この素晴らしき世界にハーレム女王を。   作:鮫島龍義

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このキャベツ炒めに祝福を

 雲行きが怪しくなった。すぐにでも雨が降りそうな予感がする。

 この世界に天気予報というものがないから、その点は日本と比べると不便なところはある。

 そんでもって強制ではないものの、緊急クエストというものを受けることになってしまった。言葉通り緊急だから、何をすればいいのかわからなければ何の準備もしていない、そんでもって何が起こるのかもわからない。

 緊急クエストのアナウンスを聞いた私達は他の冒険者と共に正門へと駆けつける。そして正門には、アナウンスを聞きつけてきた冒険者がぞくぞくと集まってきている。

 何が来るのか、何をすればいいのか、何を皆が集まって来ているのか、そういうのが一切わからず、不安と緊張が募ってくる。私がこんなんだから、イザナミは私以上に不安を全面に漂わせていて、ビクビク怯えていた。

 

「皆は私が守る。なるべく私から離れないように」

 

 ダクネスは私の前に立ち、そう言ってきた。

 ……どうしよう、その言葉に私はキュンとしそうになった。こちらが攻略するのではなく、ダクネスに攻略されそうだわ。

 

「こんな時でも変なこと考えているんですね……」

 

 先ほどまで不安がっていたイザナミは、私の心を読んできて釘を刺された。

 あの子のメンタル、特定だけど揺れ幅大きいな。

 

「なぁ、ダクネス。緊急クエストってなんだ? モンスターの襲撃なのか?」

 

 カズマは私とイザナミが秘めていた疑問をダクネスに訊ねた。でも、その答えを返してきたのはダクネスではなく、大きな背負いかごを持っていたアクアだった。

 

「あれ、言ってなかったっけ? キャベツよ、キャベツ」

 

 キャベツ。緑色の丸い形をした野菜。またはある作画崩壊のことを示す。

 キャベツは煮たり焼いたり漬けたりとできる。個人的にはロールキャベツと焼き肉屋に出てくるごま油と塩で味付けした塩キャベツが美味しい。ま

 そのキャベツの緊急クエスト? 

 キャベツのために街中の冒険者が集まり、そしてキャベツに挑もうとしているのか?

 …………まるで意味がわからない。

 

「キャ、キャベツ?」

「なんだ知らないのか。緑色の丸い野菜で、噛むとシャキシャキする歯ごたえと、煮たり炒めたりすれば甘味を増す美味しい食べ物だ」

 

 いや、そんなのわかっているんだよ。キャベツが緊急クエストってどういうことだよ。収穫祭みたいなのを冒険者達だけでやるのか?

 

「来るぞ!」

 

 一人の冒険者が発すると、遠い先の方から淡い緑色の龍のような生き物。

 いや、違う。…………大量のキャベツが空を飛んでいた。

 ……わぁーファンタジーっぽいなー。キャベツが空を飛ぶなんて、私、初めて見たよにょろー。なんだかとっても嬉しいぴょーん。

 …………私が想像していたファンタジーの世界と、なんか違う。

 

「この世界のキャベツは飛ぶわ」

 

 飛ぶな。野菜が飛んでたまるか。

 

「味が濃縮してきて収穫の時期が近づくと、簡単に食われてたまるかといわんばかりに飛び回る。街や草原、大陸を渡り、海を越え、最後には人知れぬ秘境の奥で、誰にも食べられずにひっそりと息を引き取ると言われているわ」

 

 それは寿命と言っていいのか? それとも賞味期限が過ぎて腐り果てたとでも言えばいいのか?

 

「それならば、私達は彼らを一玉でも多く捕まえて美味しく食べてあげようって事よ」

 

 普通に収穫すれば、皆美味しく食べられるんじゃないかな?

 アクアによるキャベツの謎の進化の発達とこの緊急クエストの意味を教えてもらった。

 人が食べられるように作った野菜の一つがキャベツなんですけどね。なんで無駄な進化を発展するんだよ。

 

「皆さん、今年もキャベツの収穫時期がやって参りました! 今年のキャベツは出来が良く、一玉の収穫につき一万エリスです! できるだけ多くのキャベツを捕まえて、納めてください!」

 

 まるで大会の宣言みたいなことを受け付け嬢の人が冒険者達に告げていた。

 すると、それを聞いた周りにいる冒険者達は高らかに歓声を上げる。パッと見て、一部除いて皆気合いが入っているように見える。

 そして門の隣には、大きな鉄格子とキャベツを冷やすために冷水を入れてあるでっかい桶がいつのまにかあった。

 

「行くぞお前ら、収穫だー!!」

『おぉー!!』

 

 一人の冒険者を筆頭に、数多くの冒険者は勇敢にも立ち向かう。キャベツという空飛ぶ野菜を収穫するために駆けていく。

 ……なんだろう。お祭り男の芸人が世界の祭りに向い、何かしらアカンを口にする番組を見ているような感覚だ。でも、流石に世界でもキャベツは飛ばないわね。

 ツッコミ所満載であるが、一玉収穫するだけで一万エリスも貰えるか。それはなかなか良い稼ぎになる。

 どうせいつかは魔王を倒すんだ。ゲームみたいに、ひたすらメインストーリーを進めて行ったら体を壊しそうだ。案外、こういうバカっぽいイベントでお金を稼ぐのもありなのかもしれない。

 そんでもって、このイベントを期に新しいヒロインを捕まえる、もしくはヒロインの好感度を上げることだってできるはずだ。それを存分に利用していこうではないか。

 

「ナンパしてはいけない、です……」

 

 違う、ナンパじゃないよイザナミ君。私のヒロインにさせるのさ。

 ……振り返って見ればイザナミは呆れている。その呆れた表情も可愛いね。

 

「なぁ、俺もう馬小屋に帰って寝ていいかな?」

「いいんじゃない」

 

 カズマは勝手に落胆しているがいいさ。その間に、私は君よりも上に行っているからね。

 

「カズマ、アスカ、二人共丁度良い機会だ。私のクルセイダーとしての実力をその目で確かめてくれ」

 

 ……確かダクネスの実力って。

『いや、実はちょっと言い辛かったのだが……私は力と耐久力には自信があるのだが、不器用で……その……全く攻撃が当たらないのだ』

 などと言っていたけど…………大丈夫? 実力を見せるどころか、自ら無能さをお披露目されることになるかもしれないんだぞ。そうしたら、いらないと追い払われるだけじゃないかな?

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

 女性ながらも勇ましく、なおかつ耳に透き通っていくような声で叫びながら立ち向かう。キャベツに向かって。

 ……言葉だけなら、めちゃくちゃシュールだな。

 しかし、いかにも敵を一刀両断で倒しそうな勢いだ。もしかすると、ダクネスは自分の実力を謙遜しているだけかもしれない。

 そんな期待を込めていると……。

 

「とりゃああああああ!!」

 

 ダクネスは両手剣をおもいっきり振り下すも当たらない。

 あーっと、外してしまった。

 

「はあああああああっ!!」

 

 ダクネスは両手剣でおもいっきり振りかぶるも当たらない。

 これも外してしまったー。

 

「くっ、せいっ、はっ!」

 

 ダクネスは何度も両手剣を振り回すも当たらない。

 またも外してしまったー!

 ちょっと心境を変えて某ポケットのスタジアム風にダクネスの実力を見せてもらったけど、酷いね。かすりもしないっていうか、もはや不器用というレベルを通り越して才能を感じるよ。キャベツがまだ素早く飛び回っているならわかるよ。でもさ、キャベツはそんなに素早い動きはしていないし、あんまり動いていないキャベツにも当ててないのよね。

 結果として、ダクネスの言葉通りとなってしまった。これはもう「私、全然上手くいかなかった~」が本当に酷くてフォローできない感じと一緒だ。

 残念ながら、これはもう不採用決定かな。

 それならばせめてお土産を差し上げよう。恋愛フラグという、お土産をね。

 私を腰から短剣を取り出しては手に取り、ダクネスに駆け寄る。

 

「ダクネス、下がってて」

「断る!」

 

 いや、そこ断るなよ。あと何気に大剣振っているけど、また当たってないじゃん。

 

「言ったはずだ。……私のクルセイダーとしての実力をその目で確かめてくれ、と」

「あ、うん、見たから……ちゃんと見た、見たからさ、もういいよ下がってても」

「まだだ。まだ私の騎士としての……クルセイダーの実力を発揮してはいない!」

 

 そう言うと、ダクネスは両手剣を手放して両手を広げた。その体制と私の視点からすれば、ダクネスは私を守ろうとしている形となっている。

 そうか、今度は長所となる防御をお披露目するのね。

 

「クルセイダーとは最強の防御力を誇る冒険職、いかなる攻撃をも凌ぐためのもの。さぁ来いキャベツども、少しずつ鎧を砕いていき、肌に衝撃を与えてみせよ! そして最終的に私を喜ばしてくれ!」

 

 駄目だこの変態。早く何とかする以前に最早手遅れだ。最後はクルセイダーの質力ではなく、ダクネスの願望でしょ……。

 ……これはカズマから追い払われるのも無理はないかも。ぶっちゃけ、私もダクネスにドン引きしている。別に性格にこだわるわけじゃないけどさ、それとこれとは別だし、ダクネスのマゾ発言を素敵と捉える程、私の思考は変態に達していないわ。

 

「……とりあえずキャベツを捕獲しよう。いや違う、収穫か」

 

 改めて違和感を覚えるこの世界の野菜事情に疑問を持ちつつも、短剣でキャベツを刺して捕らえようと腕を振った。

 そこでふと思ってしまった。

 これって、傷つけでいいものなのか?

 そんな迷いが生まれた瞬間、お腹から痛みが走った。

 

「ぐふっ!?」

 

 痛みの正体はキャベツだった。何を言っているのか自分でもわからないが、今さっき自分はキャベツにやられたんだ。本当に言葉だけにしてみれば何を言っているんだろう……。

 でも、痛みは紛れもなく現実であり、キャベツのせいでお腹から痛みが走ったのは事実だ。

 そんでもって、キャベツが体当たりを仕掛けてきているのだ。

 

「うわっ」

 

 キャベツが体当たりをしてくるように飛び回っている。立ったままだと、またキャベツに体当たりされそうなので、とりあえず回避に専念する。

 甘く見ていた。いや、キャベツ相手に警戒できるわけがなかった。

 キャベツに敵意はないが、適度な速さに飛び回っていれば必ず人のどこかに当たってしまい、それが痛みに変わる。キャベツであるものの、それなりの大きさの緑の丸い塊はそれなりに重さがあり、それが攻撃力へと変わる。

 そんなキャベツが大量に飛び回っているのだ。

 軌道が読めない緑色の砲弾。我々冒険者達はその餌食にされ、地面へと倒れ込んでしまうのだろう。

 …………冷静に考えても危ないのだろうけど、同時に自分で何を思っているんだろうと、思い込みの激しさに呆れてしまった。

 

「あ、アスカさん」

 

 イザナミがこちらにやってくる。同時に二玉のキャベツがこちらに向かうように飛び回っていた。

 

「来るな! キャベツが体当たりしてくるぞ!」

「え、え、その、きゃっ」

 

 自分で何言っているんだろうと思った。あんな言葉、生涯一度も使うこともないこと言われても戸惑うだけだよね。私もちょっと混乱している。

 

「ひっ、きゃ、キャベツが空を飛んで……恐い」

 

 私達からすれば非現実的でそういう恐さはあるのだろうけど、あなた仮にも神様死神様でしょうよ。

 相変わらずの臆病を出してしまうイザナミ。そんなイザナミを私が守ってあげよう。そんでもって好感度を上げさせる。

 

「イザナミ、下がってて」

「え、でも」

 

 キャベツが螺旋を描くようにこちらへと飛んでいる。軌道が変わらなければ私に体当たりをする形になるだろう。

 モンスターでもなければ巨大カエルでもない。人間に食べられないように空を飛ぶキャベツなんか、相手ではない。

 

「危ない!」

「「え?」」

 

 そう叫んで、私の目の前に現れたのはダクネスだった。そして体制は私達からキャベツを守ろうとしていた。

 急に現れたダクネスに私とイザナミは疑問に感じた。

 

「大丈夫か、ぐっ」

 

 次々と数多くのキャベツ達がダクネスに体当たりするように飛びつく。キャベツであるがそれなりの重さがある緑色の丸い物だ。それなりのスピードで体に当たれば痛いも当然、自分も一回食らって痛かった思いがあった。

 無数の緑色の弾丸がダクネスを襲い掛かる。重量感のある音が鳴り、次々とダクネスの鎧の一部分が壊れていく、そして肌に衝突する。

 いくら防御力が誇る上級職のクルセイダーが身を挺して守っても、限界が来て耐えられない気がする。少なくとも、見ているこっちからすれば、キャベツ達がボコボコと体当たりしてくるのを体で衝撃を耐えるダクネスが心配で仕方がない。

 

「もういいダクネス! 早く逃げるんだ!」

「バカを言うな! ここで見捨てることなんて、できない!」

 

 騎士らしい精神でダクネスは叫ぶ。

 確かに、ダクネスが身を挺して守ってくれるおかげで私とイザナミはキャベツに傷をつけられることはない。それは当然、ダクネスが変わりに傷だらけに負おうことになっている。

 鎧が壊れ、剥がれてしまってはダクネス自身を守る物はなくなり、上着が徐々に破れていき、肌は傷を負っている。

 ……普通に考えてさ、キャベツに傷をつけられるってどういう意味だよ。よくわかんないことでダクネスが傷ついていいのか?

 当然、いいわけがない。

 

「だったら力づくで……!」

 

 ダクネスの腕を掴んで引っ張ろうとした時だった。

 

「それに見ろ、男達が私を見ている!」

「え?」

 

 思わず飛ばした腕を止めてしまい、呆然としながらも周りを見ていた。

 一応、一応私も空気は読んだから思わないようにしていたけど、鎧が砕かれて、上着が所々破れていて、そしてなによりも、豊富なおっぱいがキャベツの衝突で上下に揺れる様は見応えがあるものであり、しばらく観察したいものだ。

 それを考えているのは私だけではなく、周りの男達も同じようにダクネスを観察している。更にその姿がエロさを増しているダクネスに凝視している男達は興奮している。

 

「汚らわしい……だが、たまらない! ここでやめてしまったらこの快感を味わえない!」

 

 そんでもって興奮しているのは男達だけではなく、ダグネス自身も。

 普通に心配していた私の気持ちを返してください。

 そしてこの変態は放置でも構いませんよね。

 あ、きっとこれが百年の恋も一時に冷めることなんだね。

 

「わ、私、ダクネスさんが恐いです……」

「そうね……同じ気持ちだわ」

 

 イザナミが怯えながらボソッと呟く。それは恐がっていい正しい反応だよ。あの子の精神はもう既に末期なんだ。

 ……にしても、急に暗くなったなぁ……本格的に雨でも降るのかな?

 そう思いながら、ふと街の方へと視線を向ける。すると、めぐみんが何か詠唱しているように見えていた。

 魔法でキャベツでも捕らえたりやっつけたりするのかな? それともお得意の爆裂魔法でぶっ飛ばすのかな。キャベツに爆裂魔法は贅沢な上にオーバーキル過ぎない……って、あいつ広範囲に爆発するエクスプロージョン放つ気かよ! 空が急に暗いのって、絶対にそれじゃないか。

 

「イザナミ、避難!」

「わ、私よりも非難する相手などいません。むしろ私が非難される存在です」

「そっちの非難じゃなくて、安全な場所へ避難する方だよ!」

「す、すみません! お詫びに、私を非難してください」

「そんなことはいいから避難訓練の非難! ひ・な・ん!」

 

 とにかく街の中、もしくは正門付近に避難しておけば安全……なはずだ。

 めぐみんもそんなバカじゃない、自分の魔法を放ったとしても私を含めた冒険者を巻き込むことはしない、はずだ。

 イザナミが避難したところを確認した後、次にダクネスに避難させるように告げる。流石にダクネスを放置するわけにもいかないからね。

 

「ダクネスも避難するよ」

「何を言う、これからが本番じゃないだろうか!」

「待っていましたといわんばかりにワクワクしてんじゃないわよ! 小学生でも爆裂魔法を放つと思ったらすぐさま避難しているわよ! ここにいたら巻き込まれて死ぬぞ!」

「確かに、いかにも強力そうな魔法に巻き込まれたらひとたまりもないだろう。けど、それがたまらないじゃないか!」

「なにがたまらないのか、全然わかんないんですけど!?」

「とにかく安心してくれ、頑丈だけの取り柄の私ならきっと耐え抜いてみせる。それに、ここで死んでは魔王に捕らわれてエロいことに遭わされないからな!」

「ごめん、全然安心じゃないんですけど!」

 

 もうこの変態は放っといてもいいかな。多分生きていられるだろうし。

 

「『エクスプローション』ッ!!」

 

 詠唱を終え、めぐみんは杖の先端から協力は閃光を空へ放つ。そしてダクネスと私を覆う炎のような魔法陣が引かれていく。

 本当にダクネスを置いて避難してもいいんじゃないかと思うけど、それでも放って置くわけにはいかない。当人はお預けプレイを味わって快感するのかどうかは知らん、想像もしたくはないがそれでもやらせてもらう。

 上手くいくかはわからん。いきなり本番上等、唐突な思いつきで世界が変わることだってある。

 漫画のように突然パワーアップして大逆転な程、現実は甘くはないのは知っている。私にはそんな力も主人公力もない。

 けど、私は漫画のような転生をしているんだ。だったら嘘みたいな現実を実現することだって、絶対にないとは言えない。

 ダクネスの腰を両手で挟んで、

 

「『アクセルダッシュ』!」

 

 強制連行および無理矢理アクセルダッシュでダクネスを無理矢理連れていくことには成功した。ついでに、タイミング良くめぐみんのエクスプローションの爆風が後押しするような形で、加速が上がって速さが増した。

 結果としては、なんとか直撃は免れたし、ダクネスを救出することには成功した。だけど、アクセルダッシュを制御仕切れないのと、タイミング悪くめぐみんの爆風がダメ押しとなって、すごい速さで地面に激突した。

 無事で生きていることは良いことではあるが、痛いのは普通に嫌だった。あと、地味に顔を地面にぶつけて汚れるというのも嫌だった。

 癖があるヒロインも愛で補うつもりだけど、直してほしいところはちゃんとあるからね!

 

 

 ダクネスの露出ドMプレイ問題と、めぐみんの爆裂魔法問題があったものの、キャベツ収穫祭を無事に終えることができた。

 そして今晩はみんなでキャベツ料理を食べることになった。

 

「何故たかがキャベツの野菜炒めがこんなに美味いんだ……納得いかねぇ」

 

 文句を言いながらもキャベツ炒めを一口食べ、素直な感想を口にするカズマだった。

 何気にカズマも参加していたじゃない。不満があるのはわからなくもないけど、私もキャベツと戦うために異世界に来たわけじゃないしね。

 それはともかく、本当にキャベツ炒めは美味しかった。今までで一番キャベツが美味しいのかもしれない。キャベツが飛ぶという無駄と思える進化は、実は旨味を増してくれる栄養とかが発達して、美味しい野菜になっているのかもしれない。

 いや、マジで美味いなこのキャベツ炒め。

 

「貴女、流石クルセイダーね。あの鉄壁の守りには流石のキャベツ達も攻めあぐねていたわ」

 

 アクアがダクネスを褒めているけど、多分防御力だけが問題じゃない気がする。キャベツにもダクネスの変態度が伝わってきて、攻めたくないと思ったかもしれない。私だったら、そうしているのかも。

 

「いや、私など動きが速くもなければ、剣を振ってもロクに当てることもできない不器用者だから、誰かの壁になって守ることしか取柄がない、ただの硬いだけの女だ」

 

 ……言っていることは間違ってないし、実際守りに関しては頼もしいのだけど。その守ろうとするのをやめてほしいと願いたい。

 

「アクアの花鳥風月も見事なものでした。冒険者の皆さんの士気を高めつつ、収穫したキェベツを冷水で保つとは、思いつきませんでした」

「まーねー、みんなを癒すアークプリーストとしては当然よねー。それにアークプリーストの水はとても清いのよ」

「それ、大事なのか?」

 

 めぐみんが言ったようにアクアによる花鳥風月で士気を上げたことで、心なしか冒険者達に活気が上がり、活き活きとキャベツを収穫していたように見えた。それが本当なら、サポートとしては凄いことなんだろうけど、アークプリーストの仕事ではない気がする。カズマも疑問に思っているしね。

 

「めぐみんの魔法も凄まじかったぞ。キャベツの群れを一撃で吹き飛ばしていたではないか」

「ふふっ、紅魔の血の力、思い知らされましたか」

「ああぁ凄かったぞ。しかし残念ながら、その凄まじい魔法を余波でしか味わえなかった。次こそは直撃で!」

「やめなさい」

 

 もうほんと、ダクネスは末期だと思うんだ。それでもツッコミせざるを得ない。

 私はダクネスのために言っているんだからね。助けた時に残念そうな顔をしたけど、これからも助けるつもりだからね。

 

「すまない、アスカには感謝している。助けくれてありがとう。あえて私を焦らせて、次回にお預けするようにしてくれたんだな」

「なわけないでしょ」

 

 そして最初の純粋な感謝が台無しになったよ。

 次からは本当に命に関わること以外は放置しておこう。いや、めぐみんのエクスプロージョンも命に関わることだったけどね。

 

「アスカといえば、魔力を使い果たした私をゲイルマスターの長所を上手く使いこなし、私を素早く回収したら背負って安全な場所まで連れていったのは流石です。イザナミとの連携プレイも凄まじかったですね」

「確かにあれすごいわね! あんな風に凄いスピードでキャベツを収穫していた初めて見たわ」

 

 アクアとめぐみんが言っているイザナミとの連携プレイと言うのはそのまんまの意味で、イザナミと協力してキャベツを収穫したのだ。

 やり方は普通だと思う。めぐみんを安全な場所に連れて行った際に、一回街に戻って大き目で長めの網を購入。あとはイザナミを軸にして私が円を描くようにアクセルダッシュで回るだけ。めちゃくちゃな方法だけどそれで大量のキャベツを収穫することができました。

 

「ほんとやるじゃないイザナミ、なんかウジウジしているだけかと思っているけど見直したわ」

「こ、こんなんでいいんでしょうか……」

「この私が言っているのよ、もっと自信持ちなさい!」

「は、はい、すみません……」

 

 イザナミと正反対の性格であるアクアが褒めてくれた。それでも謝ってしまい、喜ぶ顔をしてはいないけど、イザナミにとっては言わないよりかは言った方が効果的だ。自称神様と元神様であり正反対の二人は意外と相性が良いのかもしれない。

 

「あと、カズマもなかなかのものだったよ」

 

 アクアが隣にいるカズマの頬をツンツンと指で触りだした。なにそれ羨ましい、私にもしてほしい。それなのに、なんでカズマはうんざりそうな顔をしてんのよ。だったら私と変わりなさいよ!

 

「確かに潜伏スキルで気配を消し、敵感知で素早くキャベツの動きを補足、そして背後からスティールで強襲するその姿は、まるで鮮やかな暗殺者のごとしです」

「カズマ。私の名において『華麗なるキャベツ泥棒』の称号を授けてあげるわ」

「やかましいわ! ああもう、どうしてこうなった! こんなはずじゃなかったはずだ!」

 

 アクアとめぐみんが語るキャベツ祭りでの出来事、特にアクアから不名誉な称号を授けられたカズマは頭を抱えてテーブルに突っ伏してしまった。おそらく、私とイザナミよりもキャベツを収穫しているのにもこの扱い。そんでもってカズマは何一つ喜びを感じていなかった。

 

「みなにクルセイダーの実力がわかってもらえてなによりだ」

 

 …………ここでどこが?ってツッコミを入れるのは野暮なんですかね。どうしてそれを普通に言えるんだよ。ある意味ポジティブ過ぎるでしょ、この変態騎士。

 

「では改めて自己紹介を……名はダクネス。職業はクルセイダーだ。一応両手剣を使っているが、戦力は期待しないでくれ。なにせ、不器用過ぎて攻撃がほとんど当たらん。だが、壁になるのは大得意だ!」

「おい、待て。いつから仲間になった!?」

 

 強制加入となったダクネスに、カズマはすかさず顔を上げ始めた。私も仲間に入った流れになって困惑しているが、同時に断念した。

 

「カズマ、諦めようよ。多分この人、断っても毎日来るタイプの人だと思う」

「……マジで?」

 

 カズマも同じようなことを思っていたけど、やり切れない思いのまま、仕方なしに断念することになった。

 

「うんうん、うちのパーティーもなかなか豪華な顔触れになってきたじゃない。アークプリーストの私に、ゲイルマスターのアスカとデスサイザーのイザナミ、アークウィザードのめぐみん。そして、クルセイダーのダクネス、六人中五人が上級職なんてそうそうないわよ」

 

 確かに職業だけ見ればこのパーティーはすごく強いのだろう。あらゆる回復魔法を操つる者、最強の爆裂魔法を放つ者、鉄壁の守りを堅める者、即死効果を与え者、目に見えぬ速さで駆け抜ける者である私を含めた五人、そのうち四人はとても魅力的なヒロイン達。そしてそこに加えるのは最弱職である冒険職のカズマ。それだけ聞けば、欠点はカズマくらいなものだろう。

 しかし、蓋を開けてみれば理想なんて無いに等しい。一言でまとめるなら、残念の一言に尽きる。

 実は宴会芸の自称残念女神と、一日一発しか魔法を使えない魔法使いに。攻撃が当たらないメイン盾に加えて、臆病で加害妄想の死神に、人間のふりをしたパンツを盗むクズマさんだぜ。見た目に反して戦力が不安定過ぎるでしょ。

 そして改めて思うと色々と濃いメンツだね。

 ダクネスに関して言えば、正直ヒロイン候補に入れるのは迷っていた。多少残念なところもあったとしても受け入れる私としては、本当だったら迷う必要はないんだ。

 だって美人だし、可愛いし、最高じゃない。

 でも変態なんだよ。ただのドM騎士なんだよ。それを受け入れるのと、その変態を肯定するのとは別物なんだよ。私だって引く時は引くよ。贅沢かもしれないけど、例えダクネスに告白されても、受け入れ切れないよ。

 

「カズマ、アスカ、遠慮なく私を囮や壁代わりに使ってくれ。なんなら、危険と判断したら捨て駒として見捨てて貰っても構わない。くっ、んんっ! そ、想像しただけで、む、武者震いが……っ!」

 

 今の状態が危険なので、見捨ててもいいでしょうかね。

 あと、それは武者震いではない。武者震いに謝って。

 

「それでは二人とも。多分、いや、間違いなく足を引っ張る事になるとは思うが、その時は遠慮なく強めで罵ってくれ。これから、よろしく頼む」

「嫌です」

「そうだ、もっと言ってくれ!」

 

 罵ったらこの反応だよ。誰か助けてくれ。


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