あくまで冒険者やってます   作:よっしゅん

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 一応この小説、大まかな流れを下書きしてから執筆してるんですが、あまり意味がないと最近気がつきました作者です。結構というか頻繁に話の流れとか変えたりするので……


最終章 鮮血の戦乙女
第16話


 

 

 

 

 

 石畳の小さい階段を登る。程なくして登りきると、小綺麗に装飾された木製の扉が視界に入る。ノックもせずに扉を押し開けて中に入ると、中には小さなカウンターと小さなテーブル席が数えるほどしかない空間に出た。カウンターの後ろ側には、ガラスでできたグラスを布で拭いている人間と、棚に飾られた酒瓶が綺麗に並べてあった。

 いわゆる酒場という名の店だ。

 

「適当に軽いやつ」

 

 カウンターに近づき、バーテンダーの男にそう言い放つ。バーテンダーはすぐさまグラスに液体を注いでカウンターの上に置く。

 それをいっきに口に入れ、喉に通らせる。

 

「……軽いやつって言ったんだけど」

 

「おや、お口に合いませんでしたか?」

 

 注文のものとだいぶ違った味わいがしたので、バーテンダーに抗議の声をあげる。

 

「いや、普通にいけるけど……ていうか何これ、甘いのにだいぶキツめのカクテルなんて初めてなんだけど」

 

「ぶどう酒を使ったワインカクテルです。使ったぶどう酒はわざわざ隣国から取り寄せた一級品のものですので、キツめなのは仕様ですね」

 

「あそこの国で作ったワインか……道理で」

 

 しかし普通に美味しいのでもう一杯頼んだ。

 

「レジス様のお口に合うようでなによりです。実はこれの他にいくつか新作が入りまして……」

 

「あぁすまない、今日は飲みに来たわけじゃなくてだな。あいつはいるか?」

 

 あいつ、それだけで誰を指すのかバーテンダーは理解している。

 

「えぇ、いつもの場所にいますよ」

 

 それを聞き、店の奥にある扉へと足を運ぶ。

 扉を少し開けると、金具の部分が少し錆びついているのか、軋む音がするが気にせず開ける。

 扉の先には、壁に取り付けられた小さなランタンによって照らされている階段があった。下に向かって伸びているので地下への階段ということになる。

 足元に気を付けながら降りていくと、やがてかなり大きめの空間に出た。

 そこには様々な鍛治道具があり、熱を持った溶鉱炉のようなものまである。おかげで排気口らしきものはあるものの、それだけでは足りず、空間内は常に熱と煙で充満していた。そしてその空間に一人の男が道具の手入れをしながら座っていた。

 

「マルコ」

 

 男の名前を呼ぶ、男はようやくこちらに気づいたようだ。

 

「おう、お前さんか……いらっしゃいませ、マルコ地下鍛治店へ」

 

 男というより漢という字が似合いそうなマルコが髭面の顔でにやけながらそう言ってくる。

 

「……なぁ、いつも思ってるけど、こんな場所で商売なんかやめてもっと良い場所で」

 

「嫌だな、地下は男のロマンだ」

 

「…………」

 

 毎回のように言ってるが、どうやら今回も聞き入れてくれなさそうだ。別にその人がどこでどう商売しようと、口出しする気はないのだが、マルコの場合は地下という空間で火を扱ったりするので、空気がものすごく悪いのだ。可能なら空気が澄んでる地上で商売してほしいものだ。もしくは、そんなに地下がいいならせめて排気口をもう何個か増やしてほしい。

 

「それで、今日はどうしたんだ? 剣のメンテか?」

 

「あぁ、そうだった……実はな」

 

 背中にある二本の内の一つの剣を鞘から抜き、マルコに見せる。

 

「お前の最高傑作、一本折れたから新しいの頼む」

 

「……なんだって?」

 

 見せた剣は、刀身部分がなくなっていた。

 以前ソファーと遺跡に行ったときに、そこで出くわしたゴーレムに折られたものだ。

 

「……その剣一応アダマンタイト並みの硬度なはずなんだが、何したら折れたんだ?」

 

「ゴーレムの足狙って振ったら折れた」

 

 もちろん普段の剣のメンテナンスは怠っていない。つまり剣の硬さより、ゴーレムの硬さの方が上回ったということだ。

 

「ゴーレム……名前くらいしか聞いたことないが、つまり俺の剣がそいつに負けたということになるのか?」

 

「まぁ、そうだな」

 

 きっぱりと言うと、マルコは顔を伏せ肩を震わせる。

 

「くっ……くくく……」

 

 悔しさのあまり落ち込んでるのかと思いきや、突然豪快に笑い出した。

 

「ハハハハハ!! なら俺の腕はまだまだということか! よし、ならもっと凄いの作ってやろうじゃねぇの」

 

 長くも短くもない付き合いだが、マルコはこういう奴だということは理解している。単に鍛治に命をかける鍛治バカだ。

 

「そうと決まれば早速とりかかんなきゃな。ついでに二本纏めて新しいの作ってやるよ」

 

 そう言い、懐から小さなメモ用紙を取り出し、鉛筆のように削った細長い炭で何かを書く。そしてこちらに差し出してきた。

 

「ほれ、いつも通り前払いでお願いするぜ」

 

 メモ用紙には金額が書かれていた。剣の代金であろうその内容に目を通して、そしてため息を吐く。

 

「……いくらなんでも高すぎじゃないか?」

 

「俺の剣を二本も作ってもらって買えるんだぞ。それくらい貴族の連中ならポンと出してくれるぞ?」

 

「私は貴族じゃないし、ましてや職を持ってない放浪者なんだけど」

 

「ハハハハ! まさかかの有名な銀狼様が払えないなんてことないだろう? あちこち歩いては辺境の小さい村から大きな都市、あらゆる場所で活躍してるんだ。懐も潤ってるはずだぜ」

 

「……まったく、そんなに金が欲しいならその貴族様にもっと売りつければいいじゃないか」

 

 そう言うとマルコは顔をしかめた。

 基本的にマルコは自分の作品を売らない。いや、売らないというより売れないが正しいかもしれない。

 マルコの作る物はこの国一番の、ドワーフにすら負けないと言われるほどの逸品だ。しかし、マルコは作って自分が納得したものしか売りにださないうえに、売りにだされたとしてもその値段の高さのせいで、武器や防具を必要とする普通の冒険者には手が届かないほどなので、基本売れない。買えたとしても、せいぜいミスリル級の冒険者や金に余裕がある貴族でなければ買えないのだ。

 

「はん、俺の作品はな、敵を倒すためや、敵から守るために作ってるんだ。それを芸術品扱いで屋敷の廊下や物置に置いて作品を腐らせる貴族の連中にわざわざ作ってやる義理はねぇな」

 

 それならもっと安くすればいいのに。と思うが言ってもどうせ聞き入れないので、黙って懐から小さい布袋を取り出し、マルコに投げ渡す。

 

「へへ、毎度あり。多く見積もって二週間はかかるだろうから、完成したらこっちから連絡いれるぜ」

 

「完成が待ち遠しいよ、ぼったくり店主」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……金がない」

 

 自分の財布を確認してそう呟く。

 全くないというわけではないが、この量だと二日程度宿屋で部屋を借りるだけでなくなりそうだ。新しい剣ができるまで二週間、それまではこの街に滞在していなくてはならない。つまり今の手持ちだけでは心細いというもの。

 別に宿をとらずに、外で野宿でも構わないのだが、旅をする以上やはり路銀は必要不可欠だ。それまでにいくらか資金を調達せねばなるまい。

 

「仕方ない……」

 

 職を持たない自分がお金を稼ぐ方法は限られている。しかしその限られた中で、もっとも効率が良く、なおかつ確実に稼げる方法がある。

 さっそくそれを実行するべく、目的の場所へと向かう。

 ほどなくして、何の変哲もない二階建ての木造の建物の前にたどり着く。そして建物の入り口らしき扉には男が二人立っていた。

 

「待ちな、ここに入りたければ入場料として銅貨五枚支払ってもらうぜ」

 

 扉に近づくと、二人のうちの片方がそう言ってきた。

 

「ほら」

 

 財布からなけなしのお金を取り出し男に渡す。これくらいの出費なら痛くはない。どうせこの後何倍にもなって帰ってくるのだから。

 そしてお金を渡された男は何故か驚いた表情をしながら言った。

 

「あんた女か……? 女がここに来るなんて珍しいこともあるもんだな。なら中にいる連中に変なことされないうちに帰るのをお勧めするぜ」

 

 ローブとフードは着たままなので、おそらく声で判断されたのであろう。

 

「忠告感謝するよ」

 

 男の勧告を無視して、扉を開け中に入る。

 建物の中は小さいテーブルと、小さい椅子が並んだまるで喫茶店のような内装だった。しかしここは喫茶店などではない。

 小さいテーブルを挟んで、椅子に座った人達は真剣な顔つきで各々何かしていた。

 

「ほら、これでお前の三連敗だな!」

 

「ああちくしょう! また負けた!」

 

 ある席からはそんな声が聞こえてくるが、そこの席だけでなく、他の席からも活気が伝わってくるのがわかった。

 どうやらどこの席もテーブルの上にカードらしきものを広げてカードゲームをしているようだ。

 

「いらっしゃいませお客様」

 

 入ってきた自分に気がついたのか、ガタイの良い顔に傷だらけの男が近づいてそう言ってきた。

 

「お客様はここは初めてか? なら好きなだけここでゆっくりしていくといいさ。せいぜい身包み剥がれない程度にな! ははははは!」

 

 それだけ言うと元いた場所へ戻っていく。

 ここはいわゆる賭博場という場所だ。自分がいた世界でいうとカジノといったほうが正解だろうか。

 そう、確実に稼げる方法とは要するに博打のことである。昔から博打というか賭け事は得意なので、自分にとってはうってつけの稼ぎ方法だ。

 しかもこの賭博場はどうやらカードゲームでお互いの賭け金を奪い合うようだ。自分で言うのもなんだが、カードを使った遊びなら負ける気はしないと自負するほど自信はある。

 適当に空いてる席を探していると、ちょうど相手待ちをしている男がいたので、その向かい側に座る。

 

「賭け金は?」

 

 座るなりそう聞いてくるのは別におかしいことではない。ここは賭博場なのだから。

 

「そうだな、まずは銅貨十枚でどうかな?」

 

「いいだろう。それと女だからって容赦はしないぞ? もちろんイカサマなんて論外だ」

 

 お互いのカードをテーブルに並び始め、ゲームを始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数時間、順調に勝ち続け財布はどんどん潤った。もう十人以上相手にしたが、一度も負けてはいない。

 

「そろそろ切り上げ時かな……」

 

 いくら自分とやっても勝てないのを悟ったのか、先程から相手が一向に現れない。個人的にはもう少し稼いでおきたいが、ここら辺でやめとかないとこの賭博場も他の所と同じように出禁にされかねないので、仕方なくカードを片付け始める。すると……

 

「よぉ、お帰りかい? それなら最後に俺と勝負していかないか?」

 

 突然がらの悪そうな男が向かい側の椅子に座ってそう言った。さらに男の後ろには同じようにがらの悪い男が数人立っていた。

 

「おい……あいつコニーじゃねぇか?」

 

「本当だ……この前女を乱暴したとかで捕まったと思ってたのにもう出てきたのか……?」

 

「街一番のゴロツキがなんだってこんな所に……」

 

 あちこちから小声でそう聞こえてきた。どうやら目の前の男、この街では少し有名な小悪党らしい。

 

「……別に構わないが」

 

 まぁこの男が善人だろうと悪人だろうと関係ない。自分にとっては対戦相手(美味しいカモ)なのだから。

 

「へへ、そうこなくちゃな。じゃあ賭け金はお互いの持ち金全部でどうだ?」

 

 その顔をニヤつかせながら男は言う。この男どうやら相当自信があるらしい。もしくは自分がかなり稼いでいることを知っての行動かもしれないが、理由がどうあれそれを断る理由もない。

 

「いいぞ。さぁ、やろうか」

 

 カードを広げ勝負を始める。

 そして数分後に普通に勝利を収める。

 

「な……!」

 

「私の勝ちだな」

 

 信じられないといった表情をする男は、顔を引きつらせる。

 

「ぐ……だ、誰が一回勝負って言った! 三回勝負だ三回!」

 

 そう言うので再戦をしてやる。

 もちろん結果は言うまでもなく自分の勝ちだ。

 

「私の勝ちだ」

 

「く、くそっ……! い、イカサマだ!」

 

「はぁ……往生際が悪すぎやしないか?」

 

 もちろんイカサマなんてしてない。むしろそっちからふっかけておいて、わざわざ二回も勝負してやったのにイカサマ扱いは流石に解せないというものだ。

 

「このクソ女が……女だからって調子に乗るなよ! おいお前ら!」

 

 男が怒鳴り散らしながら椅子を蹴り飛ばすと、後ろにいた男の仲間と思われる連中が自分を取り囲むように移動する。

 

「たかがゲームで勝てないだけで暴力に走ろうとするなんて……親が泣くんじゃないか?」

 

「うるせぇ! お前が泣いて許しを乞う姿が今から楽しみだな、そのあとボロ雑巾みたいに犯しつづけてやるよ!」

 

 まるでRPGゲームの下っ端のような台詞を吐きながら、男は殴りかかってきたので、その拳を左手で受け止めて代わりに右手を男の腹に本気で叩き込む……と腹に風穴が空くので、手加減して叩き込むと男は嘔吐物を口から出してあっさり気絶した。

 

「こ、この!」

 

 男の仲間達も殴りかかってきたので、平等にその腹に一発ずつ叩き込んでやる。

 流石に悪党とはいえ、街中で殺しをするのは気が引けるというか、後々面倒ごとになりそうなので、全員気絶する程度に手加減してある。

 

「あ、あんた……相当腕が立つようだな」

 

「まぁね、こいつらの後始末は任せるよ」

 

 最初に店に入った時に話しかけてきた傷の男が震えた声で言う。

 気絶させた男の身体を弄り、懐から財布らしきものを抜き取りながら適当に返事をしといた。事情を知らない人から見たら完全に追い剥ぎのような手口だが、ちゃんと賭けをしてそれに勝った正当な報酬だ。決して追い剥ぎではない。

 

「……?」

 

 そして気がついた。男の袖の裏に、小さいポケットのようなものがあり、そこにはいくつかのカードが入っていた。

 どうやらイカサマをしていたのは自分ではなく、男の方だったようだ。確かにイカサマしてまで負けては情けないを通り越して感動すら覚える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思っていたよりも多く稼げたため、鼻歌交じりに街の中をあてもなく歩き回りながら、今後の予定をどうするか考える。

 

「剣ができるまで二週間……相当暇になるな」

 

 正直暇なのは今は問題ではない、そのあとどうするかが問題だ。この大陸をふらつくか、それとも海を越え別の大陸に行くか……

 この大陸を引き続き歩き回るとしたら、まだ行ってないところは法国周辺だろうか。しかしあの国にはあまり近づきたくはないので、ここは別の大陸に行くのが正解かもしれない。

 

「いや、まてよ……確か」

 

 この大陸の大まかな地図を頭に浮かべていると、ふと気がついたことがあった。

 十五年前、この世界にやってきたときにお世話になった村が記憶違いでなければこの辺にあったはずだ。名前は確かカルネ村だったか……

 あれ以来一度も訪れてはいなかったが、ここいらで一回立ち寄ってみるのもいいのではないだろうか。どうせ暇だし。

 

「ふむ……あの夫婦は元気にしてるかな」

 

 記憶力はかなり良い方なので、エモット夫婦のことはよく覚えていた。あのとき食べさせてもらった料理の味は今でも鮮明に思い出せる。

 そしてあの夫婦には、自分の名前をつけた子供がいるので、何事もなく元気に育っていればもう15歳か16歳。どんな風に成長したのか気にならなくもない。

 

「さて、今後の予定も決まったし今夜泊まる宿でも……」

 

 探そうかと思い、歩みを進める。そして自分の前方によく見知った人物がいるのに気がついた。

 

「げっ」

 

 その人物の正体を知った途端そんな声を漏らしてしまった。そして相手の方も此方に気づいたのか、なぜか走って近づいてくる。正直自分も走って逃げたい気分だ。

 

「おーい! レジスくん! ここにいたのか……ハァ、ハァ」

 

「……どうも、アインザックさん」

 

 走ってきたのは、プルトン・アインザックという壮年の男だった。アインザックはこの街の冒険者組合を統率している組合長でもあるのだが、会うたびに冒険者にならないか? などとしつこくあの手この手で勧誘してくるので正直苦手な人だ。

 

「いやはや、君がこの街に入ってきたとの情報を聞いてね……あちこち走り回ってしまったよ」

 

「はぁ、そうですか……冒険者にはなりませんよ?」

 

「あ、いや今回は違うんだ。別件で君を探していてね」

 

「別件?」

 

 息を整えながらアインザックは喋る。

 

「と、とにかくここではなんだ……ひとまず組合に来てはくれないか?」

 

「……わかりました」

 

 特に嘘を言っているような様子ではなかったし、話を聞くぐらいなら暇なのでできる。

 そう思いアインザックの後をついていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吸血鬼?」

 

「あぁ、二日ほど前の晩に都市北門から歩いて三時間程度の森周辺で街道を見回っていた冒険者達が遭遇した」

 

 組合にある一室で、イスに座りながらアインザックの話を聞いていた。その内容は、大まかにいうとこの街の近郊で吸血鬼が出没しているという話であった。

 

「それで……? 私にその吸血鬼の討伐をお願いしたいってことですか?」

 

「あ、あぁ……その通りだよレジス君」

 

「……お言葉ですが、吸血鬼程度ならこの街のミスリル冒険者チームでも対処できるのでは?」

 

 吸血鬼にも下級や上級といった強さの違いはあるが、基本的にレベルの平均値が低いこの世界の冒険者でも、ミスリルほどの実力があるなら、油断さえしなければ難なく勝てるはずだ。

 

「それがそうもいかない状況なんだ……その吸血鬼は第三位階魔法である〈不死者創造〉を使用できるほどの強さを持っているんだ」

 

「ほぉ……」

 

 今の言葉をユグドラシルプレイヤーが聞いたら多分爆笑の渦が巻き起こるだろう。「たかが第三位階魔法で強いとか。クソワロタ」みたいな感じで。

 しかしこの世界の認識は違う。第三位階魔法を使えるとなれば、大魔法使いとして大成できるのだ。

 

「実はすでに何人か優秀な冒険者チームを向かわせているのだが……念には念をと思い、君もその吸血鬼退治に参加してほしいんだ。もちろん報酬は用意しよう」

 

「優秀な冒険者チームねぇ……ちなみにどのチームが向かったんですか?」

 

 この街で優秀な冒険者チームといえば、『クラルグラ』とか『天狼』とかいう名前だったはずだ。

 

「イグヴァルジ君が率いる『クラルグラ』と、モモン君のチームが向かったよ」

 

 なるほどなるほど、ミスリル冒険者チームが一つと、モモン君のチームとやらが向かったのか……

 

「……モモン君?」

 

 モモン君、その単語を聞いた瞬間何かが引っかかったような感覚がした。

 

「あぁ、君はまだ知らなかったか。モモン君は最近冒険者になった人でね。実はこの前この街で起きた危機を解決してくれたりと、とても強くてね……」

 

 アインザックが何か言っているが、頭の中は別のことでいっぱいになっているので聞こえなかった。

 モモン君……モモン? モモン……ガ。

 

「……モモンガ……さん?」

 

 まさか、ただの偶然に決まっている。そう思いながらも、心の片隅では、もしかしたら……と期待している自分がいるのを感じた。

 しかし、期待してしまうのも仕方のないことだ。何せこの一五年間何の情報を得られずに、ただあちこちを彷徨いながら、いるかもわからない仲間達を探す旅をする日々だったのだ。

 

「……レジス君?」

 

「……いえ、なんでもありません」

 

 ここでいくら悩もうが時間の無駄というもの。ならばここは直接確かめに行けば良い。

 

「わかりました。協力しましょう」

 

「おぉ! そう言ってくれると信じていたよ!」

 

 もし、もし本当にモモンとやらが自分のよく知る仲間(モモンガさん)だとしたら? そのときは……

 

「そのときは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 謝ろう……約束を破ってしまいごめんなさいと。誠意を込めて……

 

 


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