今日もとりあえず冒険者ギルドへやってきた。ここに来なければ私は何も始まらないわけであって、私のハーレム女王への道も基本的にはここから始まる……気がする。
さて、どうしようか…………今日は珍しいことに、隣にはイザナミがいない。
つまり、厄介な監視がなくなり、攻略が自由になることを意味する。
よし、ここはギャルゲーでは重要なヒロイン達との仲を深めることにしよう。
交流を深めて好感度を上げさせられる大事な選択肢。当然目指すのはハーレムルートだ。皆幸せにさせる。
さて、と…………私の選択は五つ。
一、イザナミを探す。
二、アクアに逢う。
三、めぐみんに逢う。
四、ダクネスに逢う。
五、カズマに逢う。
カズマはヒロインではないし、私からすれば単なるヒロイン達に不憫な目に遭う悪友ポジションだ。それでも学ぶことはあるかもしれない、が……。
「決めた」
私はあの子に逢おう。何気にそんなに話したことはないからね。
●
「アスカ、丁度良かったです。早速討伐に行きましょう。それも沢山雑魚モンスターがいるやつです。新調した杖の威力を試すのです!」
今回はめぐみんと逢う選択をしたから、探して逢った途端にこの発言……。
……選択ミスったかな? なんか面倒そうな気がするけど……まぁいっか。
「新調した杖って……この前のキャベツ狩りの報酬で買ったやつ?」
「そうです! このマナタイト製にこの色艶……たまらない、です……ハァ……ハァ……」
「めぐみん。女の子なんだから、その興奮と誤解されそうな手つきで杖を摩るのはやめた方がいいよ」
どうして私達のパーティーは残念系が多いのだろうか。
「……とりあえず、掲示板の依頼を見てから決めよう」
「フフフ、今なら……どんな相手だろうと爆裂魔法の試しがいがあります」
あんなオーバーキルな魔法にこれ以上威力を上げてどうするのだろう。めぐみんは世界征服でもしたいのかな?
少しめぐみんの将来に不安を覚えながら掲示板を見ると……。
「あれ、なんでこんなに少ないの?」
いつもなら所狭しと簡単なものから難しいものまで大量に貼られているクエストの紙が、今は数えても一桁しか貼られていなかった。
「アスカ! これにしましょう! 山に出没するブラックファングと呼ばれている巨大熊に爆裂魔法を……!」
「嫌だよ! こんな高難易度のクエスト受けたら死ぬ! 私はまだ死にたくない!」
「そうは言いますが、これくらいのものしか貼っていませんよ」
めぐみんの言う通り、どれもこれも駆け出し冒険者にとっては無理難題な高難易度のクエストしか残っていなかった。
……おかしくね? なんで転生初心者なのに無理難題な難易度を押し付けるの? ハッキリ言っておかしいよ。絶対に誰かが意図的に、しかも集団でやらない限りこんなことにはならないはず……だと思いたい。
するとそこへ受け付け嬢の人がやってきた。
「……申し訳ございません。最近、魔王の幹部らしき者が街の近くの小城に住み着きまして。その影響で、この近辺の弱いモンスターは隠れてしまい、仕事が激減しておりまして……」
えー……そんなリアルな弱肉強食いらないよ……。もうちょっと駆け出し冒険者に優しくしてもいいんじゃないですかねー……。
●
「つまり、国の首都から腕利きの冒険者や騎士達がここに来るまでの間はまともな仕事はできないってこと?」
「そういう事になりますね。ここまで来るまでは約一ヶ月ですかね」
受け付け嬢とめぐみんの説明を受けて私は改めて思う。
ほんと、もうちょっと駆け出し冒険者に優しくしてもいいんじゃないですかね。つか、魔王の幹部さんは何しに来たんですか。私という主人公に沿った物語に従ってくれはしないのですかね。
文句言ってもしょうがないし、何も解決できないけど……普通になんか嫌だ。
「アクアさん、魔王の幹部が来ることを知ったら怒っていました……」
「あー……想像できるね」
途中で合流したイザナミが言う。
アクアが怒るのも無理はない。この前に起こった緊急クエストで、キャベツではなく対象外のレタスを多く捕まえてしまったことに気がつかず、そのせいで報酬は少なかった。しかもキャベツで期待していたせいで、前から持っていた有り金を全部使ったそうだ。これは計画性の無さのアクアが悪い気がしなくもないが、その結果を含めてアクアはお金がないに等しい。お金を稼ごうにも、魔王の幹部が近くに来たせいで簡単に稼げる方法を一ヶ月分取り上げられてしまったのだ。
アクアだけではなく、他の冒険者達も同じように思っていたらしく、普段より多くの冒険者達が昼間から飲んだくれている。放り投げて酔って気分でも晴らそうとする気持ちは良くわかる。
「そういうわけですので、クエストがない間はしばらく私に付き合って貰いたいです」
そういうわけで、途中で合流したイザナミと一緒にめぐみんについて行くように街の外へと出ていた。
その目的と言うのは、爆裂魔法を撃つこと。
どうやら、このめぐみんと言う子は一日一回爆裂魔法を撃たないと気が済まないようなのである。
「……この機会に爆裂魔法を一日一回撃つことをやめる気は?」
「ないです! 爆裂魔法を撃つことは日課なんです。一日一回以上食事をするのと同じで一日一回爆裂魔法を撃つことは日常において当たり前なんです」
私、この子が行っている日課は止めるべきだと思うんだ。
「……そういうことみたいだから、イザナミは無理に着いて来なくてもいいよ。私だけで十分だから」
おそらく、私の役目はめぐみんが爆裂魔法を撃つ後だろう。倒れためぐみん運ぶという、タクシーみたいな感じだ。それだけなら、私一人で十分だ。
「えっと……そ、それは……」
「私の役目って、多分倒れためぐみんを運ぶことだろうと思うから、一人でも十分なのよね。だから」
「要するに、私がいると邪魔だ、さっさと消えろ、このクズが……ってことですね」
「違います」
受け取り方が酷かったので、速攻で否定した。
「イザナミはもうちょっとポジティブに考えた方がいいですよ」
ほら、めぐみんにも言われているじゃない。
私はこんなことに付き合わず、自分のやりたいこと、好きなことでもしたらいいんじゃないのって伝えたつもりなのに、伝えなくてもそんな風に考えないわよ。
「じゃあ……私なんていると邪魔なので、さっさと消えろってことですね」
「さっきと変わんないじゃないか」
「私なりのポジティブです……」
「ポジティブのハードルが低すぎるよ!」
もはやポジティブって何?って哲学に発展しそうなくらい、低かった。
というか、普通にネガティブ発言だよね。
「でも、私はアスカさんとめぐみんさんが二人っきりになる方が心配なので……私もついていきます」
「どうしてそれを最初から言わないんだよ……」
それを最初から言いなさいとイザナミに言うのは野暮になってしまうのか?
余計な遠回りをした気もしなくないけど、理由があってついていくのね。
「あと、アスカさんはめぐみんさんに何をするのかわかりませんから……見張ります」
ポジティブがあるかはともかく、君絶対に弱くはないでしょ。というか、めぐみんになんかする前提で言わないでよ。
「……前から思っていたんですけど、アスカとイザナミはどんな関係なのですか?」
めぐみんに訊ねられた。
「どんな関係? そんなのき」
「決まってないです」
「……まぁ、あれよ。今は友達だけど、イザナミはいつか」
「ありません」
「……あの、せめて言ってから否定してくださいな」
とは言いつつ、私が言いたいことをわかっていて拒んでいるに違いない。でも友達ってことに否定していなかったから、私とイザナミは友達であることは間違いない。
よし、ポジティブに行こう。友達ってことは嫌われていないことであり、まだまだ可能性があるっていう見込みなんだから。
「めぐみんさん、アスカさんには気をつけた方がいいです……本当に気を付けたほうがいいです。ハーレム女王とか口にしている時点でろくでもない人なのは間違いありません。後、無駄にポジティブでめげないところが厄介です」
「無駄って言うなし、ろくでもないとか言うな」
「……よくわかりませんが……そうします」
「いや、警戒しなくても大丈夫だからね!? この私を信じて!」
「……なんかその言葉が信用できないですね」
「えーそんなー……」
ヒロイン候補であるめぐみんにも警戒心の芽が生まれた。常に上手く行かないことはわかっているつもりだけど、世知辛いなぁー……。
だけど、ここはポジティブに考えよう。無駄とか言われているし、無理に空回りしているだけかもしれないけど、無駄なことではないはず。ここはめぐみんとの仲を少しでも深まったと考えよう。そういう意識って大事なはず、だと信じたい。
「あ、もうここらへんで爆裂魔法を撃っても良いんじゃない?」
とりあえず話を変えるつもりでめぐみんに魔法を放つようにと促してみる。街からちょっと離れているし、ここなら爆裂魔法の影響も受けないだろう。
「駄目です。もう少し街から離れた所じゃないと、また守衛さんに叱られます」
「……それ、音がうるさくて迷惑だから?」
「そうです」
またってことは、何度もやったことあるんだ。
めぐみんはきっと大音量で音楽を聴きたいとタイプだと私は思う。それも隣の家が騒音で訴えられる音量で。
仕方がない、もう少し歩こう。人に迷惑かけるのは普通に良くないし、そう言えばこの世界に転生されてから遠出することもなかったから丁度良いのかもしれない。
こうして私とめぐみん、私がめぐみんに手を出さないよう監視役としてイザナミと遠出すること数分。
「……あれは何でしょうか?」
めぐみんが遠く離れた丘の上に佇む、朽ち果てた古い城を見つけた。
「廃城……ですかね?」
イザナミが口にした通り、一見丘の上にある建物は廃城ぽかった色合い的にも古びえていて、形状もどこか偏っている。そんでもって全体的に薄気味悪い。
「よし、あれにしましょう! あの廃城なら、盛大に破壊しても誰も文句は言わないでしょう」
そうと決まったら、めぐみんはさっそく爆裂魔法の詠唱を始める。待ってましたと言わんばかりのウキウキである。
「本当に大丈夫なんですよね……」
イザナミはあの廃城に爆裂魔法を撃ってもいいのだろうかと思っているのだろう。
「まぁ、廃城だったら多分大丈夫でしょ。流石に人が住んでいるとは思わないし」
そんな心配事を他所にめぐみんは爆裂魔法を放つ。
「『エクスプローション』ッ!」
心地よい風と穏やかな日差しの丘の上、パッと見て観光スポットになりそうな廃城に降り注がれたのは、爆裂魔法という強大な魔法だった。
「相変わらずすごい威力だね……」
「当然ですよ……さぁ仕事ですよ、アスカ」
めぐみんがうつ伏せみたいに倒れながら言っていた。
「やっぱりそうだと思っていたよ」
……こうして、私とめぐみん、そしてその監視役であるイザナミで奇妙な三人の新しい日課が始まった。
お金の管理ができていないアクアは、クエストでの収入が期待できないのか、毎日アルバイトに励んでいる。
ダクネスは何故か実家で筋トレをしてくると言って行った。
カズマは……わからなん。聞く気もなければ聞かれる気もない。
めぐみんは毎日廃城に爆裂魔法を放つ日々を送ろうと現在進行中。
私は爆裂魔法を撃つことでの魔力切れによって動かなくなっためぐみんを背負う日々を送り、イザナミは私がめぐみんに手を出さないように見張る日々を送っていた。
それは、強風によりスカートが捲れそうな日のこと。
それは、傘をさすまでもない、妙に涼しい小雨の日のこと。
それは、快晴で風が心地よく、ピクニック気分に向かった日のこと。
カズマが暇そうだったので、気まぐれに誘った日のこと。
「……お前らなにやってんだよ」
「何って……めぐみんの爆裂魔法日課に付き合っているの」
「なんだよ、その毎日家を焼こうぜみたいな理由は……」
「あの廃城、結構撃っているけど、全然崩れないから爆裂魔法を撃つのに最適だって」
「別にそういうこと聞きたいわけじゃねえよ」
途中からカズマが加わっても環境が変わることなく、めぐみんはどんな時でも毎日、廃城に爆裂魔法を放ち続けた。
「60点。音圧が物足りない」
「いーや、もうプラスして70点。物足りないなさはあるかもしれないけど、後から響いてくるものがあるでしょ……つか、カズマはちょっと爆裂魔法に厳しんじゃないの?」
「アスカは甘すぎるんだよ。今のどう聞いても70はないだろ」
めぐみんの傍で爆裂魔法を見続けていた私達は、その日の爆裂魔法の出来が分かるようになり、更には点数もつけるレベルへと達した。そのことで毎度カズマとの爆裂魔法の出来で口論し合うようにもなり、それがもう当たり前の日々となっていった。
ちなみに、イザナミはというと……。
「アスカさんと一緒に毎日毎日見届けているのにも関わらず、爆裂魔法の点数がつけられず、何が良いのか悪いのかわからなくてごめんなさい。お詫びに、私に爆裂魔法を撃っても構いませんので」
「昨日も言いましたが、イザナミはわからなくてもいいですって。それより、アスカの代わりに私を運んでください……」
めぐみんが爆裂魔法を撃つ度にイザナミは謝罪をしていた。私とカズマのように爆発魔法の出来がわかるようになるのが普通だと思っているらしく、未だにそれがわからないために申し訳ないと思っているのだろう。でも、めぐみんはそんなこと気にしてはいなかった。それどころか、徐々に仲良くなっていっているようだった。
そして……。
「『エクスプローション』ッ!!!」
今日も廃城に爆裂魔法を放つ。
「お、今日は良い感じだな。爆裂の衝撃波がズンと骨身に浸透するかの如く響き」
「それでいて肌を撫でるかのように、空気の振動が遅れてくる」
「そ、そして、廃城に降り注ぐ煌く焔の形が美しかったです……」
カズマと私、そしてついに爆裂魔法の良し悪さがわかってきたイザナミが驚きつつも評価を口にする。
「「ナイス爆裂」」
「ナイス爆裂……」
めぐみんの返答を得て、私は視線をイザナミに向けて訊ねた。
「ほら、イザナミ。めぐみんに言うことがあるでしょ?」
「え、えっと……」
困った顔をしながらも、めぐみんに向けて口にする。
「な、ナイス爆裂……」
「はい、ナイス爆裂……ついにイザナミもわかってくるようになりましたね。友として嬉しい限りです」
力尽いて仰向けになっているめぐみんはイザナミに向けて微笑む。
「わ、私……めぐみんさんと、友達になれたのですか……?」
「そうですよ。というか、もうとっくに友達ですよ……」
その言葉を聞いたイザナミは感極まって思わず涙が零れ出した。
そんなイザナミを私はポンポンと優しく背中を叩いて上げた。
「ふふっ、イザナミもそうですが、二人とも今日の評価はなかなか的を射ている詩人でしたよ。どうです? 冗談ではなく、いっそ本当に爆裂魔法を覚えることを考えてみては?」
爆裂魔法を覚えるには今の上級職を捨て、アークウィザードになるか冒険者にならないと爆裂魔法は覚えられない。
「私はいいや。今の職業、結構気に入っているからね。まぁでも、なんかの気まぐれで転職して魔法が使えるのなら、爆裂魔法を覚えようかなとは思っている」
「そうですか、残念です。ではカズマは?」
「うーん……爆裂道も面白そうだけどなぁ、今のパーティ編成だと、魔法使いが二人っていうのもなぁ……。まぁ、でも余裕があったら最後に爆裂魔法を習得するのも面白そうだな」
そしてめぐみんはイザナミに向ける。言葉に表さなくてもイザナミにも爆裂道を誘っているのだ。
それを理解したイザナミは、
「わ、私は……ごめんなさい。爆裂魔法をとてもじゃないですが、扱えません……それに、めぐみんさんの爆裂魔法が……私、好きです」
申し訳なさそうに、だけど照れながら口にするイザナミにめぐみんは笑顔で「ありがとうです」と伝える。
ただ、めぐみんの爆裂魔法を見届ける一日一回の出来事、そこで私達は確かな友情を結ぶことができた。そんな日々の中での一日に実感しながら、今日は帰って行った。
●
あの廃城に爆裂魔法を……そんな日課が始まってから何週間が経ち、その日の朝のこと。
『緊急! 緊急! 冒険者の皆さんは直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください! 繰り返します! 冒険者の皆さんは直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっ!』
街中に緊急アナウンスが響き渡った。
なんだろう……またキャベツ収穫祭みたいなのを開催するのかな? それとも、ようやくモンスターが襲撃してくるのかな。
とにかく、私達はアナウンス通りに装備を整えて現場に向かった。
街の正門に多くの冒険者が集まっている。
そしてその先の向こうにいたのは、がっしりとしての漆黒の鎧を纏う西洋の騎士が乗馬して待ち構えていた。だけど、その騎士と跨る馬の首が存在しない。顔と呼ばれるヘルムは首に繋がらず腕に抱えている。
そう、あれはデュラハンと呼ばれるモンスター。首なし騎士と呼ばれ、妖精でありながらもアンデッドとしても扱う者であり、死を予言する恐ろしいモンスターだ。
私が知っているデュラハンは池袋の都市伝説であり、猫耳ヘルメットを被った漆黒のライダーなんだけど。どうせなら、そっちの方が良かったわ。
「……俺はつい先日、この近くの城に引っ越してきた魔王軍の幹部の者だが……」
おそらくヘルムからくぐもった声でデュラハンは口にする。そして首がプルプルと小刻みに震え出し、勢い良く発する。
「ま、ままままま、毎日毎日毎日毎日、毎日!! お、おれ、俺の城に爆裂魔法を討ち込んでくる、あ、ああああああ頭のおかしいい大馬鹿者は誰だああああああああああああっ!!」
魔王の幹部が、まるで隣の家の騒音がうるさくて苦情をつけてくるおばさんのように、もの凄いお怒りのご様子だった。