作者のいろはへの愛をすべて込めるとここまで酷い文章になりますということを読者の皆さんに見せつけるいい機会ですね(笑)。感情的になりすぎた感があります…。
では、一色いろはの生誕を祝って!!
いろはの卒業旅行(前編)
俺達は今、石川県は金沢市に来ている。そんでもって俺の右隣には俺の彼女いろはがいる。とどのつまりふたりで旅行である。事の発端は今年の一月中旬へ遡る。
「先輩!旅行行きましょ!」
かなり髪が伸びたいろはが俺の目の前で楽しそうにそう言った。場所は俺の部屋、と言っても実家じゃなく一人暮らししているアパートの一室だ。志望通り千葉の私立文系に受かりこれからも親のスネをかじって生きようとしていた俺に親父が死刑宣告とも言える『お前四月から一人暮らしな』という言葉を放ったのが、もう一年くらい前の話である。
大学から徒歩数分のアパートを押さえていた親父はそのままそこへ俺をぶち込んだ。ぶっちゃけ大学まで徒歩で行けることより、このことでいろはとの物理的距離が近くなった方が嬉しい。
で、いろははどうやら俺と卒業旅行をしたいらしい。友達いないのか聞こうとしたが、よくよく考えればこいつに友人と呼べる人はおらず、いるのは『下僕もどき』と『かつての仲間』と『眼中に無い雑魚』程度だ。例外なのは雪ノ下とか由比ヶ浜とか、そのへんくらいだろう。彼女の同級生を彼女の目線から語るにあたり必要な名詞は前の3つで事足りる。
「旅行てどこに」
因みにだがいろはは俺の大学に最寄りの私立理系に進むつもりらしい。まだ試験すら受けていないから、なんとも言えない。
なんか俺の部屋が一番勉強に集中できるとか尤もらしい言い訳してほぼ毎日ここに来ている。俺もそこまで心配しておらず、こいつの事だからさらっと受かりそうだなぁと位にしか考えてない。実際少しは勉強してるし、こいつの成績も知ってるし。
「そうですね…金沢なんてどうですか?」
「金沢ね…2年くらい前に新幹線開通したとこだろ?金どうすんだよ」
「…先輩よろしくです!」
勉強する手を止めて敬礼しても俺は働かんぞ。でもまあとりあえず後でコンビニでタウンワーク見てくるか。
話を続けながら、俺は勉強の準備をする。べ、別に旅行前にしなければいけない事やろうとしてるんじゃないんだからね!
「で、どうしてまた金沢なんだ?お前のことだから大阪の遊園地とか言うと思ってたんだが」
「そこもいいですけど、私だってたまには古都に訪れたいと思いますよ」
だったら京都でいいじゃないか、とか思ったがあまり言いすぎるのは野暮だろう。特に反対する理由もないので、ひとまず了承し勉強を再開させた。そのいろはを見ながら、俺も勉強しながらノートの隅にバイトの候補を書いていた。
その後いろはは無事大学に合格し、そのまま計画の話がポンポン決まっていき、そして旅行に至ったのだった。来る時は新幹線を使った。帰りの時は夜行バスを使う。どうせ寝るだろうから、安い方を選んだだけである。人数も増えるし。
金沢駅に着いた俺達は兼六園側の出口をくぐる。そこは外のはずなのに、しかし上から降る光に違和感を覚え、思わず上を見てしまう。そこには透明な天井と銀色の柱が張り巡らされていた。
「おお、すげえ」
思わず感嘆してしまう。いや、実際見てみるとかなり迫力がある。そして少し目線をずらすとそこにはでかい門らしきものがあった。有名な鼓門である。こちらもなかなか高く、見ごたえがあった。鼓門の下までいろはと移動してきて、これからどうしようか話し合う。
「で、まずどこ行くよ」
「私近江町市場行ってみたいです!!」
「近江町市場ね…適当にバスに乗っていくか歩くかどっち…聞くまでもないか」
俺達の両手にはたくさんの荷物が。これで歩いていこうと言った場合にはいろはをマゾ認定しなくてはいけない。しかし、いろはは驚きの返答をする。
「せっかくなので歩きませんか?」
どうやらいろははMに目覚めてしまったらしい。
「は?マジで?荷物どうすんだよ」
「そうですね…地下で荷物の預かりサービスみたいなのしてるみたいなんで、そこに預けましょう」
まあ、そういう事ならといろはに賛同し近くにあったエレベーターで下に降りる。確かに預かり所みたいなものはあった。といっても広いところの一角にブルーシートを敷くだけの簡単なものだったが。
俺は財布とスマホだけを身につけ、残りをすべて預けた。いろははオシャレなバッグに必要なものを先に入れていたらしく、着替え等が入っていた大きな鞄を預けた。
鼓門の下に戻り、近江町市場に向かって歩き出す。その時、とあるカップルとすれ違った。
「結弦、私はアイスが食べたい」
「…ああ、はいはい。奏の為だ、フォーラス行くか」
「あいあいさー」
…どうでもいい事だが、AB!の聖地は金沢大学らしいな。と何かしら思うところがあり思いを馳せていると俺たちを、またもやカップルが追い越していった。
「遅いよー、私を捕まえられるかな?」
「言ったな、ユイ!元野球少年なめんじゃねーぞ!!」
「それ前世の話じゃん!今はバスケでしょ!!」
…ど、どうでもいい事だが、AB!の聖地は以下略。
「着きましたね…人たくさんいますね」
近江町市場着いて第一声がそれですか。いやまあ、俺も思ったけどね。近江町市場は地元民と観光客でごった返していた。観光客と地元民では明らかに服に掛ける情熱というか意気込みが違う。しかし俺は地元民と大して変わらん、これはいかに。
中へ足を踏み入れた瞬間、世界が変わったかのように俺達は喧騒に引きずり込まれた。
「安いよー!今日はホタルイカ!今年最後かもしんないぞー!」
「そこの人、どうよなんか買ってかんか?新鮮よ、どれも」
「ああ、北川さんこんにちは。ああ、はいはいいつものやつね」
至る所から聞こえる会話は、市場というものを直接経験したことのない俺たちでさえ、どこか懐かしさを感じさせるものがあった。
「さ、先輩。行きましょうか」
「…ああ、行くか」
今は観光客として、ここを楽しむべきか。人が多く、はぐれないよう俺はいろはの手を握った。驚き、こっちに振り返ったいろはは手を握ったのが俺とわかるとすぐ顔をほころばせた。守りたい、この笑顔。そう思った矢先、店の人に話しかけられる。
「おい、そこのカップルさん!せっかくだ、りんご食ってけ!」
「え、ええ…どうも」
少し驚いたが、しかしご好意を断るわけにもいかない。その店の前に進み試食用のりんごを貰う。
タッパーに入っているりんご、それに刺さる爪楊枝をつまみりんごを口に運ぶ。どこ産なのか分からないが、シャキッとした食感はかなり新鮮であることを主張していた。
「ん!美味しいですー、これ!」
いろはが感想を述べる。流石に俺も何か言わないと悪い。
「美味しいです、これ。ありがとうございます」
俺たちに賞賛され照れたのか、頭を搔きそっぽを向いてぶっきらぼうに、その人は言った。
「お、おう。そうかそうか、なら良かったぜ…あんたら観光客だろ?金沢楽しんでこいよ」
「「ありがとうございます!」」
その後も俺達は近江町市場を散策し、お土産もたくさん買った。そして俺達はその後、金沢城や兼六園、21世紀美術館と言った有名な観光地へ足を運んでいった。
気がつけばホテルのチェックインができる時間になっていたので、残りは明日にしてとりあえず今日はホテルに行こうということになった。部屋代を少しでも浮かすためふたり部屋をとってあった。金沢駅に戻り、地下に行って荷物を受け取ってそのまま歩いてすぐのホテルへ向かう。そのまま特に何もなく1日目が幕を閉じ、次は2日目へと話が進んで行く。
窓から入る日光に顔を照らされ、否応なしに意識が覚醒する。ま、眩しい。目が、目があああああああああああああ!!!!なんてふざけていると、ふと違和感を覚える。
「…知らない天井だ」
渋々目を開きそのまま天井を見るも、それが知らないものだと認識する。と、同時に自分は今いろはと旅行中であることを思い出す。時計を見れば既に7時、隣のベッドにいろはは居らず、洗面所から水が流れる音が聞こえることより、まあメイクとか色々してんのかね。
暫くソファでぼーっとしていると、俺の膝にいろはが対面するように座ってきた。
「せーんぱい!おはようございます」
「…ん、おう。おはようございます」
朝の挨拶をしたあと、いろはは俺の頬を弄る。別にそれ自体に腹は立たないのだが、しかし朝からそんなことをされると普通に恥ずかしく、いろはの手を止める。その事に不満を感じたいろはが、そのまま抱きついてきた。ちょ、おま、朝から!?やめて、八幡の八幡ただでさえ朝の元気タイム終わったばかりなのに…うぐ~このままじゃまた元気タイムになっちゃうよ!たいやき寄越せ。
「…せーんぱい?」
いろはの後ろに阿修羅が見えます。朝から元気でごめんなさい。
「き、着替えてきまーす」
俺に許された時間は極わずか、その間にいろはが反応できない速度でものごとをすすめる!!
膝の上に座っているいろはを持ち上げ立ち上がり、ソファに下ろしてから服を持ち洗面所にダッシュ!!そしてすぐさま鍵を閉める!!
…勝った。
「せ、せんぱーい。か、鍵開けてください」
何を言われても開けん。
「このままだと…その…お花摘めません」
速攻で開けてしまった。そこに居たのはにやりと笑ったいろは…はあ、不幸だああああああああ!!!!!!
準備が終わりチェックアウト。引き続き金沢観光…ではなく今日は能登の方へ行くことになっている。確かに金沢に有名なところは多いけれど、能登や加賀にもいい所はあるらしいからな。
ということで金沢駅から電車に乗り能登方面へ。荷物が多く周りに迷惑がかかる…ごめんなさい。そうして電車を乗り継ぎ、揺られ数刻経つ。気づけば金沢の賑やかな声は聞こえず、それどころか僅かにも人の声がしないところまで来た。俺達が乗る車両にも人はほとんどいない。
目的地に着く頃には、10時頃になっていた。
「わあ、綺麗ですよ!先輩!」
俺達は能登半島の端も端、珠洲岬に来ていた。透き通っている海を空中展望台から眺めている。確かに日本にある海とは思えないほど綺麗で不純物なども浮いていなかった。しかし俺たちのような観光客は居らず、いるのは恐らく地元民と思われるカップルや夫婦だけだった。金沢で古きを愛でるのもまた良しと思うが、こちらに来る価値もあるのではないかと思う。
「そうだな、ありがとないろは。俺ひとりじゃここまで来ないわ」
「何言ってるんですか、先輩は金沢にすら行かないでしょう?」
「…まあ、そうだな」
なんて他愛のない、なんて事ない話をずっといろはと続けていた。1時間ほどそうしていただろうか、そろそろ時間だといろはが告げた。
俺達は珠洲岬を離れまた電車に乗り、石川県唯一の水族館、のとじま水族館へ訪れた。
中に入ってすぐ、そこには大きい水槽があった。そこにはたくさんの魚が泳いでいた。ここの目玉であるジンベイザメもここにいて、それはそれは大きかった。これより大きいシロナガスクジラはいったいどれほどなのだろうか。一度見てみたいものだ。
「おっきいですね」
「だな、あれでプランクトンしか食べないんだから不思議だよな」
その後も俺達はのとじま水族館を回った。ドクターフィッシュで年甲斐もなくはしゃぎ、イルカショーで大笑い、ペンギンを見て癒されて、気づけば太陽が沈むころだった。
「なんだか不思議だな」
「何がです?」
「太陽が自然に沈む景色がだよ。千葉も、まあ自然がない訳じゃないがこれほどじゃないだろ」
「そうですね。言われてみれば不思議です」
こうして俺たちの旅行の二日目は幕を閉じた。宿泊場所は能登の旅館に一泊。
明日は正反対、加賀である。