この素晴らしき世界にハーレム女王を。   作:鮫島龍義

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二章
あの世界に再来を


 放課後。

 いつもなら、窓から見える景色からは汗と青春の部活動を行っているはずだけど、今日は部活休みなので、広大なグラウンドだけを寂しく眺めていた。

 特に見るものはなく、ただ景色を眺め、人を待ち続ける姿はまさに少女漫画のような爽やか君だ。少女漫画に出てくるイケメンとか、どんな気持ちで人を待っているんだろう。

 

「あ、明日香さん……」

 

 ……これが私に憧れる可愛い後輩であって、私に告白する流れだったら良いなーと思いつつも、そんなはずがないと、聞き慣れ過ぎた声を主に視線を向けた。

 

「なんだ那美か……」

 

 そんなことを口にしてしまった。はっきり言っちゃうと期待外れ。

 それを聞いた那美はこちらの思想を察したのか、笑みを浮かべる。

 

「ごめんなさい、明日香さんに告白する可愛らしい女の子ではなくて。そんな人はいないと思いますが……」

「そんなことない! 絶対に私を理解してくれる人はいるからね!」

 

 くそう、毎度毎度人のことを煽りやがって……私だって本気だせば、一人や二人を彼女に作ることぐらい簡単だ。

 というか……。

 

「女子校に通っている以上は私にだってチャンスはあるからね」

「そのためだけに女子校に入学して、演劇部に入ったんですよね……」

「そうだよ。演劇部に入って同学年の可愛い子、先輩から後輩までキャーキャーとモテモテの青春を送る……はずだったのになー。今年も全部、佐藤先輩達に奪われそうだから……チャンスがあるとしたら来年かもしれない。あの人達、本当にずるい……」

 

 王子様とも呼ばれる佐藤先輩。演劇部の部長で去年から一言で例えるなら、宝塚歌劇団の王子様。通称も王子様または王子様先輩。この人は特にこの学校の生徒からモテる。その人だけならまだしも、運動部の数人かっこ良ければモテモテの先輩が数人いる。その中での部活動対抗リレーはまるでアイドルのコンサートみたいに黄色い声援が鳴り響き、地面が揺れた衝撃は今も覚えている。

 

「こんな予定ではなかったのになぁ……」

 

 明日から新入部員が入ってくるけど、絶対佐藤先輩目当てなんだろうなぁ……。どうにかして、私に注目を集めさせるように頑張らないと。そうじゃないと、私の存在感がなくなりそうで怖いわ。

 こうなったら佐藤先輩とつるむようにして、お零れを貰おうかな。別に私は嫌っていなし、むしろ仲は良い方だと思うし、多分大丈夫だ。

 

「世の中、思い通りにいかないことがたくさんありますよ……私もそうですし、そんなものですよ」

 

 那美が急にそんなことを言われて、少し驚いた。

 ……もしかして、フォローのつもりだったのだろうか? 私が落ち込んでいるように見えていたのだろうか? それとも、私に諦めろという意味なんだろうか? だったら、那美はハッキリと諦めろと言うのだろう。

 

「だったら私と付き合う?」

「諦めてください」

 

 イエスかノーか聞かれているのに、ノーと思われるような返事で断られてしまった。この子は多少性格が変わっても私に対する扱いは相変わらずだよね。

 ……そんなことを言われると、私はこう見えても捻り者だから、抵抗してみたくなるのよ。

 

「嫌なこった」

 

 那美も必ず、私のハーレムの一員に…………。

 

 

「…………はっ?」

 

 い、今のは…………夢?

 めっちゃ好みの美少女が私に話しかけていたのにも関わらず、夢オチだったのか? しかもなんか中途半端なところで終わっちゃったよ。

 確か、あれは…………忘れてしまった。まあ夢だし、そんなものだよね。

 ただ、妙になんか懐かしい感じはしたけど、気のせいだよね。

 …………それにしても。

 

「ここは…………?」

 

 見渡してみると、壁がない暗い闇の中にぽつんと取り残されている私。そして起きた時には何故か椅子に座っている。

 そして意識を目の前に向けると、そこに白い羽衣をまとい、長い髪をした白銀を持つ神々しい美少女がいた。パッと見ても彼女が女神様と言われても過言じゃないくらいの美しさを誇っている。

 そんな美少女が小さく口を開く。

 

「志尾明日香さん。ようこそ死後の世界へ。私は、あなたに新たな道を案内する女神、エリスです」

 

 今、彼女はハッキリとそう私に告げたのだ。

 前置きもなく、ただ真実を告げられた。心の準備というものを認識させる前に、非情で無情、しかし救いであろう言葉を送ってきたのだ。

 ……ああ、そうか思い出した。なんか、この感覚と独特な匂い、どこかで感じたことあったと思ったら……そういうことね。納得してしまった。

 

「私は…………死んだのですか?」

 

 最後の悪あがき。それが救いとなる言葉を受け止めたくはなかった。

 だってそんなの、認めたくまいじゃない。先ほど言ったのは、言い間違えであってほしいじゃない。誰だって、そんなこと言われても嘘だと思いたいじゃない。

 でも、わかっている。幻想を抱いた抵抗は虚しいってことも、その後、あっさりと重く告げられることもわかっている。

 

「はい。志尾明日香さんは、この世界での人生は終わったのです」

 

 一度目は日本で死に、イザナミによって異世界へ転生した。

 けれども、私はその異世界で二度目の人生が終わってしまったのだ。


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