仮面ライダー 虚栄のプラナリア   作:ホシボシ

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(´;ω;`)ひどいタイトルでごめん


第4話 正義と正義のオナニーパーティ(後編)

 

「ぐ――ッ!」「クッ!」

 

 

ギリギリとせめぎ合い。

火花が散り、二人は武器ごしに睨み合う。

 

 

「どうしてこの場所が分かった!」

 

「優秀なサポートメカを総動員したんだ。そして茜鷹がトライドロンを発見したのさ!」

 

 

ふと、バロンは周囲を見る。

死体。口から臓物を零し、わき腹からは骨が皮膚を突き破り、倒れている。

死体。頭が潰れてなくなっている。

死体。凍結し、バラバラに砕けた肉体。

 

そして上ずった叫びをあげながら床をはいずり、逃げようとしている木原と言う男。

バロンはスピアーを持つ力を強め、目の前にいる鎧武を、『憧れの対象』を睨んだ。

 

 

「岳葉。お前は間違ってる。仮面ライダーの力は正義に使うべきだ!」

 

「正義ぃ? ハッ! 何を言ってるんだよテメェ。これが正義だろ!!」

 

「ありえないだろ! 仮面ライダーが人を殺すなんて。どんな事があってもしてはいけないんだ!!」

 

「それこそ、お前が決める事じゃない!!」

 

「なぜ理解できない!」

 

 

バロンは武器を振るって鎧武を弾き飛ばすと、木原の前に立ち、かばう様に振舞う。

そしてカッティングブレードを三回倒した。

バナナスパーキング、バロンはバナスピアーを地面に突き刺し、鎧武の周囲に無数のバナナ型エネルギーを出現させていく。

それらは地面を突き破る槍、鎧武ははすぐにエネルギーの奔流の中へ消えていく。

 

 

『ミックス!』『ジンバーメロン!』『ハハーッ!』

 

 

だが直後、すぐにバナナのエネルギーがはじけ飛ぶ。

見えたのは網目の状のエネルギーシールド。その中央にいたのは、鎧武、ジンバーメロン。

 

 

「……そこにいるクズは女の子を殺した後に、死体を犯したんだぜ? そんなヤツでもお前は守るのかよ」

 

「それがどうした? 確かにコイツのした事は許されないかもしれない。だがそれは法が裁く事であり、一個人である僕らは判決を下す立場ではない!」

 

 

それは死んでいった者達も同じだ。

なんのための法治国家だ。どれだけ人を犯そうとも、どれだけ人を殺そうとも、それらはしかるべき場所で、しかるべき法で裁かれるべきだ。

 

 

「何の為に警察がある。何の為に裁判所が、弁護士が、検事がいるのか……」

 

「?」

 

 

少しバロンの声が震えているような。

気のせいだろうか? 現に次の言葉はハッキリと鎧武に伝えられた。

 

 

「神にでもなったつもりか岳葉。違うな、僕達は人間でしかない!」『レモンエナジー!』

 

 

バロン、レモンエナジーアームズ。

二人はソニックアローを構えて並行に走り、直後弓矢を乱射して互いを狙う。

鎧武は地面を転がり、時にエネルギーシールドで弓矢を防御する。一方でバロンもまた飛んでくる矢を切り落とし、二人は均衡の争いを続けた。

囚人達の悲鳴が響く中、二人は長く広い廊下を弓矢を連射しながら移動していく。その中で会話もまた、互いの耳に飛来していく。

 

 

「ソレに僕は、どんな人間にも更生のチャンスは与えられるべきだと思っている」『ロック・オン!』

 

 

ソニックアローにレモンエナジーを装填。バロンは弓を引き絞り、狙いを定める。

一方でソニックアローを投げ捨てる鎧武。彼は懐から新たなるロックシードを取り出し、起動を行った。

しかし同時にバロンは弦を離し、巨大な弓矢を発射する。矢は風を切り裂き、一気に鎧武の方へと――。

 

 

『ロック・オン!』『ソイヤ!』『カチドキアームズ!』

 

 

オレンジだか柿だか知らないが、巨大な鎧が鎧武のまえに着地。

飛来した矢を防ぐと、そのまま鎧武の頭上に移動し、装着される。

展開される鎧、壮大なる電子音と共に現れたのは、鎧武・カチドキアームズ。

 

 

「彼らは罪を犯したが、少なくとも、キミのダークヒーローごっこに付き合わされる玩具ではなかった!」

 

「ヒーローごっこか、言ってくれるな」『ロック・オン!』

 

 

鎧武は巨大な銃、火縄大橙DJ銃にカチドキロックシードを装填する。

銃口へ収束していくエネルギー。しかし鎧武は気づいていなかった。

バロンは先程、レモンエナジーをソニックアローに装填する際、あるアイテムを頭上に投げていたのだ。

 

それはデッキ。

空中を旋回していたデッキは重力の力によってバロンの下へ落ちていく。彼はそれを掴むと、瞬時、前に突き出した。

ゲネシスドライバーに重なるのはVバックル。バロンはソニックアローを地面に落とすと、構えを取ってデッキを装填する。

 

 

「まあ尤も、俺は別にヒーローなんて興味ないけどな」

 

 

鎧武は鼻を鳴らした。英雄だのと肩書きに興味はない。

自分はこれからも今までどおり好きにライダーの力を使う。それだけだ。それがぶれる事は無い。

大衆を守るヒーローではなく、たった一人の少女の願いを叶えられる道具でいい。

 

 

「変身!」

 

 

隼世が選んだのは仮面ライダーライアだった。

素早くデッキからカードを抜き取ると、それをバイザーにセットする。

 

 

『コピーベント』

 

 

カチドキアームズの武器である火縄大橙DJ銃がライアの手にも現れる。

それだけではなく、ロックシードも装填されている状態でコピーする。

 

 

『カチドキチャージ!』『カチドキチャージ!』

 

 

二人は同時に引き金を引いた。

銃からは巨大なオレンジ色の光球が発射され、それはお互いの弾丸にぶつかり、激しいエネルギーを拡散させる。

直後相殺。激しいエネルギー波に二人はうめき声を上げた。その中で先に動いたのはライアだった。今、その心には激しい怒りが宿っている。

仮面ライダーは憧れのヒーローだった。決して人を殺す道具ではない!

 

 

「たった一人の少女? 殺したのはお前だ、人のせいにするのか!」『ファイナルベント!』

 

 

ライアの背後、空間が弾けとび、そこからエビルダイバーが姿を見せる。

ライアは宙返りで素早く契約モンスターの背に乗ると、一瞬で最高速に到達。そのまま必殺技であるハイドベノンを発動した。

 

 

「そんな事はしない。こいつらを殺す事は、ほかでも無い俺が賛成したんだ!」

 

 

避けられない。

鎧武は仕方なく背中にあったカチドキ旗を取り出すと、それをクロスさせる事で盾にする。

 

 

「それが間違ってるんだよ! 仮面ライダーは正義のヒーローだ。お前のやっている事は、紛れもなく悪の行為だ。断じて許されるものじゃないだろ!」

 

「グゥウッッ!!」

 

 

それなりに重量のあるカチドキアームズではあるが、ハイドベノンの勢いは凄まじく、それを受けた鎧武の体は簡単に宙に浮いた。

そのまま二人は突き進み、刑務所の壁を破壊、近くにある平原まで鎧武を運んでいく。

そこでようやっと解放された鎧武。地面を転がりながらうめき声を上げる。

 

一方空中を旋回しながら再び鎧武を狙おうとするライア。

このままではまずい、鎧武はブレイバックルを取り出すと、素早く装着、変身を行う。

 

 

「お前こそ頭おかしいんじゃねぇのか。正義のヒーローだなんて、テレビの中だけだ!」『ターンアップ』

 

 

今ココに存在するライダーのツール、存在は、力は全てフィクションを超えたリアルだ。

生きているなら知っている筈だ。この世界には正義も悪も限りなく少ない。存在しているのはただ、無数のグレー。

ブレイドに変身した岳葉は素早く立ち上がり、コチラに向かってくるライアを捉えた。

ブレイラウザーから素早くカードを取り出し、ラウズする。

 

 

『タイム』

 

 

ブレイド以外の時間が止まった。

とは言え、静止するライアには攻撃できないのがタイムの掟だ。

だからこそブレイドはライアが通るであろう場所に構え、カードコンボを発動しておく。

 

 

『ライトニングスラッシュ』

 

 

タイムの効果を終了させる。

ライア視点、突如ブレイドが目の前に現れ、剣を構えているではないか。

これはまずいか、反射的にエビルダイバーの背を蹴り離脱する。

その判断は正しかった。猛スピードで向かうエビルダイバーは逆に『カモ』。

 

ブレイドはそこに刃を置いており、エビルダイバーは自分から刃に頭を入れてそのまま突き進む。

雷撃を纏った強化刃は簡単にエビルダイバーを引き裂き、真っ二つにした。

直後爆散。地面を転がるライアは契約モンスターを失った事でブランク体へ。

 

 

「俺は少し理解したぜ。仮面ライダーってのは、バイクの擬人化みたいなもんだろ」

 

 

ブレイドは語る。バイク(ライダー)は乗る人間によってどう動くかが決まる。

運転技術と運転目的こそが重要なファクター。犯罪者の群れに突っ込み轢き殺していくのか、それとも誰かを乗せて運んであげる、お優しい使い方をするのか。

 

 

「だとすればこの世には交通マナーがあるだろ、何故守れない!!」『アドベント』

 

 

ライアが呼び出したのはミラーモンスター、ガルドサンダー。

するとブランク体だったライアに色がつく。デザインも変更され、その手には巨大な剣が。

ライアのフォームチェンジとでも言えばいいのか。この形態の名前はブレイド。つまり仮面ライダーブレイドと仮面ライダーブレイドが剣を構えて対峙する。

 

 

「マナーじゃ縛れないクズを潰すためには、自身もマナーを振り切らなければならない!」

 

 

当然の話だ。

スピード違反を捕まえるためには、同じスピード、もしくはそれを超えるスピードを出さなければならない。

 

簡単な話だった。

岳葉は轢き殺す道を、隼世は後ろに人を乗せる道を選んだにすぎない。

リンクするようにブレイドとブレイドの剣がぶつかり合う。両者互いに激しく剣を打ち付けあい、巨大な火花を散らしていく。

一方の剣には激しい雷撃が、一方の剣には激しい火炎が纏わりつき、お互いの装甲に深い傷を残す。

 

 

「勝手な理論で、人を命を振り回すな!!」

 

 

両者吹き飛び地面に倒れる。

ダメージからか変身が解除され、お互いは立ち上がりながら別のアイテムを構えてた。

隼世はカードデッキ。岳葉はメダル。

 

 

「いいだろ! 性犯罪者なんて、生きてる価値はない!!」『クワガタ!』『カマキリ!』『バッタ!』

 

「人の生きる価値は他者が決めるものなのか!? それにだとしても、お前が彼らを殺す理由にはならないだろ!」『ファイナルベント』

 

 

岳葉が選んだのは仮面ライダーオーズ、ガタキリバコンボ。

ネットで見たがこのコンボが最強候補らしい。だからこそココでの選択である。岳葉は決着をつけるつもりだった。

 

 

「害虫駆除と同じだ。それに人の資格を放棄したのはあいつ等本人だろ!」『スキャニングチャージ!』

 

 

固有能力により無数に分身したガタキリバは一勢に空へ跳躍。

直後雷撃のエネルギーを纏いながら次々に飛び蹴りをしかけていく。

一方で隼世が選択したのは仮面ライダーインペラー。彼もまた必殺技を使用。

するとどこからともなく大量のガゼルモンスターが出現し、地面を蹴って飛び蹴りをしかけていく。

 

激しくぶつかり合うキックの嵐。

その中で岳葉が変身したガタキリバの飛び蹴りと、インペラーの膝蹴りが重なった。

ガタキリバキックVSドライブディバイダー。激しい衝撃波が周囲に拡散する。その中で地面に墜落するガタキリバと、地面に着地するインペラー。

 

 

「ガハッ! ガタキリバが負けた!?」

 

「ライダーを愛していないお前に、ライダーを尊ばないお前に、僕が負けるわけがない」

 

「うるせぇ! そういう所が特オタは嫌われるんだよ!!」『HENSHIN』

 

 

カブト・マスクドフォーム変身。クナイガンを構えて走りだす。

 

 

「変――、身ッ!」『アクセル!』

 

 

一方でアクセルドライバーのグリップを捻った隼世。

仮面ライダーアクセルは、巨大なエンジンブレードを振るい、クナイガンに打ち付ける。

弾かれ、それでもまたぶつけ合う両者。五回目の衝突で巨大な刃は互いを弾き飛ばし、双方は武器を失う形となる。

しかしそれは問題ではなかった、カブトはゼクターの角を弾き、アクセルは強化体に変わるメモリを取り出す。

 

 

「キャストオフ!」『Cast Off』

 

「振り切る!!」『トライアル!!』

 

 

刹那。

 

 

「クロックアップ」『Clock Up』

 

「ついて来れるか!!」『トライアル・マキシマムドライブ!』

 

「ライダーキック!」『ONE』『TWO』『THREE』『RIDER KICK』

 

 

激しい蹴りの応酬が続いた。

双方一歩も引かぬ蹴り合い。しかしこのままでは埒が明かない。

それを始めに判断したのはカブトのほうだった。トライアルの力が予想以上だ、このままでは確実に負ける!

 

故に、選択するのはプットオン。

装甲が一瞬にしてカブトを囲み、彼はマスクドフォームへ。

重厚な鎧はトライアルの蹴りを弾き飛ばし、大きく怯ませる。

もちろんカブトにもダメージは入っている。二度と同じことはできない。故に、ココで決めなければならない。

 

 

「キャストオフ!」

 

 

はじけ飛ぶ装甲と、それに揉まれて同じく後ろへ飛んでいくアクセル。

しかし既にアクセルの腰には別のベルトがあった。隼世もまた次の行動を選択していたのだ。

 

 

「変身!」『HENSHIN』

 

 

空中で変身する。ガタックに。

 

 

「キャストオフ! クロックアップ!」

 

 

超高速の世界に足を踏み入れたカブトとガタック。

二人は互いに辺りを移動し、武器を打ちつけた。

何も知らない人間がみれば周囲を破壊する赤と青の閃光がぶつかり合っている様に見えるだろう。

 

その中、悲鳴が聞こえた。

空中をきりもみ状に回転し、地面に叩きつけられたのはカブトのほうだった。

 

 

「クソッ!」

 

「お前の拳は軽いんだ岳葉。本当にお前は裁きの道を選んでいるのか? 僕にはそうは思えない」

 

「ッ?」

 

「悪人を裁くという事は半端な覚悟で選んで良い道じゃない。お前には、まだ、覚悟が足りないんだ!」

 

「違う、俺は! 俺はッ!!」

 

 

立ち上がり、岳葉はクウガに変身する。

すかさず超変身。ペガサスフォームでならクロックアップに対抗できると言うのを、ネットで見た記憶がある。

しかしそんな事、仮面ライダーファンである隼世なら承知の上だ。隼世はガタックの変身を解除すると、威吹鬼に変身し、烈風を構えた。

 

 

「音撃射、疾風一閃!」

 

 

パプーッ! っとトランペットの音が鳴り響く。

音自体は少し可愛らしいものだが、それは威吹鬼の必殺技である。

本来ならば相手に撃ち込んだ鬼石がなければ効果はなさないが、感覚が上昇しているクウガにとって『音』はそれだけで凄まじい武器となる。

 

 

「ぐあぁあぁぁあああッッッ!!」

 

 

耳を押さえ、クウガは絶叫する。

頭が破裂する。ダメだ、終わる、負ける。

しかしその敗北のビジョンを思い浮かべた瞬間。岳葉の心に未知なる炎が宿った。

 

負けるのか。いいのか? お前はまた負けるんだな。なにもかも敗北の人生だった。

勉学、運動、お前は誰かに勝利した記憶があるか? 有象無象の生徒がいるなかでお前は何か煌く一番を取った事があるのか?

 

ないよな。お前にとりえなんてなかった。

それは力を手に入れても一緒だ。お前は仮面ライダーになったところで、他の仮面ライダーに負けるだけだ。

お前は特別にはなれない。一番にはなれない。一生、永遠に誰かを引き立たせるモブキャラでしかない。

 

 

「――違う! 俺は、俺になるんだ!!」

 

 

苦痛を堪え、歯を食いしばり、ペガサスボウガンを思い切り振り絞る。

すると疾風一閃の風を巻き込み、巨大な矢が練成された。

 

 

「なにっ! まさかペガサスフォームでコレを耐えるのか!」

 

「ブラストペガサス!!!」

 

「ぐあぁあっ!!」

 

 

威吹鬼の風を吸収した巨大な矢は、そのまま威吹鬼の胴体に直撃する。

一方で音撃も確かなダメージをクウガに与えており、両者は再び地面に倒れることに。

 

 

「ハァ、ハァッ! ぐっ!!」

 

 

変身が解除される。

隼世の視界には青空が広がっていた。クウガに変身した五代は、クウガの力をあんな風に使われる事を望んではいないはずだ。

止めなければならない。五代のために、仮面ライダーの名誉の為に。

 

 

「なるべくならば話し合いで決着をつけたかったが、どうやらそういう訳には行かないのか……!」

 

 

立ち上がる。

すると、向こうに同じく立ち上がった岳葉を見た。

 

 

「ライダーの名誉? 笑わせんな。お前も結局自己満足のオナニーを俺に見せてるだけじゃねぇか」

 

「オナッッ!? な、なんだと……ッッ!」

 

「仮面ライダーなんてな。所詮、ガキが見る番組でしかないんだ。正義を謳うのは当然だろ」

 

「違う! お前はライダーを見ていなかったのか! 五代や翔一、真司が! こんな事を許すわけがないだろ!」

 

「だからなんだよ、俺は俺だ。クウガは五代のものじゃない。クウガはクウガでしかないんだよッ!」

 

 

姿勢を低くする岳葉。

その腰にコンドラーが出現する。

 

 

「岳葉、お前は続けるつもりなのか。ライダーを、正義の力を使って人を殺す事を!」

 

「正義正義ってバカの一つ覚えみたいに!!」

 

 

目を細める岳葉。

 

 

「それに俺が殺すのは人じゃない。怪人だ!」

 

「……一家惨殺事件。あれはなんだ!」

 

「あいつ等も怪人でしかない。たちの悪い、地獄の軍団だった」

 

「馬鹿な事を――ッッ!!」

 

 

アマゾンズドライバーを巻きつけ、隼世も腰を落とす。

 

 

「隼世。お前は俺の言葉が軽いって言ったな。それは間違ってない」

 

「ッ?」

 

「俺はまだ、俺になれてない。俺は本当に人を、犯罪者を殺す事が正しいのか、その真意が分からないでいる」

 

「だったら! そんな覚悟で!!」

 

「それでも、見つけられるはずなんだ。俺が生まれ変わり、仮面ライダーになった意味を」

 

 

誰が合図をした訳でもない。二人は同時に地面を蹴り、全速力で走り出す。

 

 

「アーッ! マァアアッ! ゾォオオオオオオンッッ!!」

 

「アァアアアアアアアマァアアアアゾォオオオンッッ!!」『ALPHA』

 

 

岳葉は仮面ライダーアマゾンへ。

隼世は仮面ライダーアマゾンズ・アルファへ。

二人は同時に飛び上がり、それぞれの力を解放する。

 

 

「大ッ! 切ッ断ンンンンン!!」

 

「刃よ! 悪を切り裂けッッ!!」『VIOLENT・STRIKE』

 

 

アマゾンはヒレの刃を突き出すように前へ。

アルファはドロップキックで脚についているヒレの刃を前へ。斬撃が閃光となり二人の間に迸る。

そのままアマゾンとアルファは背中合わせとなるように着地する。

僅かに、静寂が流れた。しかし直後、血が吹き出すように互いのわき腹や首筋から火花が吹き出ていく。

 

 

「ガガッ!」

 

 

体勢を崩し、膝をつくアマゾン。

一方でなんとか踏みとどまり、アルファはへたり込むアマゾンを狙う。

 

 

「僕は――ッ! 仮面ライダーに、正義に誇りを持っている! お前のようなヤツには負けない!!」

 

「グッ! くっ!」

 

 

ダメージが思ったよりもデカい。立ち上がろうとしても脚が石の様に重かった。

だがその時だった。声が聞こえた。動きを止めるアマゾン。そしてアルファ。

草陰から一つのシルエットが飛び出してくる。人影はアルファとアマゾンの間に割り入り、両手を広げた。

 

 

「岳葉君に酷い事しないでよ! バカッ!!」

 

「んなッ!」

 

「瑠姫!」

 

 

瑠姫はまっすぐにアルファを睨んでいる。

人間の――、それも少女が目の前にいる。アルファはどうしていいか分からず、動きを止めた。

 

 

「キミ、どいてくれ! ココは危険だ!」

 

「イヤッ! アンタが消えて!!」

 

「えッ!?」

 

 

そこでアルファは思い出す。

そういえばアマゾンは先程少女がどうのこうのと。

 

 

「まさかキミが――」

 

「そう! 私が頼んだの! 性犯罪者を皆殺してくれってね!!」

 

「な、なぜそんな事を!!」

 

「いらないからに決まってるでしょう。あいつ等は生きてる価値のない害虫共よ!!」

 

 

アルファはその時、瑠姫の瞳に激しい殺意と憎悪を見た。

そして性犯罪者を狙う事、そこから彼女の事情を察する事は難しくはない。

 

 

「――ッ、でもこんなやり方は間違っている! 復讐じみた解決方法じゃ、負しか生み出さないよ」

 

「じゃあ何? どうすればいいの!?」

 

「更生のためにはまず再犯を防ぐ事だ。犯した罪の重さをしっかりと犯人に考えてもらい、被害者の気持ちを考える事で――」

 

「うるせぇよクソ野郎! ちんぽズタズタにするぞッッ!!」

 

「んガッ! じょ、女性がそんな言葉を――!」

 

 

隼世は岳葉と同い年である。

ゆえに年下の女性に怒られると言う事は、男性にとって無条件でショックを受けると言うものだ。

ましてや言葉が言葉、無条件で身構えてしまうと言うもの。

 

 

「強姦は場合によっちゃ十年以下で出てくる! そうしたら被害者はまたビクビク怯えなきゃいけない! ましてや怖くて何も出来ない人だっている!!」

 

 

思い出すだけで吐き気がする。現に瑠姫の顔色は真っ青になっていた。

義父に犯されてからと言うもの、恐怖の毎日だった。

どこに逃げればいいのか、逃げてどうするのかが分からず、戻らなければもっと酷い事をされるのではないかと脳みそが勝手に混乱して答えを導いてしまう。

毎日犯されると言う事はなかったが、逆にそれが恐怖になる。今日は大丈夫だった、明日はどうだろう?

 

 

「そんなバカみたいなことを考えなきゃいけないくらい頭がおかしくなる。お前に分かる!? 綺麗ごとばっかり言ってるアンタに!!」

 

「ッッ!!」

 

「確かに、復讐じみた方法じゃ、人の心は救われないかもしれないよ」

 

 

瑠姫はアルファの襟首を掴むように手をかけ、そして真っ直ぐにアルファの目をにらみつけた。

凛とした殺意と憎悪、矛盾する複雑な感情がそこにはあった。

 

 

「でも、少なくとも余計に傷つく事はなくなる!」

 

「ぐッ!!」

 

「あの恐怖から解放されるためには、存在そのものを消すしかないの!!」

 

 

どこに逃げても、どこへ行ってもまた顔を合わせるのではないかと怯えなければならない。

たとえ幸せを掴んだとしても、同じ地球にいる限り呪縛に纏わりつかれる。

だからこそ、永遠の終わりを与えなければならない。

 

 

「少なくとも私は岳葉くんがいたから、安心を取り戻せた。アンタに同じことができる? 私を救えるの!?」

 

「それは……」

 

「聞かせてよ。仮面ライダーってのは、女の股に無理やりチンポをぶち込む人間の対処法を教えてくれたの?」

 

「それは――ッ、しかし!」

 

「ライダーだって怪人殺してるんでしょ。なんで殺してるのよ? 決まってる、そいつらが人を襲ってるからでしょ! 話し合いじゃ解決しないクズだからでしょ!!」

 

「………」

 

 

完全に口を閉じたアルファ。

そこで、焦ったように岳葉が瑠姫の肩を掴んだ。

 

 

「いいんだ。もういいんだ、もう喋らなくていい!」

 

「ッ、岳葉君……!」

 

「ありがとう瑠姫。もういい、大丈夫だ、キミはもう、そんな話しはしなくて良いんだぜ」

 

 

今度は岳葉が瑠姫をかばう様に前に立つ。

腰にはまた別のベルトが巻かれている。それはまだ戦う意思がある事を証明していた。思わず怯み、一方後ろへ下がるアルファ。

 

 

「俺は瑠姫を守る。瑠姫を苦しませるものを排除する」

 

「岳葉、キミは――ッ!」

 

 

それはこの広い世界でたった一人。本間岳葉にしかできない事だと信じたいから。

 

 

「そうすれば俺は、存在理由を確立できる。俺はクズみたいなモブキャラじゃなく、唯一無二の俺になれるんだ」

 

 

光が迸った。

岳葉が選んだのは、仮面ライダーブラックRXである。

 

 

「キングストーンッ! フラッシュ!」

 

「ぐあぁああ!!」

 

 

赤い奔流に巻き込まれ、アルファは地面を転がった。

途中、変身が解除され、隼世は生身で地面を滑る。しかしすぐに立ち上がった。彼もまたココで終わる事はない。

 

 

「俺は、路傍の石ころじゃ終われないんだよ!!」

 

「グッ、くッッ! 岳葉――ッッ!」

 

 

確かに、ライダーが目指す正義は多種多様だ。

正義と言うものは一色に留まるものではない。様々な色があり、違う色同士がぶつかる事もあるだろう。

 

 

「しかし、それでも――。それでも人を殺す事を正義としては終わりだろ!」

 

「じゃあ俺は正義じゃなくても良い! そうだ、俺はただ!」

 

「ダメだ岳葉! 人間は怪人じゃない! 化け物じゃないんだ!!」

 

「!」

 

「同じ人を傷つけたら、殺めたら終わりだろ!!」

 

 

G3-Xの鎧が出現し、隼世は変身を完了させる。

構えるのは巨大なガトリングガン、ケルベロス。引き金に指をかけ、瞬時、無数の銃弾でRXを狙う。

 

 

「ロボライダー!」

 

 

RXのカラーリングがオレンジと黒に。それだけではなくデザインも変わっていく。

ズガガガガとけたたましい音を立てて弾丸はロボライダーに直撃していく。

しかし不思議な事が起こった。ロボライダーは確かに銃撃を受けているはずなのに、その中を何の事はなく歩き抜け、戸惑うG3Xの前にやって来たではないか。

 

 

「な、なぜ動きが止まらないんだ!!」

 

「効いてないからだ!」

 

 

ロボライダーの鉄拳がG3Xの体を捉える。

手足をバタつかせながら後方へ飛んでいくG3X、するとロボライダーはいつの間にか持っていた銃をそこへあわせた。

 

 

「ボルティックシューター!」

 

「グガァアアッ!!」

 

 

銃弾が着弾し爆発を起こす。G3Xの装甲が砕け散り、地面へ墜落する隼世。

まだだ、まだ終わらない。隼世は素早く仮面ライダーサガに変身。

ジャコーダーを振るい、鞭でロボライダーをがんじがらめに縛り上げる。

 

 

「バイオライダー!」

 

 

液状化したRXはそのまま空中を移動し、サガに突進をしかけ吹き飛ばす。

さらにサガが怯んだ所でRXバイオライダーは実体化、バイオブレードを振るい、サガの背中に白い一閃を刻み込む。

 

 

「ぐッ! がはぁ!!」

 

 

変身が解除されて煙を上げながら転がる隼世。

一方のバイオライダーは瑠姫を落ち着けるために、肩を優しく叩いた。

 

 

「大丈夫だ、瑠姫、キミは何も間違っていない」

 

 

本当に? 人を殺せと叫ぶ彼女は本当に何も間違っていないの?

そんな馬鹿な。そんな訳があるものか。それは他でもない岳葉自身が分かっている。

きっと正しいのは――、そう、隼世の方に違いない。

 

しかし、けれども、岳葉は隼世を否定し、瑠姫を肯定する。

それは紛れもない岳葉自身の意思だ。だって知っているから、その言葉を瑠姫は欲しているに違いない。

 

 

「うん、ありがとう、岳葉」

 

「ああ、俺も――、間違ってないよな?」

 

 

その言葉は、自分も欲しいから。

 

 

「うん! 頑張って、私のヒーロー!」

 

「ああ、ありがとう」

 

 

欲しいんだ、人間は、自己を肯定してくれる人間が。

究極の慈愛を求めている。人は愛されなければ、壊れてしまう。ロボットの方が約に立つと言われちゃあ生きてる意味がないんだ。

あなたじゃないとダメ、それを求めないと。ああ、ああ――。

 

 

「終わりにしようぜ、隼世!」

 

 

バイオライダーは変身を解除し、基本形態であるRXに戻る。

そしてそのベルトに手をかざし、必殺の武器を取り出す。一方で隼世もまた別のライダーに変身していた。

漆黒の騎士、仮面ライダーナイトへと。

 

 

「来い、リボル剣!!」

 

「リボルケイン! 杖だ! にわかが!」『ファイナルベント』

 

「どう見ても剣だろ!」

 

 

ナイトは飛び上がり、契約モンスターであるダークウイングと融合。

巨大なドリルとなりてRXを貫こうと空を切り裂く。一方でリボルケインをそこへ突き出したRX。二つの力はぶつかり、激しいスパークを起こした。

 

 

「うあぁあぁッッ!!」

 

 

決着はすぐについた。

吹き飛び、地面に倒れたナイト。鎧が粉々に砕け、むき出しになった隼世は地面を転がり、うめき声を上げる。

一方で立ったままリボルケインを構えているRX。その姿を見て、隼世は初めて激しい怒りの表情を見せた。

さらに体内に留まる怒りは尚も渦巻いていく。あまりの苛立ちに、隼世は目の前に広がる地面を思い切り殴りつけた。

 

 

「クソッ! どうしてライダーを愛している僕がッ! 正義の為に力を使う僕が! お前みたいなヤツにッッ!!」

 

「そういうモンだよ、人生なんざ。正しいヤツが勝てるとは限らない。だからクソなんだ」

 

 

RXの手には携帯電話があった。

画面の中にはインターネットの掲示板がある。

どうやら瑠姫と隼世が言い合っている間に、岳葉はとあるスレッドを立てていたようだ。隼世は目を細め掲示板の内容を確認する。

まず見えたのはタイトル。

 

 

『緊急募集。お前ら、最強のライダー教えろ』

 

 

 

2:名無しはすごい

 RX

 

3:名無しはすごい

 RX

 

4:名無しはすごい

 RX

 

5:名無しはすごい

 RX

 

6:名無しはすごい

 RX一択

 

7:名無しはすごい

 RX

 

8:名無しはすごい

 クウガ

 

9:名無しはすごい

 RX信者アホすぎ。ディケイドだろ、アホか

 

10:名無しはすごい

 RX

 

11:名無しはすごい

 RX

 

12:名無しはすごい

 RXって言うかバイオライダー

 

13:名無しはすごい

 >>8 クウガ信者死ね。あんなカスライダーRXでワンパンだから

 

14:名無しはすごい

 なんで切れてんだよ。まあRX。地味にロボもやばいから。

 

15:名無しはすごい

 現行ライダー

 

16:名無しはすごい

 ドライブってつまらなくね?

 

17:名無しはすごい

 鎧武の方がつまらないよ

 

18:名無しはすごい

 RX

 

19:名無しはすごい

 ディケイドはカード入れる事を考えると微妙なんだよな。RXは0.1秒が隙とか言ってるレベルだから

 同じ理由でオーズも微妙。メダル依存だからなぁ

 

20:名無しはすごい

 ドライブアンチと鎧武アンチうぜぇな。ライダー嫌いならこんなとこ来るなよ。

 

21:名無しはすごい

 釣られんなよカス。地味にスーパー1とか強くね?

 

22:名無しはすごい

 RX

 

23:名無しはすごい

 ブラスターフォームって触れただけでオルフェノク死ぬんだっけ? なお本編。

 

24:名無しはすごい

 うんち

 

25:名無しはすごい

 RXだな

 

26:名無しはすごい

 んんwwww乳首で洗濯機はプリンだろwww!!

 

27:名無しはすごい

 誤爆

 

28:名無しはすごい

 どういう誤爆だよww

 

29:名無しはすごい

 RX

 

30:名無しはすごい

 ここまでキングフォームなし

 

31:名無しはすごい

 RX

 

 

 

とまあ、掲示板で問いかけた結果、僅かな時間でこんなにもレスがついた。

その中でも岳葉が確認した時点で一番多かったのが現在変身しているRXと言うわけである。

確かに圧倒的な防御力を誇るロボライダーと、液状化によりほとんどの攻撃を無効化できるバイオライダーの力は圧倒的であった。

 

 

「クソッ! ちくしょう!!」

 

 

隼世もライダーファンである以上、RXの話は知っているのか、歯を食いしばり再び地面を殴りつけていた。

岳葉ふと気になった。それはどういう怒り、悔しさなのだろうか?

隼世は自分が主役ライダーの力を貰っておけばと悔しがっているのだろうか。それとも純粋に負けた事が悔しいのだろうか。

 

もしかして、彼もまた――。

彼もまた、自己のアイデンティティを踏みにじられたから悔しいのだろうか。

ライダーファンである隼世は自分の力を誇りに思っていると言っていた、そんな彼が特別ライダーファンでもない岳葉に負けたのだ。

結局のところ、やはり人間は自尊心に左右される生き物なのかもしれない。

 

けれども隼世は人を殺してはいないようだ。

力があるのに、一番簡単な自己を上に持っていくやり方ができるのに。

岳葉の額に汗が浮かぶ。もしも今の通りならば隼世も岳葉も戦う理由の根本は同じはずなのに、やっている事は真逆だ。

 

どちらが正しい?

そんな事は分かりきっている。なんだかとても負けた気がして、岳葉は気分が悪くなった。

 

 

「ッ、そうだ、俺にはまだやる事があったんだ」

 

 

RXは倒れている隼世に背を向けた。

まだ木原を殺してはいない。両足をドア銃で撃っておいたから移動するのは不可能のはず。

きっと彼はまだ刑務所内だ。このまま無駄に時間をかければ他の警察達がやって来るのは明らかだった。その前にヤツを始末しなければ――。

 

 

「待て――ッ!」

 

「!」

 

 

RXは振り返り、下に視線を向ける。

するとそこには、RXの足を掴む隼世がいた。彼は重い体を引きずり、RXの邪魔をしたのだ。

なぜ? 決まっている。RXを刑務所の中に行かせないために。

 

 

「殺すな、岳葉! 殺しちゃダメなんだ!」

 

「お前、まだ言ってるのか!」

 

「何度でも言う! これ以上、血に染まるな。ライダーを血で汚さないでくれ! 頼む!」

 

「断る! アレは死んで当然のクズだろ!」

 

「違う! たとえそうだとしても違うんだ! それに、もしかしたらこの光景を見る子供達が、本当に仮面ライダーに夢を持っている子達がいるかもしれない! だからお願いだ岳葉、頼むからライダーを人殺しの道具に使わないでくれ!!」

 

「しつこいなお前! だったら俺自身が直接あのクズをぶっ殺して――」

 

「そういうことじゃないよ! 殺すなって言っているんだよ僕は! ライダーを使わなくとも、お前は人を殺しちゃいけない! 当たり前だろ!!」

 

 

舌打ちが聞こえた。

RXが隣を見ると、瑠姫が怒りに表情を歪めていた。

綺麗で、可憐で、可愛らしい瑠姫がRXにはその時、なんだかとても醜く見えた。

 

 

「さっきから綺麗ごとばっかり! この偽善者ッ!!」

 

「がッ!!」

 

 

瑠姫は足を上げると、RXの足を掴んでいた隼世の手を、踏みつけるようにして蹴った。

それも一度ではなく連続で。引き剥がそうとしているのだろう、現に隼世の手の甲がみるみる赤く染まっていく。

しかしそれでも隼世は歯を食いしばり、RXの足を掴み続ける。そして口にするのは同じ言葉、殺してはいけないと言うものだ。

RXは思った。

 

 

(隼世、コイツ本気でバカなのか?)

 

 

ライダーに変身できたことで、多少は変身前のスペックも上がっている。

しかしいくらなんでも変身しているRXならば簡単に隼世の手を振りほどけるのだ。隼世とて知らぬわけじゃないだろう。

なのに足を掴み続け、瑠姫に蹴られ続けても掴み続けるなんてバカとしか思えなかった。

 

 

「………」

 

 

思えなかったが――。

 

 

「瑠姫、やめよう。そう言うのは良くない」

 

「は?」

 

「あ、いやッ、なんて言うか……、その」

 

 

RXは隼世の手を振りほどくのではなく、瑠姫を静止させた。

自分でも思う。何をやっているんだ俺は、と。隼世のバカが移ったのか? いや、それは分からないが、ただ、なんとなく。

 

 

「瑠姫、キミにはそういう顔はしてほしくない。こういう事は、してほしくないんだ……」

 

「なに? どういう事よ、岳葉くん」

 

「いや、それは――、その」

 

 

なんでだろう?

どういう事なんだろう?

迷っていると、エンジン音が聞こえた。刑務所を囲んでいたフェンスが吹き飛び、巨大な機械が姿を見せる。

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

RXは瑠姫を守るに様に前に立つ。

一方で機械からは声が。

 

 

「どけどけどけぇえーい!」

 

 

その機械、RXには見覚えがあった。

あれは確かに、仮面ライダーカイザが乗るバイク、サイドバッシャーだ。それがバトルモードとなりコチラに突っ込んでくるではないか。

新たなる敵か!? そうは思ったが、なに、よく見てみればサイドバッシャーはそのままRX達の横をなんなく通り過ぎて行った。

 

 

「は?」

 

「な、なになに!?」

 

 

戸惑うRXと瑠姫だが、一番戸惑っているのは他でもない。

サイドバッシャーの上に乗っていた人物であった。

 

 

「ちょ! おまッ! コレどうやって動かすの!? あれっ、おっかしーな! ってやべぇ! 前、壁ッ、壁って――! アァッー!!」

 

 

サイドバッシャーはなんなく壁に激突。その衝撃からか上に乗っていた人物、見れば瑠姫とそう歳の変わらない少女は空へ放り出される。

 

 

「ギョベッッ!!」

 

 

そして間抜けな声をあげて地面に墜落。

とは言えすぐに首を振って目を見開くと、素早い動きで立ち上がり、すぐに隼世の下へ駆けていく。

どうやら二人は知り合いらしい。隼世も目を見開き、少女を見ていた。

 

 

「ど、どうしてココに来たんだ! 危険だから来るなって言っただろう!?」

 

「だってだって市原くん遅いんだもんッ! 心配するよそりゃ!」

 

 

少女は隼世の背を撫で、RX達を見上げた。

 

 

「逃げようよ市原くん、こいつ等にやられたんでしょッ!」

 

 

隼世に駆け寄った少女を見て、RXは何か言いようのない既視感を覚える。

以前どこかで見たような、そんな感覚だ。しかし記憶にはないし、勘違いなのだろうか。

少女の髪型は茶髪のボリューミーボブ。服装は健康的な脚が大きく露出するショートパンツに、オフショルダーのトップスと、そこそこ露出が高い。

その点をみると、やはり該当する知り合いなどいるわけもなく、既視感は偶然なのかと思う。

 

 

「下がれルミ! ココはキミの来る所じゃ――」

 

「ルミ?」

 

 

横から、声が聞こえた。

RXが隣を見ると、額に汗を浮かべている瑠姫が見えた。

顔が、青白い。寒そうだ。なんだかとっても変だった。

そしてそれは彼女だけじゃない、先程まではハイテンション騒いでいた隼世の隣にいた少女が、瑠姫と同じような表情を浮かべている。

 

さて。RXはまだ気づいていないが、彼が抱いた既視感は本物である。

RXは目の前の少女を見たことがないが、限りなく近い顔の少女をずっと見てきた。

人間と言うものは髪形で大きく印象が変わるものだ。ずっとさえないキモオタくんが、ある日パーマを与えたら別人と言うのは珍しい話ではない。

 

 

「お、お姉――、ちゃん……?」

 

「「は?」」

 

 

あれだけ道が交わらないと思っていたRX――、つまり岳葉と隼世の声が重なった。

隼世の隣にいたの翠山(みどりやま)留美(ルミ)

つまり、ルミは瑠姫の妹である。姉妹は今、全く予想もしていなかった形で再会する事となる。

 

 

 

 

 


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