イカレた人生を歩んでいたのならば、朝から晩までネットやゲームに勤しみ、自尊心の確立の為に他者を叩いたり掲示板を炎上させたりする。
そして母親を泣かせ、信号を無視し、延いては幼女を犯そうなどと頭のおかしい思考に至る。
一方でまともな人生を歩んでいたのならば、小学校入学から高校卒業までの間に、毎年避難訓練と言うものを経験済みであろう。
しかし訓練と言うのは所詮訓練でしかない。人間はいざ危機的状況に陥ると、生存本能が理性を上回り、他人を踏み越えてでも助かりたいと思うものだ。
ここ、『島谷ホテル』でもまた、常識と理性が崩壊していく。いかに火の始末を気をつけていても放火をされては意味が無い。
非常階段で我先にと降りていく人がすし詰めとなり、それが原因で避難が遅れていく。
さらに火に気づかない者達もおり、現場は地獄と化していた。
『えーッ、見えますでしょうか! 火の勢いは尚増しており――! あ! ご覧ください、あれは逃げ遅れた人でしょうか! バルコニーに避難しているようです!』
カメラが親子連れを捉えた。
バルコニーに逃げたはいいが、そこからはどうする事もできずに助けを求めている。
どうやら放火魔は複数の場所から火を放ったらしく、現在は捉えられているものの、犯人を捕まえたからといって火が消えるわけは無い。
消防隊も必死に消火活動や救助活動を行っているものの、おそらくこのままでは。
「ゴメンね、美香。ママがもっとしっかりしてれば――ッ!」
母親はバルコニーで娘の頭を撫でて必死に落ち着けようとしている。
父親はと言うとなんとか逃げ道を見つけられまいかと探しているようだが、どこもかしこも火の手が強く、とてもじゃないが逃げられるとは思わなかった。
ましてや火災で一番気をつけなければならないのは煙だ。なんとか三人はバルコニーの端に寄るがこのままでは――。
しかしココから飛び降りれば確実に死ぬ。親子三人は抱き合い、ただ恐怖するだけしかなかった。
「美香! 大丈夫だからな!」
「ゴメンね、美香、大丈夫だからね」
両親は必死に娘を励ましているようだが、半ば自分達が助からない事を悟っていた。
ああ、なんでこんな事になるのか。今日は娘の誕生日なのに。こんな馬鹿なことがあっていいのか、母親も父親もボロボロと涙を流している。
そして当の娘は、恐怖に顔を青ざめ、体は震え、しかしそれでも、笑みを浮かべていた。
「いいの。ママとパパと一緒なら、美香、怖くないよ」
「あぁ、美香!」
抱き合い、三人は自らの運命を呪った。
自分達は何故生きてきたのか。死を間際にして思う。こんな辛い死に方をするために今までを頑張ってきたわけではないのに。
なんて惨めなんだ、ボロボロと涙を流し、三人はそろそろとやって来る終わりを覚悟する。
だがその時だった。暗闇の空から、金色の光が見えたのは。
「大丈夫ですか!」
三人は息を呑んだ。
鳥? 孔雀? いや、違う。人だ。赤と金の装飾を纏った何者かが親子三人の前に降り立った。
「え? え? え?」
訳が分からないと言った表情で父親と母親は固まる。
当然だろう。普通、人は空を飛ばない。
「頼むぞファイアフライ、バレットアルマジロ!」『バレット』『ファイア』『ファイアバレット』
それに炎を放つ銃で、コチラに迫る炎を押し返したりはしない。
「神様なの?」
「え?」
美香が問うた。
「今日はね、美香のお誕生日なの。だからね、美香、神様にお願いしたの」
「お願い?」
「うん。もう一生プレゼントはいらないから。美香はどうなってもいいから、パパとママは助けてって」
「そっか、偉いね。美香ちゃんは」
救世主は美香と視線を合わせるためにしゃがみ込むと、美香の頭を撫でて微笑んだ。
とは言え、美香からはその微笑みは確認できない。当然だ、救世主は仮面を被っているからだ。
「大丈夫だよ。誕生日に死ぬなんて皮肉にもならない。神様が許しても、僕が許さないからね」
ギャレン、ジャックフォームは右腕で父親を。左腕で母親と美香を抱える。
「怖くないよ、美香ちゃん。」
「うん。大丈夫」
ギャレンは翼を広げると飛翔。
三人を抱えたまま、ホテルの近くにある駐車場に着地する。そして三人を解放するとすぐに踵を返してホテルを見た。
轟々と燃えるホテルの中には、まだ逃げ遅れた人たちがいるだろうから。
最後に、ギャレンは先程の答えを美香に返す。
「僕はライダー、みならい。かな?」
「レイプぅ、れいぷぅ、れいぷぅぷぅー♪」
「………」
「わたしのー、彼氏はー、レイプー犯ー!」
「………」
「JSぅ、襲ってぇ、失敗ぃしたぁらJKへー♪」
「ちょ、ちょっと止めませんかその歌!!」
道の駅にあったベンチでソフトクリームを舐めながら、瑠姫は意地悪な笑みを浮かべていた。
まったく、そこそこの音量で歌うものだから近くを通りがかったオバサンにエグイ目で見られたじゃないか。
岳葉はうんざりしたように頭をかいて、瑠姫を睨んでいた。
「ひょっとして根に持ってる?」
「ん、秘密ぅ」
岳葉をからかうのが面白いのか、瑠姫はケタケタと笑っていた。
瑠姫の家族を殺してから三日が経った。ニュースでは今も連日して行われる犯行をしきりに取り上げているが、やはりと言うべきか、岳葉にはたどり着かない。
一方で岳葉達もあの街を離れることにした。あそこは瑠姫にとって辛い思い出が多すぎる。
愛の逃避行とでも言えばいいのか、今日は移動途中に休憩しようと立ち寄った道の駅で、二人はからかい合っているわけだ。
「岳葉くんも食べる? ソフトクリーム」
「え? あぁ、もらおうかな」
「んぐ」
「は? って、んむッ!」
瑠姫はソフトクリームをほお張って口に含むと、そのまま自分の唇を岳葉に押し当てた。
所謂、口移しである。普通に食わせてくれよとは思えど、舌を絡ませてくる瑠姫を前にすれば岳葉など赤子同然であった。
されるがままに硬直し、唇の隙間から白い雫を垂らしていく。
「ぷはっ! へへっ、どう? おいしい?」
「つ、冷たくて、甘い」
「おかわりは?」
「い、いや、別にいいから! ちゃんと食べなさい!」
「ちぇー、レイプ魔に説教されちった」
「もうッ! その話は勘弁してくれ!」
なんて事だ、良い玩具を与えてしまった。
しかし今にして思えば確かになんてアホな事をしていたのだろうか。
一時のテンションに身を任せてはいけないと漫画やアニメ、ドラマなどで耳が腐るほど聞いていたのに。
「ねえ、岳葉くん」
「うん?」
「昨日は……、どうだった?」
艶の良い黒髪を弄りながら、瑠姫は頬を桜色に染めた。
正直さきほどから彼女のスカートとニーソの間にある絶対領域を凝視していた岳葉にとっては、詳細を聞かずとも何の話かはすぐに理解できた。
「う、うん。えっと、あの、凄く、俺は、良かったです」
「ふふ、なんで敬語になるの。童貞感丸出しだよ」
「も、もう違うから!」
「そうだね、私にありがとうしないとダメだね」
童貞とのサヨナラはあまりにも呆気なかった。
あれだけ幼女だのJKだのと考えていた準備期間とは裏腹に、瑠姫の家族を殺した夜に二人は近くにあったラブホテルで行為に及んだ。
何の為に抱き合ったのか、それが分からないから、違和感はあった。しかし岳葉にとってはやはり行為そのものは悪くないものだったのである。
やはり瑠姫は綺麗だ。
長く美しい墨の様な髪はとてもしなやかで、色白の彼女と合わさり、『やまとなでしこ』と呼ぶにふさわしい。
だから受け入れる。あれから毎晩、二人は体を重ねてきた。
「私も、ね、最近ちょっと良い感じかもって」
「え……?」
「始めは岳葉くん下手クソすぎてビックリしたけど、最近ちょっと慣れてきたでしょ?」
彼女はどうやら黒歴史を穿り返すのが好きらしい。
確かに、認めよう。いや認めざるを得ない。岳葉は童貞ゆえ、童貞パワーを初戦闘でいかんなく発揮したのは仕方ないことなのだ。
「おへそに挿れようとした時は笑っちゃってごめんね。誰にでもミスはあるもんね」
「もう止めて! お願いだからやめて!!」
「ひひひ、ゴメンゴメン」
また腹の立つ話だが、笑う彼女の顔が可愛くて岳葉は強く言い返せない。
話は続きに戻る。瑠姫はやはりと少し頬を染めて、照れ隠しのようにコーンを齧りだした。
「でも私も、初めてだと思う。セックスで気持ちよくなったの」
「………」
なんて返せばいいのか全く分からない。
ばつが悪そうな表情を浮かべて肩を竦める岳葉。
仮面ライダーの力を手に入れたところで口が達者になるわけではない。ココ最近、岳葉はなんとなく察してしまった。
有ると無いとではそりゃあ大きく違うし、変な人間に絡まれても大丈夫と言う安心感はある。
しかしいざ生きていく実生活の中で、仮面ライダーの力はほとんど必要ないのだ。
ましてや男女の関係の中になど。
「ねえ、岳葉君。引かない? 幻滅しない?」
「ああ。大丈夫、約束する。なに?」
「あのね、私ね、分からなくなって」
瑠姫は昔から頭が良かった。
あの劣悪な環境ですら勉学には勤しみ、クラスでも成績は上位だったとか。
そんな彼女が分からない事が岳葉に分かるわけが無い。岳葉は底辺の高校でスクールカーストも下の方であったし。
しかし、飛んできた言葉は先程の続きであった。
「ほら、本来キスとかセックスとかって愛を証明するツールみたいなものでしょ?」
「まあ、愛の形はいろいろあるけれども。一般的にはね」
やはり普通の人間ならば好きになった人と唇や体を重ねたいと思うのは、なにもおかしい事ではない。
しかし瑠姫は普通ではない。キスもセックスも、彼女にとってはおぞましい行為でしかないのだ。
だからこそ元彼とはプラトニックな関係であった。そうせざるを得なかった。瑠姫にとって二つは愛を証明するものではない。だから行えない。
「でもね、それってやっぱりおかしいよね。人間として欠落してるよね。だから貴方と勇気を出してキスしてみたの。セックスしてみたの」
「そ、そりゃあ、どうも」
「そしたらさ、いつもよりずっと良かった。キスって柔らかくて暖かいものだなって思ったし。セックスだって……、うん、はじめて気持ち良いって思えたよ。あなたは私に酷い事しないし」
「それはつまり……」
そこで岳葉は言葉を止める。
それはつまり、当たり前の事なのではないだろうか。
つまり瑠姫は性的虐待による行為が脳に刷り込まれており、岳葉とのキスやセックスは普通は当然の事なのに、その落差でむしろ『下手糞』な岳葉との行為が素晴らしいものに感じていると。
分かりやすく言えばクソまずい料理ばかりを食べていれば、そこそこの料理を出されても素晴らしいごちそうに感じるようなものだ。
「それはつまり、なに?」
「え? あ、えっと。愛!」
「へ?」
「愛、愛の力だよ。なんて、ははは」
「なにそれ、へんなの」
とは言え、瑠姫は微笑んだ。
「そうかもね。岳葉くんだから、気持ちいいのかも」
「………」
あたりまえの話、セックスと自慰の違いは、相手がいるかどうかだ。
つまり相手を思いやれるかどうかである。それができれば、瑠姫にとっては誰とやった所でマシに感じるだろう。
岳葉だからではない、それこそ元彼と上手く言っていればもっと素晴らしいものになっていた事だろう。
だから、やはり――、愛ではないのだ。
(クソ、こんな事ばかり考える)
他者の負はよく理解できてしまう。
ソレは自分が負に塗れているからだ、岳葉は自嘲ぎみに笑い、頭をかく。
「このまま、キミと一緒にいれば、私はきっと、普通になれる……」
ふと、瑠姫の言葉を聞いて岳葉は立ち上がった。
そうだ、今はソレで良い。彼女が自身を必要としてくれる間は。
「ねえ、一発ギャグ考えたんだけど」
岳葉は回りに誰もいないことを確認して、変身を行う。
「怪人」
「ぶほっ! あ、ちょっと面白い。ふひゃひゃ」
仮面ライダーシンを使った一発ギャグは、瑠姫さんを吹き出させる事はできたようだ。
そうだ、笑えばいい。楽しければ、辛い事は思い出せない。
「そういうのもいるんだ、仮面ライダーって。グロいしキモイね」
「うん。昭和ライダーってヤツ。俺は古臭いから見て無いけど」
「ふーん、私は興味ないからなー」
岳葉は変身を解除すると手を伸ばした。
「あっちに行こうか瑠姫。なんか美術展みたいなのやってたぜ。見に行こう」
「うん、行く」
悩んで思いつめるより、馬鹿な事を考えて忘れた方が良い。
そうだ、楽しいのが一番なのさ。ライダーの力を与えられても、楽しければオッケーなのさ。岳葉はつくづくそう思う。
「ほら、見てみ。有名な人の絵が並んでるぜ」
「なんか私にも書けそうなヤツばっかり」
「そんな事ないって。ほら、アレとか凄いじゃん。なになに?
「お尻に見えるね」
岳葉と瑠姫はバカみたいに笑った。
それでよかった。それが楽しかった。二人の笑顔は仮面ではなかったのだ。
そうだ、理由がどうであれ、過程がどうであれ、岳葉は瑠姫の前なら仮面をぬぐ事ができる。
瑠姫は岳葉の前なら仮面を脱ぐ事ができるのだ。
誰かが言った。
人間はみんなライダーなのだと。
間違っちゃいない。人は常に自己を隠す仮面を被り、他者と見えないライダーバトルを日々繰り広げていく。
ずっと変身したままじゃ疲れるだろう。仮面を脱げる時が、素顔を見せられる相手がいなければ、
二人は二人さえいれば、問題なかったのだ。
だが、使命を考えていたのも事実だった。
瑠姫がいれば人間としてのアイデンティティは確立できる。だがライダーとしてのアイデンティティを確立する事は難しい。
だから瑠姫と話し合い、考えた、そして結論を出す。
ライダーの仕事は怪人を殺す事だ。だから、瑠姫は一つのお願いを岳葉にしていた。
ずっと自分と一緒にいる事、それだけじゃない、もう一つのお願いだ。
道の駅を出た俺達はある場所を目指し、そして行動を取る。
「お願いがあるの」
アイデンティティがなければ、人は壊れる。
自らが機械ではなく、自らであるための証明を行わなければならない。
だから人は下を作り、自分は他者よりも優れていると確立しなければならない。
悲鳴が聞こえた。収容人数約500人の刑務所の壁を破壊したのは、トライドロン・タイプワイルド。
『タァーイプ・テクニィーッック!』
ドライブ、タイプテクニックによるドア銃の精密射撃は完璧だった。
逃げ惑う受刑者達を前に、選別したターゲットのみを正確に撃ち抜くことができる。
そして邪魔をするものもまた、脚を撃つ事で動きを封じる事ができるのだ。
そう、足を撃つ。
そうする事でターゲット達は他の囚人に紛れて逃げる事はできなくなる。ドライブの前に警備員と、四人の犯罪者が露にされる。
『ファイヤーブレイバァー!』
はしご車のラダーを模したパワーアームが、受刑者の一人を捉える。
そしてそのままフルパワーで力を込めた。アームがわき腹を捉え、そのままメキメキと尚、掴む力を強める。
「輪島正樹。強姦殺人」
ゴキゴキとわき腹を砕く音が聞こえる。
悲鳴とうめき声が聞こえたかと思うと、直後輪島の口から大量の内臓が零れ、彼はそのまま死体に変わった。
帰宅途中の24歳女性を拉致し、車内で暴行、自宅に連れ込み強姦をした後に顔を見られたからといって殺害。
『ローリングラビティ!』
10tと書かれた錘が出現、ドライブはそれを掴むと、思い切り投げた。
その先にはハイハイで逃げようとする受刑者が。
「山田隆三。集団強姦」
錘は山田の頭に降りかかると、そのまま何のことはなく押しつぶした。
頭が砕け、良く分からない色の液体が広がっていく。仲間達三人と共に職場の女性を強姦。
女性は殺されはしなかったが、彼女には婚約者がおり、この事件が原因で婚約は破談となる。
『ロードウィンター!』
タイプテクニックは便利だ。
ありとあらゆる情報機関にハッキングができ、犯罪者がどんな事をしたのか、またはその事件がどういった結果を齎したのかを容易に調べる事ができる。
瑠姫は苦しんだ、だからもう同じ想いをしてほしくないと、岳葉に言ったのだ。
ならばその願いを、叶えてあげるのがヒーローの役目だ。
「向島エレン。強姦」
強力なブリザードが受刑者の体を凍らせていく。
自らの肉体が凍結していく恐怖に悲鳴が聞こえた。しかしドライブの攻撃は止まらない。
向島は16歳の少女を強姦。少女は多感な時期でも合ったためか、事件後に自殺している。
「死ね」
ドア銃の弾丸が凍りついた向島をバラバラに砕いた。
「あと一人、お前を倒す。木原輝義」
岳葉は確信していた。
「お前は人の皮を被ったショッカーだ」
岳葉の前にいる木原と言う男はこの収容所でもメインターゲットの男であった。
罪は殺人。ネクロフィリアである木原は、二人の少女を殺害した後、行為に及んだ。
「死者を冒涜し辱める行為。吐き気がするぜ」
ドライブはドア銃を構えて木原を殺そうと歩み寄っていく。
どうやって殺そうか、どのライダーで殺そうか、それを考えていると、何か――、鳥の鳴き声が聞こえた。
「そこまでだ」
「!」
ディスクアニマル。茜鷹がドライブの手を打ち、ドア銃が地面に落ちた。
なんだ? ドライブが真横を見ると、そこには一人の少年が立っていた。茜鷹はしばらく空中を旋回すると、その少年の肩に止まる。
「手に入れたおもちゃは楽しいかい? ソイツは便利だろう?」
「お前は――」
メガネをかけた少年がドライブを睨んでいた。
注目するべき点はやはり二つ。一つは少年が何者か、どこから入ってきたのかは分からないが、普通ドライブを見れば戸惑いや怯えるはずだ。
しかし少年は全く怯んでいない。そればかりかドライブと堂々と対峙しているじゃないか。
そしてもう一つ。茜鷹がいると言うことだ。
仮面ライダー響鬼に出てくるアイテムの一つ、それは岳葉として理解している。もちろん茜鷹を呼んだ覚えはない。
「でもね、ココはキミの玩具箱じゃなんだよ」
「………」
「仮面ライダーは自由の為に戦う」
ドライブは――、岳葉は理解していた。
元々その可能性は考えていた。信じられない話ではあったが、神と言う存在がいる以上、自分だけに声をかけると言う事はしていないんじゃないだろうか。
神が何の為にライダーの力を与えて転生させたのかは不明であるが、いずれにせよ『可能性』はずっと考えていた。
それが今、目の前に現れただけにしか過ぎない。
「自由と勝手を履き違えるな」
「お前も、俺と同じか」
「ああ。僕の名は市原隼世。キミと同じ、ライダーの力を持っている」
「あのおっさんに会ったのか」
「神様の事か。ああ、会ったよ。彼は僕に全ての主役ライダーの力を与えるといったが、僕はそれを断った」
「?」
つまり隼世もまた一度死に、蘇ったのだ。
同じく特典を与えられるといわれたが、隼世はそれを断ったと。
「恐れ多いからさ。僕は未熟だ。主役ライダーの方達と肩を並べる事はできない」
だからこそ望んだのは別の力。
そうして隼世は手に入れたのだ。サブライダーの力を。
「おいおい、サブなら追いつけるってか?」
「そんな馬鹿な。彼らもまた僕にとっては憧れの存在だ。恐れ多いのはかわりないよ」
「………」(コイツ信者か。めんどくさそうだな)
「サブライダーは時に主人公よりもリアルだ。より明確な正義を持つ彼らに近づく事で、僕もまた
隼世は懐からロックシードを取り出した。
「なのにお前は、偉大なる主役ライダー達を凶器として使った」
岳葉も変身を解除すると、ロックシードを構えてにらみ合う。
「キミ、名前は?」
「……本間岳葉」
「岳葉、君はココで潰す。これ以上、ライダーの名を汚させるわけにはいかない」『バナナ!』
「うるせぇよクソ信者。お前のライダー像を俺に押し付けんな」『オレンジ!』
にらみ合う二人。今まさに地面を蹴ろうとしたとき、ポツリと、岳葉は呟く。
「お前に、必要とされる喜びが分かるのか……!」
「………」
いつのまにか、二人の腰には戦極ドライバーがあった。
「いずれにせよ、自分の喜びの為に人を傷つける事は許されない。お前の勝手な快楽に、仮面ライダーを使うな!」
「チッ! いちいちうるさいなお前は!!」
同時に駆けた。距離が詰まる。
あと数歩。そこで二人は口にする。
「変身!」『ロック・オン!』
「変身!」『ロック・オン!』
眼前に、お互いの敵が見えた。
『ソイヤ!』『カモン!』『オレンジアームズ!』『バナナアームズ!』
交じり合う音声。
『花ナイ道ト・オブン・ステピアージ!!』
しかし道は交わらない。
鎧武とバロンは走った。そして走り抜けた。
通り際に大橙丸とバナスピアーがぶつかり、擦れ、火花が散る。
スピードが強すぎたか、それぞれは地面を踏み込み、手を地面につけることでブレーキを行う。
その中で双方は同時に体勢を整え、アクションを起こす。
まず動いたのはバロン。
バナスピアーを突き出し、鎧武を狙う。
しかし一方で鎧武はまず無双セイバーでバナスピアーを弾くと、大橙丸を振るってバロンの首を狙った。
衝撃。
バロンは体を捻り、バナスピアーの柄で大橙丸を弾くと、そのままスピアーで切りかかる様に刃を振るう。
鎧武は二つの刀を交差させる事で、振り下ろされた槍をしっかりと受け止めた。
お互いの表情は見えない。当然だ、仮面を被っているから。
それでも、怒りだけは、その武器を伝い双方の心にしっかりと伝わってきた。
( ́・ω・ ) 本当は前後編は一話だけと思ったけど、あれはやっぱりなしで。
二話完結がライダーの基本ですしね。せやろ?