折本は動かしずらいですね。大学の方に時系列をずらすか、パラレルワールドにしようか迷った結果パラレルワールドになりました。俺は一体どれだけほかの世界を作れば気が済むんでしょうか。
とまあ、そういうわけで今作ですが折本が総武に入学しております。そして事故から救った犬が折本の飼い犬です。あとはまあとんとん話が進んでいきます。
では、折本かおりの生誕を祝って!!
かおり、トイプードルを飼った
今日は四月某日。真新しい制服を身につけた俺はウキウキしながら新たに通う高校、総武高校へ向かっていた。冷静に考えるとなんで集合時間1時間前に着く計算で家を出たのか未だにわからん。と言ってもそれは今朝の話。なら俺は今家にいるのかと言うと、そうではない。
「はい、比企谷さーん。晩御飯持ってきましたよ」
「…ども」
俺は今入院している。回想入りまーす。
今朝早くに家を出た俺は新しい自転車に若干興奮しながらも、交通ルールを守って信号待ちをしていた。横断歩道の前でスタートダッシュを決めるために構えていた俺の視界に犬が映る。その犬は恐らくトイプードルで、道の向こう側にいた。
「待ちなってクッキー!マジウケる!」
「…この声、いや、違うか」
どこかで聞いたことあるような声がした気がしたんだが、まあ気のせいだろう。気にせず横断歩道が青になり渡ろうとしたその時事件は起きた。俺の目が捉えたのは急カーブしてきた車、このままでは犬が事故ると判断するより前に俺の体は動いていた。
「…くそっ!」
なんとか犬は救い出した。が、俺はそのまま車に轢かれかなり飛ばされた。
地面に体を打ち付けられた俺はそのまま意識を失った。
そして目覚めたのがほんの数時間前、検査も終わり一息ついたからそろそろご飯を持ってきてくれると言われたのがついさっき。
まあ、高校デビューができなかった言い訳になるかとポジティブに考えることにし、その日は早めに寝た。
次の日の夕方、人が俺の病室に訪ねてきた。因みにだが俺を引いたのが大手建設会社の令嬢が乗っていた車だったらしく、その建設会社から医療費の殆どが払われているらしい。俺としては誰が払おうと変わらない気がするからどうでもいい。と、思ったがそうじゃなきゃ多分うちの親が財政難に陥って共同部屋になってたかもしれない。令嬢に感謝、その人関係ないな。
俺はノックしてきた人に入室を了承する。
「お邪魔しまーす…マジで比企谷じゃん。ウケる」
そこに居たのは中学時代の同級生、折本かおりだった。なんで?
彼女は折本かおり、まるでトイプードルみたいな茶色いくせっ毛してる。
「な、なんで折本がこ、ここに?」
噛み噛みだったが俺が言いたいことは届いているはずだ。君に届け!
実際伝わったらしく、折本がしゃべりはじめた。
「比企谷が助けてくれた犬、うちの子なんだ。クッキーていうんだけどね、春休みにペットショップ寄った時に一目惚れして」
「はあ、それでお礼か?んなもんいらねーからな」
「そうじゃないし、ウケる」
なんかもうこいつに調子を合わせようとするのがめんどくさくなった。一回ふられている相手を前にしても人間の脳は案外働いてくれるらしい。お勤めご苦労。
にしても偶然にもあのトイプードルが折本の飼い犬だったのか。まあ、雰囲気似てるしな。
「ならなんで来た?」
「ほら、比企谷総武でしょ。私もなんだ」
「は?まじかよ、中学同じやついないとこ狙ったつもりだったんだが」
「まあまあ、今回はそれで助かるんだから。それで先生達も復帰後の補習がめんどくさいから、今後配布するプリントで勉強して定期テストで点数取れれば補習免除だって」
はあ、それでいいのか高校教師よ。しかしそうなれば楽なのは確かだ。運のいいことに総武で使う教材等は宅配されるようになっており、春休みのうちに家に届く。便利な世の中になったもんですね。
プリントさえ貰えればあとは有り余った時間使って勉強すればいいだろう。そうだな、文系学年3位くらい狙ってみるか。
「で、それと折本はなんの関係が?」
「今の流れでわかるっしょ、ウケる」
いやウケねーから。
「比企谷にプリント渡す係を引き受けたんだ。ま、まあクッキー助けてくれたお礼も兼ねて」
「なんでだよ…まあ、これから頼むわ」
「うん!3日に1回くらい来るからね、ウケる」
「いや、ウケねーし」
折本がこうして俺の前で笑っているということは犬は無事だったんだろう。今更な気がして本人に確認はしなかったものの、そう察した俺は少し嬉しくなった。知人かどうかは関係なく誰かの笑顔を俺でも守れる…なんて厨二病チックなことを考えてしまった。
係の仕事を終え、少し雑談したあと折本が立ち上がる。
「じゃ、今日はこの辺で帰るね…そだ、電話番号教えてよ」
「うっ、まあこれから世話になるしな。連絡手段は必要か」
俺はベッド横の引き出しからスマホを取り出し電源をつける。起動を待つ間ふと折本の方を見ると、俺の一連の動作の中でなにか驚くことがあったのか、口をあんぐりしていた。
「どした」
「いや、どしたじゃないでしょ。スマホ使って暇つぶしとかしないの?」
「暇は潰しても潰しきれんからな…でもリハビリも兼ねて病院うろついたり他にも読書で潰していくつもりだ。勉強もしないといけないし」
人には人の時間の使い方があるからほっといて欲しいものだ。明日あたり親父か母ちゃんが俺の部屋にある未読の本を持ってきてくれるはずだ、マンガ含め。俺も昔ふられたこいつを攻略してふり返そうか。それなんて八幡くんのリベンジ?まあ、そんなことできるわけないですけど。
「…そ、やっぱ荷物多くなるのヤだから毎日来るね。今日の分ちゃんとやっといてよ!」
「あ、おい!…行っちまった」
めんどくせぇ。あと教科書どうやってもってこいと?
その後、両親が一度家に寄ってからこちらに来るらしいので、その時に教科書を持ってきてもらうよう頼んだ。こういう時はちゃんと優しくしてくれるあたりうちの親達はツンデレだ。
こうして俺が退院するまでの数週間の間限りの、俺と折本の関係が始まったのだ。
昨日の波乱を見守ってくれていた太陽が一周回ってきた頃、またも波乱はやってきた。南に窓がある部屋をわざわざとる雪ノ下家はどれだけ財力があるのか。
「やっほー、比企谷!」
「ここ病院な、静かにしろ」
「まあまあ、どうせ個室なんだからさ」
波乱を起こす戦乙女こと折本がまたも病室にやってきた。つーかこいつマジで毎日来るつもりか。
「はよプリント寄越せ。数学以外」
「え、なんで。ちゃんと数学もしなよ」
「…あんなのは義務教育分やっとけば生きていけるんだよ」
数学嫌い。なんであんなことしなけりゃならんのだ。断じてやりたくない!!
「へー、比企谷数学苦手なんだ…私でよければ教えよっか?」
「はっ、別にいい。幸い俺なんかにも優しくしてくれる頭いい看護師さんいるから、その人に習う」
名を日上さくらさんという。なんでも旧帝大卒だとか、どこのかは教えてくれなかったが。つーか詳しくは知らんが旧帝大で看護科持つ大学あったか?
「でもその人も仕事あるじゃん。私が休日教えに来るよ」
「それは流石に悪い」
「…気、遣ってくれるの?」
やば。何がやばいかわからんが多分やばい。
「や、別にそういうことじゃなくてな」
「気にしないでいいよー。私と比企谷の仲じゃん!」
「俺たちそんな親しくなかったよな?そうだよな?」
~ったく。さっさとプリント渡してくれればいいものを、どうしてこんなに喋るんだ。それに応じる俺も俺なんだろうが、まあ目を瞑る。こうして人は自分に都合悪いことは見ようとしないのだ。うん、名言でたな。
「これから親しくなるし!マジウケる」
「は、はあ?ちょ、おま…」
俺がセリフを組み立てていた時、それは突如開けられたドアの音を前に崩れた。折本といい今入ってくる人といいどうしてこんなにも俺の知り合いはドアを思いっきり開けるのだ。
「お兄ちゃーん!」
よし、さすが小町だ。もっとやれ、ぶっ壊してやれ。流石にそれはダメか。ショルダーバッグを持った小町が病室に訪れた。多分あの中には本が沢山入ってるはずだ。お疲れさん。
「おう、小町。昨日ぶり」
「ほんとだよー。帰ってもお兄ちゃんがいないと小町寂しい!…で、この人は?お兄ちゃん、小町がいなくてもこの人といれば寂しくないっていうの!?」
「どうしてお前は彼氏を寝取られた彼女みたいな喋り方してんだよ…。悪いな、折本」
「…あ、う、うん。気にしないでいいよ、てかこの子誰?ウケる」
今のどこにウケる要素が…なくもないか。にしても折本が小町を知らないことは納得できるが、逆には疑問を抱く。折本と言えばうちの学校のトップだったやつだ。それを小町が知らないのか?まあ、いいか。
「小町、自己紹介」
先の三文芝居で床に膝をついていた小町は、バッグをそのまま床において立ち上がる。
「いやー、すみませんでした。比企谷小町、そこの八幡の妹です」
「おいやめろ。八幡って呼ばれて少しドキッとしちゃったじゃないか」
「それはないわー、ウケないわー」
自分でもないなーと思いました。いや、でも実際いきなり名前呼びされるとびっくりドンキー…じゃなくてびっくりドキッとする。いわんや他人をや。
「えっと、小町ちゃんね。よろしく、私は折本かおり。比企谷の…ねえ、私って比企谷の何?」
その質問はどっかの年上キャラに取っておいてあげてね。って俺は何を…。
しかし、改めて聞かれると答えづらいのは確かだ。同じ中学のやつと言うと多分小町が心配してくるだろうし、かと言って友人でもないからな…。あ、そだ。
「小町、折本の家はここから近いらしくてな。わざわざ俺のためにプリントを持ってきてくれてる」
小町にそう言いながら紙の切れ端に『話合わせろ』と書いて小町にバレないよう折本に見せる。それを見た折本は右目だけを閉じ、ウインクする。なんだよ、様になってんじゃんか。
「そうなんですか!それはそれは…すみませんこんな愚兄のために…」
「ちょっと?それは言わない約束でしょ?」
「あはは…気にしないでいいよ。私がやるって言ったから」
どうやらこいつは助けた犬の飼い主は自分だと言わないらしい。まあ、それを言っても小町の機嫌が損なわれる気がしたからこっちとしてはありがたい。まさかこいつわざと言わないつもりか?だとしたら感心せざるを得ない。
「おおおお兄ちゃん!まさかまさかのお義姉ちゃん候補の登場だよ!」
「そういうことはせめて本人の前では言わないようにしような」
「じゃ、私はそろそろ帰るね。はい、プリント。昨日の分もちょうだい」
鞄から紙の束を出して俺に手渡してくる。俺はそれを受け取って、一度膝に置き、横の引き出しから今日の昼のうちに終わらしたプリントを渡す。その際一言別れを告げる。
「ほれ、よろしく。じゃあな、折本。また明日」
「…あ、う、うん。じゃね」
プリントをカバンに入れそそくさと出ていった。ドアを丁寧に開けていった…だと。最後はえらくしおらしかったが、どうしたんだ?
「お兄ちゃん珍しいね。わざわざまた明日なんて言うなんて」
……ああ、それか。