あくまで冒険者やってます   作:よっしゅん

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実は前回、妖精さんのくだりや漆黒の剣との夕飯シーンとかも考えたんですが更新が遅くなりすぎてるのといいアイデアが浮かばなかったんでカットしました。
ちなみに妖精さんは再登場の予定です。



第10話

 リ・エスティーゼ王国の都市エ・ランテル。そのエ・ランテルに入るための関所から少し離れた場所に2人の人物が歩いていた。

まず2人組の内の1人は美しい女性だ。10人中10人が美人と答えるほどで、20代ぐらいの年齢で長い黒髪をポニーテールと呼ばれる髪型にしている。顔と深い茶色のローブで隠しきれていない手からは色白の肌が覗いている。そんな女性を通りかかる人々は思わず凝視してしまうほどだ。

 対してもう1人は、日光を反射して宝石のような輝きを放っている漆黒のフルプレートを身に包んだ人物だ。さらに鎧には金と紫色の模様が入っていて、背中には真紅のマントと2本のグレートソード……誰もが立派な鎧と剣だとわかるほどの素晴らしい物があった。

その見事な鎧と美しい女性……この2つの要素が先程から人々に注目を集めていた。

2人組はそれほど速くも遅くもないスピードで黙々と道を進む。このままなんの会話もないかとも思われたが、漆黒の鎧の人物が周囲を少し警戒を含めた意味で見回し危険なものはなにもないなと確認し終えたあと女性に話しかけた。

 

「さて……難なく街に入れた事だし、早速冒険者組合を探しに行こうか」

 

「はい。アインズ様」

 

 漆黒の鎧の人物……アインズが女性の発した言葉に少し慌てて再度周りを見回す。そして近くには誰もいなく、この会話が聞かれていなかったことを知ると安堵の息を吐いた。もっともアインズはアンデッドなので息は吐くどころか吸うこともできないが……

 

「違うぞ。私の今の名前はモモンだ。そしてお前はナザリックの戦闘メイドの1人であるナーベラル・ガンマではなく、モモンの仲間のナーベだ。……出発する前に一通り説明したはずだが通じてなかったか?」

 

「こ、これは失礼いたしました!」

 

「まぁ……いきなり違う名前を呼べと言われてもすぐには慣れないか。確か前に伝言の魔法を飛ばした時も、アインズではなくモモンガと呼ぼうとしていたな」

 

「うっ…」

 

女性…もといナーベラル・ガンマはその時のことを思い出して羞恥と失念の感情に呑まれた。あの時何も言われなかったから気がつかれていないと思ったが、どうやらしっかりと聞かれていたようだ。

 

「……ともかくここにいる間は、私はモモン。お前はナーベだ。しっかりと頭に入れておけ」

 

「はい……かしこまりました」

 

「よし。それでは冒険者組合を探しに…といきたいがどうしたものか」

 

アインズはもちろんナーベラルもこの街は初めての場所で、ましてや地図などもない。全く知らない土地で1つの場所を探すのは一苦労どころか二苦労も三苦労もあるだろう。

 

(さっきの関所で場所を聞いとけば良かったかな……今更冒険者組合の場所を教えてくれって戻るのもなんか嫌だしな)

 

さらに何者かがアインズに試練を与えているかのように、目の前の道は左と右に分かれている。ますますどこに進めばいいのかわからなくなってしまった。

 

「仕方ない……ナーベ。二手に分かれて探すぞ。お前は右の道に行け。私は左に行く」

 

「し、しかし御身を1人にさせるなど…!」

 

確かにナーベラルの言うことはアインズに忠誠を誓っている者にとっては正しい。

 

「大丈夫だ。確かにこの鎧をしている今の私は殆どの魔法が使えない……が、万が一の対策は既に用意してある。たとえ格上の敵が襲ってこようとも対処はできるさ」

 

「ですが……」

 

「ならこうしよう。そうだな……十分おきに伝言の魔法を飛ばす……私は今使えないからお前が私に魔法を飛ばせ。その時に互いの進行状況について報告しよう。そしてもしその時私に何か起きていたら場所を教えるのですぐに転移してくればいい……それでいいな?」

 

「承知しました……」

 

 しぶしぶといった雰囲気でそれを承諾するナーベラルにアインズは少しばかりの罪悪感を覚える。ナーベラルの言ったことは正しい。それにわざわざ二手に分かれなくても一緒に探せばいいだけの話……それなのにアインズはそれを押しのけて無理矢理納得させてしまったような感覚が残る。

だがアインズにはそれでも譲れない理由があった。

 

「それと気をつけるのは私だけじゃないぞ?ナーベ、お前にも何かしらの危害が及ぶことがあるかもしれない。もし突然襲われたりしたら、ひとまずは様子を見るんだ。たとえそれが自分よりも弱い存在であってもだ。殺してしまっては情報が取れない場合があるし面倒ごとが増えるからな。そして相手が自分より強者であった場合は即座に撤退を優先しろ。場合によってはナザリックから応援を要請しなくてはならないかもしれないからな……それにお前に何かあったら弐式炎雷さんが悲しむ」

 

少し早口で喋りすぎたかもしれないが、これでもまだ足りないほどだ。時間があるならナーベラルだけでなくナザリックの全員にこういったことを教えておくのもいいかもしれない。

 

「は、はい!重々承知しております!」

 

感動しているためかいつもより高いテンションの上がったトーンでそう答えるナーベラル。

それと弐式炎雷の名前を聞いた途端ポニーテールがピクッと動いた気がする。

 

「そ、そうか。なら一旦ここで別れるとしよう」

 

「お気をつけてくださいませ。アイ……モモン様」

 

本当に大丈夫なのだろうかこのメイド。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふー……」

 

ナーベラルと別れた後、しばらく左の道を道なりに歩いていたアインズは息を吐く真似をした。

 

(あー……なんか久しぶりの1人な気がする)

 

そう。アインズのどうしてもの理由とは単に1人になりたかっただけである。

 

(忠誠を誓ってくれるのは嬉しいんだけどなぁ……もうちょっと気楽にいきたいんだよ俺は。一般人の俺が急に偉くなるとかもう精神が悲鳴を上げてるっての……)

 

微かに残っている鈴木悟の精神がそう訴えている気がする。

ここ最近はカルネ村のことやこれからの方針のことで、1人になれる時間がなかったのだ。NPC達はどうやら自分のことを、強者であり支配者であり慈悲深く端倪すべからざるという言葉が相応しく、さらに美の結晶と思われているらしい。それに応えるためにアインズは無い脳をフル回転させて、部下達の前では支配者を演じなくてはならない。

それが物凄く疲れるのだ。肉体的ではなく精神的な意味で。

それ故に、危険かもしれないが少しばかりの間でいいので1人になりなかったのだ。

 

(そう……これは仕方がないことなんだ!もう疲れたんだよ俺は!だから少しくらい休憩させてくれ!)

 

そう心の中で自分を正当化しながらアインズは、周りの景色を楽しみながら歩いていた。

自分が住んでいたリアルでは絶対に見ることができない、ゲームの中でしか楽しめないような景色が今現実となってアインズの目の前に広がっている。それだけでだいぶ精神も安らいだ気がした。

 

(おっと……ちゃんと本来の目的も達成しなくてはな。)

 

冒険者組合がないかと辺りを見回して見るがそれらしきものは見当たらない。

 

(……うーん。やっぱり誰かに聞いた方が早いかもしれないな)

 

やはり地図も情報もない状態で探すのは難しい。ここは誰かに尋ねるのが1番だと考えたアインズは辺りを見渡す。そして辺りを歩き回っている人々の中で、1人が目に入る。

 

(おっ。あのフードの人、剣を背負っているってことは冒険者かもしれないな。冒険者に聞いた方が的確だろうしあの人に聞くとしよう)

 

狙いを定めたアインズは目的の人物に向かって歩き出す。幸い相手はそれほど速くないスピードで歩いていたため、大股で歩くアインズはすぐに追いついた。

 

「すまない。少し聞きたいことがあるんだが……」

 

そして後ろから、なるべく優しげな声色でそう声をかける。やはり第一印象というものは大事であろう。

 

「ん?」

 

声をかけられた相手は疑問の声をあげながらこちらに向かって振り向いた。

そしてアインズは失敗したかもしれないと思った。

遠目からみたのと、マントとフードが一体化しているローブをしていたため後ろ姿からでは性別はわからなかった。どちらかと言うと、冒険者イコール屈強そうな男という先入観が強かったためか、まさか声をかけた相手が女性だとは思わなかった。

フードで顔はよく見えないが、声色と、振り向いてくれたため前の姿を見ることができたが、ローブの隙間からチラリと見えるスカートのような履物……それとローブを押し上げている胸部にある2つの山があることから明らかに女性だとわかった。

 

(す、少しまずいか?1人で歩いている女性に男が声をかけてナンパだと思われないか?)

 

アインズはこれからこの街で冒険者としての名声を高めるという計画がある。故に冒険者モモンの名声を下げるようなことは絶対にしないつもりでいる。しかし冒険者にまだなってはいないとはいえ、女性をナンパした……なんてレッテルは絶対に貼られたくはない。

そしてこんな時に昔の記憶がアインズの脳内を走った。

確かあれは、バレンタインとかいう悪魔の行事があった日にユグドラシルをしていたときだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『くっそぉ……今年もまた姉ちゃんからの憐れみのチョコしか貰えなかった……』

 

『いいじゃないですか。俺なんて身内からも貰ったことないですよ』

 

『そう言って実はモモンガさん。職場とかから貰ってたりして……』

 

『ペロロンチーノさん……うちには女性社員とかいう存在は2年前にある人が辞めて以来存在していませんよ』

 

『ごめんなさい』

 

『………』

 

『………』

 

『モモンガさん……こうなったら2人でやるしかないかもです』

 

『何をですか?』

 

『ナンパ……』

 

『!?……な、ナンパって、男が女性に「これからお茶しない?」って言って最終的に2人でゴールインを果たせるかもしれないという伝説のやつですか……?』

 

『えぇ……そのナンパです』

 

『で、でも!一歩間違えたら犯罪になるかもしれないんですよ!』

 

『わかってますよ……でも男にはやらなきゃいけない時があるんだ!』

 

『ペロロンチーノさん……!』

 

『さぁモモンガさん!一緒にリア充の道を進みましょう!』

 

『何トチ狂ったことを言ってるんだ愚かなる弟よ』

 

『げ!姉ちゃん!』

 

『茶釜さん。今晩は』

 

『こんちゃーモモンガさん。……さて弟よ。お前はナンパという行為がどう危険があるかを知らないらしいな』

 

『危険って……まぁ確かにそうかもしれないけど』

 

『まずこのご時世、間違いなくセクハラ容疑で捕まるだろうな』

 

『!』

 

『そして様々な罰則が科せられる』

 

『!!』

 

『さらには……最終的に社会的死が待っている』

 

『!!!』

 

『それでもいいならナンパなりなんなりするがいいさ……ただしお前が捕まったとしても私は何もしないからな』

 

『……ナンパ、ダメ、絶対』

 

『よろしい。モモンガお兄ちゃんも、絶対にしちゃメッ!だぞぉ』

 

『あ、はい』

 

『うわぁ……それこの前発売したエロゲのヒロインの真似じゃん。辞めてくれよ姉ちゃん、俺あれ凄い楽しみにしてたんだから余計に悲しくなる』

 

『うるさい弟』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういえばこんなこともあったなと。アインズはかつての楽しい記憶をまた1つ思い出しては嬉しい気持ちになった。しかしアンデッドの特性によって抑制されてしまい、すぐに冷静さを取り戻す。そして再び今の状況についてどうするかと考えをまとめ始めた。

 

(どうしようか……このまま、やっぱりなんでもないです。って言って逃げるのも間抜けに思えるしな……ええい!男は度胸だ!)

 

「……冒険者組合を探しているのだが、生憎ここに来るのは初めてでね。場所がわからなくて困っているのだが、知っていたら教えてもらえないだろうか?」

 

内心で、よし言えたぞ。とガッツポーズをしながら相手の反応を待った。

 

「……」

 

(うわ……なんかめっちゃ警戒されてないか俺。やっぱりまずかったかなぁ)

 

このままこの人に何か不信感を持たれて、それがこの街に広まってしまったらどうしよう。計画が始まる前に終わってしまうのではないかと危惧しているアインズは、かかないはずの汗がダラダラと身体中から出ているような感覚に襲われる。

しかしアインズが思っていた展開とは違った形になった。

 

「そこの道を左に曲がってそのまま真っ直ぐ行くだけですぐに着くよ」

 

(あ、あれ?普通に教えてくれたぞ……)

 

警戒を解いてくれたのだろうか。その理由はアインズにはわからないが、ともかくこの場を離れられることに変わりはない。

 

「すまない。助かったよ」

 

少し早口でお礼を言い、教えてくれた道へと逃げるように向かうアインズ。曲がり角を曲がる時にチラッと来た道の方を見ると、女性は何事もなかったように向こう側へと歩いていた。どうやら不信感を持たれずにすんでよかったと思っていいようだ。

 

「お、ここかな?」

 

女性の言った通り、少し歩き続けていたらそれらしき建物を発見した。武装をした者が出入りをしている様子からして間違い無いようだ。

思っていたよりも早く発見できたことに、やはり先程の選択は間違ってなかったとアインズはそう思った。

 

(さて……あとはナーベラルにもこの場所を教えないとな。お、ちょうど10分か?)

 

ちょうどよくナーベラルから伝言の魔法がかかってきた。

 

『アイン……モモン様。』

 

『ナーベか。そちらに何か異常は起きてたりしてないか?』

 

『はい。何事もありません。……申し訳ございません、未だに冒険者組合を発見することはできておりません』

 

『そのことなら既に問題はない。私が見つけた』

 

『おぉ、流石でございます。……主人である御方にお手を煩わせてしまい申し訳ございません……』

 

明らかに落ち込んでいるような声が聞こえた。ナーベラルからしたら、アインズのために部下である自分が先に見つけて役に立ちたいとか思っていたからこその落ち込みだろう。しかしそれは仕方のないことだとアインズは思う。まだ10分ほどの時間の中でナーベラルが組合を見つけてくれることは殆ど不可能に近いであろう……アインズも人に聞かなければこんなに早く見つけることはできなかったのだから。

しかも結果的に、アインズが進んだ方の道に組合はあったのだから尚更ナーベラルが見つけることはできなかったはずだ。

 

(ここは支配者としてフォローを入れとかないと……)

 

『よい、気にするな。私もすぐに見つけられたのは幸運だったのだからな。それよりも早急に合流するぞ、先程別れた所でまた落ち合おう』

 

『承知いたしました』

 

最後にナーベラルが喋ったあと、魔法が終了されアインズの頭に響いていた声は聞こえなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナーベラルと難なく合流した後、二人で冒険者組合の建物に入る。建物に入ってまず目に入ったのは、受付らしき場所と周りに何人かいる冒険者らしき者達だった。少しぐるっと周りをさらにみてみると、でかいボードに何枚も貼り出されている紙などが見える。

入った瞬間から浴びていた視線を無視してアインズは奥の受付らしき場所に向かう。

 

「冒険者組合にようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

受付の空いている窓口に近づくと、すぐさま受付嬢らしき女性が営業スマイルのような顔でそう聞いてきた。一瞬アインズの首元を見たことと、周りの冒険者達は首からプレートのようなものを下げていることからおそらくプレートは冒険者であることを示す証のようなものなのだろう。そしてそれがアインズにはないので、冒険者ではないと判断された上でそう聞いてきたのだろう。

 

「冒険者になりに来たのだが、登録はここでできるのかな?」

 

「冒険者の登録ですね。ではまず冒険者の簡単な説明からいたします」

 

慣れているのか、もはや既に用意されていたような説明をアインズは黙って聞く。

冒険者の基礎、仕事の受け方、規則、などなど様々な説明を受けたアインズは正直言って冒険者というものに失望していた。というより思っていたのと違っていた。

 

(てっきり世界中の様々な場所へと冒険しに行くとかそんな感じかと思ってたんだが……これじゃ単なるモンスター退治屋とかそんなんじゃないか?思っていたよりも夢のないものだな、冒険者とは)

 

勝手に冒険者に対しての幻想を抱いていたのはアインズだが、やはり期待していたものと違っていると落ち込んでしまうものだ。そう、欲しい課金アイテムを狙ってひたすら課金ガチャを回しゴミアイテムしか出ない時のような感じだ。

 

「それでは、最後にあなた方を冒険者として登録するためのお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「ん?あ、あぁ」

 

自分のガチャ運の無さを思い出しているとそう聞かれたアインズは、予め用意していた偽名を名乗った

 

「彼女はナーベだ。そして私が、モモン・ザ・ダークウォーリアーだ」

 

「ナーベさんと……えぇと……だ、ダークウォーリアーさん?」

 

「……い、いや失礼。モモンで構わない」

 

若干引かれてるような感じがしたので慌てて訂正する。やはりダークウォーリアーはやりすぎだっただろうか。

 

「モモンさんですね……はい、これであなた方も今日から冒険者です。そしてこれがあなた方を冒険者としての明証とするプレートになります」

 

そう言って二人分の銅でできたプレートを渡された。1つをナーベに渡して自分の首にも1つを下げた。

 

「ありがとう。……ではナーベ行くぞ」

 

「はい。ア……モモン様」




短めです。
正直言って回想シーンは入れなくて良かった気がしたけどせっかく書いたんでそのままにしました。
切りが悪い終わり方ですが、1話でモモンさんの話を詰め込むよりも前半と後半に分けようかなという勝手な判断ですごめんなさい。

追加
いつもの方が誤字報告をしてくれました。ありがとうございます。
今回は誤字あんまりないだろ、そう思っていた時期が私にもありました……何故気付けないんだ私は

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