東方萃儀伝   作:こまるん

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古明地さとりの弾幕講座

 

 

「さて、それでは実際に弾幕を撃ってみますね。」

 

「はい。お願いします。」

 

 今、俺たちがいるのは地霊殿の中庭。

 弾幕が何かさえわからないということを伝えた結果、実際に撃って見せてくれることになった。

 

「行きますっ!」

 

 そう宣言すると同時に横なぎに振りぬかれた右手から、ピンク色の大きな弾が五つ並んで放たれる。

 

 放たれた五つの弾は、大きさそのままに少しずつそれぞれの距離を広げながら直進し、かなり進んだところで消えた。

 

「次、行きます!」

 

 続けて左手を横なぎに振りぬく。

 すると今度は、先程と打って変わって小粒の弾が数十発放たれた。

 

 列となってまっすぐに進んだ先ほどの弾と違い、さとりさんの正面方向へこそ向かうものの、上下左右それぞれバラバラに動いている。

 

「これが、私の基本とする弾です。

 実戦ではこれを組み合わせて相手に撃ちます。」

 

 成程。

 弾同士の間隔が狭いが、直線的で避けやすい大弾。

 弾同士の間隔は広いものの、予測不明の動きをする小粒弾。

 

 この二つを組み合わせることで更に避けにくいものをつくるのかな?

 

「ええ。そういうことです。

 折角ですし、完成させた型を一つ、萃儀さんに撃ってみますね。」

 

 え、ちょっとまって。避けられる気が全くしないんだけど!

 

「大丈夫。痛くはしませんよ?」

 

 にっこりと笑うさとりさん。

 

 ダメだこの人、是が非でも一発撃つつもりだ。

 

――なら!

 

「少しでも避けてやる!」

 

「その意気――ですッ!」

 

 さとりさんを囲うように円状に大玉が出現。

 二つずつの塊となり、かなりの密度で進みだす。

 

 更に、それに重ねるかのように小粒弾が発生。

 見事に大玉の塊同士の広めの空間を埋めるかのようにこちらへ突き進んでくる。

 

 

 いやいやいや!

 こんなのどうやって避けるんだよっ!?

 

「ふふふっ。頑張ってくださいな~。」

 

 楽しそうに笑うさとりさん。

 うわぁ。めっちゃいい笑顔…。

 

 そんなことを考えている間にも、大玉は迫ってきている。

 

――ここかっ!

 

 横に大きく動き、大玉の塊同士の間を抜ける。

 

――ッ!

 

 間髪入れず迫る小粒弾を身をよじって回避。

 崩れかけた体制を立て直し、どうにか前を見る。

 

 視界に入ってきたのは、前方全てを覆う大玉の一群。

 

――あ、無理だ。

 

 回避を諦め、弾の接触を待つ。

 

 弾は俺に触れるその直前で、周りの小粒弾と共に消え去った。

 

「ふふ。どうですか?」

 

 笑いながら話しかけてくるさとりさん。

 

「いやー、あんなの急に撃たれても無理ですよ。」

 

 大方、正しい抜け方のようなものがあって、それに従わなかった場合先ほどの様に追いつめられるようになっていたのだろう。

 

「その通りです。」

 

 誇らしげな様子のさとりさん。

 両手を腰に当て、心なしか胸を張っているところがなんというか可愛らしい。

 

 …あ、しまった。読まれるんだった。

 

 そう気づいたときには、顔を赤くしたさとりさんが腕を振り切っていた。

 

 凄まじい速さで大弾が飛んでくる。

 

 当然避けられるはずもなく――

 

 最後に映ったのは、右手を口に当てて固まるさとりさんの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――何か、温かいものに包まれているような安心感。

 

 目が覚めて最初に感じたのは、そんなものだった。

 

 …なんだろう。身体が…重い?

 

「気が付かれましたか!」

 

 唐突に上から降ってきた心配そうな声に、重い瞼を開ける。

 

 徐々にクリアになっていく視界には、こちらを気遣わしげに見つめるさとりさんの顔が映し出されていた。

 

――さとりさん!?

 

「すみません。うっかり手加減を失敗してしまって…。」

 

 申し訳なさそうに告げるさとりさん。

 それを聞き、意識を失う前の事が思い出されてくる。

 

 そうか、さとりさんの大弾によって、痛みを感じる暇もなく吹き飛ばされたんだっけ。

 

「本当にすみません…。」

 

 本気ですまなそうに謝るさとりさん。

 心なしか頬が紅潮しているように見えるのは気のせいだろうか。

 

「いえ、ちょっとびっくりしただけなんで。特に体に異常もなさそうですし。」

 

 俺がそう答えると、あからさまにほっとしたというような顔になるさとりさん。

 

「良かった…。

 ほら、人間って。その…弱いでしょう?

 怪我でもさせていたらどうしようかと思って…。」

 

 もとは俺が原因なのにそこまで心配してくれるなんて。

 さとりさんはやっぱり優しいんだな。

 

 そういえば、意識がはっきりしてきてふと気づいたんだが、俺って地面で気絶してたんだよな?

 その割には、頭の下がすこし柔らかいような…。

 

 自分の頭が置いてあるところを改めて見てみる。

 すると、目に飛び込んできたのは、芝生の緑でも、土の茶色でもなく、ピンク色。

 

 …さとりさんのスカートの色ってピンクだったような。

 

 上を見ると、少し頬を紅潮させたさとりさんの顔がすぐ近くにあって、

 頭の下は、硬い地面ではなく、柔らかいなにか。

 

 これっていわゆる…?

 

 見る見るうちに顔が真っ赤になっていくさとりさんの反応で、それは確信となった。

 

 

――俺、さとりさんに膝枕されてます。

 

 

 ・ ・ ・ 。

 

「すっ、すみません!俺!」

 

 あわてて立ち上がり、頭を下げる。

 

「い、いえ、そんなことで頭を下げないでください。」

 

 その言葉で顔は上げるが、気恥ずかしさから、さとりさんの顔を直視できない。

 

 気まずい沈黙が流れる。

 

「す、すみません…。そんな恐れ多いことを…。」

 

 とにかく、謝っておく。

 

「いえ…。その……。」

 

 どこか歯切れが悪いさとりさん。

 彼女は少し目線を彷徨わせた後、少しだけ口を開き、

 

「その……、私がやりたかっただけですので…。」

 

 最後はほとんど消え入りそうな声で呟き、そっぽを向く。

 

 さ、さとりさん…、その仕草は反則…!

 

 あまりの気恥ずかしさに、顔が熱くなる。

 恐らく、俺の顔も真っ赤になっていることだろう。

 

 だが、何故だろうか。

 さとりさんから目を離すことができない。

 

「もうっ!あんまりジロジロとみないでください!」

 

 怒られてしまった。

 だが、そんな顔で怒られても、怖いどころか…

 

「か、かわっ…!

 もういいですっ!」

 

 …またそっぽを向かれてしまった。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

  

  


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