「ふぅ...」
家に入る前に外で一服する。なんだか最近ますます喫煙者に厳しくなったと思う。俺がまだガキだった頃の大人達は病院とか電車の中でも吸えてたってのに、今じゃどこもかしこも禁煙禁煙で家の中にすら居場所がない。ちなみにタバコ吸ってなくても家庭に居場所なんてない。ハハハ...なんか笑えてきた。これは心の病ですね、間違いない。
暫く黄昏てると、いつの間にか居た息子が普段より一層死んでる目でこっちを見てた。こいつ存在感なさすぎィ!マジで気づかなかったぞ。
「よぉ、不景気そうな面してんな」
「その言葉其の儘返すわ」
こいつが事故ってからもう一年ちょいか。あれから特になんもなかったが息子との関係は良好だ。
「俺は自分の存在理由について考えてた」
「自分ちの玄関でえらく壮大な事考えてんな」
「お前はどーなんだよ」
「...今日部活入った」
「えぁ!?」
やっべ、驚きすぎて変な声出た。
「い、一応聞くけどさ。部活ってあれだよな、放課後集まってやるやつ」
「それ以外に何があるんだよ」
嘘だと言ってよ、八幡...俺の知ってるお前は
「何部だ!何部に入った!何企んでる!」
「なんも企んでねーよ。奉仕部って部活」
奉仕部?聞いた事ねー部活だな。でも奉仕って事はボランティア、つまりボランティア部か。
いやいや、こいつがボランティアなんてありえん。ただでさえ働くのが嫌いなこいつが、無償で働くとかレナちゃんに嘘だッ!!!って叫ばれるレベル。
とにかくこいつがボランティア部に入ったのにはそれ相応の見返りがあるはずだ。
ボランティア...得られるもの...ダメだ、ボランティアしたことねーから分からん。タダ働きして一体何が得られるんだよ...
いやまて...!あったぞ!ボランティアして貰える物!
ボランティアして貰える物、それは実績だ。学業の成績はそこそこいいから、後は部活動の実績さえあれば大学の推薦が貰えると考えてるんだろう。推薦入試は狭き門だが、その分一般受験よりかは楽だし合否も早めに出る。後で楽する為に今を頑張る、さすが我が息子だ。
これらの事から大学受験の為に奉仕部なる部活に八幡は入部したと思われる、Q.E.D.
「内申点目当てだろお前(ドヤ顔)」
「いや、生活指導の先生に無理やり入れられただけだっての」
....さっきQEDとか言ってたのは俺じゃない。俺の中に住んでるもう一人の俺が勝手に言っただけなんで、私には一切身に覚えがありません。
「へ、へー。ところでその部活は何人ぐらいいんの?」
「俺含めて二人だけ」
「すくなっ、ほんとに部活なのかよ...んでもう一人の部員は男か?」
「...女」
「なにっ!?」
なんてこった...16歳にしてようやく息子に春が訪れちまった。いやまて、重要な事を聞き忘れてた。
「美人か?」
「いや、それ関係なくね?」
「び・じ・ん・な・の・か?」
「はぁ...美人だよ美人。でも」
放課後に美人と二人っきりの部活って何?ラブコメ通り越してエロゲだよ。しかも部活の名前奉仕部だし...奉仕ってなんかエロいと思いました(小並感
やべ、こいつの話全然聞いてなかった。
「おい八幡」
「だいたい初対面で...なんだよ」
「警察沙汰だけは勘弁だぞ」
「ねぇ、俺の話聞いてた?耳が遠いの?もう更年期障害?」
「そーなんだよ、もう俺働けねぇわ。だからお前は比企谷家の柱になれ!高校辞めて俺を養ってくれや」
キィーーー、バタン。
昔はおとーさんっ子だったんだけどなぁ...光陰矢の如しってやつか。
でもまぁ、何はともあれ部活に入ったんだから精々頑張れよ八幡。チャンスってのは逃すと次いつ来るか分からねぇからな。
そろそろ俺も入りますかね。立夏つっても夕方は肌寒い。
「あら、今日は早かったのね」
ドアを開けようとしたら後ろから声を掛けられた。
「お前もな」
「私はいつもこのくらいなんだけど?」
「へ、へー」
いつもこのくらいってホワイト企業すぎないっすかね...それともこいつが優秀なのか...たぶんどっちもだな。
「それよりさ...括目せよ!じゃーん!」
「え、なにそれ?」
水戸黄門の格さん張りに白い箱を付きだしてくる、かわいい。
「〇〇屋のプリンだよ、アンタ前食べたいって言ってたでしょ?」
「確かに言ってたけど、良く買えたな」
〇〇屋のプリンつったら一日100個限定なのに。
「ちょっとしたコネがあってね~。ほら、入った入った」
ほんと出来た嫁だ、俺には勿体ない。誰にも譲る気はないけどな。
「はいよ、それとさ」
「なに?」
「いい歳こいてじゃーんはどうかと思うよ?」
「...(無言の腹パン)」
「うぐッ!」
キィーーーー、バタン...ガチャッ。
あ、あいつチェーンしやがった!思った事言っただけなのに...
はぁ...仕方なく俺は二本目のタバコに火を付けて、鬼の機嫌が良くなるのを待つことにした。