この素晴らしき世界にハーレム女王を。   作:鮫島龍義

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この水の女神様に耐久チャレンジを

 デュラハンの騒音の訴え襲撃事件から数週間。特に何事もなく、ダグネスが呪いで死ぬこともなく、至って平和ながらも仕事がない日々を送ったある日のこと。

 カズマに連れ出され、街から少し離れた所にある大きな湖へやってきた。

 そこで見た光景は、濁り切った大きな湖に檻に閉じ込められたアクアがぽつんと置いている。

 ……なんか、シュールな光景だな。

 

「……で、これはどういうこと?」

「どういうことって、見ての通りだけど」

「いや、これまでの過程みたいなのを話せよ」

 

 こっちは説明も受けずに連れてかれたんだ。見ようによってはカズマの性癖によるなんかのプレイをアクアさせているようにも見えなくもないんだぞ。

 

「まぁ簡単に言えば……」

 

 カズマから簡単に説明された。

 まず、アクアから唐突にクエストを請けると言ってきたので、その中から湖の浄化を請けることになった。どうやらアクアには水の浄化ができるらしく、半日ぐらいで水を綺麗にできるとのこと。ただ、ブルータルアリゲーターというワニモンスターがいるため、それを守るために檻の中で水を浄化させようと今に至る。

 ……説明されてもシュールな光景は変わらないわね。頭の中の靄みたいなのは晴れたけど、なんか納得できない。

 

「本当にあんなんで浄化できるの?」

「本人が言うには湖に浸かっていれば浄化できるってさ」

「いや、それでも水に浸かるのって大変じゃないの?」

「これも本人が言うには、一日水たまりに沈められても、呼吸にも困ることもなければ不快も感じることないってさ」

「……本当に檻の中は安全なの?」

「一応、モンスターの捕獲用の檻をギルドから借りて来た物だから、大丈夫だろう」

 

 別にカズマのことを信じていないわけではないんだけど、なんか不安に感じる。身の心配もそうだけど、成功できるイメージが何にも思いつかないのは私だけなんだろうか。だって今までのことを考えたら、予想外のことが起きそうだもん。

 でも、想定外、予想外、最悪なことが起きたら、借りて来た馬に檻に繋いである鎖を引っ張らせて逃げるのでしょう。この際、アクアの無事は生きているかの判断だけで済まされそうだけど。

 

 

 アクアが湖の浄化もとい、放置してからようやく一時間が経った。何も起こることもなく、アクアを除いた私達五人は約二メートル程の陸地で見守り続けていた。

 

「カズマ―、暇なんですけどー」

「しょうがないだろ。浄化に半日もかかるんだから、俺達は待機してアクアを見守るしかないんだから」

 

 その通りかもしれないけど、暇過ぎて暇しか言えないこの状況はなんとかしてほしい。アクアに申し訳ないけど、帰ってくだくだとくつろぎたいよー。

 あ、そうだ。暇だからカズマと日本トークでもしよう。この世界だと日本の話はカズマしか話せないから、こういう機会と思いつかない限りは話さないからね。

 でも、なんの話題から始めればいいのかな。……おそらくだけど、カズマは私の日常と被らなすぎると思うから会話になるかな。

 よし、ここは明確に共通がある話から切り込もう。

 

「ねぇ、カズマはどうやって死んだの?」

「急に強烈な不謹慎なこと訊いてくんじゃねぇよ」

「……だって、私とカズマの共通点それしかないんだもん」

「嫌な共通点だな」

 

 流石にブラックジョーク過ぎたか。それに訊いてみたものの、私は頭を打って死んでしまったこと以外思い出せないから話にならないね。それでカズマが納得するとは思えない。

 

「じゃあ、なんでカズマは異世界に転生しようと思ったの?」

「なんでって……選ぶとしたら転生一択な気がするが……まぁ、アクアに提案されたからだな。ゲーム好きだから異世界に行けるだけでも楽しみだった」

「アクア?」

 

 私は湖に浮かぶ檻の中で体育座りしているアクアに視線を向ける。

 ……どういうこと?

 

「ああそっか、信じられないと思うけど、あいつ本当に女神なんだよ」

「女神!?」

 

 私は思わず驚愕した。

 

「え、嘘、じゃあ女神って名乗ったのは自称じゃなかったの!?」

「……いや、自称でもあっている」

「どっちだよ!」

「けど、事実だけ言うのなら、あいつは本当に女神だからなー……知っている俺からしても嘘っぽいけど」

 

 信頼性ない女神っているんだね。いや、ほんとどう見たって宴会の女神でしか見えないじゃない。それとも自称を司る女神様なんだろうか。あ、それじゃあ女神だから女神と自称する人間が正しいのか。

 けど、カズマの言葉には嘘がないというか、嘘であってほしいような感じだから本当にアクアは女神なのか……。

 というか、女神ってなるとイザナミと同じじゃない。どうなっているんだよ、このパーティー。色物過ぎるでしょ。

 

「……じゃあ、カズマはアクアのおかげでこの世界へ転生できたってことだよね」

「今となっては不本意ながらもな」

 

 贅沢な奴だな。俺TUEEEも所詮は小説の中でしかなく、現実はないってことか。小説のような異世界転生しているのにも関わらずね。

 そしてその女神であるアクアもそこまで戦力は……ん?

 

「あれ、なんで女神であるアクアがここにいるの?」

「それはだな。アスカもそうだと思うけど、一つだけ何者にも負けない力を授かると言われただろ」

「あーうん、そうね」

 

 その一つがイザナミだなんて、言えるわけないよね。

 

「何を間違えたのか、俺はアクアを選んでしまった。本当に今思えば人生最大の選択ミスだったなー」

 

 あんたも神様を物扱いして持ってきたのかよ。

 

「アクアを持っていく物なんかせず、反則級な武器や能力にすればこんな苦労しなくても済んだはずだったんだろうなぁ…………で、アスカは何を持っていったんだ?」

 

 やっぱり流れで聞かれるよね。

 どうしよう、なんか言いたくない。だってカズマと発想が同じってことを認めてしまうことになるじゃない。異世界で持っていく物が被るって、そんな奇跡な被りって全然嬉しくないわよ。

 でも嘘ついてもすぐバレるだろうしなぁ……努力系チートって言っても納得してくれそうもない。私だったら信じない、かも。

 ここは無難にさらっと言って話を流すのがいいのかな。

 

「私も同じだよ」

「同じって」

「ところで、カズマは一からやり直そうと思わなかったのよね」

「おい、誤魔化そうとしてもだいたいわかったからな。お前もかよ」

 

 というか、知ったから待遇が良くなるとか仲が深まることもなさそうだから、別に知られてもいいか。

 

「で、一からやり直そうと思わなかったので」

「これってそんなに聞きたいことなのかよ……つうか、さっきも言っただろ、ゲーム好きだから異世界に行けるだけでも楽しみだったって」

「単純な奴」

「そういうお前は?」

「一からやり直したくないから」

「普通だな」

 

 カズマも異世界転生理由としては普通なほうじゃね?

 言葉足りずだったけど、今の私でヒロイン達からモテモテになってハーレム女王を目指したいって気持ちもあったけど、別に言わなくてもいいね。

 

「でも、そうだよなー。あの時は一からやり直して新しい人生を送るか、天国で暮らすか、異世界で転生されるんだったら、三択のうち異世界の一択しかないよな」

「そうだけど、天国ってところはないから二択のうちの一択じゃないの?」

「いや、間違えてはないぞ」

「え?」

「え?」

 

 …………。

 あれ、私おかしなこと言った? イザナミの言葉通りなら天国はないはずだ。しかも私と同じ異世界転生者なら、同じところを通っているはずだし、そこで一通り説明を受けるはず。流石に死んだ世界で人によって説明が違うとかないと思うんだけど……。

 

「……天国ってどんなところだっけ?」

「覚えていないのかよ。確かアクアが言うには、俺達が想像しているような素敵な世界ではなく、ひなたぼっこでもしながら世間話しかすることのない退屈なところだってさ」

 

 やっぱり。そんなこと言われてもいない。

 でも、イザナミはそもそも天国もなければ地獄もないって言っていた。

 ならどうして同じ女神の立場であり、死者を迎え、新たな生命を管理して、誕生と転生をさせる神様からの言葉を受けた私達は共通のはずなのに、何故食い違っているのか。

 ……普通に訊いた方がわかるな。

 

「一番理解できそうならイザナミに訊いた方がいいね。よし、そうと決まればカズマなんか置いといて、イザナミと会話しよっと」

「おい、心の声漏れているぞ」

 

 私の不注意でカズマにちょっと秘めていたものを聞かれてしまったが、事実であることには変わりない。さっそくイザナミのところへ行くとしよう。

 

「イザナミー!」

 

 私は私のヒロイン達である三人の輪っかに寄って声をかける。

 

「ご、ごめんなさい! 私のようなものが人と話すなんて傲慢です。罰として唇を剥がします。それでも許さないのなら」

「許すも許さないもないから、もう言うな」

 

 出オチならぬ出シャザイをしてきた。毎回毎回思うのだが、君は一体、何に怯えているのだ。

 

「アスカも何気にカズマと同じくらい女泣かせしてますよね」

「いや、私が原因みたいなこと言っているけど、イザナミが勝手に怯えているだけだからね」

 

 めぐみんにジト目で見られたので、私は冷静に否定した。

 

「そういえばアスカ。いつになったら私をカズマみたいに罵ってくれるのだ?」

「自然な流れで罵倒を欲求するな」

 

 ダグネスはダグネスで相変わらずである。

 そんなことはどうでもいいんだよ、今に始まったことではないんだし。

 

「イザナミ、ちょっと来て」

「か、カツアゲ……」

「今更カツアゲなんかするか!」

 

 とりあえずイザナミをめぐみんとダグネスから離させた。今回は二人には関係ないことであり、知ってはいけないことではないが、二人にとってはわけのわからない話だから聞かせる必要もないでしょう。訊かれたら聞かれたで別になにも変わることがない、よね。

 ダグネスとめぐみんから適当な距離を空けてから、私はイザナミに訊ねた。

 

「イザナミ。あの時、天国も地獄もないって言っていたよね。それ本当だよね」

「え、あ、はい……天国も地獄もありません」

 

 若干、前髪で覆われた瞳からは綺麗だった。

 いや、そうじゃないでしょ。直観だけど、やっぱり嘘ついている様子はない。

 

「私もそうだと思っているよ。でもさっきね、同じ転生経験を持っているカズマは天国はあるみたいなことを言っていたの」

「えっ、そ、そんなはずは…………あ」

 

 オロオロし始めたと思ったら、何か気がついたようだ。一瞬、謝罪して自己嫌悪になっては自責でもするかと身構えてしまったけど、その前に頭の中で解決して良かったとホッとした。

 

「……もしかしたら、カズマさんは私達の神界で転生されていないのかもしれません」

 

 …………。

 …………ん?

 一瞬、何を言っているのかわからない。冷静に考えてもイマイチわからない。とりあえず、こういう時は……。

 

「どういうことだってばよ?」

 

 これで全て解決してくれる流れに乗ったはずだ。

 もうちょっとなんかなかったのか、私。

 

「え、えっとですね……アスカさんとカズマさんは地球で生まれ、日本で育ってきた共通がありますが、同じではありません。いわゆるパラレルワールドです」

「そんなことわかるの?」

「は、はい。カズマさんがアスカさんと同じ地球で生きていたのなら私達の神界へ召されるはずです。そして神界にもパラレルワールドが存在しますので、カズマさんは違う神界へ召されたかと思います」

「……あーなるほど。そういうことか……」

 

 死後の世界と呼ばれる神界と呼ばれる死後の世界は全て共通だと思い込んでいたけど、死後の世界も複数存在していて、天国があるところもあれば、ないところもあるように違いがあるのもんだと思ってもみなかった。

 アクアのいる神界でカズマは召されて、アクアを物として異世界へ転生した。

 私はイザナミがいる神界でイザナミを物として異世界へ転生した。

 ……そう思うと、奇跡的な被りなのにも関わらず無駄な被りだよね。嬉しい感情が全く湧かないんだもん。

 

「ご、ごめんなさい! そのことを転生する前に教えるべきでした! お詫びに、一からやり直して、あらゆる知識を全て教えます」

「ちょ、か、鎌を自分の首にかけようとしないで!」

 

 カズマとは奇跡的で無駄な被り、いろいろと共通してしまったけど、一つだけ明確に違うところがある。

 私の場合は今でもイザナミを正解だと思っている。基本的に神様を持っていく“物”としてではなく、異世界で共に歩む“者”として私はイザナミを持ってきた。

 と、思ってみる。でも失敗とは思っていないのは事実だからね。

 それを含めると……。

 私はちらっとカズマが持ってきた物である女神アクアに視線を向ける。

 そこは湖にぽつんと浮かぶ檻に閉じ込まれている美少女。しかしとても女神と呼ばれるような扱いをしてはいなかった。

 ……どうしてこう女神がこんな不遇な待遇をさせられているんだろう。

 

「ひぃいぃ、むむむむしっ。あ、ごめんなさいごめんなさい。虫様に虫って偉そうに呼び捨てしてごめんなさい。虫様に横に立っていてごめんなさい。生きてすみません!」

 

 どうして共通して二人とも女神らしくないんだろうか。

 

 

 そんなこんなで、計二時間経過。

 

「おーいアクア! 浄化の方はどんなもんだ?」

 

 水に浸かりっぱなしのアクアにカズマは遠くから声をかけた。扱いは雑だけど状態悪くさせるわけにはいかないから時々声をかけて確かめているのだ。

 

「浄化の方は順調よ!」

 

 アクアはカズマに叫び返す。まだ元気でなによりだ。

 

「わかった! でも水に浸かりっぱなしだと冷えるから、トイレに行きたくなったら言えよ? 檻から出してやるからな!」

「心配はいらないわ! アークプリーストはトイレなんて行かないのよ!」

 

 なんだその昔のアイドルみたいな設定。

 

「何だか、大丈夫そうですね。ちなみに、紅魔族もトイレなんて行きませんからね」

 

 なんか訊いてもいないことを言っているんですけど、この中二病少女。

 

「わ、私もクルセイダーだから、トイレは、トイレは…………うう……」

「別に対抗しなくてもいいからね」

 

 てっきり自信満々に言うと思っていたダグネスは以外にも恥ずかしそうだった。ちょっと新鮮である。

 

「わ、私は……」

「もうトイレ行かないはいいよ!」

 

 イザナミの発言を終える前に止めさせた。

 なんなんだよ、この流れ。

 

「よし、トイレに行かないって言い張るめぐみんとアクアの二人には、日帰りじゃ終わらないクエストを請けて、本当にトイレに行かないかを確認してやる」

「そんなことしたら、またクズマエピソードが追加されるだけだと思うけど、いいの?」

「なんで結果的に俺が被害受けるんだよ。こいつらが変なこと言うから確かめようとしているだけじゃねぇか」

「そんなことしなくても、わかりきっていることでしょうよ!」

 

 この男なら、本気でやりかねない気がする。

 

「ちなみにお前は?」

「答えません」

 

 この男は生まれ変わったほうがいいのかもしれない。

 

 

 浄化を始めてから四時間。

 

「にしても来ないね……」

 

 この依頼の難題であるブルータルアリゲーターが一向に現れない。こっちとしては現れない方が楽だからいいんだけどさ。

 

「このまま何事もなく、終わってくださるといいですね」

「おい、イザナミ。それはフラグだ。言うんじゃない」

「ご、ごめんなさい! 現れないでください現れないでください! 私の命をかけてもいいので、現れないでください」

「そんなことで命をかけないの」

 

 カズマに指摘された女神であるイザナミが神頼みをし始めた。女神様だろうと人間だろうと神頼みしたところで願いが叶うわけもないんだから、やめた方がいいわよ。

 

「か、カズマー! なんか来た! なんかいっぱい来てるよ! ねぇ、カズマー!」

 

 あ、来ちゃったよブルータルアリゲーターさんが。

 

「……私のせいだ」

「自分のせいにするなって」

 

 とりあえず絶望して青ざめているイザナミを冷静にツッコミを入れ、落ち着かせた。

 その間にアクアはワニの恐怖に怯えながら奇声を上げていた。それもそのはず。群れで檻に閉じ込められているアクアを囲んで、噛み砕こうとしているのだから。

 だから、その……が、頑張れ!

 

 

 浄化を始めてから五時間。

 

「『ピュリフィケーション』! 『ピュリフィケ―ション』! 『ピュリフィケ―ション』!」

 

 ブルータルアリゲーターがガジガジと鳴るように噛り付く。その恐怖に怯えるアクアは、一秒でも早く解放されたいがために、一心不乱に浄化魔法を唱えまくる。例えるのなら、モンスターボールで捕まえる時にA連打するように。

 その……頑張って。私達は見守ることしかできないんだ。

 

「ピュリ、ひぃっ!? い、今なんか変な音した! ひいいいっ、なんかギシギシ鳴ってる! ミシミシいってる! 死んじゃう! 私死んじゃう!」

 

 私も今すぐ助けに行きたいけど、今向かったところで自殺行動でしかないし、この状況でめぐみんに爆裂魔法でぶっ放すわけにはいかないんだ。

 だから、頑張って。

 

「アクアー! ギブアップなら我慢せずに言えよ! そしたら鎖を引っ張って、檻ごと引きずって逃げるからなー!」

「い、嫌よ! ここで諦めたら今までの時間が無駄になるし、何よりも報酬が貰えないじゃないの!」

 

 カズマはワニが檻に噛みついて以降、何回もアクアに伝えるも頑なにリタイアを拒んでいる。度胸があるのか、そのわりにはすごく必死で今すぐにでも助けてもらいたいそうな表情をしている。

 

「アクアー! お金と命、どっちが大切なのー!?」

 

 こんなところでアクアを死なせるわけにもいかないので、リタイアを推してみるも……。

 

「そんなのお金に決まっているでしょ!」

 

 これでも本当に女神だったのね。

 

「わあああああっ!? 今、メキッっていった! 今、檻から鳴っちゃいけない音が鳴った!!」

 

 欲望に充実かつ、居座る度胸を見せつけながら浄化を続ける。だが、やっぱり怖いことには怖いので泣き叫んでいた。

 そんなアクアの心をどうしてもポキポキと折りたいのか、ブルータルアリゲーターどもは一切、私達を襲おうとしなかった。それはもう、眼中にはないってくらいに。

 それを見た、ダグネスは……。

 

「あの檻の中、ちょっとだけ楽しそうだなぁ……」

「「……行くなよ」」

 

 私とカズマは一緒にダグネスを制した。

 

 

 湖の浄化を始めてから七時間が経った。

 ようやく濁り切った湖は浄化され、鏡のように透き通った湖を取り戻した。しかし、その代償にボロボロになった檻と膝を抱えているアクアがぽつんと残されていた。

 一時間前くらいから何も言わなくなったから、気絶しているかと思えばそんなことはない。でも、それよりもある意味酷くなっているのかもしれない。主に精神面でね。

 

「おーいアクア、無事か? ブルータルアリゲーター達はもういないぞ」

 

 代表してカズマが様子を伺う。その後に私が続いて反応を伺ってみた。

 

「あのワニ、浄化したら山の方へ泳いで行ったし、もう戻ってこないから安心しなさいよ」

「…………ぐすっ、ひっく」

 

 ……よっぽど怖い思いをしたんだね。それでもやめなかったのは凄いと思うし、偉いわ。

 

「さっきね、カズマ達と話し合ったけど、私達は今回の報酬はいらないことになったから、報酬の三十万はアクアのものよ」

 

 そのために頑張ったアクアはぴくりと肩が動く。だけど、アクアは喜ぶことはなかった。あれ、そのために頑張ったのに嬉しくないの?

 

「おい、いい加減に檻から出ろよ。もうアリゲーターはいないんだし、お金も手に入れたんだぞ」

 

 カズマが声をかけるとアクアが小さな声で呟いていた。

 

「連れてって……」

「「なんだって?」」

「……檻の外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって……」

「「…………」」

 

 アクアは欲しかったお金を手に入れた変わりに、何かを失ってしまったようだ。


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