あくまで冒険者やってます   作:よっしゅん

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キャラ崩壊注意です。←今更


第11話

 

 

 

 

パタンと扉の閉まる音が響く。少し金具部分が錆びているのか、若干ギギギと変な音を立てていたが問題なく木でできた扉は閉まった。

 

「このような場所にモモン様が滞在されねばならないなんて」

 

黒髪の女……ナーベラルが扉の閉まった部屋の中を見回しながらそう言った。

確かに部屋には小さな机と粗末な木製のベッドぐらいしかなく、部屋の片隅を見れば多少とはいえ埃が積もっている。これではお世辞にもいい場所なんて言えるわけがない。

 

「そう言うな、ナーベ。私たちはこの都市で冒険者としての名声を得ることが目的だ。さっき冒険者になったばかりの私たちではしばらくこのような場所にしか滞在はできないだろう。それまでは分にあった生活というのもまた一興だろう?」

 

ナーベラルを宥めるためにそう言葉を発するアインズ。

 

(ていうか正直、ナザリックみたいな豪華すぎる部屋よりこういう部屋の方が俺は落ち着くんだけどなぁ……)

 

そう本音を隠しながらアインズは、魔法で作った鎧を解除しいつもとは違う装備のマジックアイテムに身を包んだ骨の姿を現した。

冒険者組合で何事もなく冒険者として登録できた後、受付嬢に紹介された宿屋に向かった。今回は場所を聞いた上で、目印になるものを教えてもらったため迷う事なくたどり着けた。

しかし、宿屋に着くなり他の冒険者に絡まれたり変な女にポーション代を弁償しろと言われたり……ともかく多少の騒ぎを起こしてはしまったが問題はないだろうとアインズは判断し、今こうして借りた部屋の中にいるわけだ。

 

「それにしても、冒険者には強さに応じたプレートが与えられるとは聞いたが……最高位の冒険者はアダマンタイトか」

 

アダマンタイト。ユグドラシルでも存在していた金属で、特別な素材でもないしそれ程の価値はなかったがどうやらこの世界ではアダマンタイトは希少扱いされているらしい。

 

「アインズ様にはアダマンタイトなどの柔らかい金属ではなく、アポイタカラ、ヒヒイロカネなどが相応しいはずです。目の腐った者ばかりですね」

 

「ナーベよ……私のことは外にいる間なんと呼べばいいか忘れたか?」

 

「し、失礼いたしました! モモン様……」

 

へにゃりとナーベラルのポニーテールが力なく垂れ下がった気がした。神経でも繋がっているのだろうか。

 

「ふむ……ナーベよ。考えていたのだが、敬語もやめにしないか? 仲間同士敬語を使うのも変かもしれないからな」

 

「しかし……」

 

「ほら、試しにモモンと呼び捨てにしてみろ」

 

パワハラじゃね? そんな気がしたが、やはり仲間同士フレンドリーな関係でなくてはならない。ナーベラルには多少我慢してもらうしかない。

 

「も、モモンさ……モモ……も、も、ん。……ぬ"ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

「ど、どうした!?」

 

急に奇声を上げたナーベラルに若干引きながらも、その身を案じるアインズ。

 

「で、でぎばぜん……だどえぎめいであろうども、じごうのがだをよびずでなど……」

 

まさか泣くほど嫌だったとは予想外だった。

考えて見れば、いきなり上司に「俺のこと今日から呼び捨てで呼べ」と言われても混乱するだろう。

 

「……悪かったなナーベ。確かにお前達からしたら私という存在を同等に扱え……なんて言われても無茶な話であったな。そうだな、呼び捨てが無理ならさん付けでどうだ? モモンさんだ」

 

「も、モモンさ……ん」

 

「よし、やればできるじゃないか」

 

丁度良い位置に頭があったため、つい骨の手で頭を撫でてしまった。

部下が失敗した時は、きちんと何がいけないのかを指摘した上で時には厳しく……時には優しく叱り、しっかりと出来た時には褒める。そうすることにより、部下は成長し組織は上手く回っていける。

そんな本を昔読んだことがあったので、実際にやってみたが確かにこれは効果がありそうだ。

 

(確か、飴と鞭……っていうんだっけか? まさか現実世界では全く役に立たない知識が異世界で活かせることになるとは)

 

「さて……そろそろ今後の事について話し合って行こうかと思ったのだが、もう一度我々の目的をおさらいしておこうか」

 

ナーベラルの頭から手を離すと、嬉しそうに撫でられていたナーベラルが少し物足りなさそうな顔をしていたがすぐにいつものような真面目な顔付きに変わった。

 

「はい、モモンさん」

 

別に跪かなくていいんだけどなぁ。と思いつつアインズは話を始める。

話した内容は、ナザリックを出発する前に言った内容と同じだ。冒険者になる目的、なった後の目的。全て話を終えたアインズは、一度深呼吸……の真似事をした。

……このさきアインズがナーベラルに語ろうとしていることは、まだナザリックでも話していなかったことだ。

念の為もう一度、この場にアインズとナーベラルしかいないこと。部屋の外に誰か盗み聞きなどをしていないか確認し終えたアインズは再び深呼吸をして、覚悟を決めた。

 

「ナーベよ。今から私が話す内容は誰も知ることがないようにしろ。たとえアルベドやデミウルゴスといったナザリックの者達にもだ」

 

「ナザリックの者達……にもですか? それはいったいなぜ」

 

「いいから、約束してくれ。この事は絶対に誰にも話すな」

 

あえて命令とは言わずに約束と言ったのは、やはり強制するよりもナーベラルの意志で守ってほしいと判断したからであろう。

 

「……それが御方の意志とあらば」

 

「よし、これから話す事はナザリックでも話していなかった我々のもう1つの目的についてだ」

 

「もう1つの……目的」

 

数秒ほど間を空けてアインズは声を放った。

 

「話す前に、ナーベではなくナーベラル・ガンマとしてお前に聞きたいことがある」

 

「はっ……なんなりとお聞きください」

 

ナーベではなくナーベラルとして。そう言った瞬間、ナーベラルの真面目な顔はさらに濃くなった。

アインズもまた、眼窩の奥にある赤い炎のようなものをより強く揺らめかせた。

 

ナーベラルよ……お前は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さかなさかなさかなーさかなーをたべーるとー」

 

何世紀も前にあった魚の歌を口ずさんでいるレジスがいた。レジスは街で着ていたフード付きローブを既に脱ぎ捨てマジックアイテムであるポーチにしまっていた。さらには今の状況はというと……

 

「あたまあたまあたまーあたまーがーよくーなるーかもしれなーい」

 

ブーツを脱いで、裸足の状態で水の流れる川のど真ん中に中腰の姿勢で水面を睨んでいた。

 

「……! せいっ!」

 

高いソプラノの声で勇ましく叫び、水面に両手を突っ込んだ。そして突っ込んだ両手で掴んだ物を離しはしまいと、力を入れすぎず抜きすぎずといった繊細な力加減を維持しながら両手を水面から引き抜いた。

 

「とったどー」

 

両手で握りしめた物……必死に逃げようと元気よく体をピチピチとしている魚を逃さないように胸元まで両手を持っていき、そのまま両手と胸で魚を挟んだ。これならば確実に逃げられない。

胸元の服の部分が少し濡れてしまうが、この程度ならすぐ乾くので問題はない。

そのまま魚を抱きかかえたまま、岸辺に上がる。

 

「5匹も捕れば充分かな」

 

今捕まえた魚で5匹目だ。初めて魚捕りに挑戦した時の戦績に比べれば上出来ものだ。

他の4匹は既に火を起こした焚き火の周りに木の串で刺したものを設置して素焼きにしている。そろそろ最初の1匹目が焼きあがっているころだろう。手早く今捕まえてきた5匹目にも串を刺して、焚き火で炙り始める。それと同時に最初の1匹目が刺さっている串を手に持つと、いただきますと言って一気にかぶりついた。

 

「うまうま」

 

こうして天然物の魚を川で捕って、焼いて食べるなんてリアルでは不可能なことだ。人工的に作り出された魚とかならもちろん食用として売りには出されてたりはしたが、やはりそれなりのお値段はする。何かお祝い事や行事でない限り、そうそう出てこない食べ物だ。レジスもリアルでは数えるほどしか食べた事はない。

そんな高級食材が、ここではタダな上に天然物だ。異世界さまさまである。気がつけば1匹目を食べ終えてしまい、2匹目の串を持っていた。そしてまたかぶりつく。

 

「うますぎる!」

 

いちいち食べてはそんなことを口走るレジス。ちなみにもしこの場にレジスのことを知っていたり話したことがある人物がいたら、おそらく全員口を揃えてこう言うだろう。

 

誰だお前

 

レジスは基本初めて会う人にも、知り合いに対しても高圧的な態度をとる。別に相手を見下しているわけではない、舐められたりしないためだ。

確かに時と場合によっては、態度を変えたりはする。初めて会う人にもそこまで高圧的な態度はとらない。しかし、ある意味ではリアルの世界よりも死が間近にあるこの異世界をうまく渡っていくにはまず相手に舐められたりしてはならない。それがこの世界でレジスが学んだことの1つだ。

……ともかくそういった理由もあってレジスは、『見た目は美少女、中身はクール』……そんなキャラを他人には見せていた。しかし今こうして美味しそうに両頬を膨らませて、笑顔で魚を食べているレジスを見たら、誰もがキャラが違うと断言するであろう。

……そしてもしここに、エロの道を突き進むバードマンがいたとしたら絶対にこう言うであろう。

 

『美味しそうに食べ物を食べる美少女を見るだけで、ご飯10杯はいけるね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナーベラルよ……お前は私達41人を恨んでいるか?」

 

そうアインズがナーベラルに向かって言ったとき、ナーベラルは言葉の意味を理解できていなかった。

恨む? いったい誰を。誰が?私が。……私が至高の方々を恨む?

ナーベラルが意味の咀嚼をしている途中にもかかわらず、アインズは続ける。

 

「……お前はナザリックを離れていった皆のことを恨んでいるか? 嘘偽りなく、今の気持ちを正直に言ってくれ」

 

この時アインズは意味もなくこんな質問をした訳ではなかった。

アインズがこの異世界に迷い込んでしまったあの日、守護者達を集めて自分のことをどう思っているかを聞いたことがあった。その時NPCの一人のセバスが放った言葉がどうしても頭から離れなかったのだ。

 

『最後まで私達を見放さずに残っていただけた慈悲深き方です』

……と

 

つまりアインズ以外のギルドメンバーは自分達を見捨ててナザリックを去った……こう思っているということになる。それもセバスに限らず他のNPC達もその認識をしている可能性が高い。

そしてこのことをアインズは直接NPC達に聞こうとはしなかった。いや、怖くてできなかったのだろう。もしNPC達がかつての仲間達を否定してしまったら……

しかしこれから話す内容からして、ナーベラル自身の気持ちを知っておかなくてはいけない。故にアインズは覚悟を決めてナーベラルにそう聞いたのである。

 

「さぁ頼むナーベラル。教えてくれ……」

 

もしナーベラルがアインズの望む答えと違うことを言ったとしても、アインズはそれは仕方のないことだ。と自身を納得させるつもりだった。

アインズはナーベラルの口が動くのをじっと待った。時間にして数十秒だが、アインズには随分と長く感じたころようやくナーベラルが言葉を発した。

 

「……私は至高の方々を……弐式炎雷様を恨んだことなど一度もございません」

 

アインズの眼窩の炎が揺らぐ。

 

「確かにナザリックを去っていかれてしまったのは悲しいです。寂しいです。辛いです……ですがっ! 私は至高の御方であられる弐式炎雷様によって創造された戦闘メイドプレアデスが一人、ナーベラル・ガンマです。それが事実である限り私の忠誠は絶対に揺らぐことはありえません!」

 

声が震えていたが最後の方の言葉には強い意志がこもっており、それが嘘ではないとアインズは感じた。それと同時に激しい感情がアインズを襲った。

 

「は、はは……ハハハハハハ! そうか! そうだな!」

 

アインズはその特性故に、感情の起伏が大きく変わると強制的に抑制されることがこの世界に来てから確認されている。つまり普段なら一回抑制されれば落ち着きを取り戻すのだが、今回は嬉しさという感情が抑制されてもすぐに込み上げてしまうためになかなか収まらなかった。

 

「ははは……いやすまない。取り乱したな」

 

心配そうにこちらの様子を窺っているナーベラルに軽く謝っておく。

 

「さてナーベラルよ、お前の考えはよく理解した。よってこれから我々のもう一つの目的に話そうじゃないか」

 

「はっ」

 

ナーベラルがこう思っていてくれているなら、きっと他のNPC達もまだ仲間達のことを想っていてくれているはずだ。自分が心配することは最初からなかったのであろう。

 

「そうだな……まずはどこから話すべきか」

 

正直話す内容をまとめていなかったため、少し考える。

 

「ナーベラル……私の仲間の一人のレジスさんのことは知っているか?」

 

アインズの質問にナーベラルは即答した。

 

「はい。レジス・エンリ・フォートレス様のことなら存じております」

 

「そうだ、そのレジスさんだ。……単刀直入に言うが、そのレジスさんがこの世界にいるかもしれない」

 

ナーベラルが先程と同様かそれ以上の動揺した顔を浮かべたのがわかった。

 

「そ、それは本当のことなのですか?」

 

「あぁ、確証はないがな……」

 

アインズは何故レジスがこの世界にいるかもしれない。そんな仮説が浮かび上がったきっかけは、カルネ村でエンリという少女と話したからであった。

 

「どこから話すべきか……そうだな、私が以前カルネ村という村を救ったことはお前も聞いているな?」

 

ナーベラルは肯定する。

 

「その村……というか私が最初に救った姉妹の姉の方なんだが、その姉と少し世間話をしてな。興味深い話が聞けたんだ」

 

下等生物如きがアインズ様と世間話なぞ。そんな呟きはこの際気にしないで話を続けた。

 

「なんでもカルネ村は十数年前ほどに、盗賊達に襲われ、村中の金品や若い女達を攫っていかれて危機に陥ったことがあるらしい」

 

息継ぎ……息はしてないが、言葉を区切る際にナーベラルの顔を少し意識して見てみるが、どうやら真剣に聞いていてくれているようだ。

 

「村人達がどうするべきか立往生していたら、そこでちょうど村に立ち寄った旅人に助けてもらえたそうだ。死者は一人出たらしいが、他の攫われた人達は無事で、たった一人で何十人といた盗賊達を倒して見事村を救ったらしい」

 

また息継ぎをする。

 

「その後村を救った旅人をしばらく村に滞在させていたところ、村に新しい赤子が産まれた。そしてその赤子には、村の英雄である旅人の名前の一部をつけてもらったらしい」

 

先程よりやや長く間を空けてからアインズは言った。

 

「その赤子の名前は……エンリ。エンリと名付けられたらしい」

 

ここでようやく、ナーベラルが顔だけではなく声も出して驚いた。

 

「なっ……! で、ではその旅人はもしや!?」

 

「あぁ、その旅人は自らをレジス・エンリ・フォートレスと名乗った。そしてエンリと名付けられた赤子こそ、今回私が救った姉妹の姉だった」

 

この話を聞いたときは、ナーベラルのようにアインズも衝撃を受けたものだ。話を聞いている最中も何度か鎮静化が起きるほどであった。

 

「でしたらすぐに捜索部隊をナザリックから……!」

 

そう言いながら、立ち上がったナーベラルをアインズは制した。

 

「落ち着け。先程もいったがこれは確証ではないのだ。確かに名前が一字一句合っているということは本物のレジスさんの可能性は高いが、まったくの別人という可能性もなくはないのだ。それにこの話をナザリックに流しでもしたらどうなると思う? 今のお前のようにレジスさんを探し出そうと皆が慌ただしくなるだろう。そうなってしまうことは喜ばしくないことだ……未知の敵に対してナザリックを手薄にするわけにはいかないからな」

 

だからお前も落ち着いて座れ。と付け足すと、おとなしく先程のように跪いた。

 

「よし。これがナザリックにこの話が漏れることを許してはならない理由だ。理解したか?」

 

「はっ。考えが浅い私をお許しください、アインズ様」

 

正直なところアインズは、本物のレジスという可能性の方が低いと思っている。なぜなら……

 

(あの日……ナザリックまるごとこの世界に転移してきたとき、俺以外のギルメンはいなかった。もちろんレジスさんも……仮にあの日に一緒にいたなら、レジスさんもこの世界に来ていてもおかしくはない筈なんだけど……)

 

しかしレジスはあの日一度もログインしてきていないはずだ。ギルメンがログインしたらシステムメッセージで表示されるのだが、そんな表示はなかったはずだ。それにカルネ村を過去に救ったという話は十数年前だ。

だがアインズは、それと同時に本物のレジスさんであってほしいとも思っていた。

 

(もしかしたら……もしかしたらログインせずにこの世界に来たという可能性もなくはないはずだ)

 

確証はない。だがそれがいずれ確証になるかもしれない。

 

「あの……アインズ様」

 

少し自分の世界に入っていたが、ナーベラルの声によって戻された。

 

「どうした? ナーベラル」

 

「も、もしレジス・エンリ・フォートレス様がここにいるとわかったら、他の至高のお方達もこの世界にいるのでしょうか? 至高のお方達はナザリックを去ってこの世界に来たということなのでしょうか……?」

 

なるほど。確かにNPC達からしたらそう考えるのも納得できる。

 

「いや、それもわからない。そもそも仲間達はこの世界に来たのではないはずだからな」

 

そう、皆リアルという世界に縛られ続けているはずだ。

 

「……アインズ様は至高のお方達が行かれた場所をご存知なのでしょうか?」

 

「……知っているさ。そして仲間達が何故ナザリックを去ったのかもな」

 

皆リアルを優先した、ただそれだけの理由だ。

だが、それをナーベラルに話しても仕方がないことだ。ここは少し嘘をつかせてもらうことにした。ナーベラルが何か言う前にアインズは言葉を発した。

 

「皆それぞれの使命を持ってナザリックを出ていったのだ。その使命を成し遂げるべく、仲間達は旅立ったのだ。……そんな顔をするなナーベラルよ、お前の言いたいこともわかる。何故自分たちはその使命を共に背負わせてくれないのか……だろ?」

 

ナーベラルがその通りだと言わんばかりに頷く。

 

「皆が向かった場所は、お前達は存在すら許されない……そんな場所だった。だからお前達を連れていくことは出来なかったんだ。だから決してお前達を見捨てたわけではないんだ……それだけはわかってくれ」

 

少し泣きそうな顔をしているナーベラルの頭を軽く撫でてやる。

 

「すまなかったな、今まで黙っていて。だがこのことも私とお前だけの秘密にしてくれ……今はな」

 

コクコクと頷くナーベラルの頭から手を離す。

 

「さて、話を戻すとしようか。実はこの街に来たもう一つの目的というのが、レジスさんのことなんだ」

 

「レジス・エンリ・フォートレス様のことでございますか? それは一体どのような……」

 

エンリという少女から話を聞き終えた後、アインズはその旅人の居場所を知らないかと尋ねた。エンリは知らないと答えたが、代わりに有益な情報を貰えたのだ。

 

「この街……エ・ランテルには、銀狼と呼ばれる名の知れた旅人がいるそうだ。名前はレジス・エンリ・フォートレスらしい」

 

もし表情が動かせたならアインズは間違いなく、ニヤリと口元を動かしながら言ったはずだ。

 

「な、なんと! ならもう一つの目的とはもしや……」

 

「あぁその通りだ……我々二人でレジスさんを探すのだ!」

 

アインズの眼窩の中でうごめく光が強く光る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くしっ」

 

川に浸りすぎて風邪でも引いたのだろうか、何故かくしゃみがでた。

 

「うーん。どこに行こうか」

 

レジスは歩きながらそう考える。

 

「やっぱり山登りしてドワーフを探しに行くか……あぁでもでも、久しぶりに海を越えてあそこに行くのも……」

 

山と海。どちらに行くか心の中で天秤をしていると、一匹のカラスがどこからともなくレジスに近づいてきた。

そしてクチバシに咥えていた紙らしき物をレジスの上空から落とした。

 

「ん? あのカラスって……」

 

レジスは落ちてきた紙を拾い、書かれている内容をよんだ。もちろんレジスがリアルとユグドラシルで使っていた言語ではなく、この世界のものだが、既にレジスはこの世界の言語を覚えているため読むのに問題はなかった。

 

「なになに……『久しぶりに一緒にお仕事しましょう。報酬は山分けよ。貴女の友人よりはーと』」

 

ハートマークの隣には、キスマークまである。

 

「どうやら山も海も行けそうにないな……」

 

そうぼやきながらも、レジスは手紙の差出人の友人に会うべく歩く方向を変えた。




文で情報を伝えるってほんと難しいですね。未だに慣れません。
もしわからない、理解できないことがあったら教えてください。

追伸
いつもの方が誤字報告してくださいました。ありがとうございます。

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