「オレの、家……?」
気がついたときは目の前には以前住んでいたオレの家があった。久しぶりに見た家に胸の中は懐かしい気持ちでいっぱいだった。玄関を開ければ母さんがご飯を作っていた。オレの好きな牛肉を煮込んだスープを
「お帰り護、アナタ。今日もお疲れ様」
「あ、うん…ただ、いま」
「どうした護?今日の任務で疲れたのか?そんなんじゃ父さんみたいにはなれないぞ」
「父さ…ん」
分かっている。ここは夢の中だ
母さんと父さんが生きているのはおかしいことぐらい分かる。だけど、たとえ夢でも姿、声を聞けてうれしくならないはずもなかった
「っ…ぅぅ」
「護?どうしたの泣いて?」
「ごめん、なざい…オレの所為で…」
オレが過信しなければ母さんが死ぬことはなかった。オレが
「ごめん、ごめん…」
「いいのよ、護。あなたが元気で居てくれれば」
「ああ、お前が生きてくれればそれでいいんだ」
泣き崩れてずっと謝るオレにやさしく抱き締めてくれる。ぬくもりを感じて余計に父さんと母さんだと思ってしまう。これは夢、いつかは覚めてまたさよならをしなくちゃいけない。なのに流れる涙は止まることがなかった
ズサッ
「ぇ?……母さん?父さん…?」
何かが刺さる生々しい音を聞いてなんなのか顔を上げてみた。すると2人の背中には木製のなにかがあった。そしたらそのまま父さんと母さんは倒れてしまった。一体どういうことなのかと背中を見たら赤いしみが広がっていた、その中心には
「な、に…これ……」
口から出た言葉は理解していてもソレを否定したいと願っていた。けれど全く反応しない2人にソレは間違いなく剣が突き刺さっているという事実が色濃くなった
嫌だ嫌だ現実を受けれいたない子供のように泣き崩れるオレ。そこへ追い討ちをかけるように声を掛けられた
「全部お前の所為だ」
「っ!、ぉ…まえは…」
振り向けばそこにはオレが最初に殺したネイバーが立っていた。口を歪ませて殺したことに罪悪感など微塵も感じさせなかったそいつに、オレは母さんの背中から剣を抜いてソイツを斬った
「うああっぁあああ!!なんで、なんで!!母さんを殺したんだ!?母さんはなんも悪くないのにッ!!」
もうしたくないと、しないと誓ったはずの殺しをしてしまった。簡単に
夢の中とはいえオレの決意はこんなにも薄っぺらかった。これじゃ悪魔だったり危険人物だったりといわれても仕方ない。生きてていいのか分からない、後悔を感じているとき人の気配がして回りを見れば10人はいそうなくらいのネイバーがいた。みんな武器を持って
「ぃや、ぃや…もう、オレは……」
「許さん…お前だけは」
「殺せ…」
「殺せ、奪え」
「殺せー!!」
「オレはぁぁぁあああーー!!」
全員虚ろな表情でゆっくり近づいてきて武器を向けてきた。殺せ殺せと言われてオレは怖くなりまた剣を持って斬った
「いやぁぁあ…やだぁあ!!オレは、オレは怖かったんだ!!お前たちが!!怖いんだよ!!!もう嫌なんだ、あんな痛いのはもう嫌なんだよ!!!だから仕方ないんだ……!!だから……だから…オレはっ……」
首を切って、心臓を突き刺して、四肢を切り落として、胴を切り離して叫びながらただただ剣を振り続けた。悲鳴と恨みの言葉を聴きながら動かなくなるまで
「オレは……嫌なんだ…痛いのは……あんなのはもぅ、嫌なんだ………だから仕方ないんだ。こうでもしないと怖いんだよ!!」
すべてが終わったときオレは血の海と肉塊の中央に立っていた。膝を崩して自分で自分を抱きかかえるようにした。こんなに怖かったのかと驚くほど震えていた
「助けて……だれかッ…お願い……許して…助けてっ」
こんなオレでも助けてくれるのかはわからないけれど言わずにはいられなかった。一菜や春多は助けてくれるのかもしれない。オレがどんなになってもどんなことをしても付いてきてくれた。多分こんなオレでもずっと傍に居てくれるかもしれない。叔父さんは怒ると思う、けれどやっぱり母さんの子だからって傍に置いてくれるかも、都合のいいことだと思うけど一人になってしまうのは怖い
そんなことばかり考えていると突然頬が痛くなった。目を開けると真っ白い壁があって、一体どうしてなのかと混乱していると上から少し怒り気味の声が聞こえた
「護!いい加減起きなさいよ!食器片付けられないでしょ!」
「き、りえちゃん…?」
顔を動かせば上から見下ろす桐絵ちゃんが腰に手を当てて部屋に居た。体を起こすと妙に頭が静かで、寝起きのときのゆっくりとした思考がすぐに通常状態になって状況を理解した。ただ寝ていたのに起こされたのは気に入らないため部屋を出ようとしていた桐絵ちゃんの腕を掴んで後ろに固定して壁に押さえつけると机の上にあった定規を手に取り首に当てる
「昨日クリスマスで疲れてるんだ。勝手に起こさないでよ」
「ちょ、護…あんた何をするつもりよ……?」
「それに知ってるでしょ?オレ、今色々大変なの。そんなときに無理やり起こされるの嫌なんだけどね。ソレより知ってる?ただの板でも擦れば皮膚が切れて出血させることもできるんだよ?」
「っ…!?」
久しぶりに楽しくご飯を食べたと言うこともあり満腹になったり、おじさんから貰ったゲームを遊んで夜更かしをしたりなど睡眠時間的には足りていないのだ。単なる逆ギレだがオレは今起こされたことに苛立ちを感じている
定規に力を入れると桐絵ちゃんの目に涙が溜まるが何も感じなかった。ただ起こされた腹いせをすることしか頭になかったのだが
「隊長!?何してんだよ!」
今度は春多が入ってきて手を伸ばして邪魔をしてきた。逃れるために距離を取ったら騒ぎを聞きつけたのか一菜と遊真が来た
「っ…何って、無理やり起こされた腹いせっ!?」
「っ!護の馬鹿!!アンタなんかもう知らないわよ!!」
頬に突然の痛み。乾いた音が響いて頭の中にあった考えが吹き飛ぶと春多たちが緊張した表情でオレを見ていた。桐絵ちゃんは部屋を出て行き、最後に見た顔には涙を流していた。そこでオレ何をしようとしていたのか
「は、るた…オレ、まさか」
「たぶん、そうだと思う」
結局オレはどこまで行っても、どんなに良い事をしても畜生であることに変わりなかったのだ。しかも4年以上も過ごしてきた仲間に何の躊躇いもなく殺そうとしていた。オレは非情で人でなしでしかなかった
そのあとからの新年までは桐絵ちゃんに避けられてばかりだった。あんなことをすれば当然のことだろう。春多たちの説明で周囲の誤解はないのだが、桐絵ちゃんが仲直りを望んでいないのなら仕方ないことだ。諦めるしかない
仲間にまで手を掛けようとしたオレには相応しい罰だ
新年を迎えても桐絵ちゃんとは仲直りはできず。支部のみんなは初詣に行くために玄関に集まっていて、オレは留守番をしていなくちゃいけなくなった。というよりはしていないといけない
まだ世間ではオレのことを敵視した意見が多く飛びかっており、しかも最悪なことに顔写真までネットに公表されている。学校の誰かが売ったのは考えなくても分かることだった
「ほんとに大丈夫か?」
「オレたちも残った方が…」
レイジさんや春多が心配してくれるが、むしろみんなの方が心配だった。オレに関する情報は必ずどこからか漏れて急速に拡散されていく。つまり仲間のみんなも危険だということだ
誰かの関係者は危険だ、みたいなことをこの4年近くで学んだことだ。知らないが故に面白半分に広まっていく。ネットだから特定されないだろうと安心しきって嘘の情報でさえも流れる
「大丈夫だよ。大人しく支部にいるから。テレビで映画でも見てソファで寝転んでぐーたらしてるから」
「それならいいんだけどよ、何かあれば連絡しろよ?すぐに戻るから」
「ありがと、ボス」
ボーダーの広報部の根付さんたちががんばって誤解を解いたり悪質な情報の拡散の阻止をしているが、おそらくイタチごっこにしかならないと思う。オレ一人のためにあまり無理はしないで欲しいかな。組織的なボスは城戸指令だけど、この支部では林藤さんがボスだ。橋を渡って見送った後、リビングに戻ってさっき言ったとおりテレビを点ける
「さ~て、家じゃできなかったことをやるかな」
部屋から持ってきたのはオレが大好きな「ニャン大冒険」シリーズを1話から見ることだ。テーブルにジュースとお菓子を用意して、どてらも着てエアコンも入れて部屋を暖めて準備は万端
いつもならおじさんがずっと見るなと言ってくるからできなかったことだ。ディスクもセットしてリモコンの再生ボタンを押す
「あー懐かしい」
約半年振りに見る1話は懐かしい気持ちにさせてくれた。小さいながらも奮闘しまっすぐな意思で信頼を勝ち取り仲間を増やして旅するニャ吾郎はかっこいいものだ
こっちに来た頃はこういうエンターテイメントは少なかった、だから人じゃなく絵が動いて喋るのは本当に感動した。特にロイはオレ以上にのめり込んでしまった
「そういえば…初詣にロイ見かけなかったな」
いつもの支部のメンバーはいたが、そこにロイの姿は見かけなかった。どうしているんだろうと部屋をのぞいてみると臭かった。体を洗っていないときのような
「おーい、生きてるのかー?」
「……ぅぅっ」
入ると案の定部屋は暗く、電気を点ければごみが大量に散乱している。しかもいつのまにか戸棚のフィギュアは前見たときより増えている気がした。完全にオタクの住処だなとロイの恐るべき染まり具合に引いていたら足元からうめき声がした
「……ぅぅう、まぁもーるぅぅ」
「うわっぁあ!?び、びっくりさせるなよ!」
見ると痩せこけたロイが手を伸ばしていた。オレは父さんがゾンビ映画のシーンを思い出させる光景にビビッて一気に廊下まで下がってしまった
「全く、携帯があるんだから連絡ぐらいすればいいのに」
「電源無かった。それより護が悪く書かれている方がもっと気に食わないから、そっちが忙しかった」
「気持ちはうれしいけど、ただのもぐら叩きにしかならないぞ?」
もう軍人だった頃の面影は欠片もないくらいに肉が落ちていてびっくりした。とりあえず何日も風呂に入っていないらしいので、熱いのいやだと喚くロイを無理やり連れ込み洗ってやった。オレと同い年のはずなのになんで介護みたいなことをしないといけないのか納得がいかなかった
それから時間的には少し早いがお節の残りを二人で食べることにした。なんでずっと部屋に篭っていたのか聞くとオレがネイバーだとバレた日からネットではあること無いことをが広まり、クラスメイトだって言う奴が洗脳されるんじゃないかとか、なんども触ってしまって最悪など書かれていたらしい
ロイはそれらの誤解を解こうとがんばったらしいが全く聞く耳を持つどころか、頭のおかしい奴や洗脳された危険人物など言い返されたそうだ
気持ちはうれしいが所詮悪いところが分かればずっと引き摺ってしまうものだから諦めたらと言おうとしたら、ロイが突然泣き出した
「だって…護は何も悪くないよっ……僕をあの地獄から解放してくれたんだもの!やりたいこと何もできなかったあんなところから!」
「…ロイ」
ロイも一菜と同じ親に決められた道を進まされた奴だった。一般家庭だったから小さい頃から知っているけど、何事も成績や結果がすべての考えの親の元に生まれてしまったがために上位であることを強いられ、優秀な軍人として育てられたのだ
成績思わしくないときは体に痣などできることもよくあった。その度に逃げたいとか帰りたくないとか泣いていたこともある。だからオレは国を出るときにロイにだけ話を持ちかけたのだ。返事は即答だった
無事にたどり着いた後はこれまで圧迫された生活の反動かやりたいことをやりたいようにしていた。トリガー開発もその一つ
「お前がまた苦しむこと無いだろ。そりゃオレも…辛いけどさ。それでもやっぱり親友が変わりに辛い思いをするのも嫌だよ」
「護……」
「少ないけど玉狛のみんなはオレのこと信頼してくれてるし、オレもみんなのことを信頼してる。そうでなかったらオレ、ここにいないしね?」
レイジや桐絵ちゃんみたいに長く皆と居たわけじゃないけど、オレのことを信じてくれている。居場所を売ることだって容易いのに守ってくれている。そんな人たちを裏切れない。そもそも裏切るつもりなんてないけど
「んなことより、ロイ。なんだよのガリガリは?体鍛えろよ!」
「えー僕エンジニアだから鍛える必要なんてないんだけど?」
「親友としてほっとけないよ!その情けない体!!毎日筋トレしろ!」
「やーだー」
「…なら、サボった日は…」
「え、なにを…するの?」
「……棚にあったフィギュア。1体ずつ捨てていく」
「いやーーーー!!?僕が一生懸命集めたコレクションを捨てるとか鬼かよ!?」
「たまには心を鬼にしてお前を鍛えないとな」
「鬼ーーーーー!」
洗っていてわかったこと。それあロイの体が心配になるほど細すぎたこと。これから心を鬼にして最低でも平均程度には戻さないといけないとメニューを考えることにした
「あとでレイジさんと相談して決めるから」
「あの筋肉ゴリラと相談しないでー!」
筋トレに関しては詳しいからガリガリのロイでもできるメニューを作らないといけない。体を揺さぶって阻止しようと叫ぶが無視だ
そういえば、桐絵ちゃんに起こされたときは心が静かで何の感情も出ないほど冷静だったのに、今は隣のロイがうるさいし鬱陶しいとさえ思っている。非情になるのなら起こされたときみたいになってもおかしくないのにな
考えれば考えるほどオレって何なのかわからなくなった
・・・3ヶ月ぶりか・・
相変わらず心理描写が難しい