「護っ!」
オレがネイバーとして世間に広まってしまい本部にレイジさんに連れられて本部に来た日。会議室を後にしたときオレを呼ぶ声がしてそちらを向けば姉の忍田瑠花が心配そうにな表情で立っていた
「姉さん…っぅ!」
「大丈夫?怪我して…」
突然抱きしめられて肩が鼻に当ってちょっと痛かった
姉さんの部屋はボーダーにあって本部で暮らしている。重要人物でもあるため、オレが玉狛支部所属って事もあり弟のオレでもあまり来たことがない。だからなのか床に座っているのだけど、姉さんに抱えられるような体勢になっている。これでももう15歳だからこんなことされるのは正直恥ずかしい
「…学校、いやなら辞めなさいよ?辛い目に会うのは分かっているのだから」
「うん。でも…卒業はしたいから…必死でお願いしてみるよ…」
「そう……あ、そうそう。この前小南ちゃんの学校の文化祭に行ってきたんでしょ?護、かわいいかっこうしてたわね」
「っっ!?な、なんで知ってるの!?」
最初は心配して話してくれていたけど、話題を変えようとしてきてなぜか文化祭の女装コンテストのことができてきた。しかもスマホにステージに出ているときの女装した格好までバッチリと映っていた
「ふふふ。小南ちゃんが教えてくれたわよ?」
「き、桐絵ちゃんのバカー!」
思い出したくもない負の記憶。しかも画像だけでなく動画まであるようで、アピールタイムの会話が流れてきた
「や、やめてよ姉ちゃん!!」
「えー?どうしよっかなー?」
「お願いだからーー!」
オレが赤くなって止めようと必死なところが面白いのか、あと少しで届きそうなスマホを奪おうとするができなかった。さっきとは違う意味で涙が出てきた。しかも「姉ちゃん」なんて前の言い方でしてしまった。いつまでもそれじゃ子供っぽいからって「姉さん」って変えているのに
「ふふー、護はまだまだお姉ちゃんに勝とうなんて百年早いわよ」
「ぅぅぅ…子供みたいなクマのパンぃででで!?」
「護?女の子に下品なことを言う口はこれかな?んー?」
「ごひゃ、ごひぇんってー!」
膝抱えて不貞腐れたオレは仕返しとばかりに姉ちゃんが好きなパンツを口にしたら頬を摘まれて引っ張られた。結構力があって千切れそうだった
「女の子に下着の話なんてダメだからね?」
「…はーい」
おかしいな。姉ちゃんは戦えないからオレが強いはずなのに。格闘だって自信はあるのに
「全く…でも、まぁ見栄とか張らなくて良かったわ。護はまだまだ目の離せない弟だね」
「全くって姉ちゃんが強引なんでしょ!?無理やり膝の上に座らされるし!文化祭の動画流すし!頬めっちゃ引っ張るし!!むしろこっちが苦労するよ!!」
昔からこうだ。おじさんが私の子だって紹介されたときから少し強引なところがある。それも後から聞いた事情を考えれば無理をしているって分かったけど
オレと姉ちゃんは当然血の繋がりはない。同盟国だったアリステラの王族の娘。だけど5年前に滅んでしまい今はボーダーに協力してもらっている。逃げたときに赤ん坊だった陽太郎も王族の子。瑠花の実の弟だ。いまはアリステラのマザートリガーを運用するために姉ちゃんはここにいるのだが
亡命してきたオレを戸籍上は従兄弟になるが、陽太郎と同じ弟のように接してくる。不安な様子を見せるたびに今回みたいに笑わせたりわざといじめて辛いことから目を逸らさせようとするのだ。最初なんか「私のことはお姉ちゃんと呼びなさい」と初対面でいきなりそんなこと言われて、しかも今は無いとしても王族の子をそんな無礼なことを言えるはずも無かった
「瑠花様」と呼べば納得してくれず顔を掴まれて魚顔にされたり、手を上げることができないのをいいことにどこで覚えたのか関節技をキメてきたり無理やり「姉ちゃん」と言わされたのだ。元軍人だったこともあり後ろめたさはあった
「これからどうするの?」
「…とりあえず玉狛支部で暫く暮らすことになった」
「そう…それなら陽太郎のことは安心ね」
「…うん、何かあったらオレが守るよ」
姉ちゃんは本部にいるから安全は確保されている。だから外にいる陽太郎はオレたちやレイジさんたちの部隊で守るしかないのだ。オレが支部で住むことになったことでより安全だと安心できるのだ。オレのブラックトリガーの守りは堅いから。なによりそうならないでほしい。クラウントリガーである雷神丸が陽太郎を守るために暴れだしたら余計に大変だから
「陽太郎は元気?」
「そりゃもう…!人のどら焼きをほしがるくらいに元気だよ」
他愛もない会話。だけど今のオレにはとても心地よくて着替えを取るために家に向かうまで久しぶりに姉ちゃんと話した