Re:超高校級の幸運のボクがゼロから始まる異世界生活?絶望的だね   作:エウロパ

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謹賀新年!

おススメ
今回のお話は途中の※※※の部分から次の※※※まで『Climax Return』とか『New World Order』などお好みのダンガンロンパBGMを聞きながら読んだほうが良いかもしれません。ちなみに今回はまとめ回です。




第六話 『スーパー★ナギトタイム』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――こうして、世界はループしていくんだね――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――い、おい。どうしたんだよ、兄ちゃん。急に呆けた顔して」

 

気がつくと、がたいの良い男が狛枝の前に立っていた。

狛枝はそれを見て一瞬、呆然とするが、すぐに〝全て分かった様な〟顔をして顎の下に手を当てた。

 

「なるほどね……これで条件は全て整ったかな…………」

 

「……じょ、条件?」

 

狛枝が呟いた言葉に〝果実店の店主〟は首をかしげた。

 

「あっはは……いや、何でもないよ。ちょっと、驚いちゃってね」

 

「……まぁ良い……ほら。遠慮せずに持ってけ」

 

果実店の店主はそう言うと狛枝の〝予想通り〟狛枝に巾着袋を握らした。

 

「ありがとう。このお金はいつか、必ず返すよ」

 

「おう、そうしてくれ。期待はしねぇーがな。ほら、用はすんだから、行った、行った。商売の邪魔だ!」

 

果実店の店主に急かされた狛枝は店主が再び怒鳴らないうちに〝果実店〟から離れ街の人混みのなかへと進んでいった。

 

「……時間はある意味〝無いようで沢山ある〟からね……いや、沢山かどうかはまだ、分からないか……でも」

 

狛枝はニヤッと笑った。

 

「このターンで全て終わらせるよ……この、くだらない前哨戦はね……」

 

 

 

狛枝は〝いつもの〟大通りを見渡せる場所の壁までやってくると腕を組み壁に背中を付いて立っていた。

もう〝何度も何度も飽きるほど見た〟通行人の姿を軽く見つめる。

すると狛枝はポケットから電子生徒手帳を取り出して時間を表示させた。

時間を確認した狛枝はすぐに電子生徒手帳をしまう。

 

「うーん……予定の時間まで、まだ余裕があるか……それなら、この時間を有効活用して今の全ての状況を少し振り返ってみようかな」

 

狛枝は腕を組んで自信満々に笑顔を浮かべた。

 

(……日向くんのクライマックス推理まではいかないけどね……)

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

まずは、ボクがこの状況に陥った所から振り替えってみようか。

 

この状況の始まりはボクがジャバウォック島のファイナルデッドルームでしたゲーム……ロシアンルーレットが始まりだったね。

 

何の躊躇いもなく五発銃弾が込められた六連装リボルバーの引き金を引く予定だったんだけど……。

 

でも、それはできなかったんだよね。

 

引き金を引こうとした瞬間、ボクは今まで感じたことのないような異様な寒気を感じた。

それで、気になって後ろを振り向いたら、いつの間にかボクはこのファンタスティックな世界に居たんだ。

 

正直、今でもこの時の状況はさっぱりわからないんだけど。

 

似たような経験としてはボクがジャバウォック島に来た時があげられる。

でも、今回ばかりはモノクマもモノミも関わってるとは思えないし何かが決定的に違うはずなんだ。

 

このての分野はそこまで詳しくはないけどボクの趣味は読書だからこれに似た事は幾つかの本に書いてあったのを覚えている。

といっても、これは殆どボクの不得意なジャンル、オカルトやファンタジー関係の書籍だったけどね。

 

オカルト関係で言えば確か……軍隊の部隊失踪事件とか、航空機の消失、船に乗っていた乗員が突然失踪した事件とかだったかな。

ファンタジー関係の小説はだいたい異世界転移もの作品だったね。

 

この点については今考えても仕方ないか……もしかしたら、ボクもオカルト関係の失踪者の仲間入りしたのかも知れないけど、こればっかりは、すぐに分かることじゃないからね。

いずれ考える事にしよう。

 

とにかくボクはこの世界にやって来たのは事実なんだ。

 

お金もないし、この国の文字も読めない、絶望的な状況だったけど……〝何故か話している言葉の意味は分かったから〟状況の確認の意味で街を散策したんだ。

そしたらその道中〝果実店の店主さん〟と話をして幸運的にもお金を貰った後で〝あの路地〟に偶然立ち寄った時、三人組の不良達にからまれたんだ。

どこの世界にもこういう輩は居るんだね……と、この時は思ったよ。

 

そして、ボクはそこで二人の少女に運命的とも言える出会いをした。

 

〝金髪の少女〟と〝サテラ〟さん。

 

ちなみに……〝サテラ〟という名前はその後の言動を見る限り間違いなく恐らく偽名だろうけど本名が分からない以上、ここではサテラと呼ぶ事にするよ。

 

まず最初に現れたのは金髪の少女だった。

彼女は一瞬だけ不良達に絡まれたボクを見て立ち止まったけどすぐに立ち去ってしまった。

この時の彼女身体能力は素人のボクから見ても驚異的で直ぐに〝素晴らしい才能の持ち主〟だと分かったよ。

 

その次に現れたのがサテラさん。

彼女はどうやら困った人を見捨てられない性格らしくて不良達に絡まれたボクを魔法という〝才能〟で助けてくれたんだ。

 

でも、彼女は〝何か〟を探していた。

 

最初はボクもその何かを盗んだ犯人と関係が有るんじゃないかって疑われたけどこれはすぐに無実を証明できたんだよ。

 

その〝何か〟とは、この後起きる事件で重要な役割を果す事になる〝徽章〟という物だ。

 

サテラさんは、この徽章を金髪の少女に盗まれてしまっていたんだよ。

 

この徽章はサテラさんにとって大事なものらしくてその後の行動を見ても何としても取り返さなければならないという気持ちが滲み出てたね。

 

たぶん、サテラさんは、それなりに身分が高い人物なのかもしれないね。

 

この時のボクは彼女に助けられた事と彼女の才能に敬意を称して彼女の徽章探しに協力することにしたんだ。

それに、この時は何をすべきかも考えていた途中だったし暇だったからね。

 

こうしてボクとサテラさんの徽章探しが始まったんだ。

 

簡単な聞き込みと推理、それとボクの幸運を上手く使って行った捜索は大成功したよ。

 

金髪の少女の正体が貧民街でそこそこ有名な泥棒である〝フェルト〟という人物だという事が分かると聞き込みで聞き出したフェルトさんがよく盗んだものを売買してるという〝ロム爺の盗品蔵〟をボクたちは目指したんだ。

 

貧民街に到着した時間は夕方。ロム爺の盗品蔵に到着した時間は夜だった。

 

本当ならもっと早くに着いた筈だけどボクは体力が無いから途中で何回も休憩したことが要因だね。

 

盗品蔵に着いたボクはサテラさんを外に待たせてボクが最初に中に入って安全を確かめることにした。

貧民街が反社会的な場所である以上、あらゆる警戒はしなければならなかった。

それと、ボクは念のためサテラさんとある約束をしたんだ。

 

それは〝盗品蔵の中から発砲音が二回聞こえたらサテラさんにも対処可能な敵が現れたという事。三回以上の発砲音はサテラさんには対処不可能の敵が現れたという事だから中には入らない事〟というものだ。

 

希望は守らなければならないからね。

 

でも、盗品蔵の中の状況は予想の斜め上を行っていた。

 

盗品蔵の中は真っ暗で盗品蔵の主と思われる人物が殺害されていたんだ。

しかも、ツイてない事にこの事件を引き起こした〝襲撃者〟はまだ、中に居たんだよ……。

 

襲撃者は目撃者となってしまったボクを襲った。

致命傷を負ったボクだけど幸いピストルを持ったままだったから反撃して発砲した時の閃光で襲撃者の顔を確認できたんだ。

 

ボクはこの薄れい行く意識の中、三回以上の発砲ができたからサテラさんの安全は最低限の確保はできたと思っていた。

 

しかし、状況はさらに絶望的な方向に向かったんだ。

 

サテラさんがボクを助けに盗品蔵に入ってきてしまったんだよ……。

これは、彼女の性格を十分考慮できていなかったボクに責任があるんだけど結果、サテラさんは、襲撃者に殺されてしまった。

そして、ボクも意識を手放して〝間違いなく死んでしまった〟んだ……。

 

この時は、本当にもう終わりかと思ったよ……。

 

なんて絶望的、希望の踏み台にすらなれずにただ死ぬ……本当にゴミクズ以下だよ。

 

普通ならこれでもう終わりだからね……。

 

でも……事態はこれで終わらなかったんだ……。

 

なんと……ボクの意識が再び戻ったんだよ。

 

しかも、ただ戻った訳ではない。

何故かボクは〝果実店の店主〟の前で意識が戻ったんだ。

 

周囲を見渡すとさっきまで夜だったのに太陽は出てるし決定的だったのは〝果実店の店主さんがボクにお金を渡してきた事と体の傷が消え消耗したはずのピストルの弾丸が元の数に戻り先に貰ったはずのお金が無くなった〟んだ。

 

ボクはその時、理解ができずに困惑するばかりだったよ。

 

ここまで困惑したのは久しぶりだったからね……。

 

それからボクは一旦、落ち着いて考えることにしたんだ。

ボクの身に何が起きたのかをね。

 

そこでボクが導きだした可能性は三つだった。

正直言ってどれも信じられないものだったけど……。

 

一つはただの夢だった可能性。

ただこれはボクもさすがに違うんじゃないかと思ったよ。

夢にしては全てにそれだけリアリティがあったんだ。

二つ目は何らかの手段もしくは異世界に来た事が原因で未来を体験した可能性。

三つ目はボクの意識が死んだ時から時間を遡った可能性だ。

この三つの中では二つ目と三つ目の説が近いのではないかと思ったんだ。

 

ボクは自分に何が起きたのかを正確に理解するために動き出したんだ。

 

そう、同じ行動をね……。

 

不良達に絡まれる所からフェルトさんとの出会い、サテラさんとの出合い、徽章の捜索……。

ボクは全く同じ行動をしたんだ。

 

結果はボクの知っている通りになったよ。

でもこの時は流石にサテラさんをボクの検証に巻き込むわけにはいかないから貧民街に着いた時点で別れてボク一人で盗品蔵に入ったんだ。

 

一応、ボクなりに戦闘体勢を整えてボクの幸運も頼りに襲撃者と遭遇したんだけど結局同じ様にボクは致命傷を受けて殺されたんだ……。

 

一つ目の説と二つ目の説ならボクの人生はこれで終わるはずだった。

でも、現実は小説より奇なりとは良く言ったものだね。

 

結局のところボクは幸運だったんだよ。

 

ボクの意識はまた〝果実店の店主〟さんの前で覚醒したんだ。

 

その時ボクは何が起きているか理解したよ。

そう、ボクは死んでから時間を遡っていた事にね!

 

そして、もう一つ分かってしまったんだよ……。

 

もしこれが〝単発的な現象〟じゃなくて、これからも続いていくとしたら……。

 

死んでから時間を遡り、やり直すって事は……〝どんなに残酷で絶望的なゲームオーバー〟を向かえても……そのまま〝消える〟ことすらできずに〝セーブポイント〟に〝ループ〟されちゃうって事だもんね……。

 

あぁ……まるで、生物実験をされているモルモットになった気分だよ!いや、これこそまさしく、ゴミだめに這いずる虫かな。まったく、ボクにピッタリだよね!異世界のファインプレイだね!!

 

それにボクの考えが正しいか正しくないか……この事は幸か不幸か直ぐに証明される事になったんだよ……。

 

ボクは二回目の〝ループ〟の時にまた、死んでしまったんだ。

まぁ、今度は別に殺されたとかじゃなくて普通に〝事故死〟だったけどねぇ……。

 

でも、ボクは結局、ツイてたんだよ。

 

こうして、ボクが思考できているのが証拠だね。

結論から言うとループは単発的な現象ではなかったんだ。

 

ボクは〝三回目のループに突入〟したんだよ。

 

ただ、この現象がどれくらいの期間続くのか。もしくはずっと続くかは分からない。

 

判断するには材料が少なすぎる……。

こんなことなら、今の状況の判断には、たしにはならなかったかもしれないけど科学誌とか読んでおけばよかったかもね。

もしかしたらちょっとは役に立ったかもしれないでしょ。

 

だから……ボクは唯一この世界で頼れるもの……自分の才能にかけることにしたんだよ。

 

状況判断の材料が少ないなら材料を増やしてしまおうってね!

 

たったこれだけで〝ループ〟が終わる程度の幸運なんて、そんなの〝超高校級〟とは呼べないよ……。

 

ボクが〝超高校級の幸運〟なら……これだけで〝ループ〟が終わるなんて事にはならない筈なんだ。

 

それに〝ループ〟ができれば……〝希望〟が〝絶望〟なんかに負けないってことを証明するための〝大きな力の一歩〟になると思ったんだよ!

 

だから、それからボクは〝実験〟を開始したんだ。

 

実験内容は至ってシンプル。

とにかく、多くの回数を死んでみる事にしたんだよ。

 

これで終わるようなループじゃ希望を育てる役にはたたないからね。

 

実験の回数は十二回。

つまり、少なくとも実験の回数とその前に死んだ三回を加えて計十五回は〝ループ〟に成功した事になるんだよ。

 

実験の死因は自殺七回、事故死二回、他殺三回だね。

 

もちろん、ただ、死んだわけじゃない。

サテラさんが殺されない様に色々と手段をとりながら、事件を解決するための情報収集を行ったんだ。

だから、この間サテラさんは一度も死んでいないはずだよ。

 

情報収集は具体的には聞き込みや観察だね。

 

どうして、見ず知らずの赤の他人を助けるのかって誰かが聞いたら聞かれそうだけど……。

 

そんなの決まってるんだよ……。

 

ボクは嫌だったんだ。

ボクみたいなゴミクズならまだしも素晴らしい才能を持つ彼女が無駄に命を散らす姿を見るのがね……。

 

ボクが入手した情報は主に盗品蔵の〝襲撃者〟の情報だった。

この国の警察組織である〝騎士団〟や裏社会の住人達からの聞き込みをしたり、襲撃者の行動を観察したんだ。

その他には王都に蔓延る反社会組織や不良集団の同行も観察したよ。

 

この情報は事件の解決におおいに役立た。

 

ループのおかげで、捜査時間はほぼ、無制限にあったからね。

 

端的に言ってボクは十一回のループで襲撃者の正体を突き止めることに成功したんだ。

 

それは、フェルトさんに〝徽章〟を盗むように依頼したフェルトさんの客だった。

 

それから、ボクは十二回目のループで、本格的に動き出す事にしたんだよ。

 

今度のループの目的は主に〝襲撃者〟と〝フェルト〟さんの二人と話しをすること。

 

この結果をもって次のループで〝ボクが何をすべきか〟決めるつもりだったんだ。

襲撃者が〝希望〟なのか〝絶望〟なのかそれを確認するためにね……。

 

十二回目のループの目的を成功させるには、いかにボクがこの事件の主導権を握れるかにあった。

 

だから、ボクは色々と動き回ったんだよ。

ループが始まってからすぐに、ボクは王都で敵対関係にある反社会組織2つと不良集団5つの人物に会って〝ある人物の特徴〟を挙げて、けしかけたんだ。

〝大規模な乱闘事件〟を引き起こさせるためにね。

 

それからボクは急いで〝あの路地〟へと向かうとフェルトさんが現れるのを待ったんだ。

 

フェルトさんはボクの予想通り現れてくれたよ。

 

サテラさんから微章を盗んで路地に逃げ込んでね。

 

ボクは彼女に盗品蔵の主人であろう〝ロム爺〟さんの命に危険が迫っている事を伝えたんだ。

ボクに協力してもらえる様にね。

最初は一悶着あったけど何とか協力して貰えることにはなったよ。

 

なんで協力してくれるようになったか。

 

それは、ボクが彼女を助けたからなんだ。

 

ボクがフェルトさんと会う前に準備した大規模な乱闘事件はちょうど、フェルトさんが〝路地へ逃げ込んでくるのと同時頃に引き起こされる〟様にしてあった。

 

何故、この乱闘事件がフェルトさんのボクに対するある程度の信用を上げることができたのか……それは、乱闘事件前にボクが互いに敵対する不良達と接触した時に各グループに対してこんな感じの事を言ってけしかけたからなんだ。

詳しくは省くけど、

 

「銀髪の少女が君達の■■■■■」

 

てな感じの事をね。

 

つまり、ボクはサテラさんが各不良グループの敵対している不良グループの構成員であるかのように語りサテラさんが中心となって各グループの怒りが心頭するような事をしたかのように〝嘘〟の情報を吹き込んだんだよ。

そして、「■■■の通りで君達を待ってるよ」と〝場所〟を伝えたんだ。

 

こうなると、どうなるかはもう分かるよね。

 

ああいう輩の人達は大体、頭が悪いし喧嘩っぱやい人達が多いからそのあとの事は簡単だ。

彼らはその〝場所〟にやって来て勝手に乱闘事件を引き起こしてくれたよ。

 

そして、その〝場所〟はサテラさんがフェルトさんを追いかけていた〝ルート〟だったんだ。

 

不良達は突然やって来たサテラさんを見て間違いなく手を出すだろうね。

サテラさんには本当に悪いことをしたと思っているけど……ボクは彼女の才能を信じたんだ。

 

サテラさんみたいな素晴らしい才能の持ち主なら、あの何の才能もない凡人の中のゴミみたいな不良達くらい簡単に捻り潰せるだろうってね!

 

まぁ、これによって、サテラさんはフェルトさんを追いかける事ができなくなったという訳なんだ。

 

ボクがフェルトさんに、ロム爺さんの命に危険が迫っている事を言って一悶着できる位の時間は稼げたからね。

 

これで、フェルトさんは限定的だとしてもボクを信用するようになったんだよ。

 

ボクとフェルトさんは一日だけという条件で一緒に行動することになった。

 

盗品蔵に着くまでの道のりはボクが少しでも早く着くように、さりげなくフェルトさんを誘導して近道を使ったお陰で本来の時間よりも少し早く到着することになったよ。

 

そして、盗品蔵についたボクとフェルトさんはそこで、盗品蔵の主〝ロム爺〟さんと接触できたんだ。

 

ロム爺さんと接触したボクは軽い自己紹介を済ませたあと〝交渉〟を始めた。

 

フェルトさんと、ロム爺さんがボクの計画に協力してくれるようにね。

 

フェルトさんがこのあと、待ち合わせしている客の正体が王都を騒がせている殺し屋、つまり〝襲撃者〟だって事を二人に教えてあげたんだ。

 

さすがは裏社会で生きているだけはあったよ。

フェルトさんはともかく、ロム爺さんが一番早くボクの話を理解してくれたんだ。

 

だけど、理解はできても信用はしてくれなかった。

 

ロム爺さんは、ボクをフェルトさんが待ち合わせてる客の、商売敵と考えたんだよ。

 

当然だよね。

何せこの情報はボクがループして得ることができた情報だからね。

物証も証拠も何もないのに、いきなりやって来て信用しろという方が無理な相談だよ……。

 

だからボクは二人にビジネスの話を持ちかけることで信用を得ようとしたんだ。

 

ボクの持っている数少ない所有物の一つである〝電子生徒手帳〟を使ってね。

ボクはこの世界にやって来てまだ少ししか経ってないけど電子生徒手帳の技術は明らかにこの世界の文明にはない物だから、取引にはうってつけだと思ったんだ。

電子生徒手帳にはメモ機能に使おうと思えば使える機能が有るんだけどこれに書ける文章量は前にモノミに聞いたときは実に本数百冊は入る量だった。

しかも、電子生徒手帳は時刻を確認する機能がある。

中世レベルのこの世界において、電子生徒手帳はオーパーツその物なんだよ。

これをしかるべき場所にちゃんと売れば相当な額になる筈だからね。

 

ボクはこの電子生徒手帳をフェルトさんに預ける代わりにフェルトさんの〝客〟と徽章の交渉させて欲しいとお願いしたんだ。

ボクがおかしな真似をしたり、失敗したら売るなり使うなり好きにして良いってね。

 

フェルトさんは、ロム爺さんの鑑定が終わってから少し迷ったけどボクの案を了承してくれたんだ。

ロム爺さんも、フェルトさんと同じだったね。

 

こうして、ボクたち三人は簡単な同盟を結んだんだ。

 

ボクが考えた当初の作戦はこうだった。

まず、フェルトさんを盗品蔵から避難させてからフェルトさんの客が来たところで普通に徽章を取引をして〝襲撃者〟の正体を探るというものだよ。

 

この作戦はすぐさま実行に移された。

 

フェルトさんを盗品蔵の裏口から脱出させボクとロム爺は襲撃者を待ち構える。

本当はロム爺さんも避難させたかったけど、ロム爺さんもフェルトさんもボクを完全に信用した訳じゃないからそれが無理なのは口に出さなくても分かったよ。

だから、ロム爺さんは名目上はボクを監視するために盗品蔵に残ったんだ。

 

そして、しばらくして遂に襲撃者は現れた。

 

この時はまだ襲撃者は取引に来ただけだから友好的だったよ。

襲撃者は盗品蔵の中に入った時にフェルトさんが、居ないことに不快感を示していたけど、ボクはそこで、フェルトさんを守るために〝フェルトさんは魔法攻撃を受けて倒れた〟と嘘をついて乗りきったんだ。

それでも、少しは残念そうな顔はしてたけどボクが徽章を見せたらボクが代わりに交渉する事に了解はしてくれたね。

 

ボクと襲撃者は互いに自己紹介をすると徽章の取引交渉を始めてボクはお金を受けとると徽章を襲撃者に渡したよ。

 

ここまでは無事に終わったんだ。

 

襲撃者はもう帰る雰囲気だったしボクもそろそろ本題を切りだそうと思っていたんだけど……。

 

ここで、ボクも予想外の事が起きたんだ。

本題を切り出してきたのは、まさかの襲撃者の方からだったんだよ。

 

ボクは少し戸惑ったんだけどこれがいけなかったね……。

 

襲撃者は遂に本性を見せちゃったんだよ……。

 

襲撃者は目にも止まらぬ早さでナイフを取りだしボクの腹を裂こうとしてきたんだ。

ロム爺さんが、咄嗟にボクを抱き抱えて後ろのカウンターの方に投げ飛ばしたからボクは大丈夫だったけど……ロム爺さんが腕を切断される大怪我を負ってしまったんだよ……。

 

これによってボクの作戦は崩れることになった。

 

ロム爺さんが、腕を切断される瞬間を何処からか見ていたフェルトが盗品蔵に戻ってきてしまったんだ。

 

フェルトさんの登場に襲撃者は少し驚いた様子だったけどすぐに納得したような顔をしてボクとの〝会話〟を再開させたんだ。

 

……一人で考えてるのに襲撃者の正体を濁すのは可笑しいね。

 

もう明かしてしまおうか。

 

騎士団の人と裏社会の売人から入手した情報を総合すると襲撃者の名前は〝エルザ・グランヒルテ〟だよ。

 

エルザさんは、その界隈じゃ有名な傭兵で王都を騒がしていたらしいんだ。

 

彼女が有名な由縁は……その特徴的な殺害方法にあったんだよ。

エルザさんは、人を殺す事にこだわりがあるらしくて、殺害対象のお腹を割いて腸をさらけ出す事に情熱を注いでいたんだ。

腸狩りなんていう別名まであるほどだからね。

だから、ボクが殺し屋と言ったのはあながち間違いではない。

いや、この場合は殺し屋と言うより殺人鬼かな。

 

その殺人鬼の本能か何かなのかな?エルザさんはボクを自分と似ているとか意味の分からないことを言い出したんだよ……。

 

ボクはこの時、強烈な嫌悪感を感じたよ……。

 

だって、ボクはこの時には今までの会話の流れから大体、分かっちゃったんだ……エルザさんの正体は〝絶望〟だって事にね……。

 

そんな絶望とボクが似てるなんて冗談でもやめてほしいよね。

ヘドが出そうになるよ……。

 

一体、何処が似ているとか言ってるのやら……。

 

まぁ、とにかくエルザさんの正体は絶望だった。

 

こうなるとボクのすべき事はただ一つしかないよねぇ?

 

〝絶望〟は〝希望〟によって倒されなければならないんだ。

ボクはそれを手助けするまでだよ。

 

でも……フェルトさんだけでは明らかにエルザさんには勝てるとは思えない。

確かにフェルトさんがエルザさんという絶望に立ち向かうのは魅力的だけどね……。

 

だから……ボクは自分の幸運を信じる事にしたんだよ……。

 

ボクが巻いた種が芽を咲かせてくれるようにね。

 

エルザさんがもしも、ボクに興味がなかったら、もしかしたら今回は失敗してしまっていたかも知れないけど……。

 

ボクが時間を稼いでる間に盗品蔵に……サテラさんと〝新たな登場人物〟がやってきたんだよ。

 

ボクの起こした乱闘事件に巻き込まれたサテラさんがボクの予測通り不良達を倒すか突破してここまでたどり着いたんだ。

 

一応、ボクを襲ってきた〝例の三人組の不良〟に〝果実店の店主さんから貰ったお金〟を渡して銀髪の少女にこの盗品蔵の場所を伝えるように〝銃を使って〟依頼してたから一から捜すよりは短い時間で来れた筈だよ。

 

こうして、ボクとサテラさんは再び会うことができたんだ。

 

でも、今回重要なのは……サテラさんじゃないよ。

 

今回重要だったのは……新たな登場人物の方なんだ。

 

ボクが乱闘事件を引き起こしたのはただ、フェルトさんと接触するための時間稼ぎや、エルザさんとゆっくり話をする為の時間稼ぎだけじゃないんだからさ……。

 

あっはは!正直、この案を考え付いた時はボクも自分がどうかしてるって思ったよ。

でも、しょうがないよね!せっかく異世界に来たんだからこれくらいの幸運があってもおかしくないって思っちゃうよね!

 

ここはボクの住む世界とは全く違う世界だ。

ループしていたとはいえ、たった半日歩いただけで幸運的にも素晴らしい才能を持った人達に何人もあえたよ。

この世界の人から見たら普通の事かもしれないけど……ボクから見たらこの世界は……あぁ、なんて素晴らしいんだろうね!!

感動すら覚えるよ!!

こんなにもゴロゴロと色んな才能を持った人々で溢れているなんてね!

 

だからボクは仕掛けたんだ。

王都で大きな事件を引き起こし、しかもサテラさんの様な少女が凡人達に襲われていればきっと、ボクの知らない才能を持った人物が現れてくれるんじゃないかってね!

 

チャンスはいくらでも有るんだ。

ループは精神的にも肉体的にもキツいけど……ボクみたいなゴミクズには本当にピッタリだよ。

ボクはこの機会を有効的に使うつもりだからさ……。

 

そして、ボクはこの賭けに勝ったんだ!新たなる登場人物がサテラさんと一緒に現れてくれたんだよ!

 

もちろん失敗する可能性の方が高かったけど……やっぱりボクは幸運なんだよ。

だから成功したんだ。

 

しかもその登場人物はまさに〝大当たり〟だったんだよ!

 

サテラさんと一緒にやって来てくれたのは……〝剣聖〟と呼ばれサテラさんや、エルザさん、フェルトさん、ロム爺さんまでもが知っている有名人だったんだ!

彼の名前はラインハルト・ヴァン・アストレア……。

 

ボクは彼を見た瞬間分かったよ……彼には素晴らしい才能が秘められているってね!

 

同時に期待したんだ。

ラインハルトくんが、エルザさんを打ち倒す事でこの絶望を希望の光で満たしてくれるんじゃないかってね!

 

そして、この賭けにもボクは勝ったんだよ。

 

全てボクの作戦通りラインハルトくんと、エルザさんの戦いが始まったんだ。

 

その戦いでラインハルトくんは……あぁ……今思い出しても心が踊るようだよ!

ラインハルトくんの才能は……ボクが想像していたよりも素晴らしいものだったんだ……。

 

いや、想像するのもおこがましいよ……。

 

剣聖と呼ばれるだけはあるね。

ラインハルトくんの才能は……ボクが今まで見たなかでも圧倒的だったんだ……。

 

あのエルザさんを、ひとふりの剣で吹き飛ばしたんだよ。

しかもエルザさんだけじゃない。

その威力はとても剣を振っただけとは思えなかったよ。

盗品蔵が……半分吹き飛んだんだ。

例えるなら……そうだね。

まるで盗品蔵で高性能爆弾が爆発したとか、爆撃を受けたみたいだったね……。

 

こんなに素晴らしい才能が存在するなんて……この世界は本当に凄いと思ったよ!!

 

それでボクは思ったんだ。

 

この世界なら…… 見つかるかもしれないってね!!

どんな絶望にも負けない絶望的な希望をさ!!

 

まぁ……結論的にはラインハルトくんがエルザさんに勝利した。

 

だけど、ラインハルトくんは油断してたのかな?

エルザさんは死んでいなかったんだよ。

本当に絶望はゴキブリみたいにしつこいね……。

エルザさんは性懲りもなくサテラさんを殺そうとしてきたんだ。

きっと、徽章を戦闘中に落とすという〝エルザさんにとっては不幸〟な事になっちゃったから、せめてサテラさん位は……と思ったんだろうね。

でもね……流石にこればかりはボクも〝傍観〟することはできなかったよ。

ラインハルトくんも助けるには距離が離れすぎていて無理だろうだったからね、だからボクはサテラさんを助けるためにエルザさんに発砲したんだ。

〝エルザさん程度の絶望〟ではラインハルトくんには勝つことはできないのは目に見えていたし、何より〝役目の終わった役者〟がサテラさんを殺そうと狙うなんてそんな〝無駄でもったいない〟ことはボクは許せなかったしね。

だから、ボクが止めたんだ。

ボクの撃った弾丸はエルザさんの手に幸運にも命中してくれたよ。

おかげで、エルザさんはナイフを失って、みっともない台詞を吐いて諦めて去ってくれたね。

 

だけど……今回はボクも幸運がきすぎたね……。

ボクの幸運は幸運の後に不幸が必ずといっても良いほど起きるんだけど、これも異世界に来たせいなのかボクの不幸はボクを殺す程にまで増大する事になったんだ。

でもその増大分幸運も来るから良いけどね。

結局は今までと何にも変わらないし……。

 

今回は、やっぱりラインハルトくんに会えたからなのかもしれないけど、ボクこのあとに盗品蔵の倒壊が始まった時に〝何かが〟飛んできてまた死んじゃったんだよ。

 

ラインハルトクンとの出会いはボクの人生の中で一番の幸運的な出会いだと思ったし

 

まぁ、それにこの死という不幸がなくてもどのみち死ぬつもりだったから丁度良かったんだけどね。

 

だって、ここで生き残ってもこれだけの大事を引き起こしたんだからろくな事にならないのは目に見えてるし、何よりこれが原因で今後の行動に制限がつけられるのは嫌だからね。

 

そう考えれば幸運なのかな?まぁ、いっか。どうせ一回死ねば〝行動も幸運も不幸〟もリセットされるんだしね……。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

(そして今に至る、と……)

 

「うーん……ざっと振り返ってみたけど結論的には何も分かってないんだよねぇ……」

 

狛枝はそう呟くとイラッとしたような表情を浮かべた。

 

(これまで何十時間もループして分かったのは、サテラさんやフェルトさんの助け方だけ……エルザさんの目的も何も分からないし、微章の意味も分からない……まぁ、しょうがないか。ループじゃ〝時間〟は限られてるし時間も進んでいるわけではないから捜査にも限界はあるね。それにしても……一人で考えてたのにまるで〝裁判〟で〝皆〟に説明するみたいに考えるなんて……流石にボクも疲れが貯まってきたのかな?)

 

「まぁ、このくだらない〝前哨戦〟は今回で終わりにするつもりだから良いか……」

 

狛枝は不適な笑みを浮かべると手をポケットへ突っ込み電子生徒手帳を取り出し時間を確認する。

 

「……そろそろ時間だね。それじゃあ行こうかな」

 

そう言うと狛枝は電子生徒手帳をポケットにしまい自信満々の表情を浮かべ再び王都の人混みの中へと消えるのであった。

その狛枝の頭の中に困った様子は微塵もない。

ただ、狛枝がこの時考えていたのはこの前哨戦を終わらせた後の事だけだ。

もはや、狛枝はエルザの事など微塵の恐ろしさも感じていなかった。

 

 

 




皆さん!新年、明けましておめでとうございます!
今年もエウロパをよろしくお願いいたします!

お正月に田舎に帰っていたんですが雪がすごかったです。
それに比べて都会は高速バスに乗って景色を見ると都会に近づくにしたがって一気に雪が無くなってちょっと見てて全然、違うなぁ……と声を漏らしてしまいました。
トンネルを越えるとそこは雪国だったって言葉がありますがこんな感じなんですかね?

さて、雪は3月までが本番なので皆さん、雪かきをする時は怪我や風邪に気おつけてくださいね。

なんだか今回は一気にまとめに入っちゃってすいません。
本当は狛枝クン視点に戻して順を追った話を展開する予定だったんですけどそうなると話数的に膨大な数になってしまうのでこんな形をとらせて頂きました。
私の更新スピードは不定期ですし遅いので下手をしたらこの序盤を終わらせるのに半年以上または10ヶ月以上かかってしまう可能性があるからです。
前回の伏線は外伝などを書く時に明らかにしようと思います。



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