ワールドトリガー「Re:自戒の絆」   作:悠士

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BBF出る前の「自戒の絆」を読んだことのある方ならこの辺りか~ってなるのでは?

とんとん拍子で護が裏切られる話だけど、「Re:自戒の絆」ではすこしゆっくりしていこうかと
つまり「転」がその話になっちゃうわけだけど・・・

違うのは護には心から信頼している春多と一菜という仲間がいること。2人のキャラ追加でもちろん、流れが変わるので楽しみにしていただければ・・!
後中学生らしい(といってももうすぐ高1の)護くんを意識しながら書いていけるようがんばります!!


17話 権利+戒め=矛盾

 オレが気が付いたときには荒廃した土地に立っていた。だが壊れている建物はどれも三門市にあるものじゃない。白や薄茶色の色をした壁。ところどころ風化で崩れていて、蔦が絡んでいたり花が咲いている

 

「ここ………プロスペリタース?」

 

 思い出した。ここは戦闘になって捨てられた西29番区。オレが軍に入隊してからよく来た場所だった。なぜこんなところにいるのか。今更思い出すなんておかしかった。ついさっきまで叔父さんと話して寝ようとベッドに潜ったはず。だからここは夢の中なんだとすぐに分かるが

 

「なんで…………っ!?……血………?」

 

 一歩足を踏み出せばピチャと、液体を踏んだ音がした。顔を下に向ければ、さっきまで土だったのに今では真っ赤な液体の上に立っていた。次に鼻に突いた臭い。覚えがあるこれは嫌でも血だと思い出させた

 続いて今度は大きなものが落ちたみたいに、ドチャと後ろから聞こえた。頭の中には向いてはいけない。ダメだと警告しているのに、オレの体は操られるように振り向いた。そこには死体が1つ。右肩から腰まで酷く斬られていた

 

「っ……………っ!!?………ち、ちが………」

 

 死体があると知ったことで、剣が右手に握られているのを知ってしまった。手元は返り血でなのか赤く染まっていて、刀身も血が滴っていた。誰がどう見てもオレが殺した。そうとしか思えない

 

 気が付けば周囲には死体が沢山。どれも死に際に悶え苦しんでいる表情をしている。知っている、どれも。「みたい」ではなく「オレが殺した」ネイバーたちだ

 

「ころ……や…!こ………して…る!」

 

「殺して……!……てや……!」

 

「殺……る!…………してやる!!」

 

「ぁぁあぁ…………あぁぁぁあ…………ちが、違うんだ………!!お、オレは………オレはぁぁ」

 

 いきなり死体が這いずる様に動いて、オレに近づく。殺してやると言いながら

 

 震えるオレは手に持っていた剣を振り回して動く死体どもを斬った。斬って斬って斬って切りまくった。四肢を切断し、胴体を切って、首をも喋れないように

 

「あっぁっぁあ…………あああぁっぁぁあぁぁぁぁ………っぁぁぁぁ………っ……………助けて……父さん、母さん…………」

 

 剣を逆手に持って、一心不乱に死体を突き刺す。乱していた呼吸を落ち着かせようとするが、突然体が掴まれたようで動かせなかった。だけどオレの体には誰も何もなかった。まるで金縛りにあったように微動だにしなかった

 

「護」

 

「護」

 

「父さん……母さん!助けて……オレ……オレぇ………」

 

 混乱するオレに今度は父さんと母さんが現れた。夢でもなんでもいい。助けて欲しくて、泣きながら呼びかけるが、2人から返ってきたのは恨みごとだった

 

「ねえ。何で私は死なないといけないの?」

 

「護。お前が先に乗るからオレは死んだじゃないか」

 

「な……なにを……言って…………」

 

 助けるどころか恨んでいるを言われたオレは呆然と2人を見ることしかできなかった

 

「迎えに行かなければ、私がいなければ死ななかったのに」

 

「母さんの国に行こうなんて言わなければ死ぬ事がなかったのに」

 

「やめて………言わないで…………お願ぃ」

 

 それ以上は言ってほしくはなかった。言われたら、オレは、オレを嫌いになってしまいそうだから

 

「「護さえいなければこんなことにはならなかった」」

 

「っ……ぁ……ぁぁ………ぁっぁっぁあああああ!!!」

 

 聞きたくなかった。大好きな2人からそんな言葉を。半狂乱に叫ぶ中、オレの体には切り刻んだはずの死体が元に戻って、体に纏わり付いていた。だけどもうオレにはどうでもよかった。父さんと母さんにあんな事を言われたのは一番のショックだったから

 

「も……る!………護!………しっかりしろ護!」

 

「……っぁぁぁ…あ…ああぁ…………お……じさん……?………ここ……は?」

 

 呼びかけられる声に気付いたときは暗くなっていて、目の前には叔父さんが見下ろしていた。起き上がると呼吸が乱れている事に気付いて、深呼吸して落ち着くが。叔父さんが心配そうに見てくる

 

「大丈夫か護?かなり魘されていたけど?」

 

「叔父さん…………お、じさん………っぅぅ」

 

「ま、護……?」

 

 とんでもなく不安で怖くなったオレは、叔父さんに抱きついて肩を震わせながら泣いた

 

 

 

 

「落ち着いたか?」

 

「うん………起こしてごめん」

 

「そんなことは気にしなくていい。そんなに怖い夢だったのか?」

 

 ベッドに隣に座って頭を撫でられながら聞かれて頷いた。エアコンを点けて部屋を暖めているが、さっきまで消していたからまだ少し寒い。だからって訳じゃないけど、膝の上の手は震えている

 

 オレは沢山の人を殺した。殺人鬼と言われてもその通りだと思う。母さんの仇だと来る敵、相手をした敵全て殺した。確実に胸を刺し貫いて、息の根を止めて

 きっといままでオレは幸せじゃいけないと思いながらも、本当は幸せだったのだろう。亡命して父さんも母さんもいないオレに、ロイと2人で生きていけるか不安だったが、ボーダーという組織があったということ。叔父さんがすぐに見つかったこと。ネイバーなのにそんなこと関係なく接してくれる仲間や、一度は裏切って置いてきたはずなのに、再会して付いて来てくれたこと。誕生日とかお花見とか祭りとか楽しい事もいっぱいで、オレは自分が犯してきた罪の意識が薄れていたのかも

 

 だから今日見た夢は幸せになろうとしていたオレへの罰なのかもしれない。殺された人にも等しく幸せになる、楽しい事を楽しむ権利はあった。だけどオレは母さんの仇だと思い込んで一方的に殺した

 

 オレは……笑っちゃいけないんだ。嬉しいことも

 

「寝れるか?不安なら寝るまで一緒にいようか?」

 

「ありがと。でももう平気ッス。こんな時間に起こしてごめんッス」

 

 本当は平気じゃない。今も不安や恐怖は少しも消えていない。けれどこれ以上叔父さんに迷惑は掛けられない。親族といえど、なにもかも甘えるわけにはいかないのだ

 4年半前はオレは軍人だったんだ。この位で心配させては情けない。叔父さんはオレの言葉に信じきれていないのか何度も聞いてきた。一人になったオレはベッドの上で、膝を抱えて顔を埋めた

 

「大丈夫………大丈夫…っ………ぅ……たすけてっ」

 

 暗示を掛けるように繰り返すが、やっぱり恐怖が勝ってしまい、誰もいないのをいいことに本音を呟いてしまった。閉じた瞼の裏には父さんと母さん、そしてほんの数日だけだが同じ痛みを受けた友達のゼアの姿が浮かんだ

 

 鼻を啜りながら、嗚咽を漏らしてただひたすら、夜が明けるのを待った

 

 

「おはよー…」

 

「うわっ!?どうしたんだよ護!?その目!隈できるし…充血もしてるぞ?」

 

「ぇ…?」

 

 眠気に抗いながらなんとか辿りついた教室に入れば、青柳が最初にそう言ってきた。そりゃ寝ずに夜を明かしたのだから当然だろう。泣いたりもしたから充血もしかたがない

 

「そんなに酷い……?」

 

「あ、ああ……徹夜明けの漫画家みたいな感じだぞ?」

 

 変にたとえが具体的だけど、荷物を席に置いてトイレの鏡を見ると確かに酷い。とはいえ今更寝るなんて怖くてできない。このまま眠気に耐えるしかない

 

「夜更かしでもしたのか?」

 

「うん、まあ……」

 

「もしかして怖い映画とか見たりしたんだろ!それで寝られなくなったとか!」

 

 どこの子供だよと言いたいが、他に理由が思いつかないからそれでいいやと頷いた

 

「マジで……?以外……」

 

「以外って…………怖いものは怖いんだから………仕方ないだろ……」

 

 事実父さんのせいで小さいころは寝れなくて、母さんに抱きついて寝たりなんて事もあるし。この前の桐絵ちゃんの行ってる学校の文化祭でも、お化け屋敷に入るだけで震えたくらいだし。夜出歩くとかは平気なのに、お化けとかの類はどうしてもダメなのだ

 

「ん」

 

「……なに、この手?」

 

 青柳が突然手を出してきて何を求めているのか分からず聞いた。今更握手なんてなんの意味も無いだろうし、借りているものもないし、誕生日ってわけでもないからあげるものもない。ますます分からないオレは次の言葉に驚きが隠せなかった

 

「どうせ1人で寝るのが怖いとかで寝てないんだろ?HRまで手繋いでてやるから少しでも寝ろよ」

 

「とか言って~ほ…ん…と…は、忍田が好きなんじゃないのか?」

 

「ヒューヒュー!」

 

「はぁぁ!?なんでヤローとなんだよ!ダチとして心配だからで!!」

 

 他のクラスのやつが茶化してきたことでさっきまでの、友達はいいものだという雰因気は台無しだった。まあホモだと遊ばれて慌てている青柳を見るのは面白いので

 

「ありがと青柳。オレ、感動したッス」

 

「ちょ!!護まで乗るなよ!!両手で握るな!!ふざけるなら離すぞ!!おい!」

 

 乗ることにした。差し出された手を両手で握って寝る事にする。指笛やカップル誕生ー!など聞こえたりして、たまにはこういうおふざけも楽しくていつまでも続いたらいいなと思った。けど、オレは楽しんじゃいけないから、青柳に悪かったと謝っておいた

 

 午前の授業を終えて今日は学校が終わり。家へ帰ろうとしていると、道で壁にもたれかかって倒れている人がいた

 

「大丈夫ですか!?………那須先輩?大丈夫?」

 

 倒れていたのは那須隊の那須先輩だった。顔色が悪く息も少し荒い、目が少しだけ開いてオレを見た後、バッグを指差した。体が弱いってのは聞いた事があるから多分薬が入っているのだろう。人のバッグの中を漁るのは若干気が引けるが、チャックを引いて開ける。水がある他、後は財布等、その中にプラスチックのケースを見つけて、薬みたいなのが入っているからコレがそうなのだろう

 

「ぁか………きい…ろ……2つ……っ」

 

「赤色と黄色を2つ?」

 

 ピルケースには赤と黄色の丸いシールが貼ってあり、多分コレが飲む薬なのだろう。個数も聞くが違っていたみたいで、弱弱しく両手の指でピースサインを作る。どうやら2つずつ、が正しいみたい。蓋を開けて薬を出す。手に渡して蓋を開けた水の入ったペットボトルを渡す

 

 

「落ち着いたッスか?」

 

「ええ、ありがとう、護くん」

 

 呼吸も落ち着いて意識もハッキリしてきたみたいで安心したけど、いつまた倒れるか分からないから帰ったほうがいいと提案するが

 

「うーん……でも、今日は体調が良かったから映画を見に行こうかなと思ってたのだけど……」

 

「そういっても……見てるときにまた倒れたらどうするッスか?」

 

 さすがにこのままって言うにはいかないから、ちょんと家まで送ろうと思う。けれど那須先輩は映画が見たかったらしく、残念そうに顔を曇らせる。安全のためならこのまま家に帰って寝てもらうのが1番なんだけど。このまま暗い気持ちのままにさせるっていうのも気が引ける

 

「うーーーん………分かったッス!オレが一緒付いて行くッスから、少しでも体調が悪くなったら言うッスよ?」

 

「え?…ありがとう護くん」

 

 多分オレのやっていることは本当ならいけないのだろうけど、なんだかそうすると後悔しそうな気がしたので、オレが付いて行くことを条件にすれば万が一のときは大丈夫だと思う。それに女の子を泣かすようなこともしたくは無いっていうのも理由だ

 

 目的の映画館に行き、チケット購入しようとしたとき、那須先輩が見たかったのがまさかの「ニャン大冒険」だった。アニメシリーズ5年目を迎える名作。一緒に住んでいた主人が殺されてしまい、真相を見つけるために冒険に出る感動アニメだ。犯人を見つけたあとも、旅で仲間になった者達と困っている人を助けたり、問題を解決したりなど続いている。もちろんヒューマンならぬキャットドラマがあったり、絆を確かめ合う感動シーンがあったり、愛を誓い合ったりなどオレも大好きなアニメの1つだ

 

「にゃ、ニャン大冒険……!?那須先輩それを見るんスか!?」

 

「え、ええ……護くんも好きなの?」

 

「ッス!!」

 

 あまりの嬉しさに興奮したオレに那須先輩は驚いたようで、少したじろいだ。いけないいけない、自制しなければ。映画化するってことは知っていたけれど、まさかもう上映されていたのは知らなかった。チケット2枚購入し、上映中に食べる物も買って準備は万端

 

 少し待って時間になると指定した席に座って始まる

 

 

 

「良かったね」

 

「そうッスね!あそこのニャ吾郎の男を見せるところは良かったッス!!」

 

 見終った2人は空になった箱とコップを捨てて映画館を出た、見に行こうとしていた那須先輩よりオレのほうが興奮していたみたいで、パンフレットやグッズも買ったのはオレだけだった。支払いを済ませると満足した気分で戻るとなぜか那須先輩に笑われた

 

「な、なんスか?中学生が見てやっぱ……おかしいッスか……?」

 

「ううん、違うの。護くんて他の子より大人びているように見えるから、今日みたいにはしゃぐところを見るとね、年相応にかわいいなって」

 

「な、かわっ………オレは別にかわいくないッス!」

 

「ふふ、そうね。護くんは男の子だもんね」

 

「んっーー」

 

 どう否定しても好きな映画見て喜ぶ中学生にしか見えないらしくて、映画館を出るまでずっと生暖かい視線を向けられた

 

「ありがとうね護くん。そういえば学校は?もしかしてサボった?」

 

「違うッス!そんなことしないッス!……冬休み前だから授業が午前だけなんス」

 

「そっか。もうすぐ冬休みだっけ。家にいることが多いから中々実感がなかったわ」

 

 病弱な那須先輩は家にいることが多いからそう思うのも無理ないのかもしれない。学校と相談しながら出席数とか単位とか調整しているらしい、それでも足りないときは親に送り迎えとかされながら補習で補っているとも言った

 

「それにしても護くんって噂で聞くより普通の男の子ね」

 

「噂?なんスかそれ?」

 

 話をしているうちにオレは思っていたほど子供だったと言われる。喜べばいいのか怒ればいいのか微妙だ。どう答えればいいのか考えていると、那須先輩は唐突にそんなことを言ってきた。噂ってはじめて聞くけど、もしかしたら本部長の甥だってことなのかなと思った。諏訪隊の笹森先輩は知らなかったみたいだし、まだ全員知っているわけじゃないけど

 

「…………護くんがネイバーって噂よ」

 

「っっ!!」

 

 言いにくい事なのかな少しの間があった。オレはその噂を聞いた瞬間、心臓が鷲掴みにされたような衝撃を受けた

 

「護くん……?」

 

 どう答えるのが正しいのかわからない。駅のときはさらっと答えてしまったが、今回はどうだろう。下手をすれば噂は事実となり広まってしまう。半日も経たずにメディアに伝わり、ボーダーへの批判が殺到するだろう。何かあったときは自分で責任を取ると言ってしまったけど、今その「何かあったとき」が現実になりそうで、どうすればいいのか必死で考える

 正直に言って誠意を伝えて傷口を浅くするか、だけど那須先輩が回りに言わないという保障はない。ならば言わないでと口止めしてもらうしかない。もしくは噂自体を否定するするべきか。そもそも噂の出所が分かっていない以上、どこかで矛盾を指摘されてしまう。玄界(ミデン)のことは全て知っているわけじゃないから、来る前のことを聞かれてしまったらおしまいだ

 

 どっちを選んでもいい結果にならないことは明白だった。もしかしたら昨日見た夢も、噂の事もオレへの罰なのかもしれない。恐怖で不安させることの次は仲間を奪う、でも仕方ない事だ。これがオレの罪なのだから

 

「護くん」

 

「っ……那須…先輩」

 

「……うちに来る?」

 

 足が止まっていたようで、声を掛けられて俯いて考えていた事に気が付いた。変わらないトーンで家へ誘う那須先輩に、これは何を言っても誤魔化せないと諦め付いて行くことにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ワートリの連載の再開でなのか最近はワートリ熱が徐々に上がっていますw前回は約1年ぶりなのに今度は1月も経たず

もう一つ「Something to have that before losing」のほうも少しずつ書いていってるので待っている方はお待ちを・・・(1部隊分増えたからランク戦の動かし方が大変だ・・・ww)

ランク戦といえば「Re:自戒の絆」は玉狛支部所属なので木崎隊(玉狛第一)、忍田隊(玉狛第二)、三雲隊(玉狛第三)と三雲たちの部隊がずれちゃいますねw

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