この素晴らしき世界にハーレム女王を。   作:鮫島龍義

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このアンデッドとの出会いを

「『アクセルダッシュ』!」

 

 それを口ずさむと、一気に巨大カエルの間合いを詰めていることができ、そして素早く短剣で巨大カエルのお腹辺りを斬り裂いた。

 そんな世界陸上に出場している選手でさえも軽々と超える爆速に慣れている自分がいた。

 そしてどのタイミングで止まることも、短剣で敵を斬れることも、ある程度は制御できるようになってきた。

 そんなこの頃、私は繁殖期に入っているジャイアント・トードの討伐をイザナミと二人でやっていた。

 他の仲間は連れてきていない。そのうちの二人はカエルを拒んでいるし、そのうちの一人は自ら飛び込んでリョナプレイをされていきそうで後々大変なことになりそうだし、そんでもって唯一の男は囮にさせられそうだからだ。

 

「『アクセルダッシュ』」

 

 私はワープするように一瞬でイザナミのもとへと駆けつけた。

 

「きゅ、急に現れないでください……」

 

 どうやら遠くにいた私が一瞬で近くに来たことにイザナミは怯えてしまったようだ。いや、急に遠くにいる人が一瞬で近くに来るのはびっくりするのも当たり前か。

 

「それともあれなんですね。私なんていない方がいいのかもしれないですね。今度から私に気にしないでください。それが私のためになるのですから……」

 

 なんでまた卑屈なことを……仕方がない。

 ここはひとつ、私の言葉で慰めようではないか。

 

「ごめんごめん……でも、この速さがあればいつでも君に駆けつけ」

「あ、そういうのはいいです……」

 

 言い切る前にまたもイザナミに塩対応されてしまった。慰める気持ちは本当だったのに、失礼しちゃうわ。

 ……と言うか、

 

「前から思っていたんだけどさ、なんで私が女好きなこと知っているの?」

「え?」

「だって、そんなこと言ったつもりはないのに出会ってから一日も経たずに私の趣向を理解していたみたいじゃん」

「それは、その……アスカさんがわかりやすいのです」

 

 自分がそんなにわかりやすいのかはともかく、その問いに対しては納得できなかった。

 

「でもさ、普通同性に対して好きって言われても、意味合い的にはラブじゃなくライクの方だと解釈するのが普通だと思うわけですよ」

「それはつまり、普通じゃない勘違いゴミブス普通以下の無能以下の私が間違っているといいたいんですね」

「そこまでは言ってない」

 

 思えば、イザナミを異世界に拉致されたことで、落ち込んでいる彼女を慰めただけなのにいつも口説いていると見破ったのだ。人の価値観や、私の欲情が滲み出て悟られてしまったとかあるかもしれないが、それでも私が女好きだってことをそう簡単にわかるものだろうか? それも私のことを知っているかのように……。

 というか、実はイザナミもそっち系だから理解できたのかもしれない。なんて聞かれたら、怒られそうだからこれは言わないでおこう。

 

「イザナミはどうやって私が女好きだってことを知ったの?」

 

 原因を知ったところで警戒されるのは変わりないし、状況が変わるわけではないけど、一つだけモヤモヤと雲かかった悩みを解決したい。

 それとイザナミのことも知っておきたかった。だってイザナミもヒロインだから過去のこと知りたいじゃん。

 

「えっと、その……」

 

 イザナミは困った表情で恥ずかしそうに答えてくれた。

 

「か、神様ですから…………」

「……なるほど」

 

 一息ついて、決断する。

 

「なら仕方ないね!」

 

 可愛いからもういいや。どうせ知らなくても知ってもイザナミの好感度が上がるわけではないもんね。むしろ予想外かつ、可愛いのを聞いて見たりすれば他はもういらないや。

 過去も大事だけど、何よりも今を生きることが大切だ。

 

「よし、次は私とイザナミの愛のタッグプレイをするわよ!」

「愛はいりませんが、また“あれ”をやるんですか?」

「いざと言う時のための練習なんだから、やらないわけにはいかないでしょ。そしてそれを成功させるために何度もやるの、私とイザナミのためにもね」

 

 そう言い聞かせると、イザナミは難しそうな顔をしながらも、仕方なしにと私の背中にのしかかったるように乗って来た。

 

「お、お願いします……」

「まかせてよ。ついでに今夜も」

「ご遠慮しておきます」

 

 今夜も私にお願いしますね……それを言わせる前に断られてしまった。

 ……ほんと、なんで私の考えていることがわかるんだろう。

 

 

「ほう、見違えたではないか」

「おおーカズマがようやくちゃんとした冒険者みたいに見えるのです」

 

 今日もいつもの場所であるギルドに来てみれば、ダクネスとめぐみんがカズマの恰好を見て感心していた。

 昨日まではおしゃれでもない緑色のジャージ姿であったカズマだったが、今はめぐみんの言葉通りに冒険者っぽい恰好をしている。と言ってもダサくはないけど、おしゃれでもないけどね。パッと見て勇者みたいな服装かな。

 

「ところでアスカは服装変えないのですね」

 

 めぐみんに言われたが、私はカズマと違い日本から着ていた服装をそのまま使っている。

 

「ゲイルマスターの特徴考えれば、なるべく装備は変えない方が良いかなって思うし、服装もあんまり変える必要はないかなって。とりあえず武器と靴だけは変えたけど」

 

 それに、今のブレザー制服にパーカーを着用している服装だと、なんか自分が異世界に来た主人公っぽいじゃん。周りと違って目立つじゃん。そういうのって、意外と主人公として大事だと思うんだよね。

 目立ってナンボ。ヒロインを掴むには自分が主人公であることをアピールしろ、そうすれば必ずヒロインが興味を惹かれることを信じるんだ。

 そんなことを思っていることを知らずに、めぐみんは納得していた。

 

「確かにゲイルマスターは鎧もそうですが、胸当てすら敏捷力を落ちる原因となってしまいますからね、防御力を上げるくらいなら敏捷力を上げた方が合理的かと思います」

 

 そ、そうだったんだ……それは知らなったな。

 胸当てすら装備を許されないってことは、私の防御力は無いに等しいのね。まさに当たらなければどうってことない戦法を要求される上級職、速さこと防御ってことなのか。

 そう言えば、単体でアクセルダッシュを使う時とイザナミを背負っている時では制御が安定しないし、スピードも違っていたのはそういうことなのか。

 

「よし、装備も調えたし、スキルも覚えたんだ。せっかくだから簡単なクエストでも行おうぜ」

「ふむ、ならジャイアント・トードが繁殖期に入っていて街の近場まで出没しているから、それを……」

「「カエルはやめよう!」」

 

 カズマのリクエストに応えるように、ダクネスが提案する途中でアクアとめぐみんに拒絶されてしまった。

 

「何故だ? カエルは刃物が通りやすく倒しやすいし、攻撃法も舌による捕食しかしてこない。倒したカエルも食用として売れるから稼ぎもいい」

 

 ダクネスの言う通り、駆け出し冒険者にしては割と良いクエストなんだ。最初は苦戦したものの慣れれば簡単に倒せるようになった。そんでもって稼ぎは良いし、食用としても問題はなく美味しい。それでもイザナミは怖がっているが、なんとなやっていけるほど簡単な方だと私も思う。

 それでもアクアとめぐみんが拒絶しているのは……カズマがダクネスに教えてくれた。

 

「この二人はカエルに頭からパックリと食われ、液体まみれにされたことがあるからトラウマになっているんだ。しょうがないから他を狙おう」

 

 それもあって私はアクアとめぐみんは誘えない。誘おうとしても今さっきみたいに拒絶されるだけだからね。

 

「あ、頭からパックリ……そして、液体まみれ……」

 

 カズマの説明を聞いたダクネスは頬を赤らめる。

 

「お前、ちょっと興奮しているだろ」

「し、してない」

 

 カズマに訊かれたダクネスは目を逸らし即答するも、誤魔化しきれないもじもじした態度で顔が赤らめている。流石マゾ騎士、言葉にしなくても願望が漏れ出している。

 うん、誘わなくて正解だったね。

 

「緊急クエストのキャベツ狩りは除くとして、このメンツでの初クエストだ。楽に倒せる奴がいいな」

 

 カズマの意見にとりあえず、私とイザナミとめぐみんとダクネスで掲示板へ行き、手頃なクエストを探すことにした。

 正直、ジャイアント・トード以外に手軽なクエストがあると思えないんだよね。最初から上級クエストみたいな理不尽なクエストがあったんだし、近場にスライム級なモンスターがいないんだもん。

 そんなことを思いながらクエスト選びに関してわかったことがあった。

 めぐみんもダクネスも変なところを除けば常識ある方だってことだそれでも私情で選んだものはあったけどね、死の森とも言える森林に爆裂魔法を放ちたいとか、大量のモンスター討伐に蹂躙されたいとか、それはカズマが言っていた楽なクエストではないものであったため、却下した。

 そういうことを含めて、そんな中から簡単そうなクエストを決め、一回カズマに訊いて通してもらえるかどうかと戻ってみたら、何故かアクアが手テーブルに突っ伏して号泣していた。

 

「……またカズマか」

「またってなんだよ、またって」

 

 だって何かしらカズマが原因だってことあるじゃない。どっちが悪いのかはともかく、アクアが泣いているのもカズマがなんかやったからに決まっている。

 

「カズマは結構えげつない口攻撃がありますから、遠慮な本音をぶちまけていると対外の女性は泣きますよ?」

「カズマよ。ストレスが溜まっているのなら、アクアの代わりに私を罵倒してくれ。なんなら、直接罵っても構わない。クルセイダーたるもの、誰かの身代わりになるのは本望だ」

「か、カズマさん。これも私のせいなのですね。お詫びにここから消えますので、アクアさんを許してください」

 

 めぐみんは良いとして、ダクネスとイザナミは普通におかしい。

 

「こいつのことは気にしなくてもいい」

 

 きっぱりとカズマが一蹴する。その時、ふとアクアを見ると、顔を埋めた両腕の隙間からチラッと一瞥しているのを見えた。……この自称女神さんあれか、泣いていれば許してもらえると思っているタイプか、小学生かよ。

 とりあえず私達が選んだクエストをカズマに報告でもしよう。

 

「いろいろ話し合った結果、クエストはアクアのレベルが上げられるものにしようと思うんだけど」

「どういうことだ? そんな都合のいいクエストなんてあるのか?」

「なんかあるみたいだよ。そうだよね、ダクネス」

「うむ。ここからは私が説明しよう」

 

 ここからは私よりもこの世界の住人であるダクネスに話をした方がいいだろう。

 

「プリースト及びアークプリーストは一般的にレベル上げが難しい。なにせ攻撃魔法なんてものがないからな」

 

 それじゃあ、カエル戦で見せたゴットレクイエム、相手は死ぬは攻撃ではないというのか? それを聞いちゃったらまずいのか?

 

「そこで、プリースト達が好んで狩るのがアンデット族だ。アンデットは不死という神の理に反したモンスター。彼らには神の力が全て逆に働く。故に普通なら回復魔法で回復するのが、アンデットに対しては回復せず、身体が崩れるものだ」

 

 ゲームではアンデットに回復系魔法を使うとダメージを受けるっていうやつはやったことあるけど、それはこの世界でも通用するらしい。

 この世界の勝手がよくわかってない私としては、そのクエストを受けることに問題はない。あとはカズマとアクアが承諾するかの話だ。

 

「うん、悪くないな。問題はダクネスの鎧がまだ戻ってきてないことなんだが……」

 

 あえてスルーしていたけど、この前のキャベツ収穫祭クエストでキャベツに袋叩きにされた際に鎧が壊れてしまったのだ。だから今は修理に出していて鎧は着ていない。

 今のかっこうはというと、タイトな黒のスカートと黒のタンクトップという締まるところは締まったボンッ、キュッ、ボンッなエロい体付きになっている。うん、マジでエロい。どことは言わないけど、二つほどムチムチして触りたい。

 

「む? アスカは今、私の事を『エロい身体をしやがってこのメス豚、触らせろ』と言ったか?」

「言ってません」

 

 失礼な。そんな妄想を口にできるわけがないだろ。

 

「でも、少しは思っていました……ですよね?」

 

 イザナミの問いに私はノーコメント。

 

「まぁ、私なら問題ない。伊達に防御スキルを特化しているわけではないさ。鎧なしでも耐えてみせるさ。それに殴られた時、鎧なしの方が肌に伝わりやすく気持ち良いからな」

「お前今殴られると気持ちいって言ったな」

「言ってない」

 

 カズマのツッコミにダクネスは否定しているけど、私もちゃっかり聞いているので私がそのことを話せばダクネスは言い逃れができない。話したところで、ダクネスが変態ドMなのは変わりないから言わないけどね。

 

「じゃあ、あとはアクアにその気があればいいね」

 

 私は視線をアクアに向けると泣き止んだものの未だにテーブルに伏せている状態だった。

 

「おい、いつまでもめそめそしてないで会話に参加しろよ、今、お前のレベルの事を……」

 

 カズマはアクアの肩を叩こうと手を伸ばして止めた。

 何故なら……。

 

「すかー……」

 

 アクアは泣き疲れて眠っていたからだ。小学生かよ。

 ……なんか、アクアが泣いた経緯がわかったような気がする。頑張れ、カズマ。

 

 

 街から外れた丘の上には共同墓場が存在していた。お金のない人や身寄りのない人達がまとめて埋葬され土葬にする。そんな場所で私達はクエストを達成するためにやってきた。

 内容は共同墓場に湧くアンデットであるゾンビメーカーの討伐。及び、アクアのレベルアップ。

 

「ちょっとカズマ! その肉は私が目をつけたやつよ! ほら、こっちの野菜が焼けているんだからこっちを食べなさいよ!」

「うるせー! 俺はな、キャベツ狩り以来どうも野菜が苦手なんだよ! 焼いている最中に飛んだり跳ねたりしないか心配なんだよ!」

「そりゃあ食べられてたまるかいう野菜の抵抗があるんだから、ちゃんと焼かないと飛んだり跳ねたりするわよ!」

「普通、野菜は飛んだり跳ねたりしないんだよ!」

 

 時刻は夕方に差しかかろうとする時間帯、私達は墓場の近くでバーベキューをしていた。

 当然っちゃ、当然なんだが、夜にならないとゾンビが現れないので夜が来るまで近くてキャンプをしつつ待機するしかない。

 といつつ、気分は完全にBBQだ。後は花火があれば最高ね。

 

「クリエイト・ウォーター!」

 

 カズマはこの世界の野菜事情に頭を悩ませながらも、マグカップにチョコレート色の粉末を入れ、詠唱を口にすると、水が注ぎ出される。そして今度は「ディンダー」と唱えると炙り出し始めた。

 あれがこの世界でいう初期魔法というものか。聞いていた通り攻撃用魔法ってわけじゃなさそう。

 だって見るからにしょぼい。ゲームのスライムでさえも効くかどうか曖昧になるほどしょぼい。でも、生活には便利だ。だからこれは生活用の魔法なんだ。

 

「カズマ、私にも水を頂戴」

「私にもお水をください」

 

 私に続きめぐみんもマグカップを差し出すと、カズマは「クリエイト・ウォーター」と唱えてくれて、水を注いでくれた。

 

「ありがとうございます。……何気に私よりも魔法を使いこなしていますね。初級魔法なんてほとんど誰も使わないものなのですが」

「え、生活用じゃないの?」

「違いますよ。初期魔法は本当に役に立たないものなので中級魔法からが本番みたいなものですよ」

 

 めぐみんの返答に私はなんとなく納得した。言われてみれば、初級魔法を使わなくてもなんとかやっていけそうだし、覚える必要はそこまでないのか。

 

「なんだ、俺もアスカの言う通り元々そういう使い方ではないのか? あ、そうそう。『クリエイト・アース』」

 

 カズマが唱えると手のひらに粉末状のサラサラした土を出現させた。

 

「なあ、これって何に使う魔法なんだ?」

「えっと、ですね……その魔法で創った土は畑などに使用すると良い作物が穫れるそうです」

「……それだけか?」

「他にも使いどころはあると思いますが、基本的にはそれだけです」

 

 それを横から聞いていた私は、わーなんて、農夫に優しい魔法なんだーと……深く考えないことにした。

 

「じゃあ、『ウインドブレス』……これは何に使うの?」

「……少なくとも、スカート捲りに使うものではないです。というか、何故使ったのですか……」

 

 いや、だって……こんな風に使ったら、手を使わずして捲れたらなーっと思って、つい出来心でやってしまいました……。だ、大丈夫だよ。いきなり全開で捲ってないから、見えてないのよ。カズマがいるところで見せつけようなんてするわけないじゃない。

 

「……アスカさん、そんなことに使うのなら、アスカさんの黒歴史を噂にして流しますよ」

 

 ボソッとイザナミから警告された。ちょっと待って、黒歴史ってどういうことだよ。やっぱり私の過去、知っているじゃないですかやだー。

 

 

 時刻はようやく深夜を迎えた。

 

「カズマ、最終確認を」

「それいるのか……えっと、今日はゾンビメーカーを一体討伐。そして取り巻きのゾンビもちゃんと土に還してやる。そしてとっとと帰って馬小屋で寝る。計画以外のイレギュナーな事が起こったら即刻帰る。以上だ」

 

 カズマの言葉に私達はこくりと頷いた。

 そしてカズマを先頭に墓地へと歩いて行く。カズマを先頭にしているのは最終的にカズマを囮にさせるためではなく、カズマは敵感知スキルを持っているため、いち早く敵を知る事ができるからだ。

 

「ねぇ、なんか冷えてきたんだけど……なんか大物のアンデッドが出てきそうな予感がするんだけど」

 

 アクアはぽつりと呟く。

 

「その時はカズマが言っていたように即刻帰ろう。最悪カズマを囮にして帰ろう」

「それもそうね」

「おいお前ら、聞こえんぞ」

 

 だって聞こえるように言ったんだもん。

 

「冗談に決まっているでしょ」

「なになに? カズマは冗談を真に受けちゃったの? 冗談に決まっているのにねー」

「お前らは冗談でもやりそうなんだよ」

 

 失礼なことを言うよ。カズマと違って、私は人間なんです。

 そう言えば、さっきアクアがフラグみたいなことを呟いていたけど、現実はそう簡単に甘くはないし、フラグ通りになるなんてそうそうない。あまり気にすることはないでしょ。

 

「ん? なんだ、ピリピリ感じる……敵感知に引っかかった。……いるぞ、一体、二体……いや、三体、四体……?」

 

 あれ、なんか多くない? ゾンビメーカーって二、三体ぐらいじゃなかったっけ? まさかアクアのフラグが成立しちゃったのか?

 でも、カズマがそんなに慌てていないからイレギュラーな事態ではないっぽいな。そう判断した私はあんまり深刻考えないようにした時、墓場の中央で青白い光が走った。妖しくも幻想的な青い光が大きな円刑の魔法陣が描かれている。

 そしてその魔法陣の隣には黒いローブの人影が見える。その周りに蠢く人影が数体見えた。

 なんかの儀式でもやっているのだろうか。なんかそんな感じだった。

 

「ねぇ、めぐみん。あれがゾンビメーカー?」

「いえ、あれは……ゾンビメーカーでは……ない、気が…………どっちでしょうか……」

 

 このパーティーでは比較的な常識人かつこの世界の住人であるめぐみんに訊ねてみたものの、彼女もよくわかっていないようだった。

 

「どうする、突っ込むか? ゾンビメーカーじゃなかったとしても、こんな時間に墓場にいる以上、アンデッドに違いないだろう。なら、アークプリーストのアクアがいれば問題ない。どうする、突っ込むか? 突っ込むべきだと私は思うのだが」

「取りあえず落ち着け」

 

 ソワソワしているダクネスにカズマが制止させた。

 

「ああああああああああああああ!!」

 

 今度はアクアが突然叫び出した。そんでもってローブの人影に向かって走り出したではないか。

 

「ちょ、おい待て!」

 

 保護者の立場であるカズマの制止も聞かず、アクアはローブの人影に駆け寄る。そしてビシッと指さしする。

 

「リッチーがノコノコとこんなところに現れるとは不届き者! 成敗してやる!」

 

 アクアが言う、リッチーとは。

 アンデッドという種族の中でも最高峰かつ、アンデッドで有名なヴァンパイアと並ぶアンデッド界のエリートの名称。一度死んでアンデッドとなってしまったゾンビ、スケルトンなどと違い、不老不滅のためにアンデッドとなって強大な魔法使いでもある。

 作品によっては最強のアンデッドと呼ばれる存在。そんなアンデッドがどうしてこんなところにいるのだろうか。ゲームでいう裏ボス的な存在に私達は不運にもエンカウントしてしまったのかな……。

 

「や、やめてえええええええ!」

「うっさい! ちょっと黙っててアンデッドの分際で!」

「だ、誰なの!? いきなり現れて、私の魔法陣を壊そうとするの!?」

「黙りなさいよ! どうせこの妖しげな魔法陣でろくでもない事を企んでいるんでしょ! なによ、リッチーのくせに生意気よ!」

 

 そんな不安を他所に、リッチーと呼ばれる最強のアンデッドはぐりぐりと魔法陣を踏みにじっているアクアの腰に泣きながらしがみつき、食い止めようと必死だった。

 ……私の思っているリッチーと違うのは、知識が偏っているせいなのかな。

 

「お願いです、やめてください! この魔法陣は未だに成仏できない迷える魂達を天に還してあげるためのものです!」

「リッチーのくせに善行なことしてんじゃないわよ! そんなのはアークプリーストである私がやるから、あんたは引っ込んでなさい! まったく、悪のくせに良い人ぶってんじゃないわよ」

 

 アクアが気弱で大人しい子が一生懸命に花を咲かせた花壇を踏みあらず悪ガキにしか見えない。どっちが悪のくせに良い人ぶってんだって言いたいよ。

 

「それに、そんなちんたらやるより、まとめて浄化した方が効率良いわよ!」

「え、ちょ、やめっ!?」

「『ターンアンデッド』!」

 

 慌てて止めようとするリッチーであったが、構いもせずに大声で唱えた。

 すると墓場全体がアクアを中心に白い光に包まれる。そしてその白い光は、リッチーが天に還すために呼び寄せた人魂、その周りにいる取り巻きのゾンビ達が消えていく。

 そしてそれはリッチーも例外ではなかった。

 

「きゃー! か、か、身体が消えていく!? やめて! 私の身体が失くなっちゃう!! 成仏しちゃう!」

「アハハハハハハハハハッ!! 愚かなリッチーよ! 自然の理に反する存在、神の意に背くアンデッドよ! さあ、私の神の力で欠片も残さず消滅するがいいわ!!」

「「やめてやれ」」

 

 もはや悪としか見えなくなったアクアに、私とカズマは頭を引っ叩いて止めさせた。

 

「い、痛いじゃないの! あんた達なにしてくれてんのよ!」

 

 だって、こうでもしないと止めないんだもんカズマと同じこと考えていたとなると、私のやったことは間違いではないはずだ。じゃないと流石にリッチーが可哀想だよ。

 それに、アクアを止めたおかげで白い光が消えていく。とりあえずこれでリッチーが成仏することはないだろう。

 

「お、おい大丈夫か? えっと……リッチーで、いいのか?」

 

 カズマはリッチーの声をかける。そのリッチーはフラフラしながらも応えてくれた。

 

「だ、大丈夫です……危ないところを助けて頂き、ありがとうございました」

 

 リッチーはそう言うと深々と被っていたフードを上げる。現れたのは月夜に舞い降りた、かぐや姫のように美しい茶髪で人間としての美女だった。

 

「えっと、リッチーのウィズと申します」

「ウィズさんですか……良かったら、今夜私と……」

「アスカさん……」

 

 イザナミがジト目で割りは入ってきた。見た目は人間で、中身はアンデッドである彼女すらヒロインにしてはいけないのか。くそう、ここでもイザナミに阻まれるのか。

 

「ちょっとアスカ! こんな腐ったみかんみたいなのと喋ったら、アンデッドにされるわよ!」

 

 その言葉を聞いてしまった私は、思わず……。

 

「こんな腐ったみかんってどういうことだよゴラァ!! 私にとっては幸福だよ! 中身はアンデッドかもしれないけど、見た目は完全に美女じゃない! 存在するだけでも幸せ、いるだけで十分満たされるのよ! というか、ウィズさんに謝れ! 腐ったみかんではなく、果汁が詰まり詰まったみかんだと訂正しろ自称女神!!」

 

 声を張って言うと、アクアは一瞬ビクッと怯えるもすぐさま睨みつけてくる。

 

「い、言ってくれるじゃないの、誰が自称女神ですって!? 私は正真正銘の神であり、水を司る女神よ! アスカがこんな奴に肩入れするんだったら、先ほどの台詞を含めてただでは済まされないわ! 私に刃向かったことに懺悔しなさい!」

 

 アクアはポキポキと拳を鳴らす。これは完全に私をシメ上げる気でいるわね……。

 

「私の知る女神はこの世でただ一人しかいないわ。自称女神及び、宴会の神様よ。その間違った価値観を正してあげるわよ!」

 

 例え仲間であろうと、ケンカを売ってくるなら上等。全力で応えさせてもらうわよ。

 私が短剣を構えて先制攻撃を取ろうとした時だった。

 

「二人ともやめろ」

 

 カズマに剣の柄で私の後頭部を小突いてきた。そしてアクアにも同様に突く。地味に痛かった。

 アクアはカズマに文句を言っているが、私はカズマの一撃おかげで頭を冷やされて落ち着くことはできたけど、地味に痛かったからいつか覚えてなさい。いつか軽い復讐はさせてもらうわよ。

 

「えっと、ウィズ。あんた、こんな墓場で何してるんだ? 魂を天に還すとか言ってだけど、リッチーのあんたがやる事じゃないだろ」

 

 カズマがそのことを訊ねると、アクアはムスッとした顔で「どうせろくでもないことに決まっているわ」と不満を漏らす。アンデッドは確かに私達冒険者の敵かもしれんが、そこまで嫌うのはどうしてよ。

 そんな疑問は置いといて、ウィズの返答を聞くことにしよう。

 

「えっと、その……私には迷える魂達の話が聞けるんです。この共同墓場の魂の多くはお金がなく、ろくに葬式すらしてもらえず、天に還ることもなく毎晩墓場を彷徨っています」

 

 土に埋めればそれでお終いではないらしい。ちゃんと葬式をやってこと、魂は天へと還るのかな。

 そうなると、私も葬式をやらないと彷徨っていたのかもしれない……。今更、日本のこと思ってもどうにかなるわけじゃないけど。

 

「ですので、一応はアンデッドの王として、定期的にここを訪れて、天に還りたがっている子達を送ってあげているのです」

 

 ……まさか敵側が良い人、良いアンデッドだとは思わなかった。おそらく、この世界では唯一のまともな存在かもしれない。

 やばい、どうしよう……ハーレムの一員にしたい。

 なんて考えていると、どうせまたイザナミに釘を刺されそうだから、今度は私がウィズに訊ねてみよう。

 

「まぁ……その……ウィズさんがそれをすることに否定しないけど、それはこの街のプリーストに任せてばいいんじゃないの?」

 

 その疑問に、ウィズが言いにくそうに答えた。

 

「ええっと、その……この街のプリーストさん達は、拝金主義……いえ、その、お金がない人達は後回し、と……言いますか、その、つまりですね……」

 

 さっきから歯切れが悪いし、チラチラとムスとした態度をとっているアクアを一瞥している。

 あーそうか。アクアもプリーストだから変なこと言ったら、また変に絡まれるそうだから言葉を選んでいるのか。

 

「要するに、この街のプリーストは金儲けに優先していて、ここに来ないってことでOK?」

「え、その、はい。そうです……」

 

 私の発言でウィズが答えると、その場にいる全員がアクアに視線を向ける。当人は決まりが悪そうにそっと目を逸らした。

 

「……それならしょうがない、が。ゾンビを呼び起こすのはどうにかならないか? 俺達がここに来たのも、ゾンビメーカーを討伐してくれってクエストを受けたからなんだが……」

 

 カズマの言葉にウィズは困った表情で答えた。

 

「あ、そうでしたか……。その、呼び起こしているわけじゃなくて、私がここに来ると、まだ形が残っている死体は私の魔力に反応して目覚めちゃうんです」

「だったら、このリッチーを退治すれば解決できるわけね。成敗!」

「そ、そんなぁ……」

 

 再びアクアがウィズを殴り倒そうとポキポキ鳴らしてやったので、襟を掴んで止めさせた。アクアがじたばたしているが気にせず話を続けさせた。

 

「つまり、ウィズさんがここに来なければ解決できそうってこと?」

「そう、なりますね……。私としては、この墓場に埋葬される人達が迷わず天に還ってくれれば、ここに来る理由もなくなるんですが……」

 

 ……だったら、もう……。

 

「ちょっとアスカ離しなさいよ! そんなことしなくても退治すれば全てが解決できるのよ! ちょっと聞いているの!?」

 

 おそらくカズマも似たようなことを想っているだろう……。

 うん。これで行こう。

 

 

「納得いかないわ!」

 

 墓場の帰り道、アクアは未だに怒りっぱなしだった。

 

「しょうがないだろ。あんな良い人を討伐する気にはならないだろうに」

「正確に言えば良いアンデッドだけどね。討伐なんて罰が当たるわよ」

「罰なんか当たるわけないでしょ!」

 

 アクアの正論がどうなのかはともかく、私とカズマはリッチーであるウィズを見逃すことに決めた。

 そんでもって、これからは毎日暇を持て余しているアクアが、定期的にウィズの代わりに浄化しにあの墓場へ行くことで折り合いをつけることに成功した。

 自称女神と言い張っているだけあって、アンデッドや迷える魂の浄化は自分の仕事だと理解しているらしい。まぁ、睡眠時間が減るとか駄々をこねるって不満げに言うあたり、アクアらしいけど。

 めぐみんと、ダクネスはモンスターを見逃すことに若干抵抗があったらしいけど、ウィズが今までに人を襲ったことがないと知ったら、同意してくれた。

 イザナミはアンデッドに怯えているし、さっさと終わらせてほしいかので、話を決めずに同意してくれた。仮にもリッチーよりも各上の死神なんだから、もうちょっと堂々としなさいよ。

 

「それにしても、あのリッチーが普通に生活しているとか、この街の警備はどうなってんだ」

 

 カズマがぽつりと一枚の紙切れを見ながら口にする。そこに書かれているのは、ウィズが暮らしている住所を示すもの。そこには小さなマジックアイテムの店を経営しているのこと。

 そうなのだ。なんと、あのウィズことリッチーは私達が住む街で普通に生活しているらしい。

 つまり、どういうことか。いつでもあのリッチーに逢えるってことだ。そうなれば、いずれ彼女を私の物に……。

 

「でも、穏便に済んで良かったです。いくらアクアがいると言っても、もし戦闘になっていたら全滅でしたね」

 

 思考を制止させたのはイザナミではなく、何気ないめぐみんの言葉だった。

 ……今、なんて言った? 戦っていたら全滅になっていた?

 

「やっぱり怖いアンデットなんですね……」

「怖いどころじゃないですよ、イザナミ。リッチーは強力な攻撃魔法と防御魔法を使い分け、魔法にかかった武器以外の攻撃は無効化。相手に触れるだけで様々な状態異常を引き起こすのもそうですし、防御とか関係なく即死系を使い、そしてその魔力や生命力を吸収する伝説級のアンデッドモンスター」

「ひぃ……っ」

 

 めぐみんのここがすごいよリッチー講座にイザナミは怯えてしまう。無理もない、臆病者であるイザナミじゃなくても、それを聞いていた私とカズマも怯えてしまうんだ。

 

「こ、こっちにはアクアがいるから……」

「確かにターンアンデッドは効いていたのですが、むしろ、なぜあんな大物のアンデッドモンスターに効いていたのか不思議でならないです」

 

 ……良かった、ウィズさんがイザナミみたいな性格で穏便に済ませて本当に良かった。

 

「アスカさん……アスカさんが言う、攻略はやめたほうがいいと思います……」

「……そうかもしれない」

 

 残念だけど下手をしてウィズを怒らしてしまったら、殺されかねない。なんだって最強のアンデッドだ。私みたいなペーペーな冒険者などゴミクズなんだろう。仮に攻略しようとしても理不尽に選択死になることだってあるんだ。

 一旦、ウィズを攻略するのは置こう。日本で死んだばっかなのに、この世界ですぐに短い生涯を終えたくない

 ……でも、良いアンデッドだから普通に接していれば殺されることないだろう……急に街を襲撃して冒険者達を虐殺みたいな展開がないことを願おう。

 私がそんなことを思っていると、ダクネスがぽつりと口にする。

 

「そういえば、ゾンビメーカー討伐のクエストはどうなるのだ?」

「「「「「あ……」」」」」

 

 そう言えばそんなクエストだったね。つい忘れてしまったわ。




次回はギャルゲーで言うルート分岐?になります。

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