ラストを飾る八幡ssは今まで以上の文をかけるよう頑張っていきます!
では、海老名姫菜の生誕を祝って!!
秋葉原
今日は夏らしい、雲ひとつない快晴の日。こんな日は普段引きこもっている俺でも少し遠出したくなる。
そんな俺のプロフィール。名は比企谷八幡、高校は総武高校。中学校までの数学は網羅しているつもりだが高校数学は最初から捨てていたただの一高校生。
「あーきはーばらー」
小さい声で秋葉原駅の前で呟く。ここに来た時には必ずやる。けど俺はあの終わり方納得できません。
千葉に住んでいることを考えればここは十分遠出と言える場所だろう。もっとも電車で数十分だが。
「さて、久しぶりに来たな…」
前に来たのは去年の冬だったかな。
まずどこに行こうか、そう思ってふらふら歩き回る。
メイドカフェには川崎の依頼で行ったきりだし、なんなら今後行くつもりもほとんど無い。少しはあるのかよ。
ここに来たからにはここにしかないものにありつきたいものだと思い、折角なのでまだ行ったことのなかった神田明神へ行ってみることにした。
スマホで事前にイベント等やっていないか確認。やっていない方が俺にとって好都合。
「さて、行くか」
この行動がこれからの学校生活を変えるなんて、俺は思っていなかった。
長い長い階段をゆっくり歩いて登る。それだけで息が切れてしまったのだから、女神たちの体力は、何とまあ凄まじきものだったのだろうか。
豆知識として、古語のすさまじは興ざめという意味があるので扱いには注意だ。
「おお…そのまんまだな」
それに幾度となく出てきたそこはまさにそれの形をしていて、それでも細部は異なるが、少し感動してしまった。残念なのは空に雲が一片もないことくらい。そりゃ雨降ってるのは嫌だけど、曇りくらいなら問題なかったのになぁ。
閑話休題。そも何も話してねぇ。
「あれ?君は…」
女子の声がする、周りにいるのは微笑を浮かべる女子1人。つまり俺が話しかけられたのだろうか、その女子の方を見る。
「あ、やっぱり。ヒキタニくんだ」
「誰だよ、それ」
はっ、思わず反射で答えてしまった。その呼び方をしているのは間違いなく総武高校の生徒、まして俺のことを知っているということは少なからず俺に対して何かしら思うことがあるってことだ。
なに、俺絞められちゃうの?ここで会ったが100年目?
「あ、ごめん。名前違った?とべっちとか隼人くんがそう呼んでたから」
「…同じクラスなのか」
「結衣から聞いていたけどここまで来るといっそ清々しいね…」
手を頭に当て、やれやれといったように首を降る。どうやらこの人由比ヶ浜とも接点があるらしい。
いやでもほんと見覚えなくはないんだけど同じクラスの人なんて戸塚と川崎と由比ヶ浜と葉山とその3人衆と三浦くらいしか覚えていないのだ。半分もいないんじゃないかな、まあでも1年の時より多いんだけど。
「私は海老名姫菜。優美子と結衣といつも一緒なんだけど…分かんない?」
「…言われてみればそんな気がしないでもないが、でもお前そしたらメガネが足りないんじゃないか?それにどうしてこんなところに?」
「親戚のお手伝いで巫女のバイト、今はコンタクトしてるよ」
ふむ、巫女か。会話に夢中で服に目がいかなかった。彼女の顔と地面を目線で1往復する。純白の衣に下部に鮮やかで艶やかな赤、間違いなく巫女服である。手には箒、もはや完全にスピリチュアル。
よくよく顔を見れば可愛い、まあ上位カーストらしいし、当たり前といえば当たり前だ。
「それで、海老名…さん。なんでまた俺なんかわかったんだ?」
「ほら、あれ。戸塚くんとテニスコートを賭けて勝負してたでしょ?」
「やったのは葉山たちと俺たちで戸塚は試合に関係なくないか?」
試合は葉山・三浦ペアと俺・由比ヶ浜と雪ノ下ペアで戸塚は審判こそしていたが試合に出てはいない。故に戸塚と試合というのは語弊がある。
そう思っていると海老名さんが首を傾げ、ちょっとかわいいなおい、その後閃いたかのように手をポンッと打った。
「違う違う。君たちが、戸塚くんとテニスコートを賭けて隼人くんたちと戦ったねって話」
「あ、ああ。俺の勘違いかすま…おい待て」
別に俺達は戸塚を賭けたつもりは無い。確かに客観的に見ればそうかもしれないが、しかし俺自身にそんなつもりはない、はず。でも戸塚を賭けて勝負と言われたら受けて全力で勝つ。そして戸塚は俺が守る。
俺の制止を聞いた瞬間、微笑だった顔はニヤニヤに変わっていった。正直顔が台無しになっているほど。それでもまあまあ可愛く見えるんだから、全く世の中は不公平だ。
「ぐへ…さいはちキマシタワー!!」
「こいつ…腐ってやがるっ……」
上位カーストのメガネ美少女が腐女子だった件。
やべえこれラノベのタイトルだわ、読む気にならね。ラノベとか小説は自分にそれが降り掛からないから楽しめるのであって、実際に遭遇すると困惑するだけなんだなと知りました、まる。
「しかも俺が受けなの?容姿的に戸塚が受けじゃないの?」
「……えっ?」
ニヤついた顔のまま凍りついたあと、素で驚いたような声を出す海老名さん。
え、やっぱり腐女子界の中ではこういう時ってだいたい俺が受けなの?マジで?俺がアナ?だったら戸塚がエルサ?それはまた違うやつな。
「引かないの?」
真面目な顔で投げかけてきたその疑問は俺にとって愚問で、それ故に何も詰まらず答える。
「引く理由がないな。そもそも俺だってそっち側の人だ。あくまで理解度だけでいえばの話だが」
「じゃあなに、貴方は私自身が百合で趣味が薔薇でも引かないの?」
「冗談で引くことはあったり、自分モデルで気が滅入ることもあるだろうが、否定することはしないな」
事実、他人の趣味にどうこう本気で言うのは間違っていると思う。
内輪ノリだということを皆が分かっていれば、和気あいあいとした雰囲気の中で執り行われる儀式の一環として、いじりになる。
しかしそれが、相手を本気で軽蔑している時に放つ言葉は、ただの暴力だ。ソースは俺。
「そう…なんだ」
そう呟いたきり喋ろうとしない海老名さん。あのぉ、俺そろそろこのへん歩いてきていい?他にもいろんな聖地見てきたいんだけど。
「そう言えばヒキタニくん」
「だからそれ誰だよ」
「うん。だから名前教えて?」
まあここで我らが誇る世にも珍しい比企谷という姓を知らしめることは、いい機会だろう。
「比企谷だ、比企谷八幡」
「比企谷…うん、分かった。比企谷くんだね」
そう確認するように呟く彼女、かと思えば満面の笑みを浮かべる。
「比企谷くんはいつまでアキバにいるつもり?」
「特には決めてない、暇になるか遅くなったら帰るつもりだ」
「じゃあ一緒に帰ってもいいかな?連絡先頂戴?」
断ろうかと思ったが、考え直す。
まあいいか。まさかこんな普通の休日に東京、しかもアキバまでくる総武高生は千葉狭き故に俺と海老名さんくらいだろ。決して千葉は広いとは思いません。
「ああ、まあいいけど。勝手にやってくれ」
そう言って暇つぶし機能付き目覚まし時計ことスマホを海老名さんに渡す。
「見られて困るものとかないの?」
「ない」
若干海老名さんが引き気味だなんて俺は信じないぞ。
しかし俺のスマホを操作していた海老名さんの顔が一層曇る、というかうわぁって感じの顔。
「これ結衣だよね」
「よく分かったな。目の前で操作されてなければスパムメールかと思ったぞ」
そりゃあんなに星キラキラさせといてしかも『にゅうぶとどけ』よろしく平仮名で書いてくるんだから、まあ引く。小町もちゃんと妹・小町で登録している。いつか来るべき嫉妬してくれる女子への予防策さっ。ごめん嘘。
「よし終わった。それじゃ少し待っててくれる?」
「えっ」
「それじゃっ!」
俺に言い返す時間を与えず彼女は敷地内の建物の一つに消えた。
そのへんにあったベンチで麗らかな日差しに睡眠を勧められ始めた頃、彼女が戻ってきた。
彼女の服装は巫女服からただの私服へのシフトしていた。しかしコンタクトはそのままだ。
「お待たせ、待った?」
「そうだな」
長針が半回転した腕時計が見えるよう腕を掲げながら言う。
「あはは、待っててくれてありがと」
「そもそも待ってる必要あったか?」
「帰る前に少しアキバを一緒に回るだけ、いいでしょ?」
まあいっか。こうして俺と海老名さんのぶらりアキバ歩き旅が始まった。
と同時に俺の人生のターニングポイントが始まった。
まずはココに行かなくてはと腕を引かれ、正直ドキのムネムネが止まんなかった、連れてこられたのは病院〜ではなく喫茶店だし、なんならそこに未来の自分はもちろんいないし、なんなら現在の自分も影が薄くなりすぎていなくなりそうなほどの、メイドがいた。
という訳でやって参りましたメイド喫茶!さっき行くつもりほとんどないって言わなかったっけ。
しかしここは他とは趣向が違うようだ。
俺のメイド喫茶のイメージはミニスカ履いた可愛い女子が萌え萌えきゅんとかするもんだと思っていたが、ここはロングスカートを纏うメイドが時折コーヒーや食べ物を運ぶために出てくるだけの、いわば中世の忠実再現だ。
「どう?ここ」
「いい店だな、気に入った」
えっと、角砂糖4つとミルクを3カップと…こんなものか。
カップをソーサーごと持ち上げてコーヒーを啜る。うむ、絶妙な甘さ。
「わっ、甘そう…糖尿病にならないの?」
「その分は人生のつらさで相殺してるから問題ない」
「なにそれ、比企谷くん面白い!」
声色は楽しそうな黄色で、連れられて良かったなと思う。
コーヒーと紅茶が無くなったので店を出る。午後は午前より人が多く、研究も製造も会計も手がいっぱいだったので手伝おうとするも皆が皆俺を拒否してきた。
いくら温厚な俺でも怒る、まあ後で言葉の問題だと気づいたんだけど。
楽しいというか暇じゃない時間は早く過ぎ去るわけで、一緒に帰るのはできないらしい。となると結局彼の目的は俺との会話にある可能性が、自分めであるとわかりきっていることだが。
「いやあ、豊作豊作!」
「BLの同人誌をこれでもかと」
海老名さんの両手は荷物を…というか目玉の戦利品であるポスターに意識が行き過ぎて俺の方に向いてない。
ともかく俺はテニス向いてないことが分かった。
「ええ?まあ、少し重いかな」
「半分持つ」
「ありがと、あっ電車来たよ。乗ろっか」
海老名姫菜、上位カーストでいながらも腐女子であるというかなり濃いキャラとの邂逅はそれだけだった。