この素晴らしき世界にハーレム女王を。   作:鮫島龍義

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この卑屈死神と共に転生を

 気がついた時には、私は異世界にいた。

 異世界という明確な判断はできないけど、周りを見渡し、街の造り並や人物と雰囲気でここが異世界だと察しができた。思いのほか、目の前に広がる異世界に驚きはしなかったが、生きている感覚が全身に伝わってくる。夢を見ている感じでもなく、先ほどいた死後の世界にいた独特な感覚もない。

 そうだ。私が日本にいたころと同じ感覚に似ている。

 

「異世界か…………異世界」

 

 本当に、本当に私は異世界に来ている。他のことなんて考えられない。今まさに異世界物小説の主人公が現実となっている。

 ……どうしよう。

 これからなにをしようか。

 やりたいことも、やってみたいこともたくさんある。日本ではできなかったこと、ファンタジー世界でしかできないことがたくさんあるはずだ。

 そして最終的には、異世界物でおなじみの多数ヒロインの続出。そしてハーレムを作り上げ、ハーレム女王へ私はなるんだ。

 それを現実で実現するように、冒険を繰り返して強くなって、魔王を倒せばきっと世のヒロイン候補達が私の好感度はMAXになる。……いけない話ではない。

 そんな単純であり、夢広がる妄想ができるだけでも楽しい。日本と違って、本当に実現できる可能性が広がっているのだから。

 

「ねぇイザナミ! とりあえず勇者になるためには、この街でどうすればいいの?」

 

 死後の世界から連れてきてしまったイザナミに相談しようと声をかけるも返事はない。

 

「イザナミ?」

 

 返事がないどころか周りにイザナミが見当たらない。

 ……おかしいな、異世界に持っていく“者”として一緒に転生されているはずなんだけど……。

 

「イザナミー」

 

 今度はよく周りを見渡してみる。

 

「あ」

 

 木陰から黒いローブが少し出ている。それに良く耳を立てれば、泣き声が聞こえる。もしかしたらと思って確認してみると、イザナミが涙目に地面にのの字を指でなぞり書きをしていた。それはもう、この世に絶望したかのように気が沈んでいる。

 彼女の境遇を考えれば、絶望するのもわからなくはないわね。いやー……まじで悪いことしちゃったなぁ……。

 

「い、イザナミ」

「なんでしょうか? こんなゴミクズ以下に話しかけてくる神様、いいえ元神様も違いますね、愚かでゴミ以下の存在である私になんのご用ですか? 私に話しかける価値などありません。他をあたってください」

「なにもそこまで卑屈にならなくても!?」

 

 イザナミはかなり重症だった。これが日常茶飯事なら病院に行ってカウンセラーに見てもらった方がいい。いや、こんな風にさせてしまった私が思うのもなんだけどさ。

 

「さ、さっきの件は悪かったよ。独りじゃ寂しいと思うし、なによりもこの世界のこと、私は知らないし、イザナミは知っているじゃなかと思ってさ」

「ごめんなさい、この世界のことは知らない役立たずの石ころ以下です」

 

 あ、しまった。余計に落ち込ませてしまった。そして見る見ると落ち込み度が下がり続ける。このまま闇に飲まれそうなくらい、暗くなっていた。

 

「私なんて力になりません。どうぞ煮るなり焼くなりサンドバックにしたり餌にして役に立ててください。もっとも、本当に私を使って役に立つとは思いませんが……」

「役に立たないと自分で思っているなら、なんでいうのよ」

 

 なんとなく初対面とか、会話とかして察していたけど、この子はめんどくさい系女子だ。自分で勝手に思い込んで落ち込んでは自分を責める続けるような人であり、女神だ。

 もっとも、ここまで言わせてしまう原因を作ったのは私なんだけどね。ポジティブになれっていう方が無神経であり、失礼なことなっちゃうのかな。

 

「あのさ、別に私はイザナミをサンドバックにすることはしないからね。とりあえずさ、これ以上のの字をなぞり書きし続けるのはやめてほしいかな。こすって傷んで、血が出てしまったら、持ち前の美白が汚れ傷ついてしまう」

 

 まずは少しずつネガティブな思想を削ることから始めることにした。そんでもって、イザナミが私を頼りにすれば、少なくとも今より暗くことはないだろう。私に頼れば傷ついた心を癒してみせるわ。

 

「それに大丈夫だよ、イザナミ。私がこの世界で幸せにしてあげるから……難しいと思うけど、私を信じて、落ち込まないでほしい。それと君は、泣いたり沈んだりする姿は似合わない。……君は、笑った方がとても魅力だよ」

 

 演劇部であった私は劇のように、ヒロインを落すようなイケボを意識しつつ、私はイザナミに告白する。文化祭でこういうこと言って、黄色い声援は体育館に鳴り響いたのをちょっとだけ思い出した。イザナミは死神だけど女の神で女神、女であることには違いない。これで告白に成功しなくても、私に少しでも心を開いてくれれば、少しは元気を出してくれるはずだ。

 

「……そうですね」

 

 よし、来た。

 

「つまり私の存在否定、いいからお前は笑え、笑わないと不幸にするぞという脅しですね」

「あんたは捻くれ者か!」

「そうですよ。私は生きる価値のない捻くれ者なんですから……」

「私のせいでそうなっているところもあるんだろうけど、そこまで自分を非難する必要はないからね。というか、私に対して怒ってもいいんだよ?」

 

 そうでもしないと、このままどんな言葉をかけても永遠にループするぞ。そうか、これがイザナミか。この永久ループを抜け出すには、己の現実をちゃんと受け入れないといけないんだ。……なわけあるか。

 

「でも、そうですよね」

 

 おや? イザナミの雰囲気が変わり始めた。そして指でのの字を書くことをやめてくれた。

 

「……いつまでも、くよくよしていても明日香さんが困りますよね。私のせいで、困るのでしたら今すぐやめます。そして死にます」

「お願いだからそう簡単に死なないで。じゃないと私が罪悪感に溺れて死んじゃう」

「あ、はい、ごめんなさい……」

 

 自分を責める態勢は変わらないけど、先ほどよりかは大分軟化された感じだ。取りあえず一安心でいいのかな。

 

「やっぱりさ、イザナミは笑った方が似合っているから笑顔でいようよ」

 

 私がにこっと笑う。

 

「……そうやって」

 

 おや? どうしてか、イザナミが私のことを警戒し始める。

 

「そうやって……いつも口説いていますね、明日香さんは……」

 

 おどおどしながらもイザナミは私との壁を作り始め、一歩後ろに引いた。

 いつもはともかく、な、何故、私が女の子に対して口説いていることがわかったの!? そんなバカな!? 自然に振る舞っていることを見破ったというのか!? 出会って数時間も経ってないんだぞ。

 わ、私は認めない!

 

「い、いつも口説いてないよ! 可愛い女の子と私の好みの人にしか口説かないって。ちょ、ちょっと、青ざめてひかないでよ! まだ手を出していないじゃない!」

「わ、私みたいなゴミクズブスに口説くよりも、他に素敵な人を口説いた方がいいと思います……私は普通がいいです」

「自分を卑屈しつつも、振っているんじゃないよ」

「ごめんなさい」

「謝らないで! その謝罪は今逆効果だから!」

 

 どうやら、イザナミは自虐ネガティブ死神だけじゃなかったようだ。案外、面白い子だと私の中での好感度は上がる。その分、イザナミの塩対応で傷ついてしまったけど、新たな発見は十分な成果だからプラマイゼロ。なにも問題ない、はずだ。

 

「そんなことよりも、まずこの街のことを調べに聞き込みに行こうよ」

「聞き込みですか?」

「この街のことや、この世界がどういった世界なんて、イザナミから説明された以外なにもわからないのよ」

「ごめんなさい、私の配慮不足ですね。罰として今から聞き込みをします。そうしたら私を新聞紙のように破り捨てて構いません」

「そんなことできるか」

 

 元気になったのか元気にならないのか、これが普段通りなのかはわからないが、心配なのでイザナミを連れて街の中を歩き周った。

 そこでわかったことは、この街はアクセルという駆け出し冒険者の街という、私みたいな冒険始めましたという人にはありがたいチュートリアル的な街だってこと。そして冒険者ギルドという、冒険者になるためのハロワ的な場所があるってことを知ることができた。

 そんなわけで、私はイザナミを連れて冒険者ギルドに向かった。

 

「いらっしゃいませー! お仕事案内なら奥のカウンターへ、お食事なら空いているお席へどうぞ」

 

 金髪のウェイトレスのお嬢ちゃんが、お客様に優しい笑顔で出迎えてくれた。

 ギルドっていうと、某なんとかなんちゃらのRPGでお馴染みのゲームで思い出したんだけど、ここは酒場なのかと言うくらい、目の前にいる人達はお酒を飲んでいた。ざっきのウェイトレスのお嬢ちゃんも両手にビールみたいなの持っていたし、顔を左右に向ければおっちゃんが宴会のようにお酒を飲んでいる。一瞬、間違えたかと錯覚しそうになるもの、ここがギルドであることは再確認したはずだから間違っていない。それに、酒を飲んでいる人だけではないのも見渡せる。

 

「こ、こっち見ています……わ、私が目障りなんですね、きっと」

「ただ珍しい客人が来たからだよ」

 

 目線を合わせないようにフードを被ったイザナミを取りあえず一言で落ち着かせた。一々イザナミが不安になると、連鎖してこっちも不安になるよ。

 とはいえど、私たちが物珍しさで見えてしまうのも事実だ。そしてそれは私の服装とイザナミが可愛いからなのだろう。この世界に紺色のブレザー制服に黒色のパーカーを着用という、校則違反のスタイルはこの世界にとっては物珍しいに違いない。言わずとも、イザナミは可愛いから注目されるのは仕方がない。絶対野郎共に手は出させん。

 

「おい! あんた」

 

 ヒィッと小さな悲鳴を上げイザナミは私の後ろに回る。どこのどいつかわからないけど、地味に良くやった。

 

「見かけねぇ顔だな! どこの者だ?」

 

 私達に声をかけてきたのはモヒカンとヒゲに半裸にサスペンダーという、某世紀末に出てきそうなかませ犬っぽいおっちゃんだった。

 

「ごめんなさい! やはり私みたいな声だけで驚くほどの雑魚がここにいていいわけないですよね」

「え、な、なんの」

「ちょっとあんた! なに怖がらせているのよ、この世紀末!」

「誰が世紀末だ! 俺はただ声をかけただけだ!」

 

 私はおっちゃんのサスペンダーを掴んで怒鳴ってみるも、おっちゃんに冷静に放されてしまった。

 それと、イザナミは雑魚って言うけど、貴女の場合は女神やら死神のポジションなんだから雑魚ではないでしょうよ。しかも神様好きの人にとっては割と有名な名前を持っているじゃないか。

 

「で、おっちゃんは私達になんかご用ですか?」

 

 おっちゃんから話しかけると、またイザナミが怖がるので私から声をかけた。

 

「あんた達、どこの者なんだ? 妙な恰好をしている」

 

 その質問に、やっぱりこのパーカーインブレザー制服はこの世界とっては妙な恰好っていうわけなのね。この世界の服装もいいけど、今の恰好の方は異世界に転生したっぽくていいのかもしれん。いっそこのままでいくか。

 で、どこから来たと言われても……日本から転生されました! なんて伝えてもチンプンカンプンでしょうね。

 

「いやーちょっとね、ここでは物珍しい恰好かもしれないけど、遠くのところから来たのよね…………魔王退治をするために」

「ほう……」

「そういうわけだから……今後ともよろしくね」

「ふっ……命知らずな奴め。ようこそ、地獄の入口へ! ギルド加入の入口はあそこだ」

 

 あながち間違っていないことを世紀末のおっちゃんに伝えると、その意気や良しと言わんばかりに世紀末のおっちゃんは歓迎してくれた。見た目とは裏腹に良い人だった。

 私はお礼をして、イザナミを連れてギルド加入の手続きをしよう。

 

「すみませーん」

 

 私はギルドの受け付け嬢に声をかける。うむ、良いおっぱいをしている。

 

「はい、今日はどうされましたか?」

「私たち、冒険者になりたいんですが……ちょっと遠いところから出てきたもので、ここでどうすればいいのかわかんなくて」

 

 これもあながち嘘ではないことを正直に告げる。そうすれば、きっと一からちゃんと教えてくれるはずだ。

 

「そうですか、ではまず最初に登録手数料がかかりますのでがよろしいですか?」

「いくらですか?」

 

 私はパーカーのポケットに手を突っ込んで財布を取ろうとした。

 

「一人千エリスとなってますので、後ろの方を含めれば二千エリスとなります?」

「……エリス?」

 

 聞きなれない言葉に戸惑うし、いつもの調子で財布を取り出そうとするも、そこに財布がなかった。というか、日本のお金では支払えることができないという事実も知ってしまった。

 

 

 私たちはこれからの作戦会議を始めた。今回の議論はお金を集めるかについてだ。

 

「ねぇイザナミ、二千エリス持ってない?」

「ごめんなさい、持っていないです。お詫びにお金持ちの家に侵入してお金を盗んできますので、それで許してください」

「そんなことしたら泥棒になるからやめよう。いきなり脱獄ENDを迎えるなんて嫌だよ」

「そうですよね……ではバレないように偽物を」

「同じだって」

 

 またも案外冗談としては面白いことを言うイザナミに感激しつつもツッコミを入れる。

 

「……なんか持ってない?」

「持っているものといえば……この大鎌だけですね」

 

 どっから取り出したんだ!? 今、イザナミはRPGのように大きな武器をなんにも疑問もせずに取り出したぞ。

 見た感じ中々高級そうな大鎌だ。

 

「……それ売って、お金にするっていうのはどう、かな?」

「う、売るんですか?」

「うん。イザナミが良ければそうしてほしい、かな。」

 

 だって、そうでもしないとお金が入らないんだもん。私の手持ちでは売ったところでお金にはならないし、服は流石に売りたくない。すっぽんぽんで街中をうろうろするとか、恥ずかしくてできるか。

 だから唯一売れそうな、イザナミが持っている大鎌でお金にしてほしいと、提案してみるも、

 

「こ、これは私が初めて仕事をするためのお祝いとして姉さんから貰った物なんです」

 

 申し訳なさそうに、大鎌を大事そうにギュッと握りしめる。

 姉さんって私たちを異世界に転生させた金髪の美少女のことだよね。

 ……そうなると、売るわけにはいかなよね。イザナミにとっては大切な物になるんだし。

 ……それを私が冗談半分、多少本気でイザナミの仕事を奪ったのよね。あ、どうしよう罪悪感で押しつぶれそう。本当にごめんなさい。

 

「ですので、この大鎌を売るのであれば、私を売ってください」

「女の子がそういうこと言わないの!」

「そうですよね。私なんか売ったところで何も価値はありませんよね。私の価値なんかサンドバックにしか……」

「価値はちゃんとあるし、売る気もないから!」

「ま、またそうやって私を口説こうと……」

「していないから! それに関しては思い込みだって」

 

 あ、あんまり信じていないや。警戒されている。悲しいなー辛いなー。

 

「……ちょっとそこのあんた」

 

 イザナミに警戒され、悲しんでいる中、強気な声が聞こえる。……もしかして私なのか?

 そう思って顔を見渡す。すると、金髪ツインテールで釣り目をした少女が視界に入る。もしかして、この子が私に声をかけたのか?

 

「べ、別にあんたが困っているから声かけたわけじゃないんだからね!」

 

 ……金髪の少女はそう言うと私は視線をイザナミに戻した。イザナミは可愛いなー……。

 

「ねぇイザナミ、これからどうしよっか?」

「ちょっとあんたー!」

 

 ……私は再度金髪少女に顔を向ける。

 

「べ、別に無視されて悲しいわけじゃないんだからね、でしょ?」

「あんたあたしをバカにしているのかぁ!?」

 

 私の発言が金髪少女に油を注いだっぽいのか、先ほどよりも怒りは倍増して掴みかかり、怒り始める。ちらっとイザナミを見ると涙目になってビクビクと怖がっていた。

 でも、しょうがないじゃん。急に声をかけられたと思ったらツンデレキャラを作ったようなツンデレ台詞はね、いくら可愛くても恋が冷めてしまうことだってある。まさにそれだったのよ。

 

「ご、ごめんね。私、基本的に女の子にはそれぞれの魅力があると思うんだ。けどね、そのツンデレを作ったキャラは私には合わないわ。ごめんなさい」

「誰がツンデレだ! しかもなんでフラれたみたいになっているのよ!」

 

 ついには息を荒げながら怒鳴り散らす。まるで闘牛のようだ。

 

「そっか、君は闘牛系女子なんだね」

「意味解んないことで納得しているんじゃないわよ!」

 

 怒りが頂点に達したのか、はたまた一周ぐるっとしたせいか、急に落ち着きを取り戻し、掴みかかっていた手を放してくれた。

 

「……まったくもう。せっかくお金に困っているから貸してあげようと思ったのに……」

 

 ……なんだと? 

 今、このツンデレキャラを作っている金髪少女が、お金を貸してくれるっていうのか?

 

「も、もう一度お願いします」

「しょうがないからもう一回言ってあげるわよ。お金に困っているらしいから、貸してあげるって言ってるのよ。感謝しなさい」

 

 ツンデレのテンプレのように最後には顔をそっぽ向いた。

 聞き間違いじゃなかった。見知らぬ相手だっていうのに、ツンデレキャラを作っているから好みじゃないと拒んだのにも関わらず、この人はお金を貸してあげるっていうのか……。

 それはとっても……。

 

「明日香さん。騙されてはいけないです」

「そうね。絶対に裏があるわ」

「ハァ!? なんでそういうことになんの!?」

 

 だって怪しいんだもん。

 とってもとっても怪しいんだもん。

 見知らぬ相手にお金を貸すなんて……絶対に裏があるに決まっている。私達を未来栄光借金生活を送らせる程のお金を巻き上げるに違いない。見ろ、卑屈なイザナミが警戒しているんだぞ! 怪しいに決まっている!

 

「お金を貸せるほど立派でもなければ、仕事をクビになってこの世に絶望した私にお金をくれるわけがありません。私くれるものは罵倒だけです。ですので信じられません」

 

 警戒はしているけど、それは自分に対する評価への警戒心であった。

 

「ねぇ……あの子、嫌なことでもあったの?」

「……嫌なことあったと言えばあったし、なかったと言えばないのかもしれない」

「どういうこと? ちゃんと説明しなさいよ!」

 

 言えるわけないでしょ。

 日本で死んでしまった私に転生させる係であるイザナミを持ち物の一つとして持って行った結果、彼女は神という存在から外され、事実上の強制的にクビにされて、私と一緒に転生した。そんな話を誰が信じるのだろうか。世の中にはそんなバカな話を信じられる人もいるかもしれない。でも、このツンデレキャラ作りの人が信じられるとは到底思えない。

 それに、別にあながち間違ってないもん。あの卑屈さはずっと前にあったはずに違いない、はずだ。

 

「で、なんで私達にお金を貸してくれるの?」

「困っているからよ」

「本音は?」

「本音よ! やましいことも企んでなんかないわよ!」

「またまた、素直になっちゃいなよ」

「いい加減に信じなさいよ、バカ!」

「じゃあ、私のハーレムにしたら信じてあげる。そんなツンデレキャラを作らない方が君にはぴったりだよ」

「作ってなんかないし、ツンデレキャラでもない! それにあんた女でしょ!」

 

 興奮してバンと強くテーブルを叩く。それに驚いてイザナミはごめんなさいを連呼して自分を責め立てる。それに対して金髪少女は「元気出しなさいよ」と、本気で心配をし始め、励ましの言葉を送った。……なんだこれ。

 

「いいからお金を貸してあげるって言ってんのがわかんないの!? 貴女達のことを想って言っているのよ! 素直に受け取りなさいよ!!」

 

 必死になって声を荒げてまで、どうして私達にお金を貸してくれようとしてくれるの? そこまでくると必死過ぎると逆に可哀想になってくる。

 わかったよ。そこまでしてお金を貸したいのなら、受け取った方が報われるのだろう。

 

「じゃあ、貰います」

「貰うんじゃなくて貸すの! ちゃんと返しなさいよ!」

「私の孫の代になるまで清算とかないよね?」

「一体、あたしをなんだと思っているのよ……っ!」

 

 そろそろ堪忍袋の緒が切れ、ぶるぶる震えている拳で殴りかかれそうなので、茶化さず疑わずにお金を貰っておこう。

 

「ふん、感謝しなさいよ」

 

 こうして私は五千エリスも貰った。登録するなら二千エリスでいいのに三千エリスも貰えた。今後の生活のためのお金だろうか? だとしたらありがたい。怪しいけど、これ以上言うと取り上げられるわ、殴られるわ、怒られるわで良いことなさそうだから終わりにしよう。

 

「じゃあ、あたしは行くから」

「ありがとうございました。どうぞお気をつけて」

「冷たいわね……まぁ、いいわ」

 

 金髪ツインテール少女がここを去ろうとした時、私の方へと振り返る。

 

「べ、別にあんたのためにやったわけじゃないからね!」

「いいよいいよ、そんな作りキャラなんか無理しなくていいから。早く行きなさい」

「もう少し情熱込めなさいよ!」

 

 こうしてツンデレキャラを作っている彼女はぷんすか怒りながらどこかへと行ってしまった。

 …………本当に私達のためにお金を貸してくれたのか? いわゆるお人好しか、バカなのか、そのどっちなのか? もうね、彼女の好感度とか上がる前にいろいろと怖いよ。あの子、一体なにが目的なの? 得体の知らないお人好しが恐怖に感じる。

 

「あ、アスカさん……」

 

 イザナミが未だにびくびく怯えている。

 

「わ、私……あの方と会いたくないです」

 

 それは私も同意だ。

 いろんな意味を込めて、ツンデレキャラ作りの彼女とは会うことないように願おう。

 それでも会ってしまったら、私のヒロインとして、ハーレムの一員として向かい入れよう。

 

 

「では改めて説明を……と言っても、冒険者を目指すお二人はある程度知っているとは思いますが」

 

 いいえ、知りません。日本人も死神も知らないことですので説明をお願いします。

 

「まず冒険者とは、街の外に生息しているモンスター、人に害を与えるものの討伐を請け負う人のことです。といっても、基本は何でも屋みたいなものですが、それらの仕事を生業にしている人達の総称なんです」

 

 日本で言うところのフリーターみたいなものかな。そもそも冒険者も勇者もゲームでは定番だけど職業とはちょっと違うしね。

 

「そして冒険者には各職業がございます」

 

 先ほどのおっぱいが大きい受け付け嬢は私とイザナミに免許書みたいなカードを差し出した。

 

「こちらにレベルという項目がありますよね? ご存知の通り、この世のあらゆるものは魂を体の内に秘めています」

 

 いいえ、存じ上げないです。

 

「どの様な存在も生き物を食べたり、殺したり、他の何かの生命活動にとどめを刺すことで、その存在の魂の記憶の一部を吸収することができます」

 

 ゲームではレベルアップに必要な経験値のことを言っているのだろうか? 日本にはなかった明確な経験値という存在とレベルアップ。本当に私、異世界に来たんだと改めて実感する。

 そう思い浸っていると、受け付け嬢はカードの一部を指さした。

 

「このカードを持っていると、冒険者が吸収した経験値が表示されます。レベルが上がると新スキルを覚えるためのポイントなど、様々な特典が与えられます。レベルを上げれば自然と強くなっていきますので頑張ってください」

「が、頑張る価値もないんです私なんて。頑張っていいのは一生懸命の生きている人だけですので……」

「あ、あの……」

「えっと、気にすると長くなるので、話を進めてください」

「あ、は、はい……」

 

 こんなこと言われると思わなかったもんね。私もそうだったよ。

 受け付け嬢は戸惑いながらも話を続ける。

 

「まず、お二人にはこちらの書類に身長、体重、年齢、身体的特徴等の記入をしてもらいます」

 

 そう言うと私達に書類を渡された。

 これに書けばいいのね、えっと……。

 身長162センチ、体重45キロ、年は17歳、高校二年生は……書かなくてもいいよね。

 で、身体的特徴は……髪は茶髪にしていたんだけど、なんか赤いな……今は赤髪なのか? じゃあ、それで……。

 で、次は……。

 

「あ、すみませーん、鏡貸してもらえませんか?」

「はい、どうぞ」

 

 受け付け嬢に手鏡を借りて自分の瞳を見る。眼は黒のままなのね。というか、この世界に転生して髪が赤くなっているってどういうこと? まぁいいや、黒目っと……あとは、スリーサイズぐらいかな。

 ふと私は真剣に書類を書いているイザナミに目をつける。

 ……どうしよう。イザナミのスリーサイズがすげぇ気になる。一見、同じ歳に見えて平均的な少女体系に見えるが、私の目は誤魔化せない。

 イザナミは隠れ巨乳に違いない!

 知りたい。どれだけあるか知りたい。腰周りとかお尻のサイズが知りたい。

 …………バレないよね? いや、バレないようにすれば全てが平和のままでいられる。

 私はイザナミの項目欄を覗いてみる。

 身長は152センチ、体重はまだ書いてないのか、おしいな。で、年は16か……。

 

「……明日香さん?」

 

 イザナミに声をかけられる。

 

「あの、見ないでください……」

 

 気づいてしまったか。おしいなぁ……なら仕方ない。

 

「私にスリーサイズ、特におっぱいのサイズを教えてください!」

「い、嫌です……」

 

 普通に、嫌そうに断られた。

 ……ごめんなさい。そんな軽蔑するような目で見ないでください。

 

「というか、16歳って、私と一つしか変わらないんだね」

「えっと、どういう意味ですか?」

「神様、女神様、死神様?じゃん。てっきり四桁ぐらいの年齢なんだと思っていたけど……」

「えっと、神界(しんかい)での年齢は違いますが、人間年齢でいうと16歳ですね」

 

 神界って聞きなれない言葉が出てきたけど、あれかな? 死後の世界であり、イザナミが住んでいた世界のことだろうな。それをここで書かれても向こうが困るだけか。

 とりあえず断られてしまったので、スリーサイズは攻略した後で知るとしよう。

 そう割り切って、受け付け嬢に書類を渡して進めることにした。

 

「ではお二人共、こちらのカードに触れてください。それで貴女のステータスが分かりますので、その数値に応じてなりたい職業を選んでくださいね。経験を積む事により、選んだ職業によって様々な専用スキルを習得できるようになりますので、その辺りも踏まえて職業を選んでください」

 

 などと受け付け嬢の方は言うけど、それってその職業に似合うパラメーターがないと選ぶことすらできないってことになるよね。

 私はラノベ主人公みたいな活躍できて、モテそうになるのならなんでもいいや。俺TEEEEでモテモテになるなら願ったり叶ったりだけど。

 

「はい、ありがとうございます。シオ・アスカさんですね。ええっと……筋力、生命力、魔力、起用度、幸運はどれもそこそこですが、敏捷力はとても素晴らしいですね! これでしたら、ギリギリ上級職のゲイルマスターという職業につけることができますよ!」

「げ、ゲイマスター?」」

「ゲイルマスターですよ。最近追加された新しい上級職業でして、攻撃や防御に置いては見劣りしますし、魔法は一応使えまずが、一部の風魔法しか使えまん。ですが、敏捷力だけなら他の職業の中で一番を誇ります」

「じゃあ、それで」

 

 よくわからないが、上級職業って言うからそれになった方がいいだろう。おそらく薦められた中では一番強いのかもしれん。

 にしても……なんともいえない微妙さがある。贅沢は言わないけど……もうちょっと上級職の中からいくつか選べるくらいの能力を期待していたけど……転生しても、こんなものか。

 颯爽と駆け抜けて美少女を助ける……そして私に惚れる。この流れを組み込めば完璧にハーレム女王になれるはずだ。よし、それで行こう。

 

「え、ええええええ!?」

 

 受け付け嬢は突然大声を上げていた。そしてそれに反応するようにビクッとイザナミは怯えてしまった。

 

「そんなに声を上げなくても……」

「驚きますよ! 起用度、体力と幸運が平均よりも低い以外は残り全てのステータスが大幅に平均値を超えていますよ!」

 

 な、なんですってー!?

 しゅ、主人公は私ではなくイザナミだっていうのか。いや、死神補正があるかもしれない。後、ヒロインは主人公よりも能力が高いっていうのも定番だから、イザナミがヒロインなら当然の結果なのかもしれない。

 さっきから怯えたり自分を責めたりグチグチとネガティブな発言が目立っていた女神だけど、やっぱり神様、女神様、死神様だけあって能力で圧倒している。

 

「すごいじゃないイザナミ。これだったら、なんでもなれますよね?」

「はい! 体力的には最高の防御力を誇るクルセイダーにはなれませんが、強力な攻撃魔法を操るアークウィザード。最高の攻撃力を誇るソードマスター。プリーストの上級職であるアークプリースト。先ほどシオ・アスカさんがなったゲイルマスターにだって、ほぼ全ての上級職になれますよ!」

 

 私はギリギリ上級職になれたゲイルマスターをあっさりとなれるのね。まるで私が引き立て役のかませ犬みたいだ。

 え、もしかして私って、主人公の悪友ポジション? ヒロインたちにぞんざいな扱いにされるポジションなのか!?

 お、落ち着け、私! 主人公がヒロインよりも能力に劣るのは自分で決めつけたことじゃないか。能力は生まれた時に決まっているものだ。凡人は凡人の能力を受け入れるしかない。だからこそ、いかに上手く立ち回れるかということが本題なのだ。

 

「えっと、私は…………」

 

 それからイザナミは考え込んだ。神様とはいえど、この世界のことは何もわかってないし、いろいろなれる職業があるから、どれが正解なのかわからないはずだ。バランスを考えれば、後衛のアークウィザードが丁度良いかもしれない。あと、多分後衛のアークプリーストもそうだろう。

 んー……でも、せっかく大鎌を持っているなら、それを使える上級職が彼女に合っているのかもしれない、でもそんな上級職はあるのかな……?

 どっちにしろ最終的に決めるのはイザナミだ。

 

「決めました」

 

 イザナミは決断した。心なしかどこらスッキリしていて決心した良い顔つきになっている。

 

「サンドバックでお願いします」

 

 ズコーっと、私はお笑いのベタな転び方をした。

 

「さ、サンドバックという職業はありませんよ」

 

 受け付け嬢はちゃんと返答するも困惑していて苦笑いだった。

 

「おい、イザナミ。なんでいろいろなれる上級職があるのに、ないもの選ぶんだよ」

「だ、だって……私みたいなニートになり果てた役立たずが、いろいろな上級職になれるなんておこがましいです。傲慢です」

「傲慢でもなければおこがましくもないよ! むしろその考えが傲慢だよ! それに似合ったパラメーターを持っているんだから、堂々となりたいものに就けばいいじゃないか!」

「私がなりたいもの……神様です」

「あ、うん、それはおこがましいって言いたいけど…………ごめんなさい」

 

 そうだよね。元の仕事に戻りたいもんね……。

 

「……気を遣わせしまいましたね。やはり私は迷惑をかける厄病です。こんな私の職業は厄病しかありませんね」

「ないわよ、そんなもんは……」

 

 これはもう無理矢理にでもイザナミに自信をつけるために、前衛の上級職業に就かせたほうがいいわね。

 

「すみません、上級職で大鎌を使う前衛職ってありますか?」

「はい。それでしたらデスサイザーという魔法や耐久度に関しては特に優れていませんが、攻撃力はそこそこ強く、そして何よりも一部の攻撃スキルにはモンスターを即死させる強力なスキルをお持ちの上級職はどうでしょうか」

「じゃあ、それで」

「ほ、本人に確認を取らなくてもいいのでしょうか?」

「いいんです。またサンドバックとか言い換えないので」

 

 それに、そうしないといつまでも話が進まない気がする。こっちで決めた方がイザナミにとっても前を進めてくれるだろう。

 

「では改めて。アスカ様、イザナミ様、ようこそ冒険者ギルドへ。スタッフ一同、今後の活躍に期待しています!」

「期待されるほどできていません。私のことはゴミ同様に扱っても」

「イザナミは私達と同様に扱ってください」

「は、はい……」

 

 こんなんで大丈夫なんだろうか……にこやかな笑顔で迎え入れてくれた受け付け嬢が一瞬で苦笑いに変わるんだよ。

 でも、そんなめんどくさい卑屈な性格を私は愛してあげよう。可愛いは正義。性格なんて神様だろうが女神だろうが死神だろうが変わるものさ。

 とりあえずそうだな……いちいち卑屈なことを言わないようにさせた方がもっと可愛くなるだろう。

 

「イザナミ」

「は、はい」

「次から自分を責めること言ったら……キスしちゃうぞ」

「それはやめてください。もしキスしたらこの鎌で切ります」

「なんでそういう時はハッキリと対抗できるんだよ!」

「これからも堂々と自分を責め続けます」

「そこは堂々としちゃ駄目でだろ……」

 

 行く先は不安だろうけど、なんとかなるのかもしれん。多分、きっと……必ず。

 そんでもって、ハーレム女王に私はなる!




原作の職業がよくわからなかったので、アスカ達にはオリジナルの上級職にすることにしました。

次はあの原作の人気キャラが登場します……一人を除いて。

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