「なぜ城に来ないのだ! この、人でなしどもがああああああああっ!!」
……どうしよう。魔王軍の幹部であるデュラハンさんがいきなり怒っていらっしゃる。もしかしなくても、私達があの廃城に来なかったからキレているのか? というかそう言って怒っているんだよね。
でもさ、もうあの廃城へ行く理由がなくなったんだよね。だって、もう呪いが解けたんだもん。
……とりあえず、ここは穏便に行かせてもらおう。
「えっと……こちらとしては城に来る理由が、解決しましてですね……行く理由がなくなりました」
「大いにあるだろう! 行かなければならない理由がさ!」
「それが解決したんですよ。それだけで人でなしって言われるのもちょっと……」
「人でないしであるだろうがああああああ!!」
勢いにキレたデュラハンは自分の頭であるヘルムを地面に叩きつける。そしたら、自分の頭であることに気づき慌てて抱え直した。
「……ちゃんと首につけた方がいいですよ」
「やかましい! 俺はな、もの凄く頭にきているのだ! あれほどやめてほしいと伝えたのにも関わらず、そこの頭のおかしい紅魔の娘が、あれから毎日欠かさず爆裂魔法を撃ちに通っているのだ!」
「え?」
わざわざ魔王軍の幹部であるデュラハンが自ら訴えに現れ、咎めとしてダクネスに死の呪いでやめさせようとしたのにも関わらず、懲りずに爆裂魔法を撃ち込んでいるの?
私はめぐみんを見つめる。すると自分はやっていませんと言わんばかりに、ふいっと目を逸らした。
「ねぇ、めぐみん。あれほどのことがあったのにも関わらず、毎日行っているの? バカ? バカなの? バカでしょ。本当にバカだな!」
「いだだだだだだだ、いひゃい、いひゃいです!」
私はめぐみんの頬を引っ張って叱った。
「ち、違うのです! 聞いてくださいアスカ! 今までは何もない荒野に魔法を放つだけで我慢できていたのですが……」
「いや、まず爆裂魔法を撃たないことに我慢しなさいよ……」
「つまり、死ね……と」
「言ってない。それで今はどうなの?」
「今はですね……。城への魔法攻撃の魅力を覚えて以来、大きくて硬いモノじゃないと、その……我慢できない体になってしまったのです」
もじもじしながら意味深な台詞を言ってんじゃないわよ。ちょっとエロいと思ったじゃないか。
うかつだった。あんなこともあったから、もうやらないと思っていた私が甘かったわね。というか、そんなこと思ってもいなかったよ。普通はそんな恐れ多いことできないわよ。
私が頭を悩ませていると、隣にカズマがやってきた。
「……おい、めぐみん」
「カズマならわかってくれますよね!」
「わかんねぇよ、そんな快感方法なんかわかりたくもない! つかお前、魔法撃ったら動けなくなるんじゃないのか? てことは、一緒に通った共犯者がいるだろ」
あ、そういえばそんな設定あったね。カズマ本人が問いだ出しているあたり、連れて行ったわけじゃないのはわかっている。イザナミはほとんど私が攻略しようとするのを阻止するために監視していたから、イザナミでもないだろうし、ダクネスはドMだろうが防音騒動を起こすとは思えない。
消去法でめぐみんと共犯している奴といったら……。
私はちらっともう一人の犯人に視線を向けると、吹けない口笛をして目を逸らしていた。
「お前かあああああああ!」
「わああああああああっ! だ、だってだって、あのデュラハンのせいでろくなクエスト請けられないんだから腹いせがしたかったんだもの!」
共犯者であるアクアを見つけたカズマは怒鳴り、私がめぐみんにやったように頬を引っ張り始めた。
「あいつのせいで、毎日毎日店長に叱られるはめになったのよ! そんなの許せないじゃない!」
いや、それはアクアがちゃんと仕事をしていないせいで、デュラハンは関係ないでしょ。
「爆裂魔法のこともあるが、本当に頭にきているのは貴様らが仲間を助けないということだ! 貴様らは助けようとする気はないのか?」
「え? いや、あるに決まっているでしょ」
私がデュラハンに対して当たり前のことを口にした。
するとデュラハンはもう一度、自分の頭を地面に叩きつけようと……する寸前でやめ、怒りを燃やした。
「嘘つけ! それなら、なぜ俺のところへ来ないんだ! 不当な理由で処刑され、怨念により、こうしてモンスター化する前は真っ当な騎士だったつもりだ。その俺から言わせれば、仲間を庇って、呪いを受けた騎士の鏡である、あのクルセイダーを見捨てるなど……」
「あーそのことですが、デュラハンさん……」
デュラハンが言い終わる前に、私は誤解を解こう言葉を挟んだ。そしてちょうど良いタイミングで、ダクネスがようやく正門へたどり着いていたのだ。
「…………あ、あれぇ――――っ、なんでぇええええっ!?」
ダクネスが生きていることを確認したデュラハンは甲高い声で仰天した。まぁ、呪いをかけた本人からすればダクネスが生きていること微塵にも思っていなかったから、当然と言えば当然の反応なんだろうな。
「そ、そんな……騎士の鏡などと言われても……」
気まずそうながらも、ダクネスは褒められて照れている。
可愛かった。
「え? なになに? ダクネスに呪いをかけて一週間が経ったのに、ピンピンと生きているのが驚いているの? 私達が、呪いを解くために城にやってくると思って、ずっとワクワクしながら待ち続けたの? 帰った後、あっさり呪いを解けたことも知らずに? ワクワクしちゃったんだ! プークスクス! うけるんですげど! ちょーうけるんですけど! アハハハハハハハッ!!」
アクアはここぞというばかりに心底楽しそうに煽っていた。とても女神とは思えない煽り方である。笑い方もゲスだ。
ヘルムのせいで表情は見えないけど、ポーカーフェイスで常に冷静を保つような奴じゃないし、今物凄くプルプルと身体が震えている感じからすれば、怒りの頂点が爆発しちゃったのかもしれない。
……この後の展開が、なんとなく予想できる。
「……おい、貴様ら。俺がその気になれば、この街の冒険者を一人残らず斬り捨てて、皆殺しをする事だって出来るのだ。調子に乗って、いつまでも見逃して貰えると思うなよ? 疲れを知らぬ不死の身体を持つ俺に、お前らひよっ子冒険者どもでは傷もつけられぬわ!」
やっぱり、今に交戦しようと奮い立ててしまった。あれだけバカにされたら、ブチ切れるのもわからなくはない。わからなくはないけど、やめてほしいです。
そんなデュラハンのことなど気にせず、アクアは場の空気を読まずに強気の姿勢を保ち、右手を突き出した。
「見逃してあげる理由がないのはこっちの方よ! アンデッドの分際で注目集めようとしているのなんて生意気なのよ! あんたなんか消えて無くなりなさい! 『ターンアンデッド』!」
アクアが突き出した右手から、白い光が放たれる。
「フンッ、魔王の幹部がプリースト対策も無しに戦場に立つとでも思っているのか? 残念だったな、この俺は魔王様の特別な加護を受けた鎧と、俺自身の力により、神聖魔法なんか効かないものぎゃああああああああああああっ!?」
デュラハンはひよっ子冒険者だから、アクアごときのプリースのなんか効かないと自信満々に立ち尽くしていたものの、体のあちこちから黒い煙を立ち上げ、身を震わせながら持ちこたえていた。
「ね、ねぇ、カズマ! 変よ、効いてないわ!」
「いや、結構効いてた様に見えたけど、ぎゃーって悲鳴を上げていたみたいだし」
あんた達、わざと煽っているわけじゃないよね?
「……ク、ククク……説明は最後まで聞くものだが、まぁいい」
デュラハンはよろめきながらも言葉を口にする。
「俺は魔王幹部が一人、デュラハンのベルディアだ。本来はこの周辺に強い光が落ちて来たのだと、うちの占い師が騒ぐから調査に来たのだが……もう、面倒だ。いっそのこと、この街ごと無くしてやる!」
なんかもの凄い理不尽で滅ぼすような宣言された。
そんでもって、いよいよ本格的なボス戦の始まりか。気を引き締めていかないとここでゲームオーバーになってしまうわね。
「だが、わざわざ俺が相手をしてやるまでもない」
そう言うと、デュラハンのベルディアは左手で自分の首を抱え、空いた右手を払うように振る。するとベルディアの周辺の地面が黒く染まっていき、そこから不気味な人型、アンデッドを数多く出現させた。
「アンデッドナイトよ! 俺をコケにしたこの連中に、地獄というものを見せてやるがいい!」
まずは前哨戦と言わんばかりに数多くのアンデッドを戦わせようとしているのね。こっちには多くの冒険者がいるから、なんとかなるはずだ。
「あっ! あいつ、アクアの魔法が意外に効いてしまったからビビったんだ! 自分だけ安全な所に逃げて、部下を使って楽しようとしているんだぜ!」
私が戦闘態勢を取るなか、カズマはここぞとデュラハンを煽っていた。なんか戦う気満々の私が恥ずかしいじゃん。
「ち、違うわい! いきなりボスが戦ってどうるす! まずは雑魚を片付けてから」
「『セイクリッド・ターンアンデッド』!!」
「ひああああああああああ!?」
RPGでありそうな流れを逆らって、アクアは言いかけているベルディアに魔法をかけた。
畜生だな、アクア。
効果は抜群。悲鳴を上げ、痛みを和らげるためなのか、体中から黒い煙が撒きつつ、地面をゴロゴロ転げ回っていた。
「ど、どうしようカズマ! やっぱりおかしいわ! あいつ、私の魔法がちっとも効かないの!」
「ひあーって、言ってたし、すっごく効いている気がするけどな」
別にゲームのようにやれとは言わないけど、もうちょっと緊張感はもってもいいんじゃないの? なんかコント見ている気分になっちゃったじゃないか。
にしても、女神であるアクアの浄化魔法を耐えるとは……結構、ベルディアの鎧の耐久力は並ってわけじゃなさそうだ。それともアクアがそこまで凄くないだけなのか?
ともあれ、なんとか行けそうな気がしなくもない。
「こ、この……っ! せ、せめて台詞は最後まで言わせろ!」
ようやくベルディアはよろめきながら、立ち上がった。
「ええい、お前ら! 街の連中を皆殺しにしろ!」
右手を振り下ろすと、数多くのアンデッドナイトが私達を襲いかかり始めた。
「ぷ、プリーストを、プリーストを呼べぇ! 早く!」
「誰かエリス協会に行って、聖水をありったけ貰ってきてー!」
あちらこちらから、切羽詰まった冒険者の叫びが響き渡る。というのも、アンデッドナイトという存在がそれほど恐ろしい存在なのだからだろう。
作品によってはいろいろあるけど、特殊能力を持ったワイトよりも遥に協力で極めて恐ろしい存在なのは確かだ。それが今、私達冒険者を蹂躙させようと襲ってきている。冷静でいられるのは難しいのだろう。
それをわかっているのか、その光景を見たベルディアは嘲笑った。
「クハハハハ! さぁ、お前達の絶望の叫びをこの俺に……ん?」
と思った矢先にトラブルが発生した。
「ちょっと! なんで私ばっかり狙われるのよー!? 女神なのよ、私! 神様だから日頃の行いも良いはずなのに!」
「ず、ずるい! ずるいぞ! 私は本当に日頃の行いは良いはずなのに、どうしてアクアの所ばっかりアンデッドナイトが!?」
何故かアンデッドナイトの皆さんはアクアを狙って追いかけていた。そしてその光景を見たダクネスは羨ましそうに叫んだ。日頃の行いが良いからって、望んだことにはならないでしょってツッコミを入れるのは野暮ですかね。
これには私達を含めて、ベルディアも困惑するしかなかった。
「こ、こらお前達! そんなプリースト一人を相手にしないで、他の冒険者や街の住人を襲いなさいよ!」
焦りつつも呼びかけてみるも、言うことを聞かずアクアを追い続ける。上官の命令すらも聞く耳も持たない程、アンデッドナイトはアクアに惹かれているのだろうか? それとも、ベルディアの威厳が足りないから、聞かないだけなのかな?
理由はなんであれ、一応アクアのおかげでヘイトは稼ぐことができ、襲われずに済む。そしてそれはチャンスでもある。
「よし、めぐみん。今のうちに爆裂魔法をアンデッドナインの群れに撃ち込めて一掃できない?」
「えっと……そうしたいのは山々なんですが、このままではアクアを巻き込んでしまう恐れがあります。それに今のアクアは冷静ではないので、下手をすれば外して終わりってことになりかねませんよ」
「あ、そっか……」
確かに、アクアに指示を与えても言う事を聞くとは限らないしなぁ……。
「いっそのこと、アクアごと吹き飛ばせばいいだろ?」
「あんた、それでも神様を異世界の所有物にした転生者か!? 流石、鬼畜のクズマ! 考えが私達と違う!」
「ハハッ、ジョークだよ、ジョーク。本気にするなって」
それでも私はとてもジョークには聞こえません。だってこの男ならやりかねないし、目が笑っていない。
「わああああああ、カズマさーん! カズマさーん!」
先ほどの会話がアクアに聞こえていたわけでもないようだけど、アクアがアンデッドナイトの大群を引き連れて、カズマに擦り付けるように寄ってきた。
「このっ、バカ野郎が!!」
案の定、カズマもアクアと共にアンデッドナイトの大群から追われる身となってしまった。
コントかよ。
でもこれは、ある意味チャンスかもしれない。
「カズマー、良い策を思いつたから、ちょっと頑張ってねー!」
「うるせー! わかってるよ、そんなこと! そのかわりちゃんと始末しろよ!」」
おそらくカズマも私と同じ策を考えついた、はずだ。あんまり信じたくはないけど、なんだかんだ仲間であるから、信じてみる価値は十分にある。
「めぐみん、爆裂魔法を唱えて待機して。そしてカズマの合図で撃って」
「え、え……っと、わかりました」
私はめぐみんに指示を、カズマはアクアに指示を出しているはずだ。
上手くいけば……全てを一掃できる。
カズマとアクアはアンデッドナイトの大群を引き付けて逃げ回りながら、アンデッドナイトの主であろう、ベルディアに向かう。
やっぱ、そう来るよね。私も同じことを考えていたわ。
「めぐみん、やれーっ!」
カズマの合図で二人は左右に逃げる。同時に魔法を唱え、待機していためぐみんの紅い瞳が光る。
「なんという絶好のシチュエーション! 感謝します、深く感謝しますよ、カズマ!」
……カズマだけかよ。
「お前ら、散れ!」
「もう遅いです! 魔王の幹部、ベルディアよ! 我が爆裂魔法に果てろ!」
めぐみんの言葉通り、ベルディアが指示を出す頃にはすでに爆裂魔法の範囲内を捉えており、天から降り注ぐ業火の輝きによって、消し飛ばされるだろう。
「『エクスプローション』ッ!!」
めぐみんが放つ爆裂魔法は、アンデッドの大群とベルディアを巻き込むように炸裂した。
無駄に威力が高くて効率は悪いけど魔法の最強技により、巨大なクレームを作り上がった。その成果を十分に与えるようにアンデットナイトの大群は一体残らずして、消し炭にされていたようだ。
誰もが爆裂魔法の威力とその成果に静かり返る中、めぐみんが勝ち誇った。
「名乗れなかったのが残念ですが、致し方がないですね。我が放った爆裂魔法の威力を目の当たりにし、誰一人として声も出せない様ですね……次こそは、完璧な名乗りを入れ、気持ちよく撃ちたいものですね……」
そして力尽きるように倒れ込んでしまった。
「お疲れさま、おんぶいる?」
「……変なことしませんか?」
「警戒しないで、素直に頷きなさいよ」
イザナミの影響を受けているのかもしれないが、流石に空気ぐらいは読むからね。
というわけで、めぐみんに警戒されているので、変な事はせずにおんぶした。
「うおおおおおおおお! やるじゃねーか、あの頭のおかしい子!」
一人が声を発すると、次々と歓声が沸き上がる。
「やった! 頭のおかしい奴のおかげで助かった!」
「名前と頭がおかしいだけで、やる時はちゃんとやるじゃないか、見直したぞ!」
「本当に頭のおかしい奴だけど、流石、頭のおかしいことを言うだけ違うな!」
冒険者達の歓声? に対するめぐみんの反応は。
「すみません。ちょっとあの人達に爆裂魔法をぶっ放したいので、近くまで連れてってください」
静かに怒っていた。
「気持ちはわかるけど、ここは我慢して。彼らだって悪気があって言ってるわけじゃないと思うし……」
「……だったら、あの人達の顔を覚えてください。今度、万全を期してあいつらをぶっ放しますので」
「それこそ本当に頭のおかしい奴だと思われるからやめてあげて」
めぐみんをたしなめつつ、地面に転がっているカズマに近寄った。
「……カズマ、君のことは忘れない」
「勝手に殺すな」
「なんだ、生きていたのか」
「こんなことで死んでたまるかよ」
爆裂魔法に巻き込まれたかと思っていたけど、思ったよりも元気そうだった。
「死ぬかと思ったぜ……これであいつも……」
カズマはそんな生存フラグを無意識に呟いているタイミングで、ベルディアが立ち上がった。
え、嘘でしょ。あの無駄に威力の高い爆裂魔法を食らっても立ち上がられるのか。
いや、それが当然なのかもしれない。魔王軍の幹部であれば最強の魔法が当たったとしても仕留められるかどうかは別なんだ。そんなことを私は認識していなかっただけなんだ。
「クハハハハハハ! 面白い、面白いぞ! まさかこの駆け出しの街で、本当に配下を全滅させられるとは思わなかったぞ! では約束通り、この俺自ら、貴様らの相手をしてやろう!」
どこから取り出したのか、背丈ぐらいの大剣を軽々と右手に構え始めた。
めぐみんはもう魔力はない。アクアの回復魔法は効くけど致命打にはならない。残っている私達、私とカズマの攻撃力では貧弱過ぎて歯が立たない。ダクネスは攻撃が当たらないから論外。イザナミは……。
イザナミ?
……そういえば、イザナミはどこにいるの?
「どんなに強い存在だろうが、後ろには目はついていない。囲んで同時に襲い掛かるぞ!」
そんなことを思っていると、一人の戦士っぽい人が指示を出しつつ、多数の冒険者達がベルディアを囲み始めた。
「ほーう? 俺に勝てると思っているのか。クク、万が一にもこの俺を討ち取ることが出来れば、さぞかし大層な報酬が貰えるだろうな。一攫千金を狙う夢見る駆け出し冒険者達よ。まとめてかかってくるがいいさ」
囲まれているものの、魔王軍の幹部である貫禄なのか、不利な状況になっていても慌てた様子がなければ、油断している様子もない。
「おい、相手は魔王軍の幹部だぞ、そんな単純な手で簡単に倒せる訳がねーだろ!」
カズマは囲んでいる冒険者達に警告するも、彼らが引くことはなかった。
「例え俺達が倒せなくても時間稼ぎができれば十分だ! 緊急放送を聞いているはずだから、すぐにこの街の切り札がやって来るさ!」
……この街の切り札? そんなのあるんだ。
なら、出し惜しみしないで早く来てくださいよ!
「おい、お前ら、一度にかかれば死角ができる! 四方向からやっちまえ!」
そんな叫びと共に冒険者達はベルディアに襲いかかかる。
それに対して、ベルディアは慌てる様子もなく、自分の首を空高く放り投げる。
その時、背中がゾクッと悪寒が走った。
私だけではなく、カズマも、他の冒険者も気づいたらしい。
その悪寒の正体は、頭上からベルディアのヘルムから見通す悪魔の瞳だった。
その悪魔の瞳で私達を見下ろすように捉えている。見られているという感覚ではない、睨みのような強い視線が私達に突き刺さる。
この感覚は間違いなく、恐怖だ。そしてそれは現実へとなってしまう。
「止めろ! 行くな!」
カズマがベルディアを襲い掛かる冒険者達を止めようと声をかけるが既に手遅れだった。
ベルディアは一斉に斬りかかってくる冒険者達を軽くかわす、まるで背中に目がついているような動き方をしていた。
そして、片手で握っていた大剣で冒険者達を一掃。
気づいた時には斬りかかっていた冒険者達全員を、逆に斬り捨てていた。
そう。いとも簡単に、あっさりと終わっていたのだ。
……あれ、あいつらは死んじゃったの? 全然実感が沸かないんだけど、マジで死んでしまったの? あっさりしすぎじゃない? 死って劇的なものじゃないのか?
死というに対して、私は全然実感が湧かなかった。それなのにも関わらず、今にも気が遠のいてしまいそうなくらい、目の前がテレビの砂嵐のような感覚で何も見えなくなっていた。
「あ、アスカ、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫、大丈夫……ちょっと考え事をしていただけ」
めぐみんの言葉でなんとか立ち直れた。
……そうだった。
ここは日本じゃない。
ましてや、ゲームでやるようなファンタジーでもない。
ここは私の現実。人の命を奪うものを持つことが当たり前であり、簡単に死を実感させられる理不尽な世界なんだ。
しっかりしろ、私。せっかく一度死んで転生してもらった人生だ。ハーレム女王になるまでは死ぬわけにはいかない。
「さて、次は誰がお相手だ?」
ベルディアは気楽に言う。そしていつのまにか頭上に投げていた自分の首を左手で抱え直していた。
なんとか立ち直れたけど、状況は好ましくない。あんな光景を見せられてしまっては誰もが怯んでしまう。
そう思っていたら、一人の女の子が叫び上げた。
「あ、あんたなんか! 今にミツルギさんが来たら一撃で斬られちゃうんだから! 良い気にならないでよね!」
…………ミツルギ?
えっと……なんか聞いたことあったような……ないようなぁ……。
「めぐみん」
「何です?」
「この街にミツルギって言う人が切り札なのは知ってる?」
「この街の切り札がミツルギという方なのは知りませんが、私が知る中でミツルギは、カズマに魔剣を売られた可哀想な人だとしか知りませんね」
…………え?
この街の切り札であるミツルギが、私達に不意打ちで負け、カズマに魔剣を奪われた挙句に売られてしまった可哀想な御剣と同一人物?
…………。
あ、そうだ。そうだった。普通にド忘れしちゃった。
そうじゃん、あのみなんとかさんこと御剣さんじゃないか。
あれ、てことはつまり……。
「おう、少しだけ持ち堪えるぞ! あの魔剣使いの兄ちゃんが来れば、きっと魔王の幹部だって倒せるはずだ!」
「ベルディアとか言ったな? いるんだぜ、この街にも! 高レベルで凄腕の冒険者であり、この街の切り札っていう奴がよ!」
ごめん、その頼りになるはずのミツルギさんを私達のせいで弱体化してしまいました。 だから例え来たところで倒せるかはわかんないんだ。つまり、絶体絶命なんだよね! 凄い困ったことをしてしまった!
うわ、最悪だ! 最悪のタイミングでこんなことになるとは思わなかった。予知していたら、普通に魔剣返していたよ。なんで魔剣売ったんだよ、バカカズマ!
急にカズマに怒りが湧いたので、ふとカズマに視線を向けると、彼は真っ青になっていた。
……こんなことになるなら、意地悪しないで魔剣をとっといておくべきだったね。
後悔したところで状況が変わることはないし、過去に飛ぶこともできない。そんでもってピンチなのは変わりない。この状況を打開する秘訣はないのか?
なんでもいい。なんでもいいけど、命を失わないくらいに時間を稼げれば…………一つ。
一つ思いついたことで、なんとかなるのかもしれない。
「……ほう? 次はお前が俺の相手をするのか?」
ベルディアに立ち塞がったのは一人。そしてその一人は私達の仲間であるダクネスだった。
クルセイダーであるダクネスならベルディアの攻撃に耐えられるのだろうか? 先ほどやられた冒険者の中には鎧を着用していたのにも関わらず、一撃でやられてしまった。
護ることでしか取り柄の無いと自信満々に言っていたダクネスは大丈夫なのだろうか?
「大丈夫なの?」
万が一のことがあっては駄目だ。私はダクネスを止めようとするも、首を振って断られてしまった。
「あのベルディアは強力な攻撃スキルを持っているのだろう。だが安心しろ、アスカ。前も言ったと思うが、頑丈さでは誰にも負けない自信はある。それに防御スキルを習得しているからそう簡単にやられはしない」
珍しくダクネスがかっこいいことを言っている。
そしてダクネスはベルディアに視線を向け、話を続けた。
「聖騎士として、護ることを生業とする者として、どうしても譲れない者がある。だから私にやらせて欲しい」
私にはダクネスが言う護る意志というものはわからなかったけど、私がハーレム女王を目指すように、ダクネスにも譲れないものがあるのだろう。
それに……私もヒロインのためなら護るからさ、全部わからないわけじゃないんだよね。
「行くぞ、ベルディア! 斬られた冒険者の敵を取らせてもらう!」
ダクネスは大剣を構え、ベルディアに向かって駆け出した。
「フッ、面白い。やれるものなら、やってみろ!」
それに対してベルディアが迎え撃つ。
先に仕掛けたのはベルディア。大剣を振り下ろした。
だが、それをダクネスは受け止める。力いっぱい踏ん張り、ベルディアの大剣を受け止め切っていた。
「どうした、ベルディア。こんなものなのか?」
これまた珍しく、ダクネスが相手に挑発をしていた。
「この私を蹂躙させ、皆の前で淫らでみっともない屈辱を遭わせるつもりなんだろうけど、そんな軽い気持ちでは私は屈服しないぞ! 本能を抑えず、むき出しにしてやってみせろ!」
「変な妄想はやめろ! そんなつもりはさらさらない!」
うん。いつものダクネスだった。
もう台無しだし、敵側からつっこまれているじゃんか。
そんなことを言われたベルディアは一旦気を引き締めるように、ダクネスの大剣を払って距離を開けた。
それを逃がさないように、ダクネスが攻める。そしてそれは私でもわかるような好機と言える展開だった。このままダクネスが大剣を振りかざして一撃を与えられる。それが見えた。
「ハアアアアアアアッ!!」
ダクネスはベルディアに大剣を振りかざして斬りつける。
しかし、ダクネスは大きく外してしまい、大剣を豪快良く地面に叩きつけてしまった。
「…………は?」
ベルディアが気の抜けた声が耳に届いた。そしてそのまま呆然とダクネスを見ている気がしていた。
同時に、私を含めた周りの冒険者も呆然とダクネスを眺めるしかなかった。
……ダクネスさ。立っているだけの相手すら外すとかないわー。倒せなくても返り討ちもされるならともかく、あそこで外すとかないわー。
……なんか悲しいよ、私は。
「あれ、私達の仲間ですよね……」
「そういうこと言わないの、めぐみん。余計可哀想だから……」
本人も恥ずかしがっているんだ。余程、自信満々に決める気でいたんだろう。その結果があれだからね。
ベルディアに豪快に外したダクネスは、恥ずかしながらも気を取り直して一歩下がってから、大剣を横に払った。
「なんたる期待外れだ。もういい!」
ベルディアはその攻撃を軽く避ける。そして軽く一蹴するように大剣を一閃させた。
あまりにも簡潔すぎる流れに、私はダクネスがやられたことに関して認識が遅れるほど、あっさりしていた。
「さて、次の相手はどいつだ?」
ベルディアの視線は私達に向けられるも、すぐ何かに察したのか、ダクネスに向けていた。
ダクネスはベルディアに斬られたのは事実であるが、死んでもなければ倒れてもいなかった。鎧に大きな傷をつけられたぐらいで済んだのだ。
「ああっ!? わ、私の新調した鎧が!?」
斬られた直後にその心配かよ。……いや、むしろ鎧に心配しているぐらいはまだ大丈夫ってことになる、よね? 見た感じでは身体に届くような傷もつけられていない。
「ダクネス! お前ならそいつの攻撃に耐えられる! 攻撃は任せとけ、援護してやる!」
「任せた! だが、私にもこいつに一太刀浴びせる機会を作ってくれ。頼む!」
カズマとダクネスのやり取りで、私がふととっさにひらめいた作戦を思いついた。上手くいけば、一撃で倒せるはずだ。
それには、まず一旦離脱する必要がある。
「カズマ! 悪いんだけど、しばらく時間稼いで!」
「おい、どこに行くんだ!?」
伝えたいことだけ伝えた私は、カズマに返答はせずに正門付近まで下がった。まずはめぐみんを安全な場所へ置く必要があった。とりあえずベルディアに目を付けられず、冒険者に近くて、いい感じに隠れられそうなところに置かした。
「悪いけど、ちょっとここにいてよね。あのデュラハンを倒してくるから」
「一体何をする気なのですか? カズマに時間稼ぎしてってお願いしたから、何か策でも思いついたんですか?」
「……まぁ、策というか、こうなったらいいな~みたいな感じかな。やることはシンプルな奇襲だし」
「奇襲ですか。確かにアスカのゲイルマスターなら、あの無駄に速い足で近寄るのはできると思いますが、その分の攻撃力が弱いで撃破することは不可能だと思いますよ」
無駄に威力が高く、無駄に消費する魔法を使うめぐみんもあんまり人の事言えないけどね。言っていることは事実なんだろうけどさ。
それに関しては私も十分に理解している。
「そう。その攻撃力の問題を解決しなければ成功できない。そのために、まずはイザナミを見つけないといけない」
気がついたらいなくなっていたイザナミがいなければ、この奇襲作戦は成功しない。
なので、まずはイザナミを探さないと話にならない。どこにいるのかは……大まかに検討できるけど、この街って結構広いから正門付近にいければ、街中を探さなければならない。
ここは自分の足の速さにかけるしかないわね。ちんたらしていて、時間を稼いでいるカズマがやられてしまうことがないようにしないと。
「イザナミですか……それなら、そこで地面で何か書いていますよ」
「え?」
めぐみんが指す方向に、顔を向ける。そこには、地面にのの字を指でなぞり書きをしているイザナミがいた。まるで世界が終わるのは自分のせいと思い込んでいるように彼女は自己嫌悪になっていた。
……すぐ見つかったけど、予想通りの展開。
なんでそうなっているのかはわからないし、ブツブツ何を言っているのかはわからないけど、自分のことに対して淡々と責めていそうなのは一目でわかった。
どうせ、デュラハンが攻めてきたのは自分のせいだと思い込んでいるんだろうなぁ……それしか理由が思いつかない。
よし、いつも通りに励まして立ち直らせよう。
「イザナミ」
「ひっ、ごめんなさい! 邪魔ですよね。こいつ生きているだけでも迷惑な私がこんなところにいていけないですよね。今すぐに地面に埋まります」
「大鎌で土を掘らなくてもいいし、埋まらなくていい」
姉から貰った大切な大鎌をシャベル代わりにするイザナミを止めさせた。
「あ、アスカさん……どうしてこんなところに?」
「それはこっちの台詞だって。なんでこんなところで自分を責めていたの?」
「それは当然です。私のせいでデュラハンがやってきました」
……わかっていた。わかっていたけれども、捻ったり違ったりして欲しかったよ。
「私に償いができるかを考えていました。そこで思いついたのが、私がデュラハンの生贄になれば皆さんが救われるかと」
「それはない」
私はイザナミの案を軽く一蹴した。今更イザナミが生贄になったところで、ベルディアが戦いをやめるとは思えない。
「それだけでは償えないのですね」
「そうじゃないわよ! 償いもなにもイザナミのせいじゃないでしょ。悪いのはあの頭のおかしい爆裂娘だし」
そう言って私はめぐみんに指を指した。
それに対し、めぐみんはムスッとした表情で、
「アスカは一番に私が万全を期して爆裂魔法をその身で体感させてあげますので、安心してください」
あ、やべ、死亡フラグを立てちゃった。
いや、そんなことよりも早くイザナミを連れてデュラハンに仕掛けないと、カズマ達が危ういんだ。
「そんなことよりも、手伝ってほしいことがある」
「えっと……何をですか? あ、アスカさんの彼女を作るとか、アスカさんの言うハーレム女王計画みたいなのは手伝いませんので」
「なんでもかんでもいちいち彼女になってほしいとは言わないからね」
イザナミからハッキリと予防線を張られてしまった。別に言う気はなかったけどさ、そんなこと言われると意地でもそっちに持って行きたいが、ここは自分の衝動を抑え、やるべきことを優先しよう。
「あのデュラハンに奇襲を仕掛ける」
「ごめんなさい」
「早いよ! せめて内容を言ってから断ってよ」
「アスカさんのことですから、カエルを倒す時にやった時に背負って攻撃する方法のことですよね。そうじゃないのですか?」
「……いや、あっているけど」
「……当ててしまって、空気を読めなくて、ごめんなさい」
「そこに謝られても……」
案の定、断られた。そして複数の意味で謝られた。
その理由はデュラハンの存在だけで証明されているのだろうね。
イザナミはデュラハンが怖いから断っている。
先週と違って、本気で私達を襲撃しにやってきたベルディアに立ち向かう勇気がないのもそうだ。
デュラハンが怖いのはわかる。普通に考えたら、デュラハンという存在に怖がらない私がどうかしているかも。それに人が死んだかもしれない衝撃的なものを目撃したというのに、死という恐怖を実感していない気がする。そういう意味では、本当の意味でイザナミが抱いている恐怖というものを理解していないのかもしれない。
カエルの時は一緒にやってくれたけど……いや、カエルの時のノリをデュラハンと一緒にさせるのは無理があるか。
……だけど、可能性の一つを示すためにもイザナミには協力してもらわなければならない。
「私に協力しないと、君の唇を奪っちゃうわよ」
「嘘です。こういう時のアスカさんはそんなこと考えていません。普段からそうしてください」
「だから、なんでそういうことだけ警戒しないんだよ!」
「アスカさんがわかりやすいのです……」
毎度毎度思うけど、本当にそれだけなのか?
つうか、今はそんなことはどうでもいいんだって。
「……ねぇ、イザナミ。これまでにジャイアント・トード相手に愛のタッグプレイをやってきたよね」
「そう、ですね……その名前はともかく、アスカさんが最初の闘い以降からやり始めようと誘ってきました“あれ”ですよね。それがどうしたのですか?」
「それはね。デュラハンみたいな強敵が現れ、そのピンチを打開するための必殺技が成功するために、これまで練習してきたんだよ」
物凄いスピードで駆け抜ける技であるアクセルダッシュ他、多数の速さに関するスキルを扱うゲイルマスター。しかし、その裏を返せばスピードしか取り柄がない非力で貧弱な職業だ。
ゲイルマスターである私がどうやって攻撃力を上げればいいのか、決め手に欠ける短所を補う方法を探ったと結果、ジャイアント・トード戦でお披露目したイザナミをおぶって、足りない攻撃力をイザナミに任せることだった。
この方法が本当に良いのかはわからん。むしろ、他に効率的な方法があるに違いない。
でも、私はそれしか思いつかないから、効率悪かろうがそれを通すまで。
最初は中途半端に終わってしまったけど、失敗には終わっていない。だったら後は単純に練習を重ねて、結果につながるように繰り返していけばいい。
そして強敵を倒せるような必殺技が完成すれば、少なくとも死なずに済む確率が上がり、相手も倒せる。
こんなところで死んでたまるかって話よ。私にはやるべきことがたくさんあるわ。主にハーレム女王計画よ! まだ誰も攻略が完了していないわ!
「イザナミ、私は死にたくない」
死んだ記憶は覚えていないから、どんな気分で死んだのかはわからない。
いきなり死にましたって言われても実感がなかった。きっと自分が死んだ時の想像が思っていたのと違っていたのと、死んでも生きている実感が微かにあったのかもしれない。
というか、そんな理屈とか屁理屈とか関係ないしに、死にたくない気持ちでいっぱいよ。
いろいろと道別れがあって、どれが正しいのか、どれが死に繋がるような落とし穴があるのかもわからない。そもそも人生という、正しい道をずっと歩いてきたわけでもない。
確かに間違いなんて嫌だし、後悔が残るようなことはできるだけしたくはない。
でもぶっちゃけ、そんなの私にはよくわからない。
こうなったら開き直ろう。きっと上手くいくって楽天的に考えてもバチなんか当たらないさ。
一度死んだんだ。そう簡単に二度も死ぬような不運なんか訪れないと信じ込もう。
うだうだ考えって、説得しようとするのはやめた。
イザナミの気持ちを共感しようとするのもやめた。
私がやりたいことを伝えるまでよ。
わがままに、傲慢に、そして自分勝手に、言葉をぶつけさせる。
「ハーレム女王になるまでは死にたくないから、必殺技をやろうよ」
「…………」
イザナミの表情が変わった。
そう、私がヒロイン候補を口説こうとする時とか、ヒロインの素晴らしさを熱弁する時とか、私のヒロイン候補だと口にする時のように……呆れていた。
「……なんかちょっとかっこいいこと言うかと思って少し期待していましたけど、やっぱり良くも悪くもアスカさんらしいですね」
やっぱりそうなんだけど、私に期待してたんだ。だったら、もうちょっとかっこいい言葉を言えばよかったかな。
私を信じて、友に戦ってほしいみたいな。
「……わかっているなら、手伝ってよ」
私はイザナミに向けて、手を伸ばす。
「ごめんなさい。私はアスカさんのハーレム女王計画だけは手伝いませんので」
謝られた。
そして断られた。
良いことなんてないよ。
でも。
それでも。
イザナミは私の手を掴んでくれた。
「イザナミ……」
「お願いします」
「……うん」
きっと最初の謝りは、自分に対しての申し訳なさなんだろう。
……そして私のハーレム女王に対しての二つの意味なんだろうね。
嬉しかったけど、そのスタンスは変わる気はないのね。
いいよ、もう。解り切ったことだし、いきなりデレてくれるのもそれはそれで面白くはない。
そう解り切った私はイザナミの手を引っ張り、立ち上がらせた。