二日が経った。
俺は未だに童貞だった。しかし焦りは無い。二日の時間で俺はテストを重ねた。
そして確信する。俺は、神を超えたと。
現在時間は夜。
俺は適当に街を歩き、目に付いた建物に足を踏み入れる。
場所はだいたいゲームセンター周辺かパチンコ店の周辺。この辺りはバカが多い。俺はわざと大きく肩を揺らして歩き、『人にぶつかる』事を心がける。
「おい」
海中を漂うエサに、何も知らない魚が食いつく。
ゲームセンターの中で俺を呼び止めた、見るからに頭の悪そうな金髪。俺は肩を掴む手を振り払うと、男の腹に蹴りを入れた。
うめき声をあげて下がっていく男。ザワザワと騒ぎ出す店内。男の仲間も集まってくる。
その中で俺は、フォーゼドライバーを取り出した。
元々頭に簡単な知識は流れてきたが、俺はこの二日でライダーの事はだいたい調べた。
仮面ライダーフォーゼ、
フォーゼは友達を作る力じゃない。
『
ガキ大将になる力なんだよ。
「変身!」
ガシャンとレバーを引く音。
すると大量の蒸気が噴出され、俺を取り囲んでいた男達が吹き飛んだ。
そして俺は、仮面ライダーフォーゼになる。
「ゲームスタートだ。ボコボコにしてやるぜ」
両手を広げて俺はゆっくりと歩く。
騒ぎ出す客達を無視して、俺は倒れた男の首を掴む。
やはりこの力はいい。大柄の男も簡単に持ち上げる事ができる。俺はそのまま強く、男の首を絞め続けた。
「どうした、お友達が死んじまうぞ!? ハハハ!!」
その言葉に感化されたのか、男の友人達が俺を引き剥がそうと掴みかかったり、蹴りかかったりと無駄な抵抗を見せる。
そう、フォーゼの鎧の前では弱い人間の攻撃など無力だ。俺はそのまま、ただひたすらに男の首を絞めた。
「ァ、――カ」
男が白目を剥いたのと同時だった、男の股間から大量の水が漏れる。
「ハハハ、きったねぇんだよ! クズ!」
漏らしやがった。俺は男を投げ飛ばすと。恐怖のあまり逃げ出そうとした男の仲間達の肩を掴む。
そして一人の男の腹を思い切り殴った。あまりの衝撃に仲間はうめき声をあげてへたり込む。大丈夫、手加減は覚えている。
もちろんフォーゼの力があれば人は簡単に殺せる。しかしそれじゃあつまらない。殺せば一瞬で終わりだ。
恐怖と苦痛を与える事こそが、俺の存在をより強調させてくれる。
『
エレキステイツに変身。
ビリーザロッドを構えると、俺はそれを適当に見つけた男に押し当てた。
激しいスパークと、男の悲鳴。これだ、これなんだよ弦太朗。
お前は友達とか下らないことを言うんじゃなくて、フォーゼの力で己の力を見せ付けるべきだったんだ。
俺はお前よりもフォーゼを使いこなしていると確信している。
「痛いねぇ、バチバチくるでしょ?」
「た、たすけて!」
「はい、もう一回!」
再び悲鳴が聞こえる。
そうだ、誰も俺に逆らえない。俺はもういかなる苦痛を跳ね除ける力を手に入れた。
力だけを持つバカに、媚びへつらう事はない!
「痛いか! ハハハ! 助けてほしいなら俺の足を舐めろ、屑!」
もう一度俺はビリーザロッドを男に押し当てる。
そうすると男は涙目で俺の足を舐めてきやがった。笑えるぜ、あれだけ偉そうにしてたヤツも力をみせればコレだ。
脳みそがお花畑の弦太朗くんならココでコイツとも友達になるのだろうか? 俺はゴメンだね。バカはバカ、区別は必要だ。
「きたねぇんだよ!」
三度、ビリーザロッドを男に押し当てる。もちろん許してやるなんてのは嘘だ。
今度は電力を強めに、そうしたら男は痙攣を起こして動かなくなった。気絶したんだろう。俺は笑い声をあげて次のターゲットを探す。
しかし、そこでサイレンの音。しばらく黙って待っていると、店内に警察官が三人ほど流れ込んでくる。
「おい、お前! 何してんだ!」
無能な警察官どもはこう言う時に限って駆けつけるのが早いらしい。
だが問題は無い。法、警察、それらに俺を縛る力はない。俺はフォーゼドライバーを剥ぎ取ると、変わりにファイズドライバーを腰へ巻きつける。
フォーゼの体のまま、俺はファイズフォンを取り出した。
『5』『5』『5』『Standing by』
フォンを折りたたみ、ベルトへ装填する。
「変身」『Complete』
紅い閃光が迸り、俺の体はフォーゼからファイズに変わる。
そして素早く、アクセルフォームへの変身を完了させた。
「止められるもんなら、止めてみろ」『Start Up』
オルフェノクにも人間にもなれないコウモリみたいな男だ。恐怖に吼え、狼の様に孤独を求める。
だが俺は違う。俺はファイズの力でなすべき事をする。ファイズは欲望の道具だ。俺はそれを理解している。
「そう、俺は既に、オルフェノクや人間を超越している!」
高速で動くアクセルフォームを人間が捉えられるわけが無い。
警官の肩を殴りつけると、体は宙に浮き上がり、アーケードゲームを粉砕しながら地面に叩きつけられる。
もう一人の警官はクレーンゲームのガラスを突き破ってぬいぐるみの中に頭を沈めていた。
最後の一人は地面に倒れている。俺は思う。俺よりも構うべき事件が沢山あるはずなのにコイツ等は何をやっているんだ。
お仕置きしてやる。指を伸ばして、俺はニヤリと仮面の奥で唇を吊り上げた。
「ハハハ、面白かった」
ゲームセンターを出た俺は満足だった。
最後の警官には思い切りカンチョーしてやったぜ。ありゃあもう人工肛門確定だな。
携帯でネットニュースを確認してみたら、それなりには話題になってるみたいだ。仮面ライダーのコスプレをした人間がココ最近大騒ぎをしてるって。
まあでも俺を捕まえる事はできない。戸籍や個人情報は神様のおっさんが都合よく用意してくれたみたいだから、俺を捕らえる事は至難の業だろう。
ましてや仮に警察が駆けつけたとしても俺を捕まえることはできない。
最高の気分だ。俺はそのままに、当初の計画を実行する事にした。
何かの雑誌で見た事がある。
童貞が許されるのは25歳までらしい。
大丈夫、俺はまだ大丈夫だ。と言うわけで、俺は一刻も早く童貞を卒業しなければならないのだ。
しかしただ卒業するだけならばつまらない。どうせならば俺にしかできない事をするに限る。
それが小学生の女の子を強姦する事なら随分間抜けな話に聞こえるかもしれないが、別にいいじゃないか。俺は何をしても許されるんだから。
俺は人気のいない路地に駆け込むと、ダブルドライバーを取り出し、装備する。
そして念じるだけで、手にガイアメモリが出現した。
『サイクロン!』『ジョーカァ!』「変身!」『サイクロン・ジョーカー!』
感情や状況に流されない、それがハードボイルドだろう? 翔太郎はバカだったから至れなかったが、俺は違う。
常に冷静、冷酷であれ。俺に迷いは無かった。サイクロンの力で空を飛行し、ターゲットが通る道を目指す。
ある程度下調べはしている。俺が狙うのは
彼女はいつもピアノの練習で家の近くの教室に通っている。ポイントは家が近いと言う点。だからなのか、彼女は夜遅い時間でも一人で家に帰る。
むろん、迷いは無かった。空から紫ちゃんを発見する。黒髪をツインテールにしており、白いワンピース姿が特徴的だった。
丁度ピアノが終わっての帰りらしい。俺は風を切り裂き、紫ちゃんの前に降り立つ。
「え? え!?」
「悪いけど、欲望のはけ口にさせてもらうよ」
俺は紫ちゃんの肩を掴むと、再び飛行。
近くの人気の無い公園に紫ちゃんを連れ込むと、草陰に彼女を押し倒す。戸惑い、恐怖に表情を歪める紫ちゃん。
「大丈夫だよ、大人しくしてればすぐに終わるからね」
なるべく不安を与えないように声色を優しく変える。
ダブルの力があれば、お菓子の包装紙を破くように紫ちゃんの服を剥ぎ取る事ができた。
白い肌と可愛らしい下着が見えたとき、あられもない彼女の姿に俺は激しい劣情をかき立てられた。
小学生を犯す。
未曾有の背徳感に、僅かにあった良心は消え去り、俺は早速と行為に及ぶつもりであった。
しかしココで問題が起きる。はて? どうやって性器を出せばいいのだろうか?
ダブルの鎧が邪魔をしている。股間だけ変身を解除しようか? やり方がイマイチ分からない。
クソ、フィリップなんて邪魔なだけだと思っていたが、こういうときは必要性を感じるって話だ。
すると直後、耳が潰れんとばかりに絶叫が響いた。
「誰か助けてぇえッッ!!」
「お、おい! こら、騒ぐなよ!」
流石に小学生でも自分がどうなろうとしているのかは分かるのか、紫ちゃんは必死に俺から離れようともがき、叫ぶ。
だが逃がすわけにはいかない。俺は彼女の肩を掴むと、叫ぶ、黙れと。
黙れ、つまり言葉を発するなと言う事だ。なのに彼女は俺の警告を聞こうとしない。
「お願い! だずげでぇえ! おどうざん! おがあぁさんッッ!!」
涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら彼女は助けを求めた。
かわいい顔が台無しだ。それに俺の言葉を無視する点が、無性に苛立った。
「ああもうッ! 静かにしろよ! パンチするよ! 顔がグチャグチャになるよ!!」
脅しの言葉だ。本気じゃなかった。
もちろん効果は絶大で、彼女は青ざめ、唇を震わせながら俺を見る。
これで静かになった。静かにはなったが――。
「ご、ごめんなさい。殴らないで……! 痛いことしないでくださいぃ」
「あぁクソ、最悪だよ……」
萎えた。綺麗な白い体も泥や土で汚れている。
これじゃあ
そう思ったときだった、俺の頭部に衝撃が走ったのは。
「紫! 大丈夫か!!」
石で殴られた。
振り返ると、知らないおっさんが俺を睨んでいる。
一方で飛び跳ねるように起き上がり男に駆け寄っていく紫ちゃん。どうやら彼は、紫ちゃんのお父さんらしい。
帰りの時間が少し遅いから心配になって迎えに来たのだろう。その途中で公園から悲鳴が聞こえたものだから、様子を見に来たと。
紫ちゃんはお父さんの後ろでガタガタと震えている。
一方でお父さんは烈火の如く怒り狂い、激しい眼光で俺を睨んでいる。
ギャーギャーうるさいが、正直俺は彼の話を全く聞いていなかった。
すぐに二人は俺から逃げ出す。
このまま見逃しても良かったが、なんだか俺は納得がいかなかった。
仮面ライダーの力を手に入れたのに、やろうとした事がうまくいかない。
それがなんだか無性に腹立たしくて、俺は引き下がらなかった。
『ルナァ!』『ルナ・ジョーカー!』
俺は、真面目に生きてきたつもりだった。
でも、正しい事をしても叱られるのがこの世界だった。
だったら俺はどう生きれば良かったんだ。もしもココで失敗すれば、俺は――、本当に、なんで。
「お父さん!!」
ルナの力で俺の手はどこまでも伸びる。
紫ちゃんの目の前で、俺は彼女の父親を掴み、引き寄せ、ボコボコにする。
顔面に無数の青アザができたところで、飽きが来た。それにこのまま殴り続ければ本当に死んでしまう。
紫ちゃんのお父さんはたぶん、死ぬほどの悪人では無い。俺の邪魔をした罪はこれで清算できただろう。
俺は泣き叫ぶ紫ちゃんに背を向けて、そのまま闇の中に消えていった。
次回更新は明日予定。