぎくらいしかできないだろう。だが今はそれで充分だ。

 

「やれ」

 

 そう告げると、一斉にシャルティアに躍り掛かるデイドラ達。シャルティアも応戦しようと槍を振るい始めた。

 

「そ、そのスキルは、デイドラロードの種族にしか使えないスキル……それにそのアバター……」

 

 このときアインズは違和感の正体を理解した。

 目の前のシャルティアに似たその姿、ユグドラシルのあるイベントでレジスがペロロンチーノと共に作り上げたアバターの姿だ。

 そしてデイドラロードという種族は、悪魔系種族の頂点にあるデイドラという種族が、ある条件を満たすと種族転生できる種族である……アインズの知る限り、条件の難しさや異形種を選ぶプレイヤーが少ないという理由で、デイドラロードのプレイヤーはユグドラシル内でたったの一人しかいないはずだ。

 そのプレイヤーの名前は……

 

「レジス……さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レジス……さん?」

 

 その言葉を、自身のプレイヤー名を呟いた声を聞いたとき、レジスは確信した。

 

「モモンガさん……ですよね? そうです、レジスです……レジスですよ……!」

 

 あぁ、ようやく見つけた。

 一五年前の約束相手、約束を破ってしまい謝りたくて謝りたくて仕方がなかった相手。それが今目の前に現実として存在している。

 

「……えぇ、モモンガです。モモンガですよレジスさん……あなたに会いたかったです」

 

「私もです、会いたくて逢いたくてアイたかったです……そして謝りたいです」

 

 約束を破ってしまいごめんなさいと……

 

「……正直な話、今すぐにでもハグの1つでもしたいです……けど今は……」

 

 モモンガが視線をレジスの後方に向けると同時に、レジスも久方振りに熱くなった目頭を押さえて振り向いた。

 そこにはスキルで召喚したデイドラの最後の一体に、スポイトランスでトドメを刺しているシャルティアがいた。

 

「あっははははは! どこの誰かは存じませんが、わざわざ私の体力を回復させてくれるとは……! けれど、どうしてただの人間如きがデイドラの召喚を……?」

 

 どうやらスポイトランスでデイドラ達の体力を吸い取ったようだ。

 急にブツブツと何かを考え始めたシャルティアを尻目に、モモンガに問い掛けた。

 

「それで、記憶違いでなければあれは私も製作を手伝って、ペロロンチーノさんが作ったNPCのシャルティアに見えるんですが? モモンガさん」

 

「えぇ、あれはシャルティアです。 レジスさんもこの世界に来ているということはある程度の事情は把握してますよね? 実は私はナザリックごとこの世界にやってきたのですが、なぜかNPC達も自我を持って動くようになってるんです」

 

 ナザリックごとこの世界へ……? それはまた凄い話だ。しかもNPC達が自我を持つようになるとは。

 

「そうですか……けどなんでシャルティアと戦ってるんです?」

 

「それは……」

 

 大雑把に、それでいて分かりやすく説明してくれたモモンガのお陰で、だいたいの事情は把握できた。

 

「シャルティアが精神支配……犯人は何処のどいつです?」

 

「いえ、まだ不明です……」

 

 どうやら事態は思ったより深刻なようだ。それに犯人を捜すにしても、今はこの状況をどうにかしないとまずいだろう。

 

「……わかりました、選手交代ですモモンガさん」

 

「え?」

 

 モモンガさんは充分に頑張った。ならば次は自分の番だ……

 

「俺がシャルティアを殺します」

 

 それで洗脳が解けるなら、ここから先は自分の仕事だ。

 

「……ですが」

 

「モモンガさん」

 

 何か言おうとするのを、言葉で塞ぐ。

 

「大丈夫です、シャルティアはきっと私が取り返します」

 

 約束です……

 

「…………」

 

 モモンガはレジスの言葉に俯く。

 今自分はようやく再開できた仲間の一人に、自身の罪を背負わそうとしてる。仲間がつくりあげた大切なNPC達が殺しあう姿を見たくなくて、アルベドに嘘をついてまでシャルティアは自分が倒すと言った。

 しかしその結果はどうだ? 結局最後の大事な場面で怖気付いて、シャルティアを殺せなかったあげく、大切な仲間にそれをやらせようとしている。全くもって最低な男だ……

 それだけはしてはいけない……アインズ・ウール・ゴウンの名に誓って……!

 

「……いえ、シャルティアは責任持って私が殺します」

 

 声を張り上げ、はっきりと言った。

 

「モモンガさん……」

 

「……けれど、情けないことに覚悟を忘れてきてしまったようです。申し訳ないですけど、手伝ってくれませんか?」

 

 アインズ……モモンガの眼窩の焔が強く揺らめく。

 

「……もちろんです。さぁ、みんな(ギルメン)にバレて笑われないうちに早く取り戻してくださいね?」

 

「えぇ……ではこれを」

 

 モモンガは腰に差していた棒きれの一つをレジスに渡す。

 

「これは……」

 

 棒きれに刻まれていた文字を見て、うっすらと口元を歪ませる。

 

「シャルティアは消耗しきってます、けれど油断しないでくださいね」

 

「わかってますよ」

 

 魔法剣士という職のレジスは、言い換えてしまえば半端者だ。剣と魔法を両方使えるといっても、その両方に力を回している分どうしても火力方面に不安が残ってしまう。

 故にスキルや魔法が使えなくとも、スポイトランスという回復手段を持っているシャルティア相手には相性が悪い。体力が削りきれずにこちらの体力が先になくなってしまうだけだ。

 ……とはいえ、攻略法はある。

 

「待たせたなシャルティア、選手交代でしばらくは俺が相手だ」

 

「……誰だお前は、なぜデイドラを召喚できる?」

 

 む、どうやらシャルティアには自分が分からないらしい。まぁこの姿じゃ無理もないかもしれない。モモンガさんも思い出すのに苦労していたくらいだ。ユグドラシル時代の記憶が宿っているかはわからないが、NPC達にわざわざアバターコンテストの作品を見せたわけでないし。

 

「誰でも構わないだろ、重要なのは今のお前の敵だってことだ」

 

「……敵」

 

 何かを確かめるようにシャルティアは呟いた。

 

「そう敵だ、今からお前を攻撃する敵だ」

 

 そう言って、モモンガから受け取った棒きれをへし折る。

 そして右手に確かに感じる感触が伝わってきた。

 

「っっ!? そ、その武器は!?」

 

 見なくてもわかる、ゲームのときは偽物の感触しか味わえなかったが、現実となった今なら本当の感触がわかる。

 初めて自分が手にした神器級アイテム……いや、神器級アイテムを超えた先にある武器。

 

「無銘の剣……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレハ、無銘の剣!」

 

 コキュートスが蒸気を吐き出しながら興奮気に身を乗り出す。

 

「無銘の剣というと……確かレジス・エンリ・フォートレス様の武器だったわよね?」

 

 コキュートスの言葉に続いて言うが、正直アルベドは訳がわからなかった……いや、きっとアルベドだけではないはずだ。

 アインズがシャルティアにトドメをさせず、これを好機としたシャルティアに逆転されそうになった瞬間、それは現れた。

 姿は人間の女、しかも、まるでシャルティアを少し成長させたような、そう思うくらい似ているそれは、シャルティアを吹っ飛ばした後デイドラと呼ばれる悪魔を召喚して、シャルティアにぶつけさせた。

 そのあとはアインズと何かを話をしていた。そして次の瞬間には、アインズが渡したであろう何かしらのアイテムを使って無銘の剣を出現させた。

 全くもって理解不能な状況である。

 

「あの人間……いえ、人間の姿をしたあれはいったい……」

 

 さらに疑問点を挙げるとしたら、なぜアインズと親しげに話していたのか。何者なのか。その二つだろう。

 シャルティアを精神支配した愚か者かその仲間なら、アインズを助けるわけないし、弱っているとはいえシャルティアを蹴りで吹っ飛ばしたのだ。ただの人間なわけがない。

 

「……? さっきからずっとだんまりだけど、どうかしたのデミウルゴス?」

 

 先程からデミウルゴスが言葉を発しないどころか、微動だにしない。只々、〈水晶の画面〉の映像を見つめているだけだ。

 

「ドウカシタノカ、デミウルゴス」

 

 その表情は、信じられないものを見てしまったような表情だった。デミウルゴスにしては珍しい表情だ。

 

「……バカな」

 

 ようやく口を開けたかと思えば、そんな言葉しか出てこなかった。

 

「デイドラの召喚は……デイドラロードの種族を持つ者にしか行えないはず……」

 

 未だに表情を崩さないデミウルゴス。

 アルベドもデイドラロードという種族はある程度知っている。確か至高の方々の一人がその種族だったはずだ。

 

「デハ、アノ者ハデイドラロード……トイウコトカ?」

 

 当然の疑問を口に出すコキュートスに、デミウルゴスは続けた。

 

「そうだとも……そして私の記憶違いでなければ、デイドラロードの種族を持つ者はこの世にあの方しかいない……」

 

 そこでようやくアルベドはこの事態の重要性に気が付いた。

 

「レジス・エンリ・フォートレス様……!? で、でも! そんなまさか……」

 

 そう、かつて至高の方々が君臨していたあの世界において、デイドラロードの種族はレジスだけ。

 しかしレジスも、他の至高の方々のように何処か遠くへ去っていたはずだ。

 けれども、仮に正体がレジスだとしたら辻褄が合うのも事実だ。

 

(そんな……なんで、なんで今更……)

 

 アルベドに正体不明の感情が入り混じっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無銘の剣。それはかつて公式武術トーナメントというユグドラシルのイベントでの賞品として手に入れた物だ。

 賞品とは言っても、一位ではなく二位だったのだが……ちなみに一位を取ったのは、たっち・みーだった。

 たっち・みーはワールドチャンピオンという職業と、特別製の鎧を。自分は副賞としてこの剣を貰った。

 

「ぐぎぃぃぃ!」

 

 そしてその剣をシャルティア目掛けて振るう。スポイトランスの攻撃を避け、隙だらけのシャルティアの脇腹に刀身が深くめり込んでいくのがわかる。

 

「くそっ! 離れろぉぉ!」

 

 ランスを横降りして振り払おうとするシャルティア。それを飛び退いて避ける。

 

「……シャルティア、この剣には特に目立った特徴はない。特殊なスキルが一つだけ付いているだけだ」

 

 息を切らしているシャルティアから目を離さずに言う。

 

「防御力無視、それが無銘の剣の能力だ。故にそんな鎧は全くもって意味を成さない。脱ぎ捨てた方が楽なんじゃないか?」

 

「黙れ!」

 

 連続の突きを左に、右に一歩と避けていく。

 

「な、なんで当たらない……ガッ!」

 

 今度は逆の脇腹に叩き込む。

 

「……もしゲームの世界でお前と戦うとしたらこうはいかなかっただろうな。でもなシャルティア、俺は現実なのかさえわからないが、とにかくこの世界で多くの知識や技術を学んできた。故に現実としての技術を持っていないお前の攻撃なんて当たらないさ」

 

 こうしてレジスがシャルティアを圧倒できているのは、仮想ではなく、現実としての戦闘経験の差だろう。それとシャルティアがスキルも魔法も使いきっているからという理由と武器の相性という理由もあるが。

 

「まぁ俺もスキルも魔法も使ってないんだ、卑怯とは言うなよ?」

 

 デイドラ召喚は使ったが、戦う前だったのでノーカンということで。

 

「舐めるなぁぁぁぁ!」

 

 怒号を上げながら突進してくるシャルティアに、身をそらしてカウンターを取る。

 今のシャルティアの状態なら、攻略法はいたってシンプル。要は回復されないように攻撃を避け続ければいいだけの話だ。

 一撃、また一撃と着実にシャルティアの体力を減らしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガはレジスとシャルティアの攻防を少し離れた場所で見ていた。攻防と言っても、一方的にシャルティアがカウンターを食らっているだけだが。

 

「……そろそろかな」

 

 レジスが召喚したデイドラの体力を吸い取った分はとっくになくなっている。今なら超位魔法で削りきれるはずだ。

 やるなら今しかない、二度目の失敗は許されない。もしまた怖気付いてシャルティアを殺せなかったら、レジスが代わりにシャルティアを殺してしまうだろう。それだけはダメだ……

 

「やれやれ、本当に何が何だか……」

 

 ここ最近は驚いてばかりだ、シャルティアが精神支配を受けたかと思えば、探していた人物に出逢えた。喜んでいいのかそうしてはいけないのか、全くもってわからない。

 ……だがこれだけは言える。

 

「最後はやはりハッピーエンドで終わらなければな」

 

 シャルティアを取り戻して、レジスがナザリックに帰ってくる。ただそれだけで、モモンガの心は満たされる。

 そして超位魔法を発動させる……

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……! 超位魔法! アインズ様か!?」

 

「……アインズ様?」

 

 モモンガのことを指しているとは思うが、なぜギルド名で呼ばれているのか……?

 

「ギルド長はそう呼ばれる仕組みなのか……? それともモモンガさんが呼ばせているのかな? だとしたらそういう趣味があるのかなモモンガさん……」

 

 様づけで呼ばせるとは中々ハードなプレイだ。

 まぁ、どちらにせよ今はどうでもいいことか。超位魔法が発動したということは、ここから先はモモンガの役目だ。

 

「くっ、させる……かっ!?」

 

 モモンガのもとへ突進しようとするシャルティアの右腕を斬りとばすと、空中に鮮血が舞い上がった。

 右手を失ったことで、スポイトランスも持ち手を失い地面に転がる。

 

「ふんっ!」

 

「ぎぃぃぃ!」

 

 そのままシャルティアを地面に組み伏せ、無銘の剣をシャルティアとその下の地面に突き刺す。これで動けないはずだ。

 

「……すまいなシャルティア、できればこんな再会はしたくなかった。お前に攻撃することになるなんて創造主の一人として失格だな……それとペロロンチーノさんに怒られるな絶対」

 

「お、お前……いえ、あなた様は……」

 

 ふと、シャルティアの抵抗がなくなったのを感じた。

 モモンガの超位魔法の魔法陣が光り輝いている。そろそろ魔法が発動するのだろう。飛行の魔法で空中に急上昇して避難をする……

 

「〈失墜する天空〉」

 

 モモンガの声と同時に、シャルティアを中心として閃光が広がって包んでいく……

 そしてレジスには閃光に包まれていく中、シャルティアが満足気に微笑んでいるのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで太陽の中にいるような灼熱の中、シャルティアは自らの肉体が崩壊していくのを悟った。

 

(あぁ、流石はアインズ様……至高の御身こそ、まさにナザリック最強のお方)

 

 薄れゆく意識の中、シャルティアはアインズを讃える。それと同時に、さっきまで戦っていた自分そっくりの者のことを思い出す。

 

『……すまないなシャルティア、できればこんな再会はしたくなかった。お前に攻撃することになるなんて創造主の一人として失格だな……それとペロロンチーノさんに怒られるな絶対』

 

 最後にそう言葉をかけられたときシャルティアは確信した……いや、デイドラを嗾けられた瞬間から、心の何処かでは確信していたのだろう。あのお方の正体を……

 

「レジス・エンリ・フォートレス様ぁ……あなた様なのでしょう?」

 

 喉が焼き切れ、言葉を発するのも困難だというのに、何故か口に出そうと言葉を振り絞る。本人には聞こえるはずがないのに、その答えを確かめたくて一生懸命に喉を動かす。

 

「あぁ、私の()()()()()()()()()……」

 

 周りの皆には、自分の創造主はペロロンチーノとなっている。しかしシャルティアだけは知っている……ペロロンチーノともう一人……レジスが自らの創造主であることを。

 あのとき、自分が創造された瞬間のことを昨日のように思い出せる……

 

『ついにできましたねペロロンチーノさん』

 

『いやぁここまで長かったですねぇ、レジスさんも素材集めとかもろもろ手伝ってもらってありがとうございます』

 

 シャルティアの初めての記憶はここから始まった。目の前には漆黒の鎧に身を包んだ悪魔と、金の装飾が施された軽装のバードマンがいた。

 あぁ、きっとこの二人が自分を創造してくれた創造主様なのだろう。

 

『まぁこのNPC専用の武器と鎧も作ろうなんて言い出したのは私ですし、乗りかかった船は最後まで乗るもんですよ』

 

『はは、そうでしたね。これでシャルティアも喜んでくれるだろうさ!』

 

『シャルティア? もしかしてもう名前決めてたんですか?』

 

『えぇ、昨日徹夜で考えました! シャルティア・ブラッドフォールン! いい名前でしょう?』

 

『そうですね、モモンガさんのネーミングに比べたらはるかにいいですね』

 

 シャルティア・ブラッドフォールン。

 なんて良い響きなのだろうか……このとき、創造してくださってありがとう、素敵な名前をくださってありがとう、そう感謝の気持ちを言葉にして伝えたかったが、何故か口は動かなかった。

 

 だからこそ今この場で、あの時言えなかった言葉を言おう……

 

「あぁ、ペロロンチーノ様、レジス・エンリ・フォートレス様……私を創造してくださって、素敵な名前をくださってありがとう……ござい……ま……す」

 

 やがて完全に白色の世界に飲み込まれていくのを感じながら、シャルティアは消え去った。

 




次で最終話です。

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