この素晴らしき世界にハーレム女王を。   作:鮫島龍義

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エピローグ

「お嬢さん、今暇なら」

 ベルディアが討伐した翌日。

 街は平和を取り戻し、日常へと戻っていく。今日も冒険者として依頼をこなしていくのだろう。

 そんでもって私達が冒険者である限り、魔王討伐への道は続いていくのだろう。そうなると、ベルディアみたいな強敵、それ以上の強さを誇る相手と戦わなければいけないのは必然。私達はもっと強くならなければ、魔王を討伐することはできない。

 そんな王道的な展開なんて今はどうでもいいんだよ。

 今私にとっての重要なことは魔王討伐することでも、それまでに強くなることでもない。

 

「ねぇ、今暇かな? これからカフェで紅茶を飲もうと思うんだけど、一緒に行かない?」

 

 街で見かけた可愛い子を、私のハーレムの一員にさせることなんだよ。

 魔王やらその幹部なんて二の次だ、ハーレム女王になるための手段でしかない。

 これこそが私の本当の闘い。

 この子を落すか落さないかで、彼女の運命、そして私の運命が決まる重要な闘いなんだ。

 

「え、えっと……確か、アスカさん」

「わ、私の名前知っているの!?」

 

 彼女が私の名前を口にしたことで喜びを感じたが、

 

「う、うん……レズの、アスアさん……だよね?」

 

 少し引き気味にいう彼女に、私は軽い絶望を覚えた。

 あ、あー……そっか……この子は、イザナミが流した噂を知っているのね。

 まずいな、いきなり不利になってしまった。でも恐れるな。いずれそのことは知らなければならないし、向き合わないといけないことだ。

 逆に、有効に使え。

 

「そうだね、その通りよ。私は女の子が大好きだ。普通じゃないと思うし、抵抗も当然あるだろう。でも、私は世の男よりも君を幸せにしてあげる……なんてね。そんなこと関係なしで、私と紅茶でも飲まない?」

 

 欲望は隠しつつ、けれど嘘はつかず、相手に伝える。どんなことでも、言葉にして気持ちを伝えることが大事なんだ。本気で真剣に気持ちを届ければ、例え断る形になったとしても、一度真剣に受け止めるはずだ。

 だから届け、私の気持ちを……。

 

「ご、ごめんなさい。私、彼氏いるので……失礼します!」

 

 申し訳なさそうに彼女は断りの一言を告げ、去って行ってしまった。

 …………彼氏いたんだ。

 畜生、あんな可愛い彼女をゲットするとか、羨ましい。

 

「…………リア充爆発しろ」

 

 そもそも真剣という言葉を私は履き違えているかもしれない。

 君を幸せにするって……いきなりこんなこと言われても真剣に受け止められるわけないのにね。

 

「アスカは相変わらずナンパをしているんですね」

 

 まるで私を知るようなことを言ってきたのは、めぐみんだった。

 と、その隣にはイザナミがいる。心なしか呆れているように見える。

 

「その台詞は私が常日頃ナンパしているような言い方だね」

「えぇ、そうですよ。時々アスカがナンパしているところを見ていますので。今のところ全敗みたいですが」

 

 めぐみんの言葉通り、私は未だにハーレムを築くことができていない。

 ある者は遠慮しますと断られ、ある者はゴミを見る様な目で断られ、ある者はドン引きして逃げられ、ある者は既に恋人がいるから断られる。

 この世界では一応同性婚はあるらしいけど、それでも同性同士の恋人は圧倒的に少ない。そもそも普通に生きていたらそんなこと考えもしないだろう。

 だから仕方のないことなんだ。全敗と言われても何も言い返せない。

 

「そんなもん百の招致よ。むしろナンパして成功したら、百敗しようが千敗しようが私の大勝利になるのよ!」

「そこまでナンパすると、人に迷惑かけるのでやめたほうがいいです。アスカさんもその前に心が折れてしまいます。良く考えてください」

 

 イザナミが本気で心配された。

 絶対に成功しないと思っているのだろう。くそう、バカにしやがって。

 

「世界は広いのよ! 必ず、私を好きでいられる子が必ずいるに違いない!」

「「ないと思います」」

「ある! 絶対にあるの!」

 

 くそう、最近はイザナミだけではなく、めぐみんまでも私を否定し始めやがった。あれか、最近仲良くなったからかシンクロ率も上がったのか。

 そういえば二人で行動することが多くなった気がしなくもない。それそれで友達としては私も嬉しいけど。

 

「……まぁ、そういうロマンを目指す気持ちはわからなくはないですが……」

 

 なん、だと!?

 めぐみんは私の気持ちがわかると言うのか? これまで私がハーレム女王への道を目指すことを伝えても共感を覚えてくれなかったイザナミと違って、めぐみんはわかるというのか。

 これほど嬉しいことはない。

 

「え? じゃあ、私のハーレムに」

「あ、それは絶対になりませんし、共感できませんので」

「どうしてよ! 気持ちはわかるんでしょ! そんでもってめぐみん私と付き合おうよ!」

「なんでそうなるのですか! 私は普通がいいです!」

「……私、アスカさんのそう言うところが駄目な気がします」

 

 そう言うところってどこだよ。私はいつだって本気であり、誠実でいるはずよ。その気持ちを偽らないで伝えることが駄目なのか?

 

「……ともかく。私のハーレムの一員候補として、イザナミとめぐみんが入っているから、私のことを軽蔑しないで、楽しくイチャイチャしようではないか」

「やめてください」

「そんなことしたら、爆裂魔法を撃ちますから」

 

 …………君達は本当に仲が良いな、私も嬉しいよ。でも傷ついたけどね。

 いいよ、もう。その意志も拒否も受け入れて、絶対に認めて惚れさせてやるんだからね。

 

「……わかったわよ。そんなことよりもギルドに行こうか」

「ですね」

「は、はい……」

 

 私はとりあえずギルドに向かうことにした。その後ろからめぐみんとイザナミがついてくる。私のハーレム女王に理解はしてくれないけど、そんな私についてくれているのはありがたい。この繋がりは、絶対に断ち切りたくはないわね。

 そう思いつつ、ギルドへ到着する。そう言えば、魔王軍の幹部を討ち取った記念に、昼から宴会を開くみたいなことを聞いたけど、どうなっているのかね……。

 ドアを開け、中に入ると人の熱気と酒の臭いが鼻についた。うわっ、酒臭い。

 

「あっ! アスカもめぐみんも、イザナミも遅かったじゃないの!」

 

 即刻に上機嫌で既に出来上がっていたアクアが絡んできやがった。女神にも負けない美少女が台無しだよ。

 ふと、視線は既にギルドにいたカズマに視線を向ける。

 

「俺が来た時にはもう出来上がっていた」

 

 そこで悟ったのか、カズマが補足を言ってきた。今もお昼くらいだから、相当短時間で飲んでいるのか。よく見渡せばおっさん達もすでに出来上がっている。

 中には未成年もお酒を飲んでいる。この世界での飲酒は未成年でも飲めるのか? そもそも未成年は何歳からなのか?

 日本でお酒を飲めるのは二十歳からだぞ! という注意はこの世界では通用しないのかもしれない。

 

「全員揃ったようですね」

 

 そこへおっぱいの大きい受け付け嬢がやって来た。

 私達のパーティーのことを全員と括っているのかな? だとすると、ダグネスも来ているのね。

 

「実はカズマさんのパーティーに特別報酬が出ています」

 

 ……特別報酬?

 どういうこと?

 

「え、ど、どういうことですか? 何で、俺達だけが?」

 

 カズマの疑問に、誰かの声が答えてくれた。

 

「俺は一目見た時から信じていたぜ。お前達のある輝きが闇に堕ちることなどないと……」

 

 良い感じのイケボで答えてくれたのは、妙にヒゲが濃く、妙に眉毛が太く、全体的に色黒で色々と濃いおじさんだった。

 ……えっと、誰ですか?

 

「お前達がいなければ、デュラハンなんて倒せなかった……同然の結果だ」

 

 その人と同調するように、そうだそうだと騒ぎ出す酔っ払い達。

 そしてすかさずにカズマコールが鳴り響いた。

 ……私も頑張ったけどなぁ…………称えられるのは、いつのまにかリーダー立場になっていたカズマだけなのね。まぁ、別にいいけど。

 それに……珍しく本当に嬉しそうなカズマを見ていると、これでいいんだと思えるよ。

 

「ほら、代表として受け取りな」

「うおっ、急に背中を叩くなって」

 

 そんなやり取りをカズマとしつつ、カズマが特別報酬を受け取る事になった。

 受け付け嬢がゴホンっと、一つ咳払いする。同時にカズマコールも治まった。

 

「サトウカズマさんのパーティーには、魔王軍の幹部であるベルディアを見事討ち取った功績を称え……三億エリスを与えます」

「「「「「さっ!? 三億っ!!?」」」」」

 

 イザナミ以外が絶句してしまった。

 う、嘘でしょ……私達、一気にお金持ちになったのか!? マジで!?

 お金に困る所の話ではなく、もう一生それで過ごしていけるような、そんな子供の頃に憧れていたお金持ちの人生を歩めるというのか!?

 な、なんという世界だ……夢なのか? 夢みたいな話だから夢なのか? 夢じゃないのか!?

 

「おい、お前達に一つ言っておく事がある!」

 

 三億という莫大過ぎる数字に多少混乱していると、カズマが覚悟を決めたように私達に伝え始めた。

 

「大金が手に入った以上、のんびりと安全に暮らして行くからな! いいな!」

「お、おい待て!」

「待ちません!」

 

 ダクネスの抗議にカズマは一蹴する。

 私もいろいろ言いたいことはあるし、その生活も憧れることはあるけど……ちょっと待てい。

 

「強敵と戦えなくなるのはとても困るぞ!」

「困りません!」

「この前の魔王退治の話はどうなったのだ!?」

「なくなりました!」

 

 ダクネスは負けじと抗議するも、一つ一つ飾りをつけない一言でカズマは一蹴する。もはやどんな言葉をかけてもカズマは否定し続けるのだろう。

 続いて今度はめぐみんが抗議する。

 

「私も困ります」

「困りません!」

「せめて話を最後まで聞いてから否定してくださいよ!」

「嫌です!」

「そ、そうですか、もういいです。私は魔王を倒して、最強の魔法使いの称号を得るのです!」

「得ません!」

「得るのです!!」

 

 さっきの感動はなんだったのか。こんな駄々っ子が私達のリーダーの立場なのかぁ……。

 

「ちょっとカズマ! またヒキニートに戻るの!?」

「戻りませんし、ニートじゃありません!」

 

 アクアの抗議もこの一点張りだ。引きこもりは否定しないのね。

 

「え、えっと……カズマさんは、それでいいんですか?」

「いいんです!」

「ご、ごめんなさい。お詫びに、私はもう何も言いません」

「よろしい!」

 

 いや、よろしくねぇよ。

 イザナミがカズマを心配するも、この反応だよ。もうこの男は放っといてもいいんじゃないかな?

 ……一応、私も言ってみるか。

 

「ちょっとカズマ。いい歳して駄々っ子しているんじゃないわよ」

「駄々っ子で結構です!」

「開き直るなよ。魔王を倒すんじゃなかったの?」

「倒しません!」

「この男は、本当に……もういいわよ。私が魔王を倒してやるから、勝手に引きこもっていればいいさ! その間に私はハーレム女王になっちゃうからね!」

「「「なれません」」」

 

 ちょっと、待った。カズマだけならまだしも、なんでそこでイザナミもめぐみんも否定されなくちゃならないんだよ。

 カズマもカズマで勝手にしろとか、投げやりみたいな言葉を言う流れじゃないのか!?

 しかし、幸いにも? アクアとダクネスがなんの話だと言わんばかりにクエスチョンマークを浮かべていた。 逆に言えばこの二人には好感度があんまりないということになる。何故なら、イザナミとめぐみんと違って、私のことを意識していないからだ。

 もうカズマのことは放っておいて、本当に勝手にハーレム女王になってやる。そんでもって、カズマに自慢して引きこもったことを後悔してやるんだから。

 

「あ、あの……」

 

 受け付け嬢がなにやら申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 あれかな? 盛り上がっているところ悪いみたいな感じなのかな?

 そう思っていたら、カズマに一枚の紙を手渡してきた。

 

「いっ……!?」

 

 その手紙を見たカズマは急に青ざめた。

 

「ええっと、ですね。その……アクアさんの召喚した大量の水により、街の入り口付近の家々が一部流され、損壊してしまいまして、洪水被害が出ておりまして……。まぁ、魔王軍の幹部を倒した功績もありますし、全額弁償とは言わないから、一部だけでも払ってくれ、と……」

 

 受け付け嬢の言葉を聞いた私は、カズマが持っている、請求書を見つめる。

 

「報酬三億。そして弁償金額が三億四千万か。……カズマ、明日は金になる強敵相手のクエストに行こう。それが一番の近道だ」

 

 目の前の請求書に現実を逸らすなと言わんばかりに、ダグネスが現実を突きつける。

 どうして三億という夢のお金が貰えるのに、結果四千万の借金をしなければならないんだ。まるで意味がわからないぞ。

 というか、ボスを倒したら借金になったなんて、異世界を通り越しても私達だけじゃなかろうか?

 …………どうしてこうなった。

 

「これも私のせいですね……あの時、仕留めていれば、こんなことには……」

 

 イザナミが罪悪感を抱き、自分を責め始めてしまった。いや、借金作った原因はアクアだからね、倒せたのもアクアなんだけど。

 申し訳ないけど、もう借金の事実が大きすぎてツッコミを入れる気にもならない。

 ……いや、そんなこと言ってられない。私が目指すのはハーレム女王だ。今こそ、落ち込んでいるイザナミを励ますべきではないのか。

 

「イザナミ、君のせいではない」

「いいえ私のせいです。口説かないでください」

「励ましを口説きと一緒にしないでよ」

 

 借金になっても、こんな感じで過ごしていくんだろうなぁ……。

 こんなよくわからない世界で、転生してもらったんだ。

 せめて後悔しないように、過ごしていこう。

 まあ……もう四千万の借金になっているから、後悔しているんだけどね!




どうにか一巻分を書き終えることができました。
更新が一週間や二週間、数カ月以上とバラバラで不定期ですが、今後ともこの創作小説を読んでくださると幸いです。

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