「メリークリスマース!!」
25日の夜はクリスマスパーティで、玉狛のみんなが集まるとボスの合図で始まった。テーブルにはレイジさんが作った料理やケーキが並んでいる
「隊長!なにから食べる?」
「自分で取るよ……両手が使えないわけじゃないから」
春多が紙皿を持って代わりに取ってくれようとしているが、右手は利き手だから箸だってしっかり使える。そこまでしてもらわなくてもいいと言うと心配そうな目で見てきた
「我慢とかしているだけじゃないから」
それでも心配みたいだ。気持ちは嬉しいがどう言っても今のオレにそこまで言葉に力は無い。手首を切って病院に運ばれるということだけでなく、誰にもなにも相談せず溜め込んで自滅しいくという前科があるため、一菜もチラチラとこっちを見て気にかけてくる
病院で治療を受けたオレは輸血するだけで入院の必要が無いため、そのまま支部に帰って事の顛末を聞いて少し驚いた。たまたま、タイミングが重なっただけで一隊員の不満が爆発してしまった。おじさんはこのことが分かっていれば防げたというのに出来なかったと、謝ってくるがおじさんが悪いわけじゃない。しかも続けてボーダーがオレがネイバーだと否定しなかったとことで真実に変わってしまったことに、城戸指令上層部の人たちも今回は自分たちに非があると言っている。とくに根付さんはテレビに映って発表したわけだから他の人より責任を感じていた
オレから何か要求とかあると聞かれたけどそんなものはない。偶然が重なったとはいえ、一時休隊にしたのも複隊したのもオレの判断だし。怪我したのも自分でしてしまったことだ。どう繕ってもオレが
「隊長!くじ引かないと」
「あ、ああ………7番?」
どうやらいつの間にかプレゼント交換をやっていたみたい。一菜に肩を叩かれてやっと気付いた。割り箸がもう1本しか残っていなくて、引く意味あるのかと疑問に思った。太いところには黒い文字で「7」と書かれていた
。誰のプレゼントなんだと受け取ると結構小さい。お菓子か何かかと思いながら開けると
「……めがね?」
「ふふ~護くんが引き当てちゃったね!」
「これ、宇佐美先輩が?」
メガネの中央を押し上げながら嬉しそうに宇佐美が口を開いた
「でもオレ目は悪くないけど……?」
「そこは大丈夫!そのレンズ、度は入っていないから護くんでも付けられるよ」
「そうなんだ?…………どう?」
宇佐美が言うように確かに歪んで見えないから度は入っていないみたい。顔につけてみんなに見せて感想を求めると
「似合ってますよ!」
「かっこいいっすよ隊長!!」
「意外だな。護がめがね似合うなんて」
「めがわるくなったのか?」
一菜に春多にとりまるに陽太郎と続けて他のみんなも結構好評だった。意外なのは余計だけど、ここまで褒められると悪くない気がしてこれからも付けてみたくなる。オレが買ったアクアリウムはレイジさんがもらったみたいだ。そのあとは何か映画を見ようとDVDを入れて観る人や料理を食べる人やで別れた。オレは映画を観ようかなと椅子に座っていると隣に座っていた修が相談があると言ってきた
「どうすればレイガストをうまく使えるか?師匠はとりまるなんだし聞いたらいいんじゃないの?」
「残念だがオレはレイガストに関してはさっぱりでな、護の国には同じような武器があるんじゃないかと、いつか聞いてみたらいいと言ったんだ」
とりまるが付け加えるように言ってきて、本人からそう言ったのなら何かアドバイスしようかなと思ったが。生憎オレは剣型と槍型しか扱ったことがない。両剣型はあったけど使ったことがないから修の求める答えは出せれない
「けど、強くなるのに近道は無いよ。あるとするならひたすら反復練習だ。修は体でなく頭で戦っているから反応が遅れてるんだと思う」
戦闘が得意でない戦闘員によくあることで、受け取った情報から対応策を考えて動こうとするから気付いたときにはやられていることに。対照的に反射で動いているやつは考えずに動いているから簡単には倒せない。頭で考えるタイプが必要なのは反復練習をすること、そうして体に動きを馴染ませることで少しは考えずに動くことが出来る
だから軍でもみんな訓練生のときは同じ武器を同じ動きをして体にしみこませていった。オレが言えることはそれくらいで、アドバイスといえるほどのことじゃない
「遠征に行きたい気持ちで焦りたくなるのも分からなくもないけど、何かを取り込んだところで強くはならない。馴染んだ武器を使い続けたやつが強いんだ。まず修はモールモッドを安定して倒せるくらいには成長しないとランク戦でも危ないぞ」
「……そうか、アドバイスありがと。護」
「オレも強いわけじゃないからあまり参考にはならないけど」
そんなことはないと修は言って手にする皿に乗った料理を食べる。オレもから揚げを箸で刺して口に運ぶ。どんなに強い人も初めからそうじゃなく、地道な訓練から身に付けていって強くなる。成長速度には人それぞれだし、春多なら近接、一菜なら遠距離と向いている素質も違ってくる
オレみたいな遠近対応できるタイプはどちらも訓練が必要で、一点集中のやつらと比べると劣っている。器用ですごいと言われることがあるが、必ずしも強いわけじゃない。ましてやオレはブラックトリガーの訓練も必要なため、春風に使う訓練の時間は余計に少ない
「ん?」
すこし視線を感じれば春多が見ていた。そこまで心配しなくてもいいのにと呆れるが、ちょうど飲み物が切れていたので頼むことにした
「春多」
「なんすか!?」
「ジュース、入れてくれるか?炭酸の」
「了解!!」
そこまで嬉しそうにしなくてもいいのにと思うが、もしオレが春多の立場だったら?まともに人として扱ってくれた人のことをどう思うのだろうか?
ごみのようにぞんざいに扱われてきたことに荒れてしまったなかで、出会った人が周囲と同じように接してくれたとしたら?少なからず信頼してしまう
一緒にご飯を食べ、時には買い物を一緒にしたり、戦場を共に駆けた仲間。そんな上官が一人で抱え込んで自滅していく姿を見ていられるのだろうか?オレは
「はいッス」
「ありがと春多」
できないな。心配させまいと気遣ってくれているのはわかるが、信頼している人が傷ついていく姿を見たくはないな。頼ってほしいとも思う。今の春多たちのように
そう考えると、オレについてきてくれたこの2人は、本当に頼れる仲間だ
なんでもというわけにはいかないが、少しはこいつらの想いに応えてやろうと思い直す
「春多」
「今度はなんですか?」
「風呂、一緒に入ってくれ」
「え!?そ、それはつまり……」
「アホ!片手じゃ満足に洗えないんだよ!」
「あ、ああ!そうっすね!!ははは………」
確かに故郷には男色はあった。遊び目的の人も居れば愛し合って一緒に過すなど
春多のこの慌てっぷりはつまりそういうことなのだろう。好意を向けてくれるのは素直に嬉しい。嫌われるよりは全然いいから、でも悪いけどオレは女子が好きだし、それ以前に人の命を奪ったオレに誰かと幸せを分け合うというのは許されないんだから
「よう、外にいると冷えるぞ?」
「迅さん」
玉狛の屋上で夜風に吹かれていたら迅さんが湯気が立つコップを2つ持って隣に来た
「迅さんってここにいるんですか?」
「いきなりどうした?」
確かにいきなりのことで驚いているけれどそれは用意された行動をなぞっているだけだ
「未来が視えるならオレのいいたい事やそれに対しての返しとか動きとか分っているんでしょ?」
「そうだな。未来が視えるってことはそういうことだ」
オレの問いかけに答えたこの言葉も復唱するように言っただけなのだろう。そしてはそれは人の死もあらかじめ知るということだ。誰よりも早く、誰よりも多く。親しい人だろうが他人だろうとそれは関係ないのだ
便利のようなサイドエフェクトだけど、ここ最近は悪魔の能力じゃないかと思うようになった
「遭っただけでその人の未来が見えるならさ、迅さんは沢山の人を助けたいと思わないの?」
「思うよ。でもオレは神様じゃないからみんなは無理だな」
確かに神様なんてこの世には存在しないのかもしれない。どんな世界でも必ず誰かが傷つき、誰かが死ぬ
「それは迅さんの考えですか?」
「そうだよ」
「………本当にですか?未来の迅さんの行動をなぞっているだけじゃなく?」
「………」
「迅さんの意思って、どこにあるんですか?」
未来が見えるっていうことは逸脱したことをすると予定から外れてると修正をしなくてはいけない。そしてそれが連続すると最悪の未来に近づくことになる
だから迅さんは未来通りの行動をしなくてはいけない。じゃあ迅さん自身の考えや意思はどこに存在するのか?という疑問が出てくる
どんな未来のするのかと選ぶのは迅さんの意思なのかもしれないけど、結局それも未来の自身の選択を繰り返すだけだ。テレビでやってるドラマの役者みたいにただただ演じる
「オレはいつもここにいるぞ。どこにでも………それにな、まだお前に心配されるほどの実力派エリートは弱くないぞ?今のお前がすることは……ほら」
「ん?………おまえたち……」
結局はぐらかされてから言われて振り返ると春多と一菜が扉の隙間からのぞいていた。まったくしょうがないやつらだと一度息を吐いて中に入った
「お前たち、そろそろ寝るぞ」
もう夜も遅いから寝ようと言うとはい! と答えて付いてきたが
なぜオレの部屋で一緒に寝るのだろう? 確かにたまに夢に魘される事もあるが、この2人がそれを知っているわけがない。言った覚えも一緒に寝たこともないのに。もしかしてサイドエフェクトなのかと思ったが、最近の2人の検査ではそれはありえない
「隊長。夜に散歩なんてしないでくださいよ?」
「……分かったよ。そこまで信用ないのか?」
「当然!」
酷いやつ等だ。さすがに冬の夜に出歩くことなんてあまりしないのに、念を押すように言う一菜にまるで信用されていないことにため息を吐く。しかも春多もなんの躊躇いもなく同意してきたのだから、これはオレを逃がさないための包囲網ということなのだろう。多分トイレに行くのにも付いてこられる可能性だって高い
「ち、ちなみにトイレに行きたいときは…?」
「もちろん付いていきます!」
「あ、はい…そうですか……」
どうやら慈悲はないらしい。完全にオレをマークするようだ。まあベッドに一緒に寝てくっつかれるよりはまだマシだろう
こうなったのもオレ自身が招いた行動の結果だ。きっとこれからもこのときのことを持ち上げて黙らせてくるはず、かつては上官と部下という関係だったのに。
父さんと母さんがいなくて寂しいけれど、心配してくれる仲間や怒ってくれる叔父さんとかいてくれるから大丈夫だと思える。少しはわがままとか言って困らせたらどんな反応とかするのか、そう考えると楽しく思える。いつか無理難題言って困らせようと決めて瞼を閉じた