ワールドトリガー「Re:自戒の絆」   作:悠士

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9話 A級 三輪隊

「護、ちょっと」

 

「?」

 

 明日は学校が休みで任務も入っていないから何処か行こうかとラッド殲滅作戦(ごみ掃除)の帰りに考えていたらさっきまで何処かに消えていた迅さんが現れてオレを呼び止めてこっちに来るように手招きしてきた

 

 案内されたのはどこにでもある橋だった少し先には玉狛支部が見える

 

「なんスか?今日はレイジさんとご飯を作る当番なんスけど?」

 

「わりぃわりぃ当番は宇佐美に変わってもらったから、それでな明日お前はちょ~と危ない橋を渡るかもしれないんだ」

 

「危ない橋………?」

 

「そ、隊員同士で戦うことになる」

 

「っ!………それなら戦わず逃げればいいんじゃ?……それとも回避できないんですか?」

 

 迅さんが見た未来ではほとんどが回避できない未来で、だから返り討ちにしないようにこうして忠告に来ている

 

「時間を稼いでくれりゃオレに考えがあるが、相手が相手だけにそれは無理だろうなぁ。だから無力化すればそこまで事が大きくならないから」

 

 無力化ってことはγ(ガンマ)を使えってことなんだろう、確かにそれなら鉛弾(レッドバレッド)と同じように傷を与えずに無力化できる。 問題は相手が誰なのかだけど、そこまでは教えてくれなかった

 

 

 次の日、オレは本部の諏訪隊の隊室に来ていた

 

 以前に小佐野から日佐人と諏訪が礼を言いたいと言っていたから時間を合わせて今日来た

 

「いやーあの時はホント助かったよ、おかげで嵐山隊の手助けもあって任務が終えたし」

 

「マジで助かったよ、サンキューな護」

 

 嬉しくもあるけどあの後トリガーの私的使用で怒られたこともあったと、一緒に苦いことまで思い出してしまった

 

「そんな大したことはしてないッスよ……日佐人だっけ?弧月使っているなら『旋空』とか使わないんスか?あれなら目の前のモールモッドが数体は倒せて逃げれたッスよ?」

 

「あー……えっと……旋空を使うべきか迷ってて」

 

 頬を掻きながら日佐人は言った

 

「あの……さ、オレに剣を教えてくれないか?」

 

「オレにッスか?……でも今はもう弧月は使っていないッスけど」

 

「え……?そうなの………それでもオレは強くなりたいから頼む!」

 

 春風に乗り換えたからもう弧月を使っていないと聞いても、それでも剣を教えて欲しいと言ってくる

 

「分かったッス」

 

「ほんとに!?ありがとう護!!」

 

「おうおう、よかったな日佐人。だけどもう任務の時間だぜ、訓練なら後にしろ」

 

 喜ぶ日佐人に諏訪は任務だと言って堤と3人で防衛任務に出撃した

 

 オレはオペレーターの小佐野に番号とアドレスを書いたメモを渡して、この後をどうしようか本部を出て警戒区域内を歩いていると今は使われなくなった弓手町駅に修たちが入っていくのが見えた

 他に遊真と小さい女の子がいたが

 

 ………いやいやそんなわけないッス……よね?…………確認だけでも

 

 修に限ってそんなことはないだろうと、大して話をしたわけじゃないのに知った風な気でいるのは恐らく修の性格の所為だと、勝手に決め付けて後を追って入ると

 

「な……なんスか……ソレ?」

 

「ん?………お、マモル」

 

「なんで………ここに!?」

 

 オレが来たときそこにあったのはまるで炊飯器のような形をしている謎のトリオン兵らしきもの、そして口のような部分から何かを出して女の子に握らせている

 その上には巨大な白く輝く立方体が浮いていた

 

『はじめまして護、私はレプリカ、遊真のお目付け役だ』

 

「あ、ご丁寧に、忍田護ッス…………じゃなくて!!」

 

 レプリカと名乗ったトリオン兵らしきものは丁寧に挨拶をしてオレも返すが、挨拶をしている場合じゃないとツッコむ

 

「えーと修と遊真は知っているけどその子は?」

 

「あ、はじめまして、『雨取(あまとり)千佳(ちか)です」

 

「っ!」

 

『雨取』という名前にオレは驚いたが、何も知らない3人に余計なことを言うわけにはいかないと思い。『あの件』のことは黙っておくことにして自分も名乗ることにした

 

「さっきも言ったスけど忍田護ッス、それでさっきのはナニ?」

 

「トリオンだよ、あれはチカのトリオン量、いや~あれはすごいね」

 

 遊真が言うにはオレが見たあの巨大な立方体は千佳のトリオン量で一般的な量よりかなり多いという、そうなれば必然的にサイドエフェクトを発現しているだろうと聞くと

 修が千佳が自分を狙うネイバーの居所が分かると言う、それはレーダーなんかよりずっと便利だ

 

 それとは別にオレは自分のトリオン量がどれくらいなのかちょっと気になった

 

「なあレプリカ、オレも計測してもらっていいッスか?可視化できるなら見てみたいッス」

 

『心得た』

 

 まだ日本に来て5年のオレでもレプリカのさっきの言葉選びにはちょっと疑問を覚えるが、それは過去の自分にも言えることなんで飲み込むことにした

 さっきと同じように口を開いてコードのようなものを掴むと1分足らずで計測が終了してレプリカの上にオレのトリオンを可視化した

 

 先ほどの千佳の大きさより劣るがそれでも半分くらいの量はあった

 

「ほうほうこれは中々、サイドエフェクトを持っている奴らの中じゃそこそこ多いほうだよこれは」

 

 ボーダーの計測器でもそこそこの数値を出していたオレは今こうして可視化したトリオンの大きさに自分自身が1番驚いている、とそんなときに来訪者が来た

 

 振り向くと首にマフラーを巻いた三輪隊隊長の三輪(みわ)秀次(しゅうじ)とカチューシャが特徴の米屋(よねや)陽介(ようすけ)がいた

 

「動くな、ボーダーだ」

 

「っ!!?」

 

「?」

 

 驚く修に何が起こったのかわからない千佳、これは不味いとどう対処するべきか考える遊真とオレ

 

「間違いない、現場を押さえた、しかもボーダーにスパイがいた」

 

「ッ!」

 

「ボーダーの管理下にあるトリガーだ、ネイバーとの接触を確認、処理を開始する」

 

 電話で誰かに報告する三輪、しかもスパイと言うとこの場で該当するのはオレだけだ

 ネイバーでありボーダー隊員であるオレが1番ピンチだった

 

 ネイバーである遊真を知っていてボーダーに報告せず、しかも隠れて会っているこの場を見られただけでなく、トリオン兵のレプリカまで見られてしまった、しかもオレのトリオンを計測し終えたときに現れたからスパイだと勘違いした三輪にどう説明するか悩むが

 

「……トリガー起動(オン)

 

 先に三輪がトリガーを起動してその後に米屋も起動した、慌ててオレも自衛する為にトリガーを起動する

 

 不味いッスね……三輪はネイバーは皆敵だと思っているッスからね、ったく迅さんが言ってたことってこのことッスか?時間稼ぎしてくれって言ってだッスけど

 

「ッ!!護、貴様もネイバーだったのか?よくも今までボーダーを騙していたな」

 

「違います!護は――」

 

「そうッスよ」

 

「!?……護……なにを言って………」

 

 三輪の勘違いだと言おうとした修だったが、それを遮るようにオレは自分がネイバーだと認めた。それを聞いた三輪は更に目を細めた

 

「このことは上に報告する、そしてお前はここで仕留める」

 

「報告しても無駄ッスよ、城戸さんは知っているッスから」

 

「なっ!?苦し紛れの言い訳が通用すると思うのかネイバー!!」

 

 そう言って腰のハンドガンを抜くと流れるような素早い動作でオレに1発撃つが春風で防ぐ、その隙に米屋が一気に近づいて弧月(槍)を首に狙いを定めて突くが見え見えの攻撃にオレは簡単に避ける、とそんな時

 

 ガキンッと何かにぶつかる音がした

 

「ッ!?なんだよそれ?卑怯じゃね?」

 

「陽介の攻撃は狙いが分かれば簡単に防げるッスよ?残念ッスね」

 

 米屋のセットしてあるトリガー…弧月(槍)は『幻踊(げんよう)』という専用のオプショントリガーをセットしてある

 

幻踊(げんよう)』は弧月(槍)の穂先を変形させるトリガーで米屋は首を狙うが避けられるのは当然、だから避けた方向に瞬間的に刃を出して斬ろうとしたのだが

 オレは下がると同時に首にスコーピオンを出して防ぐ、槍の突く方向と同じに動いたから耐久力で劣るスコーピオンでもギリギリ防げる

 

 距離を取らせようと春風を振り米屋を後退させるが、今度は三輪が刀の弧月を振りかぶるように襲ってきた

 

 オレは横に跳んで回避するが先を読んでいたようにまた米屋が槍を振り回してくる。1ヶ月も使っていれば扱いに慣れた春風で攻撃を受け流す

 

 すると急に米屋が後退したと思ったら後ろにいた三輪がハンドガンで撃ってきた

 

 っ………相変わらずこの2人のコンビは厄介だな、まぁA級なのは伊達じゃないのは嬉しいことだけど

 

 避けるためにステップを踏んでいるとまた米屋が突いてきたが、変形させた槍をまたスコーピオンで防ぐがやはりというか耐久力が低い。スコーピオンは今度は壊れオレの横腹に傷を負わせた

 

「お、今度はやったね」

 

「っく……」

 

 迅からは手を出さないように言われているため防戦一方無力化しようにもγ(ガンマ)を使えば三輪隊の報告しだいで処罰が下ってしまう

 

 なーにが無力化すればッスか?相手が三輪なら攻撃と報告されちゃうじゃないッスか!!

 

 三輪と米屋の阿吽の攻撃に避けているとホームで壁にぶつかり挟み撃ちに誘い込まれてしまった

 

 まずっ!……こうなったら!!

 

 リスクはあるが上に跳んで屋根を突き破って挟み撃ちを避けるが三輪隊は4人のチーム、当然後方支援の狙撃手(スナイパー)がいる

 

 どこッスか!?古寺と奈良坂は…………そこかっ!!

 

 飛び上がるとあたりを見回し一箇所だけ光って春風で弾こうとするが外れて肩に当たると後ろに何かが当たる音がした。振り向くと親指サイズのチビレプリカが盾を出していた

 

 

 

 

『盾』印(シールド)

 

 護に潜り込ませていたチビレプリカが狙撃手(スナイパー)がいると言いトリガーの印の一つである『盾』を展開した

 もちろん三輪はその様子を見逃さなかった

 

「お前もネイバーだったのか」

 

「そうだよ、トリガー起動(オン)

 

 遊真もトリガーを起動すると何処かのヒーロースーツのようなトリオン体に換装した

 

「なんだよお前もネイバーだったんならそう言えよ!」

 

 米屋は1番乗りと言わんばかりに突撃し槍で突こうとするが遊真は大きく避ける

 

「その攻撃はマモルが相手しているときにみたからわかるよ」

 

「あちゃ~避けられたか、それでもオレと遊んでくれよ!」

 

 口では悔しがるように言っているが予想はしていたからそこまで悔しくはなかった。すると線路のほうでは護が落ちてきて肩に傷を負っていた

 

 

 

 

 

 

 

「遊真、いつ潜り込ませてたスか?」

 

『以前にこの世界での注意を受けていたときにボーダーはチームで動くことがほとんどだと護は言った、だから遊真はあの2人が来たときに狙撃手(スナイパー)が1人くらいは潜んでいるだろうと戦闘前に襟に潜り込ませてもらった』

 

 チビになったせいかチビレプリカが出す声は高くなっていた

 

「余所見をするな」

 

 声のしたほうへ向くと三輪が弧月で襲い掛かってきたがオレはすぐに飛び退いた

 

「逃がすか!!」

 

「『秀次が相手なら』と思うじゃん?」

 

「ッ!」

 

 突然後ろから声がしたと思ったらさっきまで遊真を相手にしていた米屋が後ろにいた、反対に三輪はカートリッジを入れ替えて遊真に向けて撃っていた

 

 オレはサイドエフェクトの『追跡』で位置は大体把握していたが戦闘中では目の前の敵に集中するからうっかり忘れてしまうこともある

 槍の攻撃は避けても幻踊(げんよう)で飛び出した刃がオレの右腕を切り落とした

 

「やりぃ!」

 

 遊真のほうを見れば予想通り三輪がよく使う鉛弾(レッドバレッド)を受けていて動きが制限されていた

 これでは不味いと仕方なくγ(ガンマ)を止めを刺そうと、柄を極端に短くしてグリップを握ると跳んだ三輪と米屋に向けて放った

 

 それと同時に遊真も鉛弾(レッドバレッド)の解析を終え自分の武器にすると空中の2人に放った

 

『錨』印(アンカー)『射』印(ボルト)四重(クアドラ)

 

「っぐ!……っ!?」

 

 三輪は落ちて弧月を支えに立とうとしたが弧月の刃が突然消えて倒れた、そしてまた新たな来訪者が来た

 

「言ったとおりだろ」

 

「迅さん!」

 

 声のしたほうを見れば迅さんと後ろに三輪隊狙撃手(スナイパー)古寺(こでら)章平(しょうへい)奈良坂(ならさか)(とおる)がいた

 

「どもどもービルの屋上でレプリカ先生とバッタリ会っちゃってさ折角だから来てみた」

 

 迅さんがレプリカ先生と言っているあたりオレの知らないところで遊真たちに会っていたんだなと、趣味が暗躍なだけあって時々迅さんのことが恐ろしく感じる

 

 しかもいつもの癖なのか習性なのか千佳にナンパ混じりの挨拶をしておれと遊真のところに来た

 

「おーなんだ遊真に護、結構やられてんじゃんか」

 

「お、迅さん」

 

「油断したのか?」

 

「んなわけないッスよ!城戸さんの処罰なんてごめんだからなるべく穏便に終わらそうと頑張ったんスよ!!」

 

「いや、普通に強かったよ」

 

 古寺と奈良坂は米屋のところに行って呆れていた

 

「派手にやられましたね先輩」

 

「っ~やば、これ超恥ずかしい」

 

 米屋はホームで古寺と奈良坂は線路に下りているから顔は横にあるから無様な姿を真横から見られて恥ずかしい、やられようによっては穴に埋まりたいくらいだ

 

 三輪のところに来た迅は三輪と米屋がやられるのは当然だと言っている、しかも戦闘前に忠告はしていたようだった

 

「なにせこいつのトリガーは『ブラッグトリガー』だからな」

 

 その言葉に全員が驚いた、もちろんオレも、だけど何も知らない修と千佳は分からなかった

 

「ウソっ!?」

 

「ホントだよマモル」

 

 そうなればさっき遊真が使っていたトリガーは明らかに鉛弾(レッドバレッド)だった、それを撃ったと言う事は遊真のブラッグトリガーは()()して()()()()()()()として使えると言う事だ

 

 それに鉛弾(レッドバレッド)はボーダーが出来てからオレとロイが独自に作り上げたトリガーだ

 オレはよく相手を無力化するトリガーを使う、今回のγ(ガンマ)もだ、理由は当然同じネイバー同士無駄な争いはしたくない、仲良くなりたいという平和的な考えが理由だ

 

「むしろお前は善戦したほうだったな、こいつらがその気になれば三輪隊はあっさり4人ともやられていたぞ、さすがA級三輪隊だ」

 

 ブラックトリガーが何なのか気になった修はレプリカに聞いた。説明を受けた三雲は最初に助けてもらったときに聞いたトリガーが「親父のトリガー」「死んだ親父の形見」と言っていたのを思い出し納得した

 

「ブラッグトリガーはレプリカの言うとおり強いッス、その力は普通では作ることが出来ないトリガーなんスよ、遊真の学習するトリガーとか」

 

 トリオン体を解除したオレは修たちのほうへ移動して補足するように言いながらホームに上がった


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