今更だけど、私達のパーティーは恵まれていると思う。
特にカズマからすれば全員女の子であるから、まさにラノベのような夢のハーレム構成が現実となっている。
皆可愛くて、皆綺麗で、それでいて個性が皆強くて、皆上級職に就いている。きっと誰もがカズマのことを羨ましいと思われるに違いない。実際、私もその状況を羨ましいと思っている。
だからかな。そう思っている人はカズマのことを羨ましいと思っていると同時に、不満を抱いている人がいないはずもない。
最弱職の冒険者であり、特にルックスが優れているわけでもなく、性格もパンツをスティールで盗もうとする外道な精神を持っているカズマに良い印象は抱かないだろう。
……その結果。
「おいおい、さっきから黙ってないで、何か言い返してみたらどうだ最弱職さんよ」
ちゃらんぽらんで三下っぽい兄ちゃんがカズマを挑発するように貶してきやがった。
冬将軍とイエティの件もとい、カズマと私が死んで蘇った数日後の事。今日もギルドへやってきたら、こんなことになっていた。
「ねぇ、アクア。なんでカズマが絡まれているの? もしかしてアクアがなんかやっちゃったの?」
「なんで私がやった前提で言うのよ! 私も知らないわよ。どうせ今回もカズマがやらかしたに決まっているでしょ!」
結構な声量で話しているから、カズマにも聞こえてきている。それ故に顔が引きつっていた。絶対に怒りマークみたいなのを浮かべ、いつもやらかしているお前が言うなと心から思っているのだろうな。
にしても、カズマはチンピラな兄ちゃんに何も言い返さないのね。三下の連中に噛みついていられるほど、沸点は低くないってことかな。
確かにチンピラ兄ちゃんに反抗したところで無駄に体力をつかうだけだよね。
カズマは何も言わない、言われた言葉を受け止めて我慢をしている。
けどカズマが何も言わない事で、チンピラの兄ちゃんは何も言えないと委縮していると受け取ってしまったようだ。
だからチンピラの兄ちゃんは調子に乗り始めてしまった。
「おいおい、どうしちゃったんだ? 何か言い返せないのかよ最弱職。たく、良い女を五人も引き連れてハーレム気取りのハーレム王か? しかもお前以外、全員上級職じゃねぇか。さぞかし、毎日このお姉ちゃん達相手に良い思いしてんだろうなぁ?」
チンピラの兄ちゃんがそう言って笑い出すと、他の冒険者も笑い出している。
幸いなことに、全員がカズマのことをバカにしているわけではなかった。カズマのことを笑わない冒険者もいるし、チンピラの兄ちゃんに注意しようとする人もいた。
そんな嫌な雰囲気の中でも、何も言い返せなかった。
だけど、カズマは拳を握りしめている。
…………まあ確かに、カズマは最弱職の冒険者だし、カズマのくせに見た目だけハーレム王になっているのは不満なのよね。
それにカズマは人間のフリをしたクズマだ。私達にカエルの囮にさせ、リョナプレイをさせられそうになるわ、公衆の場でパンツを盗まれるわ、男女平等という暴力を使って可愛い子にスティールをさせようと指をいやらしく動かすわで、ろくでもない外道な男でもある。
ぶっちゃけ、チンピラの兄ちゃんに言われているのも仕方がないんじゃないかと思っている。
……でも。
それでも。
あんな奴でも、仲間であることには変わりないんだ。チンピラの兄ちゃんの発言にスカッとした気分はあった。
だけど、それと同時に怒りも沸いてきているんだよね。
「ちょっと」
私がチンピラの兄ちゃんに注意しようとした時、カズマに止められた。
「おい、やめろって」
「なんであんたが止めるの? 本当のことだし、良く言ってくれたと思っているけど、なんで怒らないんだよ。あんな三下連中、どうせこの後から印象に残らないモブみたいな奴に酷いことを言わせても何も思わないの?」
「お前が敵味方関係なく一番酷いことを言っているからな」
だって、本当のことだもん。
思ったことを言っただけだもん。
正直に言って何が悪いのよ。
「……なんでカズマが止めるんだよ」
「むしろなんでお前が怒っているのかがわかんないんだけど……。別にあいつが言っていることは本当のことじゃないか。俺は最弱職の冒険者だし、周りから見れば羨ましいハーレム王って見られてもおかしくはない。もっと上手い立ち回りができれば、良い稼ぎも期待できるかもしれないし、何も間違ってないじゃんか」
「けどさ……」
納得できない私に、イザナミが止めに入って来た。
「アスカさん。カズマさんに酷いことを言われて怒っていると思いますけど、ここは我慢しましょう。アスカさんが怒る必要はありませんよ」
「えっ、もしかして俺のために怒っているのか? そうなのか?」
そんなわけないでしょって否定したいけど、廃城の爆裂魔法騒音の件でイザナミに見透かされたからなぁ……。
「嫌だ。この人間のフリをしたクズのために怒っているとか、口に出しても言いたくない」
「その人間のフリをしたクズに聞こえているんだが」
しまった! 思わず口に出してしまった。なんでベタなバラしかたをしてしまったのだ。私はそんな単純な奴だったのか?
そんな私にショックを受けていると、めぐみんが意図してやったのか、話を挟んできた。
「まあまあ、カズマにアスカ、あんなのに相手にしてはいけません。私なら、何を言われても気にしませんよ」
そしてめぐみんに続いて、ダクネスやアクアが言ってきた。
「そうだ二人共。酔っ払いの言う事など捨て置けばいい」
「そうよそうよ。あの男、私達を引き連れているカズマにヤキモチしていんのよ。放っておきなさいよ」
……冷静に考えれば、その通りだ。
わざわざ相手にする必要なんてない。自分で口にした通り、どうせこの後から印象に残らないモブみたいな奴なんか聞く耳を持たない方が良いに決まっている。
カズマは耐えている。だったら、あんな奴に付き合う気なんかない。
……そう思っていたけど、チンピラ兄ちゃんの一言によって、予想外の結末へと発展してしまった。
「上級職で美少女におんぶに抱っこで楽しくしやがって。いいなー苦労知らずで羨ましいぜ! 羨ましくてオレと代わってくれよ兄ちゃんよ?」
「大喜びで代わってやるよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
カズマは大声で絶叫し、ギルド内が大きく響く。
カズマの言葉で誰もが静まり返ってしまう。チンピラの兄ちゃんも、私達も。
チンピラの兄ちゃんはカズマの言ったことに理解が追いついていないのだろう。私達も同じだ。
「えっと……え?」
思わずマヌケになってしまったチンピラの兄ちゃんに対し、カズマは今までの鬱憤をぶつけるように怒声を発する。
「聞こえなかったか? 代わってやるよって言ったんだ! さっきから黙って聞いてりゃ舐めた事ばかり抜かしやがって! そんなんだからこの後から印象に残らないモブみたいな奴って言われるんだよ、三下ァ!」
「さ、三下!?」
チンピラの兄ちゃんが圧倒され、立場が逆転したカズマはそのまま勢いに乗って話を続ける。
「ああそうだ、そうだよ! 確かに俺は最弱職だ! それは認める。だがな、お前さっきなんて言った? 良い女を五人も引き連れてハーレム気取りのハーレム王か? お前の目玉はビー玉か? ああぁ!?」
カズマは思いっきりテーブルに拳を叩きつけると、チンピラの兄ちゃんはビクッと怯えてしまう。
「百歩、百歩譲ってだ。イザナミは一々めんどくさいし、一々謝ってばかりで、戦闘では全然役に立たないし、会話も全然ないどころか勝手に怯えている奴だ! けどな、俺に直接被害を与えたりはしないし、例えしてしまっても謝ってくれるからイザナミは良い女かもしれない。けど、他の四人はどうだ? どこをどう見て良い女と見えるんだ? 俺が悪いのか? お前の美化されるビー玉と取り換えてくんねぇかな? なぁ、聞いているのかよ兄ちゃんよ! お前の甘ったれた人格事替えてくんねぇかな!」
私はカズマの鬱憤とも言えるような心に締まっていたものを全て吐き出す姿に、私はドン引きした。
別に仲間だからって絶賛ばかりしてほしいわけでもなければ、仲間だからって仲良しこよし発言ばかりを求めていないけどさ。……あんた、仲間をなんだと思って見ているんだよ。
「なあおい! 教えてくれよ! 良い女? どこだよ、どこにいるってんだよコラッ! てめー俺のこと羨ましいって言ったな! ハーレム王で羨ましいって言ったよな! 言ったなおい!」
そしてついにカズマはチンピラの兄ちゃんの胸ぐらを掴みかかり、いきり立った。もはやカズマの方が悪者に見えて、チンピラの兄ちゃんが可哀想に見えてしまう。
「ど、どうしよう。か、カズマがあんなになって、怖いよぉ……」
「か、カズマもいろいろとあるんですよ。そりゃあ、不満があるのも、と、当然ですね」
「そ、そうだな。これからは優しくするべきだな」
アクア、めぐみん、ダクネスがカズマの豹変におろおろし始める。ちなみにイザナミは「私のせいでカズマさんが……」と、相変わらず自分を責めていた。
私としては、こんなこと言うような奴に庇った私がバカだったと思うよ。そんでもって、失礼なこと言っているから怒りたい。
でもここは我慢だ。申し訳ない気持ちも当然ある。
確かに私達はいろいろとカズマに負担をかけさせ、それが積もるように不満を重ねてしまった。その結果があれなんだ。
カズマが間違いを犯すまでは、私達は止めないでおこう。そもそもチンピラの兄ちゃんが調子に乗って挑発してきたのが悪い。
「しかもお前その後なんて言った? 上級職で美少女におんぶに抱っこで楽しくしやがって!? 苦労知らずで羨ましいぜだとかああ!? お前はあの悪魔達と一緒にいて苦労してないと見えているのか!? どうなんだあぁっ!!」
……我慢よ。ここで私が怒ったら収集がつかない。
「ご、ごめん! 俺も酔った勢いで悪かった、言い過ぎた。そ、そっか、実際は良い女ではないんだな」
「良い女に決まっているだろがああああああああああ!!」
私はそのチンピラの兄ちゃんの言葉を期に、抑えていたものを外れ、大声で絶叫してしまった。
私の言葉で、再度誰もが静まり返ってしまう。チンピラの兄ちゃんも、カズマ達を除いた仲間達も。
チンピラの兄ちゃんは私の言ったことに理解が追いついていないのだろう。というか、怯えてしまっている。
いいよ。理解できないなら、教えてやるよ。
もう我慢する必要はない。私も言いたいことを言わせてもらうから。
「今なんて言った? あんた今なんて言ったんだ?」
いきなり激怒した理由がわからないチンピラの兄ちゃんは腫れ物に触るように言葉を選んで答えた。
「え、その……実際は、良い女では、ないのかと言いました……でも」
「あんた、代わってほしいと調子に乗ったくせに、あんな人間のフリをしたクズに影響して、今更取り消すというの! 言ったよね、良い女、美少女ってさ! 羨まして代わってほしいと言ったよね!? それなのに良い女じゃないと言われて、はいわかりましたってやめるのか? 村人Aの分際で調子こいてんじゃねぇよ!! あんたの腐れ切った脳みそ潰してやろうか!!」
言い終える前に私は怒声を発して、テーブルに足で思いっきり叩きつけた。
周りの空気なんか知ったことか、イザナミに引かれたり嫌われたりするかもしれないけど、知るもんか。
私はこのチンピラの兄ちゃんに言っておかなければならない。もう、後戻りなどできはしないんだ。
「確かにカズマの言うことに間違ってはいない。私達はカズマの鬱憤を積み重ねたのは事実だ。めんどくさいし、ムカつくこともたくさんあったよ。だから、そう言う意味では理想の良い女ではないことも理解しているの」
「だ、だったら俺の言ったこと一緒じゃねぇか! 俺が言ったこと間違ってないじゃねぇか!」
「間違っていない!? 一緒!? 今の発言でそんな風に捉えられるんだ!? バカにしているのも対外にしろよな、舐めているんじゃねぇぞ!!」
逆ギレしそうになったチンピラの兄ちゃんを、今もカズマがチンピラの兄ちゃんの胸ぐらを掴んでいるように、私も同じようなことをした。するとチンピラの兄ちゃんはキレた勢いをすぐに鎮めてしまった。
「良い女じゃないからって、諦めようとしていたお前なんかと一緒にすんじゃないわよ! あんたはあれか、良い女と言えば、頭を撫でただけで自分のことを惚れたり、そこまで良い微笑みをしたわけでもなく、ニコッとしたら惚れたりするようなことを良い女って言うのか? つまりあれか、自分に惚れるという自信があったわけで、イザナミ達からちやほやされると期待してたってことだよね。この単細胞が! 現実から目を背けて理想に浸っているんじゃねぇぞゴラァ!! そのくせ良い女じゃないと諦めるとか、自分を高く評価してやがって何様なんだよ! この村人A以下の分際で!!」
「いや、俺はそんなこと」
「私のハーレムの一員はね、悪いところはあるし、直して欲しいところもある! それと同時に良いところも魅力的なところも知っているの! 正確に言えば、悪いところもある良い女なの! 悪いことを全否定してんじゃないわよ。人に言われただけで良い女じゃないと評価しやがって、お前のビー玉どころかプラスチックの塊だろ!」
「……っ…………」
「おい、聞いてのか? 聞いていたんならなんか言いなさいよ!」
「おい、その辺でやめとけ。失神しかけてるぞ」
カズマに言われて、私はいつのまにかチンピラの兄ちゃんが首を絞めていることに気が付いた。
あ、しまった。つい、熱くなり過ぎて首を絞めてしまったか。危うく、人殺しになるところだったし、このチンピラの兄ちゃんも死んじゃうところだった。
でも良かった……。
「殺してしまったら、私のハーレム人生が台無しになるところだったよ」
「首を絞めた兄ちゃんは人生が終わるところだったけどな」
カズマが冷静にツッコミを入れられる。心なしか、冷たい感じがする。
「……にしても、お前は相変わらずバカなことしか言わないんだな」
「あ?」
私はカズマにおもいっきり睨みつけた。
それに対し、カズマは嘲笑う。
「あんな女共が良い女とか、絶賛し過ぎて気持ち悪いな」
「へーカズマもチンピラの兄ちゃんみたいに、自分がチョロイン並に惚れてくれる女が良い女だと思っているだ。絶賛し過ぎるって言うけどさ、ちゃんと評価した上で良い女と見ているんですー。そんなチンピラの兄ちゃんのように、理想に浸っている奴は、恋人どころかフラグすらも立たないわよ」
「現実とゲームを一緒にするな。というか、それすら区別できていない奴に言われたくないけどな」
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」
「…………」
「…………」
カズマはニッコリと笑う。
それに対して、私も同じようにニッコリ笑う。
「『スティール』」
「『アクセルダッシュ』」
全く同じタイミングで仕掛けてきた。
私はカズマがスティールを使うことはわかっていたので、タイミング良くアクセルダッシュでカズマの背後を取ることができた。
ただ、短い距離で使用すると制御が難しかったため、少し空いてしまった。
「……スティールで何を奪おうとしているのかな、クズマさん」
「それを教えてやるから動くんじゃねぇぞ」
「ふざけんなよ。女にスティールやるとか最低だな」
「言っただろ、俺は男女平等主義者だ。誰であろうと容赦しねぇ」
「違う。カズマの言っている奴は差別だ。お前は男に対しても女に対しても差別しているだけのクズ野郎なのよ」
互いに睨みつけ、同じことを思っているだろう。
こいつに謝らせた方が勝ちだと。もはや、私とカズマはどうやったら謝らせることしか考えていない。チンピラの兄ちゃんなんかどうでもいい。あいつは所詮モブなんだ。私達に関わる権利など持っていない。
そんなことよりもこの男女差別野郎をどうやって泣かそうか。
とりあえず、こいつだけには絶対に謝りたくはない。だったらとことん追いつめてやるわよ。
「お、おいお前ら、俺を無視して」
「「外野は黙ってろ!!」」
私とカズマは割って入ってくるチンピラの兄ちゃんに思わず苛立ってしまい、怒鳴ってしまった。そしてやはりカズマも同じことを思っていたようだ。
「す、すまん……って、俺は外野じゃないだろ!? そもそも俺の発言が切っ掛けなのになんで俺が外野扱いにされないと行けないんだよ!?」
……それもそうだったわね。
というか、こんなことになっているのもあんたのせいだと思うけどね。
「そ、そうだ。一日、一日代わってくれないか? 代わってくれるって言ってたし、いいよな?」
そう言えば最初はそんな話だったよね。カズマが良い女のハーレムだから代わってくれって茶化したら怒鳴られ、良い女ではないと決めつけたら私が思わず怒って今に至るんだよね。
先ほどの話なら、カズマは一生代わってくれと言いそうな気がするし、特に問題はなさそう。
「おい、アスカ」
カズマがこっちへ来いと手を使って指示をしてきた。
「交換の件だが、お前も俺と一緒に来い」
「はぁ? なんでよ。なんで私がカズマに付き合わなければいけないの?」
「あいつに俺の苦労をわからせるためだ。お前が残ると俺の苦労が一割半減する。だから一緒に来い」
未だに苦労知らずに根に持っているのかよ、この男は……。一割程度なら私がいてもいなくても別にいいんじゃないの?
……とはいえ、一日だけならそういうのもありなのかもしれない。本当は嫌だけど、あのチンピラの兄ちゃんが私のヒロイン達が惚れることはないだろうと思うし、気まぐれでカズマについて行くのもありかな。
「……今回だけだよ」
「今回だけで十分だよ」
その発言にちょっとトゲがあるけど、まあいいだろう。カズマのことだから、チンピラの兄ちゃんがいるパーティーが心地良ければ永久に留まる可能性はある。そうしたら名実ともに私のハーレムが完成する。むしろカズマがいなくなった方が良いじゃない。
「そういうわけだから、私とカズマは一日向こうのパーティーに入るけどいいかな?」
「「「「ど、どうぞ……」」」」
イザナミ達はどうやら圧倒されたのか、戸惑った様子ながらも承諾してくれた。もっともこの流れだと向こうに拒否権などない気がする。
●
「いつのまにか勝手に進んでいたようだけど、まあいいか。俺はテイラー。片手剣が得物のクルセイダーで、このパーティーのリーダーみたいなものだ」
戸惑いながらもテイラーという剣と盾を携えている鎧を着用している男が自己紹介をしてくれた。私も見た感じこの人がリーダーっぽいとは思っていた。
チンピラの兄ちゃんのパーティーだから、てっきり三下の集まりみたいな連中かと思っていたら案外普通だった。
正統派そうなリーダーに、流行に飛びつきそうな軽々しい弓使いに、幼さが残っていて強気と勝気が表れそうな可愛い魔法使いのヒロイン候補を含めた四人パーティーだった。
「一日だけだけど俺達のパーティーメンバーになったからにはリーダーの言う事はちゃんと聞いてもらうぞ」
テイラーがそう言うとカズマは何故か私の方へ視線を向けた。
なんで私の方見るのよ。ちゃんと言う事聞いている方だと思うよ、私は。
取りあえずわからないフリでもしとこう。
「……うちらのリーダーであるカズマはそれでいいの?」
「俺か? 別にこのパーティーのリーダーじゃないから、断る理由なんかないよ。それに新鮮で指示をしてもらうのも楽そうだしな」
確かに今まではカズマが私達に指示を送っていたことが多かったから、そういう意味では新鮮かもしれない。
カズマの言葉にそう思っていたら、テイラーは驚いた表情を浮かべている。
「え、何? 君はあの上級職ばかりのパーティーで、しかも冒険者でリーダーをやってたのか?」
「そうだけど」
カズマの何も飾らない当たり前のように返すと、テイラー達は絶句していた。
下級職がリーダーで指示を出すことが信じられないと思っているんだね。普通に考えればそうかもしれない。
変に勘違いして気を使われても困るし、補足でもしとこう。
「最初に言っておくけど、別にカズマはこれと言った力とかないからね、なんか運だけが強いみたいだけど、ほんとそれだけだから期待しないでね」
そのことを伝えると、テイラー達の引きつった顔が和らいだ。同時にカズマはこちらを睨み始めていた。余計なことを言っているんじゃねぇよってみたいな事を思っているんだろうね。変に期待させてガッカリされて、非難されないための補足なのよ。むしろ感謝しなさいよ。
次に自己紹介してくれたのは、緑色のマントを羽織っている、ちょっと幼さを残している可愛らしい女の子だった。
「あたしはリーン。見ての通りウィザードよ、魔法は中級魔法まで使えるわ。とりあえずよろしくね」
「よろしくね、リーン。あ、私のことはアスカって呼んでね」
「露骨……」
カズマがボゾッと言っていたけど気にしない。露骨で何が悪い。仲良くなりたい子と仲良くしようとする努力をして何が悪い。これでも自重している方なんだぞ。リーン達と合流する前にイザナミから「くれぐれも羽目を外さないでください……」釘を刺されたんだ。これくらいなら許してもらえるだろう。
「そんで、俺はキース。アーチャーだ。狙撃には自信がある。ま、よろしく頼むぜ」
弓を背負っている……アーチャーのくせに弓を使うなんて言うネタはこの世界では通用しないだろうな。
雰囲気的にはあのチンピラの兄ちゃんと似た感じかな。
では、こちらの番だね。
「ではリーンに言ったけど改めて……私はアスカ。クラスはゲイルマスター。一日だけだけど、よろしくね」
「よろしく。何があった時はあたしに頼ってもいいよ」
リーンのありがたいお言葉……決めた。この子も私のハーレム女王の一員にする。
「ゴホン」
後ろからイザナミの咳払いが聞こえてくる。私がリーンを攻略対象に決めた途端に聞こえたけど、気のせいだよね。今までの言動からすれば私のことを見通しているかもしれないけど、気のせいにしとこう。口にしなければセーブだ。
「じゃあ、はい。次はカズマだよ」
「おう、そうだな。俺はカズマ。クラスは冒険者。えっと……俺も得意な事とか言った方がいいのか?」
「あ、言い忘れた。私は足の速さには自信があるって伝えとくよ」
それを聞いたディーラーがからかうように返答した。
「いや、別にいいよ。アスカは前衛で敵のかく乱みたいなことをやってくれればいい。カズマは荷物持ちでもやってくれないかな? 今回はゴブリン討伐だから、三、四人でもなんとかなる。心配するなよ。ちゃんとクエスト報酬もカズマに分けるからさ」
「そ、それでいいのか? だったら喜んで引き受ける」
それってカズマを戦力として認めていないんじゃ……まぁ、カズマがそれでいいなら別にいいか。カズマも先日、首を斬られて一度、いや二度死んだせいで、数日間は激しい運動を控えているしね。
にしてもゴブリンか……ここに来て、ようやく異世界でメジャーなモンスターと戦うことになるのね。
「よし、では早速行こうではないか。本来はこの冬の時季は仕事はしないけど、ゴブリン討伐なんて美味しい仕事が転がってきたんだ。今から出て、山道に住み着いたゴブリンを討伐すれば夜には帰ってくるだろう」
テイラーの話から察するに、ゴブリン討伐は難しいことではないっぽい。そしてこの季節は手軽な仕事がないから、稼げる仕事があるならやるべきなんだろう。お金はたくさんあっても困らないしね。
たださ……先日、手軽な仕事と見せかけてベルディアクラスのモンスターに遭遇するという、苦い思い出があるんですよ。私達に至ってはその仕事関係ないのにベルディアクラスのモンスターと遭遇したからね。
今回もそんな詐欺みたいなことにならないように、祈ろう。