この素晴らしき世界にハーレム女王を。   作:鮫島龍義

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このヒキニートと駄女神に加入を

 お金の問題はなんとか解決でき、私たちは冒険者となった。これからゲームのチュートリアルのように簡単なクエストをこなしつつ、魔王退治へと徐々に物語が進んでいく。だから最初はこの街での稼ぎ方やレベル上げを学んでいくと思っていた。

 だがしかし、異世界に転生したといえど、今となってはここが私の現実の世界だ。

 そんでもって、現実はそう甘くはなかった。

 

「どういうことなの…………」

 

 ゲームでの最初のクエストに関しては、本当に簡単なクエストで行うことで、この世界での戦い方、この世界での採収を教えてくれそうな優しいものがあるはずなんだ。しかし今、掲示板に貼ってあるクエストに目を通してみれば、ゲームのような比較的に簡単なクエストというものはない。

 例えばこのクエスト。……森に悪影響を与えるエギルの木の伐採、報酬は出来高。そういうのは冒険者ではなく専用の業者に頼みなさいよ。冒険者に頼むにしても、森が悪影響与える程ってどれくらいの危険なんだよ。

 他には……息子に剣術を教えて欲しい。ルーンナイトかソードマスターの方に限る。役職限定されちゃっているよ。私ら受けれないじゃん。

 そんで……魔法実験の練習台を探しています。強靭な体力か強い魔法抵抗力がある方に限る。……私たちを殺す気か!

 結論。ゲームとリアルは別。現実はハードモードだった。

 採収クエストもドラゴンのタマゴを取ってこいなど、幻の薬草を取ってこいなど、明らかに最初のクエストとは思えないクエストばかりが並べてある。駆け出し冒険者の街とはなんだったのか……。

 しいて簡単と言えるのなら、ジャイアント・トードっていうモンスター退治っていうのがある。しかし油断大敵、駆け出し冒険者はレベルを上げてから、十分な装備を整えるべしとか書かれている。というか、ここのクエストって注意事項多くないですかね?

 生活費のことを考えると、できるだけ初期装備だけでお金を稼ぎたい。だからこそ簡単なクエストを行いたい。

 でも現実は厳しい。この世界でも甘えは許してくれないんだ。

 

「あ、アスカさん、これからどうすれば……」

 

 イザナミも何をどうすればいいのか困っている。とりあえず一番簡単そうなジャイアント・トードの討伐からやればいいのだけど、私たちのレベルで倒せるかどうかすらわからない。

 

「ねぇ、イザナミ」

「は、はい」

「いざとなったら、野宿する気ある?」

 

 最悪、節約のために野宿する提案をイザナミに訊ねてみる。

 

「大丈夫です。私みたいな枯葉以下の存在は一生野宿でかまいませんから」

「そういうことを当たり前のように言うなよ、悲しいよ私は」

 

 贅沢は言わないから、せめて安定な生活をまず送りたい。それから徐々に魔王退治に進んでいけば……いいよね? 王道的だよね?

 

「……とりあえず聞き込みしに行こう。なにか得られるかもしれない」

「そ、そうですね」

 

 私とイザナミはとりあえずここから離れようとした時、ふとパーティ募集の張り紙に目がいってしまった。

 ……いっそのこと、誰かと一緒にやっていった方が上手くいくかもしれん。それに、この世界のことを知らない二人で行動するよりかは効率がいいのかもしれん。

 ……取りあえず目を通してみてから考えよう。

 とりあえず一枚目を見ている。

 

「えっと、なになに……」

 

 そこに書いてあったのは、胡散臭いパーティの内容と条件が上級職の冒険者に限りると書かれていた。提供者みたいな名前にはアクアという文字が書かれている。

 ……うん、胡散臭い。なんだよ、アクア様とパーティになったことで病気が治り、モテモテになっては宝くじの一等が当たった? 今時の詐欺広告でもこんな胡散臭くはないぞ、知らんけど。

 これ絶対なんかの宗教だろ。そうじゃなくても絶対借金の肩代わりされるだろ。そんな感じがにじみ出る募集だ。

 しかし、募集条件は当てはまっている。私とイザナミは共に上級職に就いている。ここなら私達は仲間に入れてくれるはずだ。

 ……正直、嫌な予感しかしないけど、今の私達に選べる余裕がない。せめて安心できる環境は整えたい。仲間もできれば欲しい。

 あれ、安心できるのなら、こんな宗教のパーティーに入らない方がいいんじゃないか?

 …………最悪逃げればいっか。

 

「とりあえず、これを書いた冒険者に会いに行こう」

「だ、大丈夫ですかね?」

「なにが?」

 

 イザナミがなにか怯えた表情で口にする。

 

「お前なんか目障りだから消えろって、殺そうとしないですよね?」

「そんなクレイジーな奴がわざわざ募集するわけないでしょ」

 

 と思ったけど、内容が胡散臭いからどうなるかわかんない。同人誌の18禁みたいな展開になってもおかしくはない。

 そうなったら逃げるよう。なんだって、ゲイルマスターは上級職の中でも一番速いんだ。イザナミ一人だけなら持っていくのも簡単だ。

 腹を括り、私達はこのアクア様?のところへ行き、仲間に入れてもらうことにした。もうどうなっても知らん。自分とイザナミの幸運にかける。

 あ、私達の幸運、そんなに高くはなかった。

 

 

 特徴と居場所が書かれていたのでイザナミと共に向かう。その特徴っていうのは、一人は一目瞭然の美しい女神様みたいな美少女と、茶髪のヒキニートの少年ということが書かれていた。ヒキニートって……この世界にもニートってあるんだね。

 その特徴を捉える人物を探すのに苦労はかからなかった。もっとも、ギルド内はそこまで広くはないし、なによりも書いてある通りに、本物の女神様のような美しい美少女は自然と目を行ってしまう。そしてその隣にはいかにも平凡な茶髪の少年がいた。オシャレじゃないジャージ、ヒキニートって言われても違和感ないからあの人達で間違いない。

 ……というか、この世界にもジャージってものは存在するんだね。

 

「すみませーん。冒険者募集を見てやってきたんですが、ここであっているでしょうか?」

 

 私がそう訊ねると、美少女の方が目がキラキラに輝いていて、自信満々そうに歓迎のお言葉を送ってきた。

 

「よく来てくれたわ、選ばれし勇者達よ! アクシズ教団が崇拝する水の女神アクアに訪れたこと、歓迎するわ!」

 

 それを聞いた途端、私は不思議と全てを察した。

 あ、この子、残念系美少女だ。

 そんでもって、この人がアクアなら、あの宗教みたいな募集条件もこの人が書いたってことになる。

 …………うん。

 

「やっぱり間違いだったかなぁ……」

「ちょっと! やっぱり間違いってどういうことなの!? 明らかにこの私に会えただけでも正解でしょ!」

 

 おっと、思わず漏れてしまった。大声出したから、イザナミが私の後ろに隠れる。かわいい。

 いやぁ……だって、さっきの言葉だけで貴女がどういう人物なのかって、びっくりするくらい察することができたんだもん。

 同人ネタになることはないと安心できるけどど、かなり苦労する未来が見えた気がするわ。

 それと平凡な少年が呆れた目線でアクアを見ていたんだもん。あれ明らかに、こいつまたやっているよっていう、叱るのを諦めた感じだったもん。

 それら含めて、このアクアという人物は良く言えばギャップのある美少女。悪く言えば黙っていれば美少女という評価が出来上がった。

 とはいえ、残念系だが美少女であることは間違いはない。残念系は残念系で萌える物がある。それはそれでいいじゃない。苦労を得て手に入れるものがあるからこそ、その心という宝に価値があると思うわ。

 よし、ということだから下手に怒らさず、穏便に行こう。

 

「ごめんごめん、私はアスカ。後ろにいるのはイザナミ」

 

 私の背後に隠れているイザナミはちょこっと顔を出して小さく頷く。

 

「私たち二人共上級職ついているから、条件満たしているよね。ここの仲間に入れてほしいな」

 

 私がそう告げると、アクアは平凡な少年に満悦そうに話しかけた。

 

「ほら見なさい! このアクア様がちょっと本気を出して募集をかければ、仲間なんかすぐ集まるのよ。もっとも、カズマと違って私には仲間を集める才能があるからしょうがないわね!」

 

 だけどそれは、少女から溢れる年相応の喜び方ではなく、職場の人達にはうざがれるような自慢するだけ上司のようだった。やっぱりあの自称女神様は残念系だ。

 

「……本気出している割りには、一日募集をかけて二人しか来ないよな。つか、むしろ二人も来たこと事態が奇跡だろ」

「そ、それは本気の本気じゃないからよ。それに少人数の方が動きやすいから二人ぐらいに調整したのよ」

 

 カズマと呼ばれている平凡な少年は、冷めた目線でアクアの自慢を指摘をする。それに対しアクアは自分の発言を修正するこなく、上手いこと誤魔化していた。

 それを聞いたカズマという平凡な少年は視線をこちらに向ける。

 

「ようこそ、こんなところに入ってくれて助かる。俺はカズマ。もう察していると思うが、このアクアっていう可哀想な奴は、調子に乗った発言が多いけど、そっとしてやってくれ。そうでもしないと、この世界では生き残れないんだ」

 

 その目はこちらに同情を向けている。私達に同情するというよりも、このパーティに入ったことへの同情なのかもしれない。

 やっぱり間違いだったかなぁ……。

 

「上級職の冒険者募集を見てやって来たのですが、ここで良いのでしょうか?」

 

 後悔しそうになった時、私達と別に一人の少女がやってきた。

 その少女はロリッ子な魔法使い。黒いマントに黒いローブと黒いブーツに黒いトンガリ帽子、そして眼帯に加え、不思議な形をした杖は一目見ただけでも魔法使いだという恰好をしていて、すっごく可愛いなーと素直な感想が浮かび上がった。

 

「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!」

「冷やかしに来たのか?」

「ち、ちがうわい!」

 

 めぐみんという魔法少女は我が来たと言わんばかりにマントを翻して自己紹介をするものの、カズマは冷めた目でつっこむ。あーはいはい、そういうのいいからいいからみたいなノリでね。そう思えるのもわからなくはないけどさ……。

 よし、ここは私の出番ね。

 

「ごめんね、めぐみん。急にびっくりしたから驚いちゃったよ……それよりこれから時間ある? 良かったら私とって、イザナミ?」

 

 人がせっかくおでかけに誘うとしたら、背後にいるイザナミが服を掴んでぐぃっと引っ張ってきた。

 

「アスカさん、子供に不埒になことしてはいけません……」

「不埒なこと前提で言わないでくれるかな!?」

「……信じられません」

 

 ここぞと言わんばかりに退かない姿勢と強気な発言、ボソボソ声だけど。

 

「ねぇ、その子の赤い瞳……もしかして、紅魔族?」

 

 こうまぞく? なにそれ、難民族みたいなの? 

 アクアから口にした単語に理解できていない中、その問いにめぐみんはこくりと頷き、冒険者カードをアクアに手渡す。その直後、高らかに声を発した。

 

「いかにも! 我は紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん! 我が必殺の魔法は山をも崩し、岩を砕く!」

 

 アークウィザードはイザナミの上級職を選ぶ時に受け付けのお嬢さんが軽く口にしていた。強力な攻撃魔法を操る上級職。つまり上級職の中で、一番攻撃魔法が優れているということだろう。その中で随一の魔法使いが仲間に入れてくださいと言ってくれたのか?

 可愛い可愛いめぐみんがこのパーティに入ってくれるのか? 私はこのパーティに入ることを心から感謝した。

 

「……と言うわけで、優秀の魔法使いはいりませんか?」

「いります! 是非!」

「おい、勝手に決めるな」

 

 うるさいですね、カズマ。私も仲間になったからには、新参者だろうが仲間を引き入れる権利はあるんです。

 

「そして図々しいお願いなんですが、もう三日も何も食べてないのです。で、できれば、面接の前に何か食べさせて頂けませんか!?」

「喜んで! 面接なんていらないから、もう君は私の仲間だ!」

「だから、なんであんたが勝手に決めるんだよ!」

 

 騒がしいですね、カズマ。私も仲間になったからには、新参者だろうが飯を食わせる権利ぐらいあるんです。

 見てよ、めぐみんの悲しげそうな目。まるで子猫のような可愛らしい子を見捨てるとでもいうのか? 私にはできないわ!

 今からめぐみんのご飯をおごろうとした時、またもイザナミが背後からグイッと服を掴んできた。

 

「……ご飯に変な物を入れないでくださいね」

「いれないし、そんなもん手持ちに持ってない。つか、私をなんだと思っている」

「……獣です」

「なんか誤解してない?」

「いいえ、アスカさんが人間の皮を被った獣です」

 

 どうしてこの子は私が女絡みの時だけ強気でいられるのだろう。卑屈でネガティブで謝っているよりかは良いけどさ……。

 

「ところで、紅魔族ってなんだ?」

「しょうがないわね。この世界のことを知らないカズマさんに私が丁寧に説明するとしましょう」

「なんでもいいから教えろって」

「紅魔族は生まれつき高い知力と強い魔力を持ち、大抵は魔法t改のエキスパートになる素質を秘めているわ。その特徴は名前の由来となっている紅い瞳と、変な名前よ」

 

 え、めぐみんって、あだ名じゃなかったのか!? DQNネームも真っ青のへんてこな名前だ。

 名前のせいでいじめられていないのか心配になった。

 

「変な名前とは失礼な。私から言わせれば、街の人達の方が変な名前をしていると思うのです」

 

 なにその、自分の出身では当たり前なのに、他所の県では全くあるあるじゃない県民ショー的な認識は。

 

「ちなみに、両親の名前を聞いてもいいか?」

 

 カズマはめぐみんにそう訊ねると、

 

「母はゆいゆい、父はひょいさぶろー」

 

 なにも疑問に思わずめぐみんは答える。あれ、私達が間違っているのかな?

 ……まぁ、ともかく。めぐみんがすごい魔法使いだってことはわかったことだし、とにかく可愛いし、可愛いから何も問題はない。例え県民ショー的な認識の違いはあれど、可愛いは世界共通だ。

 やっぱり私、このパーティに入ってよかったー!

 

 

 仲間が増えたことで私達はクエストである、三日以内にジャイアント・トードを計六匹を討伐しに平原地帯へとやってきた。そもそもカズマ達が仲間を募集したのは、二人ではジャイアント・トードを討伐するのは難しいからそうだ。

 カズマ曰く、たかがカエルだと思わない方が良いとのこと。

 なんでも、繁殖の時期に産卵をするために体力をつけ、体力をつけるには餌の多い人里に現れては農家の飼っている山羊を丸呑みするらしい。当然、私達人類も例外ではなく、毎年繁殖期には人里の子供や農家の人が行方不明になっているらしい。

 それとジャイアント・トードのから揚げはちょっと固いが意外と美味しいらしいとのこと。……マジか。

 ともあれ、カズマとアクアは昨日ジャイアント・トードを二匹倒しており、残るカエルは四匹。

 どれだけ強いのか弱いのかはわからんが、上級職が五人も集まればどうってことないだろう。

 でも食べられたくはないから油断はしないようにしよう。なにせ、これがリアル初戦闘。カエルに食べられてゲームオーバーとかシャレにならんからね。

 

「爆裂魔法は最強魔法です。その分、魔法を使うのに準備時間が結構かかります。準備が調うまではあのカエルの足止めをお願いします」

 

 めぐみんは遠く離れた一匹のカエルに指し、私達に伝える。

 

「こっちにも来たわ」

 

 アクアが指す方もカエルがいる。めぐみんが見つけたカエルの逆側だ。

 にしても、随分とリアルカエルながら随分とパステルカラーだね。実は毒カエルとかじゃないよね? 触れたら死ぬとかないよね?

 うわーカエルがぴょんぴょんするんじゃー。あんまり可愛くねぇし、地響き結構鳴ってるよー。

 

「近い方は俺達にまかせて、遠い方のカエルを魔法の標的にしてくれ」

 

 カズマがそう伝えると、めぐみんはこくっと頷き承知した。

 

「おい、行くぞアクア。今度こそリベンジだ。一応は元なんたらだろ? たまには元なんたらの実力を見せてみろ元なんたら!」

「もともとうるさい! 元って何!? ちゃんと現在進行形で水の女神アクアよ!」

 

 なんか知らないが、アクアは元なんとかと言われたことに不満に感じたのか、涙目になりがらカズマの首を絞めようとしていた。

 それを聞いためぐみんは「女神?」と首をかしげる。

 

「そうだよ。女神と自称している可哀想な子だよ。アスカ達にも言ったけど、たまにこういった事を口走ることがあるんだけど、できるだけそっとしてやって欲しい」

「……可哀想に」

 

 カズマの言葉にめぐみんはボソッと呟いてはアクアに同情の視線を送った。

 

「な、何よ。打撃系が効き辛いカエルだけど、今度こそ」

 

 今、涙目になった時の顔が可愛かったなー。そう素直に思っていると、アクアはジャイアント・トードに向かって駆け出した。

 

「見てなさいよカズマ! それと新入り達! 今度こそ女神の力を見せてやるわよ! 『ゴットレクイエム』!」

 

 よく耳に通るような声で発しながら、アクアは必殺技みたいなのを発動させた。右手に持っていた杖が螺旋状に輝く光を纏いながら突進する。

 おおぉ……RPGの必殺技が生で見られる。カズマ達はバカにしていたけど、私は今のアクアを見て、心の底から凄いと感心してしまった。

 

「ゴットレクイエムとは、愛と悲しみの鎮魂歌! 相手は死ぬっ! へぼっ!?」

 

 よく通る声で説明するも、あっさりとカエルに食べられた。そしてカエルは顔を上げ、アクアを飲み込むように下半身を少しずつ口の中へと入れていく。

 ……なんか、シュールだなぁ……。

 

「そういうことじゃないわよ!」

 

 いつまで背後にいるイザナミが、小さな声で短めな悲鳴を上げていたけど、今はアクアを助けなければ胃の中で消化されてしまう。そんなリョナ展開は今いいんだよ! 大事なのはアクアが恋愛フラグを立たずに消化されてしまわないことなんだよ!

  私はスタートダッシュをするようにクラウチングスタートの構えをする。後ろから見れば、丸見えだけど、そこは後ろにイザナミがいるから大丈夫だ。イザナミなら見られてもいいや。

 

「おい、アスカなにをするんだ?」

 

 意外にもカズマは落ち着いている。仲間を食べられたっていうのに、なんて白状者だ。私がアクアをもらってやろう。そこで取られて永遠に悔しがっているがいいさ。

 

「カズマには言ってなかったけど、私の上級職はゲイルマスター。上級職の中ではトップクラスの敏捷力を誇る者よ!」

 

 見せてやる。きっとゲイルマスターでしか習得できなであろうスキル。一瞬で相手の間合いを詰める私の必殺技……。

 

「『アクセルダッジュ』ッ!! おべっ!?」

 

 …………。

 …………今、何が起こったんだ?

 アクセルダッシュを使ったら青空とカエルの顎とアクアの足が見えているんだけど、どうなったんだ?

 ……あれかな。カエルに激突してした衝撃で仰向けになってしまったことに気が付かない程、速すぎたのかな?

 最初だから、張り切り過ぎて勢い良く失敗したのね。今にして思えば足がもげるかと思った。

 速くなりそうだからスキルを取ったんだけど、速すぎて何もできないわね。

 あのスピードのまま駆け抜け続けていたら、どこで止まるかわからなかったかもしれん。それを止めてくれたのはカエルのお腹だ。カエルのお腹が弾力じゃなかったら、私はどうなっていたのかわからない。

 ありがとうカエルさん、私を助けてくれて。君は私の恩カエルだよ。

 カエルに感謝すると、そのカエルは私のことを見下ろした。

 ありがとうじゃねぇよ! こいつ私も食べる気じゃないか!

 

「『アクセルダッシュ』!」

 

 さっきは力み過ぎたので、加減してスキルを発動させる。

 そうやって上手く調整したら、カズマの手前でなんとか止まることができ、戻ることもできた。

 その変わり足でおもいっきり急ブレーキをしたから、めちゃくちゃ足が熱いし痛いし、もげそうになるし、靴底めっちゃ擦れた。

 ……結論を出そうか。

 

「このようにアクセルダッシュは一瞬で駆け抜けたり、すぐに戻ってこれたりできる、素晴らしい走力を発揮するのがゲイルマスターよ」

「お前すごいことしてるようで、なにもしてないだろ」

 

 カズマの明確なツッコミに私はぐうの音も出なかった。

 いや、私もこんなはずじゃなかったんだよね……いや、本当だよ。想定外だし、想像も遥にぶっ飛んだ結果になるなんて思ってもみなかったんだって。

 そんなことを思っていると、空気が一変した。いや、世界が混沌の闇に飲まれたとでも言うのだろう。それに伴い、めぐみの周囲が禍々しくて光りが杖に吸収している。

 めぐみんが唱えようとする魔法が危険だっていうことは、初めて本物の魔法を見ることになった私でも理解した。

 

「……これが、人類が行える中で最も威力のある攻撃手段。これこそが、究極の攻撃魔法!!」

 

 強力な魔法を放つために長い呪文を響きかせ、紅い瞳で相手を定め、そして……。

 

「『エクスプロージョン』ッ!!」

 

 めぐみんの杖の先端から放たれた光は一匹のカエルの頭上へと放つ。一旦、光は吸収され消滅したかと思ったその刹那、強烈で強大な焔の光がカエルの真下へ降り注いだ。

 目を眩ませる強烈な閃光、辺りの空と大地を震わせ、轟音と共にジャイアント・トードは跡形もなく強大な焔に飲まれて逝った。

 

「ひっ」

 

 あまりにも凄まじい爆風から守るように背を向けてイザナミを抱きしめる。こちらが踏ん張らないと、あの爆発に吹き飛ばされそうだ。

 空が晴れ、爆煙が無くなってから振り返ると、カエルがいた場所は見事に強大なクレーターが出来上がっていた。

 

「「すっげー……」」

 

 初めて見る強大な魔法に思わずカズマとシンクロして言葉を漏らしてしまう。

 そりゃそうだ。私にとっては日本で見ることもない非現実的な現象。ゲームという画面の向こう側の必殺技集でしか見たことなかったものを、この目で確かめ、自分の肌で伝わる衝撃を味わったんだ。

 ……まぁ、ちょっとオーバーキル気味かもしれんが、それはそれで魅力があるじゃないかな?

 私がめぐみんの爆裂魔法に感動していると、一匹のカエルが地中からぬるっと現れた。

 

「え、なんでカエル出てくるの!?」

「おそらく、さっきの魔法の衝撃と爆音で目覚めたんだろう」

 

 私の疑問にカズマが答える。あれ、カエルって地中に住めるものだっけ? いや、そんなことはいいさ。とりあえず一旦距離を取って、まためぐみんに魔法を放ってもらおう。

 アクアも当然、助けないと。

 

「めぐみん! 一旦離れて!」

 

 カズマも同じことを考えてたらしく、めぐみんに指示を送る。

 そんなめぐみんは地面に倒れていた。

 

「「え?」」

 

 またもカズマとシンクロする。その疑問はめぐみんの口から語られた。

 

「ふ……我が奥義である爆裂魔法は、その絶大な威力ゆえに、消費魔力も絶大。要約すると、限界を超える魔力を使ったので、身動き一つ取れません」

 

 …………。

 な、なにかしら代償はあるかもしれないとは思っていたけど……ま、マジか。

 

「ち、近くからカエルが湧き出すとか予想外です」

 

 私達は貴女が倒れるなんて予想外でしたよ。

 

「やばいです。食われます。すみませーん、ちょ、ちょっとお助けを……うわぷっ……!?」

 

 こうしてめぐみんもカエルに食べられましたとさ。

 

「お前ら、食べられているんじゃねー!!」

 

 カズマが絶叫している中、私は腰から短剣ダガーを取り出して標的を定める。

 要領は掴んだ気がする。どれくらいの力加減で使えばいいのか、さっきのでわかった気がする。

 よし、今度こそ決める。

 

「『アクセルダッシュ』!」

 

 相変わらずの凄まじいスピードだし、足がもげそう。だけど先ほどよりも抑えらている気がする。このまま駆け抜けて二人を助ける。

 そんな時、私の目の前に急にカエルが現れた。

 

「ほばっ!?」

 

 またも気がつけば視界は青空、そしてカエルが大きく口を開いている。

 

「『アクセルダッシュ』!」

 

 すぐさま起き上がって、振り返る。そしてアクセルダッシュを使う。

 完璧に自分のものにできたらしく、またもカズマの手前で止まることができた。でもやっぱり足はもげそうだし、靴底が擦れる擦れる。

 

「どう、完璧に使いこなせているでしょ」

「どこかだよ! なにかしろよ! そんなピンポンダッシュの神技を見せられても、ここではなんも役に立たないだろ! せめて攻撃しろよ!」

 

 カズマの的確で怒涛なツッコミを受けてまたもぐうの音もでない。

 

「いや、今度はちゃんとやろうとしたって」

 

 気が付かなかったけど、もう一匹カエルが湧き出たんだね。正面にはカエルが三匹。そのうちの二匹が口をもぐもぐしていてそれぞれの足が出ている。一匹は同類のお食事を邪魔するんじゃねぇと言わんばかりに堂々と立ち塞がっていた。

 まずいな……早く助けないと、リョナ展開どころじゃ済まされなくなる。

 ……というかさ、普通に考えて二人食べられているのって……やばくない?




後半へ続きます。

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