この素晴らしき世界にハーレム女王を。   作:鮫島龍義

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この仲間達と共に歩む道を

「うっ、うぐっ、ぐすん。生臭いよぉ…………生臭いよぉ…………」

 

 なんとも言えない気持ちのまま、ジャイアント・トードの討伐を終えた帰り道。液体まみれのアクアは未だにめそめそと泣いていた。

 それもそうだ。カズマに助られるまで、カエルの口の中にいたんだ。人間、そう簡単に本当の意味で食べれらることなんてあるはずもない。だからこそ、その得体の知れない恐怖を味合ったんだから泣きたくなるトラウマになるのも仕方がないかもしれない。

 というか、すぐ助けられなくてごめん。

 

「カエルの体内って、臭いけど良い感じに温かいんですよね……」

 

 カズマに背負らせれている液体まみれのめぐみんが、落ち着いた口調でしみじみに言う。まさに経験者は語る言葉。けど、知りたくもないトリビアであった。

 

「……とりあえず、めぐみんは今後爆裂魔法は緊急の時以外は禁止だな」

 

 これにはカズマと同意せざるを得ない。威力は申し分ないけど、そこまでやる必要はないし、なによりも使うたびに毎回毎回倒れてしまっては効率も悪かろう。

 

「これからは他の魔法で頑張ってくれよ」

「使えません」

 

 めぐみんは即答する。

 

「……何が使えないんだ?」

 

 カズマはめぐみんに訊ねる。それに対してめぐみんは真面目な顔で答えてくれた。

 

「私は爆裂魔法しか使えないです。他の魔法は一切使えません」

「…………マジか」

「…………マジです」

 

 ……めぐみんはまさかの一点特化型の魔法使いさんでしたか。

 場の空気が静まった中、ようやくアクアが泣き止んで会話に参加してきた。

 

「ちょっと待って。爆裂魔法を習得しているのなら、他の魔法も習得しているはずだから、使えるはずでしょ?」

「そういうものなの?」

 

 私の問いにアクアは答えた。

 

「うん、私なんて宴会芸スキルを習得してからアークプリーストの全魔法を習得したし」

 

 宴会芸スキルって、何に使うだよ。

 というか、そもそも宴会芸スキルがあることに驚きだよ。

 ……あれかな? 幹事になれる優先権とかお酒の半額サービスとかつくのかな?

 

「爆裂系の魔法は複合属性って言って、火や風系列の魔法の深い知識が必要な魔法。……つまり、最低でも火と風の魔法が使えないと爆裂系魔法は習得できないのよ」

「だとすれば、めぐみんは爆裂魔法を習得しているから、それに関連する魔法が使えない訳じゃないってこと?」

「その通りよ、アスカ! ちなみに職業や個人によって習得できる種類が限られているけど、私は超優秀だからアークプリーストとしての魔法は全部できるわ」

 

 今のアクアは、なんか自分が先頭に立っていて、自分が一番だと錯覚しているように見えたけど、きっとそれは気のせいじゃないね。最後だけ凄い活き活きしてた。ようするに自慢話か。

 そう言えば、受け付け嬢のお姉さんがゲイルマスターは風魔法しか習得できないみたいなことを言っていたっけ。つまり、私の個人能力によっては習得できないこともあるってことか。

 その点に関しては、最初からスキルポイントで風魔法にも振り分けたから、全くないわけじゃないけどね。

 アクアの話をまとめると、最強の攻撃魔法を唱えることができるめぐみんは優秀に違いなく、そしてその関連する魔法が使えない訳ではない。だったら。それを習得することだってできるはずだ。何故それを今までやらなかったのか……。

 

「もしかして、めぐみんは他の魔法を覚える気ないでしょ」

「その通りです!」

 

 ドヤ顔で肯定をするめぐみんに、それを背負っているカズマが「威張っているんじゃねぇ」とぼやいた。けど、めぐみんは気にせず語り始めた。

 

「私は爆裂魔法をこよなく愛するアークウィザード。爆発系統の魔法が好きなんじゃないです。爆裂魔法だけが好きなんです」

 

 ここで爆発魔法と爆裂魔法は何が違うのかって訊くのは野暮ですかね?

 

「アスカの言う通り、私は爆裂魔法以外の魔法も習得すこともできます。そして爆裂魔法以外の魔法を使えば楽なところもたくさんあったでしょう。でも、駄目なんです。私は爆裂魔法しか愛せません。例え他の魔法を使ってほしいと頼まれても、例え今の私の魔力では一日一発が限界だったとしても、例え魔法を使った後に倒れるとしても、私は爆裂魔法しか愛せない! だって私は爆裂魔法を使うためだけに、アークウィザードの道を選んだのですから!」

 

 めぐみんが語る爆裂魔法の愛と熱意は伝わった。正直、めぐみんが爆裂魔法を習得するまでの過程に、どれだけの苦労と努力を重ねてきたのかはわからない。魔法というものを現実で目の当たりにした私がわかるはずもない。

 だけど、好きな物を突き通す気持ちは、私も共感できた。他に賢い方法だってあることぐらいわかっている。わかっているはずなのに、歩むことを止めない。その気持ちは私にもあるんだよ。

 

「素晴らしい! 素晴らしいわ! その非効率ながらもロマンを追い求めるその姿に、私は感動したわ!」

「ありがとうございます」

 

 アクアもめぐみんが求めるロマンに共感してお互いに握手をした。美しい友情……これぞアクめぐ。

 

「自分のものにしようと思わないでください」

 

 ようやく背後にいるイザナミが喋ったと思ったら、釘を刺すようなお言葉。

 

「そんなんじゃないって。……というか、イザナミはアクアやめぐみんになにか言いたいことはないの?」

「え、その…………お二方は前向きで素晴らしいですね。私みたいな、いつまで経っても後ろ向きでろくでなしと違いまして……」

「そんな悲しいことは求めてないよ」

 

 とは言いつつも、アクアとめぐみんの残念な部分を含んでもいいから、もうちょっと前向きになってほしいところはある。

 

「ろくでなしだと思っているのなら、ちょっとはコミュニケーション取ってみたら?」

「え、えっと……そう、ですね……」

 

 アクアとめぐみんに至っては未だに会話すらしていないからね。仲間と一緒に冒険するんだったら、コミュニケーションは必須だ。これはイザナミにとっても良いことであり、成長するべきことであるんだ。

 一応カズマと会話はした……いや、あれは会話でいいのか?

 

「そっかー。多分茨の道だろうけど頑張れよ、めぐみん。ギルドに着いたら報酬を山分けしよう。そんでもって、また機会があればどこかで会う事もあるだろう」

 

 こいつ、ちょっと目を離したら、とんでもないことを口にしやがった。

 あいつ! 遠回しにめぐみんを脱退させようとしやがった!

 当然、めぐみんはカズマに脱退をされることに気づき、カズマの肩をがっしりと握り直した。

 

「我が望みは爆裂魔法を放つ事。報酬などおまけに過ぎず、なんなら山分けではなく、食事とお風呂とその他雑費を出して貰えるなら、我は無報酬でもいいと考えている。そう、アークウィザードである我が力が、今なら食費とちょっとだけ済みます! これはもう、長期契約を交わすしかないだろうか!」

「いやいやいや、その強力な魔法は俺達みたいな弱小パーティーには宝の持ち腐れだ。俺達の様な駆け出しは、普通の魔法使いで十分足りている。というか、もう仲間に関してはアスカ達で足りているんだよ。あの時は言いづらかったけど、アスカとイザナミが入った時点で募集は終わったんだ」

 

 めぐみんは必死に追い出されないようにカズマにしがみつく。

 そのお返しに、カズマは必死に追い出そうと、なるべく優しい言葉でめぐみんを追い出そうとしている。……もうそこまで来たら、ストレートに言った方が折れてくれるんじゃないの?

 とはいえど、めぐみんに抜けられると私のヒロイン候補が遠のいてしまう。イザナミのことを考えれば、ちょっと尖ってキャラが立つ人と関わった方が良くも悪くも今後に影響するだろう。カズマには悪いが、私はめぐみんの味方として保留にさせてやろう。

 

「カズマー、めぐみんをこのまま仲間に入れてもいいじゃない。弱小だからこそ、強力な魔法を使えるめぐみんを仲間に入れた方が楽じゃん?」

「簡単に言ってくれるけどな、誰が面倒見ると思っているんだ! 仲間を入れることに軽々しく考えているんじゃねぇ! めぐみんを仲間に入れるってことはな、相当の覚悟と責任と長きに亘る付き合いが重要なんだぞ!」

 

 あんたは野良犬を飼うことに反対する親かよ。つうか、募集したのはそっちなんだから、そこの責任持ちなさいよ。

 

「ほら、アスカがそう言っていますから、私を入れてください。それに上級職ですけど、まだまだ駆け出しのレベル6なんです。あともう少しレベルが上がれば、きっと魔法使っても倒れなくなりますから」

「いやいやいやいや、一日一発しか使えない魔法使いとか、かなり使い勝手悪いからな!」

 

 これいつまで続くんだろう……。

 カズマとめぐみんの壮絶でちょっと醜い争い。そこに入ってきたのは誰もが予想外のあの人だった。

 

「あ、あの」

「「なに!?」」

「ご、ごめんなさい……本当にごめんなさい」

 

 カズマとめぐみんは段々と苛立ちを募らせ。そして元死神であるイザナミに向けてしまった。

 するとイザナミは反射するように謝罪して消えようとしていた。胃さ那美→イザナミ

 

「だ、大丈夫だから。ちょっと興奮しているだけでお邪魔じゃないよ。い、言いたいことあるでしょ? ほら言いなさいって」

 

 そういうわけだから、一旦争うのやめてもらおう。

 せっかくイザナミの主張が聞けるというのにも関わらず、肝心のお二人が争いを止めず、聞いてくれないとなんも意味もなく、イザナミの勇気が無駄になる。

 そういうわけだから……。

 

「話を終えるまで黙ってよね」

「「えー」」

「えーじゃありません!」

 

 無理矢理にでも休戦させた。

 一旦、めぐみんにはカズマから離れてもらい、カズマは逃げないように私が責任を持ってガッシリと腕を掴んで防ぐ。

 

「さ、どうぞ」

「え、あ、あの…………めぐみん、さんは……私たちに必要だと、思います」

 

 一度は怖気づいてしまい、またも怖気づこうとするイザナミであったが、このままではいけないと思ったのか、勇気を出して相手に伝えた。

 

「え、えっと……カズマさんの言う通り、めぐみんさんが使う魔法は勝手が悪い、と、私も思います。でも、私達に足りない攻撃力を、持っています。使いどころは難しく、限られてきますが……ここぞっていう時にめぐみんさんの力が必要になると、思います。私がこんな性格だから、恐れもなしにデメメリットが多いこともわかっていながら、そのデメリットを恐れずに使うめぐみんさが羨ましく、とても頼りになります。……私にとっては、めぐみんさんが必要なんです。カズマさん。めぐみんさんを仲間に入れさせてくれませんか……?」

 

 イザナミ……。貴女、ちゃんと言えるじゃない。ちょっと感動しちゃったよ。

 きっと臆病な性格だからこそ、相手に気持ちを伝える恐怖を誰よりもわかっているはずなのに、怖気づけずに、ちゃんと言葉で伝えたことに私はイザナミの成長を見れた気がする。

 まだ出会ってから一日も経ってないのに、気分はイザナミの親のようだ。

 カズマも心に響いたよね。ほら、笑顔になっているもん。カズマはめぐみんを仲間に入れるに決まっているよね。

 

「嫌だね」

 

 こいつ無情にもバッサリと切り捨てやがった。最悪だ。

 これにはイザナミも大きなショックを受けてしまう。心なしか燃え尽きたわけでもないのに、持ち味の美悪よりも全身真っ白に見える。

 

「俺には必要ないし、何よりも本当に使い勝手が悪い。狭い中では使えないし、音も凄かったからモンスターが集まってきそうだし、爆裂魔法に巻き込まれたら死にそうだし、役に立たない方が多い。きっと他のパーティーにも捨てられた口だろうしな。それと、めぐみんをお手本にしない方がいい。きっと今よりも駄目になる」

 

 こいつイザナミの精一杯の意志をバッサリ切り捨てた挙句に追い打ちをかけてイザナミの気持ちを否定しやがったよ。

 そこは諦めてしょうがないと腹を括って仲間に入れる展開じゃないの? わかったよって、やれやれとため息つくも、しょうがないって割り切った顔をして認めるものじゃないの?

 くそう、なんて野郎だ。本当に血も涙もないとは思いたくもなかったよ。

 

「……そうですよね。私みたいなゴミ以下で存在価値がないに等しいゴミクズは、発言する権利なんてありませんよね。でしゃばってすみませんでした。これからは私は喋りません。なんなら、私のことを見捨てても構いません」

 

 ああぁ、そんなぁ……。

 イザナミがまたしゃがみ込んで、指でのの字を書き始めちゃった。勇気を出した分、否定されたんだから、普段よりもショックを受けているよね……。

 

「大丈夫、私は無駄なことじゃないから、ね。だから、元気出して、ね?」

 

 とりあえず後でカズマをぶん殴ろう。これは暴力ではない、イザナミの意志を否定した報いだ。

 

「お、おい放せ!」

 

 そう覚悟した途端、いつの間にかめぐみんは再度カズマの背中にのしかかって掴みかかった。

 その勢いでか、私もカズマの腕を掴んでいる手を放してしまった。

 

「見捨てないでください! もうどこのパーティも拾ってくれないのです! ダンジョンの探索の際には荷物持ちでも何でもします! お願いです、見捨てないでください!」

 

 もはや藁にも縋る思いでこのパーティの仲間に入れようとしていた。あまりにも必死過ぎていて、なんだか可哀想になってくるのは、いけないことなんだろうか。

 それはともかく、何でもしますって言ったよね?

 

「カズマ、やはりめぐみんを仲間に」

「なんでお前が勝手に決めるんだよ!」

「それを言ったらカズマだって勝手に脱退させようとしているじゃないか。ついでにイザナミを泣かしやがって、このクズマ! いいから私にめぐみんをくれ!」

「いろいろツッコミたいところではあるが、めぐみんが欲しいなら引き離すのを手伝ってくれ!」

 

 めぐみんって意外と握力があるのね。握力だけの力だけではないのかもしれないけど。

 もうこの際、めぐみんを引き入れて、私とイザナミも脱退しようかな。無理にカズマに付き合う理由はない。

 

「やだ……あの男、小さい子を捨てようとしている」

 

 通行人のひそひそ声が耳に入った。

 あ、そっか。ここはもう街の中だから、私達以外の人達も当然いるわけであり、それを聞いてしまった人もいるのは必然か。

 おまけに、残念だけど外見は抜群の美少女のアクアがいて、指でのの字をなぞり書きしているも美少女なイザナミがいて、結構騒いでいるのもあったから、私達が注目されるのはしょうがないことなんだね。

 

「隣には、なんか液体まみれの女の子を連れているわよ」

「あの小さい子も液体まみれよ」

「泣いている女の子もいるわ。まさか、あの男が泣かしたのかしら?」

「とんだクズね。きっと女の子二人にヌルヌルプレイというものをして、泣いている女の子もやろうとしたに決まっているわ」

「最低だわ、あの変態クズ野郎」

 

 そしてどこかの奥様方は騒ぎを起こした光景を見て、カズマにあらぬ誤解を生んでしまった。誤解だけどある意味間違ってないこともあるけどね。

 …………。

 あ、そうだ。良いこと思いついた。

 ふと、めぐみんと目が合うと口元がにやりと吊り上がっている。どうやら私と同じことをひらめいたようだ。

 

「そっかー。だから私とイザナミにも囮と称して、カエルの舌でヌルヌルプレイをさせようとしていたのね!」

「お、おいアスカ! なにを」

「カズマ! 私はどんなプレイでも大丈夫ですから! 先ほどのカエルを使ったヌルヌルプレイだって耐えて」

「よーし分かった! これからよろしくな、めぐみん!」

 

 こうなることならイザナミの発言の時点で諦めなさいよ。

 カズマに誤解を与えてしまったものの、こうしてめぐみんが改めて仲間に入った。

 

 

 その後、アクアとめぐみんは液体まみれだったので大衆浴場へ向かった。そして残った私とイザナミとカズマとで冒険者ギルドの受け付けに報告を終え、規定の報酬を貰った。

 

「ジャイアント・トード三匹の買い取りとクエスト達成した報酬を合わせて十四万エリスね……」

 

 どうやら討伐したモンスターを買い取って、それを売って料理にすることができるらしい。

 私達はあの巨大カエルを運ぶのは無理難題だったために、ギルドに頼んで倒したモンスターを移送してくれるサービスに頼むことで、一五万エリスを手に入れた。

 

「一匹税込みで五千円程度、カエルを六匹倒した報酬が十二万五千円。五人パーティーだから一人……二万八千円。…………割りに合わねー……」

 

 机にうつぶせになったカズマがぶつぶつと口にする。疲れ切ったのか、顔を上げる気が全くなかった。

 

「そうかな。一日で二万八千円は稼いでいる方じゃないの?」

「あのな、こっちは命懸けでお金を稼いでいるんだぞ。カエルに食べられて死ぬかもしれない恐怖と戦っても一人二万八千円だぞ。しかも俺とアクアは二日かけても三万八千円だ。稼ぎにしては割りに合ってないだろ……」

「た、確かに……」

 

 私の疑問にカズマの絞り出てくる労苦話に納得した。

 一見良い稼ぎに見えるが、それは今回がアクアとめぐみんが奮闘してくれたおかげと、単純にカエルが食べるスピードが遅いおかげで全員無事に帰還できた。少しでも違っていたら、私達はカエルに食べれて、死んでおかしくない状況だった。

 それにカズマとアクアが残り二匹を倒してくれたから一日で達成することができたけど、これを一日から二日かけて達成するとすれば、今回の報酬にしては釣り合わないのも納得できる。

 

「異世界に来ても、お金のことで悩まされるのは全世界共通なのね……」

 

 あ、しまった。カズマの前で異世界のことを……。

 …………さっきお金のこと、円って言ってたな。

 それに、異世界と思わず漏らしたのも、無反応だ。単純に一々反応する気になれないだけか、聞こえていないだけかもしれないけど。

 日本にある名前に、日本で売ってそうなジャージ、この世界での知識が足りてない様子。

 これらを見る限り、間違いない。

 

 カズマは私と同じ、異世界に転生した日本人だ。

 

 …………まぁ、知ったところでどうもしないけどね。

 共通点はそこしかないし、聞いたところで新しい発展とかないし、カズマもカズマで、私の恰好を見れば私と同じ異世界の転生者だってことは察していると思うしね。それでそのことを訊かれないとなると、確認する気もなければ興味もないってところだろうな。

 そんなことよりもだ。私にはやるべきことがある。

 

「イザナミ、今日は大変だったけどお疲れ。今夜は私と一緒に」

「お断りします」

 

 まだ何も言ってないのに断られた。しかも割とガチめなお断り方のトーンだった。イザナミは特定の人物だけは強気でいられるのか? 

 もうこうなったら、めぐみんかどこかの美少女と今夜を過ごそうかな……。

 

「他の人と一緒になるのも駄目です」

 

 私って、顔に出やすいタイプなのかな……。

 

「……すまないが、ちょっといいだろうか」

 

 声に反応して顔を向ける。それと同時に、カズマも声に反応して顔をむくりと上げる。

 そこにいたのは紛れもない金髪碧眼美女で、見た目からして女騎士と呼べるような萌え要素の塊かつヒロイン候補の逸材とも言えるような存在だった。雰囲気からして真面目クール系かな。せっかく声をかけてもらったんだ。ここで逃しはしない。

 

「はい、なんでしょうか」

 

 笑顔で対応すると、イザナミがぼそっと何か呟いていたが、聞こえないふりをして話を進める。けしてイザナミに「露骨……」とぼそっと言われても傷つかないんだからね。

 

「うむ。募集の張り紙を見させてもらったが……まだパーティーメンバーの募集はしていないだろうか」

 

 自分で入ったのもなんだけど、あんな宗教みたいな募集の張り紙を見てきたのか。というか、めぐみんを追い出そうとしたのにも関わらず、募集は続いているのか。

 それはいいとしてだ。ここは当然、

 

「どうぞどうぞ。今日から君も私の仲」

「ちょっと待った」

 

 言い切る前にカズマに遮られ、私の隣へと来た。

 これはあれか、私の邪魔をする気だな。良いだろうかかってこい。

 とりあえず金髪美女に聞かれないように、私とカズマはこそこそ話をすることになった。

 

「ちょっと、なんで止めるのよ」

「なんでお前が勝手に決めるんだよ」

「別にいいでしょ、仲間に向かい入れて何が悪いのよ。それとも、カズマは美女が仲間に入ってくれるのは嫌なの? そっち系なの?」

「そっち系ではない、断じてない。別に、嫌じゃないっというか……とりあえず、様子を見てから決めたい。いいな」

「えー」

 

 一体何を迷っているんだこの男は……。

 こいつあれだな、童貞だな。人のこと言えないけど……。

 

「わ、私もカズマさんの意見に賛成です」

「イザナミもこう言っているんだ。多数決でアスカは黙ってろよな」

 

 こそこそ話を聞いていたイザナミまでもがカズマの味方になるとは、なんて理不尽だ。しかも仲間を入れるか見極めてから決める流れなのに、なんで私が黙らなきゃならないんだ。

 不満はあるものの、とりあえずカズマに従ってみよう。

 カズマは女騎士に話かける。

 

「えっと、まだパーティーメンバーは募集していますよ。と言っても、あまりオススメはしないですけど……」

 

 こいつ、様子見と言いながらやんわりと断っている。やっぱりこの男に任せるのが間違いだった。

 せっかくの私のハーレム一員の候補を逃してたまるか。童貞カズマなんかに負けてたまるか。

 

「ぜ、ぜひ私を、このパーティーに入れさせてほしい!」

 

 と思った矢先、女騎士はカズマの手を勢い良く掴みかかった。

 これには私も予想外の展開だった。

 

「いやいやいや、ちょっと、ちょっと待った。色々と問題があるパーティーなんですよ。仲間四人のうちはポンコツだし、一人はピンポンダッシュしかしないし、もう一人は謝ってばっかだし」

「そういう本人は仲間二人をヌルヌルプレイにさせては、私とイザナミにも囮というヌルヌルプレイをさせたクズ男だしね」

「おい、それは間違いなく誤解だ。嘘つくんじゃねっていだだだだ」

 

 急にカズマが痛がったのは女騎士が握る手に力を入れていたかららしい。そして心なしか、女騎士は喜んでいる。

 

「やはり! 先ほどの液体まみれの二人は貴方の仲間だったのか! 一体何があったらあんな目に……う、羨ましい!」

「「え!?」」

 

 女騎士の言葉に思わずカズマとシンクロする。

 

「ハッ。い、いや違う。あんな年端もいかない二人の少女があんな目に遭うなんて、騎士として見過ごせない……。そこでどうだろうか、守りに強いクルセイダーという上級職に就いている私を仲間に入れさせてもらえないだろうか?」

 

 …………なんか誤魔化しているだろうけど、私はちゃんと聞いたからね。

 聞き流したとしても、貴女の表情で危ない人だってことを悟ることができそうだからね。目がちょっとやばいし、なんか興奮している。

 ヒロイン候補だと思っていたけど、まさかエロゲーのヒロイン枠の方だったとはね。これには驚いたわ。

 というか場所変われよ、カズマ。

 

「い、いやー先ほども言いましたけどオススメはしないですよ」

「というのは照れ隠しで」

「ちげぇよ。なんで勝手に決めるんだよ」

「からの~」

「やめろ、そんなノリはいらん!」

 

 だって、あんた様子見って言いながら切り捨てようとしているじゃん。言っていることが違うわ。

 そんな裏切りにあったんだから、今からここは私が仕切ってやるからね。

 

「お嬢さん。うちのパーティーは今日決まったばかりの弱小なんですよ。それでもうちに入ってくれるのですか?」

「なら尚更都合が良い!」

 

 カズマがいででと声を漏らす。また女騎士が握力かけて握りしめたのかな。

 

「いや、実はちょっと言い辛かったのだが……私は力と耐久力には自信があるのだが、ぶ、不器用で……その……全く攻撃が当たらないのだ」

 

 …………それ駄目じゃん。

 

「なので、上級職だが気をつかわなくていい。ガンガン前に出るので盾代わりにこき使って欲しい!」

 

 女騎士がそう発するとカズマの顔に近づけた。おい、なんでカズマばっかりヒロイン候補とのドキドキイベント発しているんだよ。ずるい!

 

「こうなると私はサンドバック以下の何者でもない、ただのゴミクズですね」

 

 そんでもって、なんでイザナミが卑屈になるんだよ。別のところで役に立てばいいじゃんか。

 

「い、いや、女性が盾替わりだなんて駄目だ」

「私達に囮をさせようとしてたくせに」

 

 カズマはキレたかのように表情が強張り、ギロッと睨んできた。

 なにさ、本当のこと言ったのに黙れってことかよ。

 

「うちのパーティーは、このピンポンダッシュしかできないアスカが言ったように弱小なんですよ。ですから本当に貴女が攻撃を食らい、毎回袋叩きにされるかもしれないですよ?」

「望む所だ」

「いや、あ、あれですよ。今日なんて仲間二人がカエルに捕食されて液体まみれにされたんですよ。それが毎日続くかもしれないんですよ?」

「むしろ望む所だ!」

 

 あ、この女騎士あれだ。

 変態ドM騎士だ。


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