東方萃儀伝   作:こまるん

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今回はさとり様視点。うまくかけてると良いのだけれど…









予期せぬ来訪者 ~side さとり~

 私は古明地さとり。ここ地霊殿の主をしている。

 

 覚り妖怪である私は、他者の心を読むことができる。

 その能力のお蔭で、私は地底中の人妖から忌み嫌われている。

 

 当然だろう。心の中を覗かれるのだ。

 プライバシーなんてあったものじゃない。

 

 私だって、逆の立場ならそんな妖怪に近づきたいとは思わない。

 

 だから、私が皆に忌避されるのは当たり前の事。

 

 私には頼りになるペットがたくさんいるし、忌避されることを寂しいとも悲しいとも思わない。

 

 当たり前のことにいちいち悲しんでいたら、心が持たないから…。

 

 

 

 今日も地霊殿での仕事を終えた私は、自分の部屋に籠り本を読む。

 

 特に親しい人もいない私は、本を読むくらいしか退屈を紛らわすことが無い。

 

 そんな私の最近の一番の楽しみは、間欠泉の異変関連の騒動以来、私に気を許してくれたらしい勇儀さんを話すこと。

 

 幻想郷最強の鬼の視点からの話は、只の日常のことであってもなかなか面白く、聞いていて全く飽きない。

 彼女は不定期にここを訪れてくれるのだが、もし訪ねてきたときはよほど込み入ったものでない限り、用事も後回しにして迎え入れている。

 

 今日あたりこないかな。

 

 そう思ってふと窓から門の方を見ると、勇儀さんらしき人影が見えた。

 

 しかし、一瞬浮ついた心は、勇儀さんの後ろに追従する二つの人影によって一気に引き下げられる。

 

 

 一つは、鬼のもの。勇儀さんに以前見せて貰った記憶によると、萃香さんと言ったかな。

 もう一人は、なんと人間。

 

 勇儀さんが友好的な様子で連れてきたことから、悪い人ではないとは思いますが…。

 

――また、嫌な思いを視ないといけない。

 

 私の能力を知った人間の反応は、ほとんどの場合は一つに限られる。

 

『覚を恐れ、逃げる』

 

 私が人間と会うのが苦手な事は知っているはずなのに、何故勇儀さんはわざわざここへ連れてきたのだろう。

 

 少し恨みがましくも感じながら、応対へ向かう。

 

 そういえば、間欠泉異変の時に出会った人間は、私の能力に過度な怖れを抱くことは無かった。

 彼女たちは普通とは大きくかけ離れていたというのが大かったんだろうと思う。

 

 今度もそんな人だったら良いのになぁ。

 せめて、少しは話が通じる人であってほしい。

 

 そんなことを考えながら階段を降りる。

 

 既に中へ入ってきていた彼女らにようこそと声をかけ、用を訪ねる。

 

「ああ。突然押しかけてすまないな。

 今日は、少し頼みがあってきたんだ。」

(この人間のことなんだが…)

 

 そう声をかけてきた勇儀さんの心を読むと、だいたいの事情は掴めてくる。

 

(成程ね、あれが第三の目か。ということは、目の前にいるのが古明地さとりさん?)

 

――来た。

 

 私の能力を知った人間、次に流れてくるのは、当然、私を忌避する心だろう。

 

「ええ。お初にお目にかかります。ここの主をしております、古明地さとりです。」

 

 覚悟を決めながら自己紹介する。

 

(へえ。ホントに心読めるんだなあ。)

 

「そうですね。私はこの目を通して、他者の心を見透かすことができますので。」

 

 少し自嘲の念も込めて話す。

 しかし、帰ってくる想いは私の予想とは大きくかけ離れていた。

 

(あっ。俺だけ名乗ってないや。)

 

 …え?

 

 とっさに心を読めるからしなくても大丈夫と告げようとするが、、『自己紹介はちゃんとやるもの』だとさえぎられる。

 

(いくら心を読めるとはいっても、自己紹介とかはちゃんとしないと。それが礼儀ってものだ。)

 

 え?いや。確かにそれはそうですけど…

 

 私が予想外の反応に驚いているうちに、話は進んでいく。

 

 頼みと言うのは、二つあって、

 ・彼――萃儀さんと言うらしい――の過去をこの目で読み取れるのかどうか確かめてほしい

 ・彼には住居もないので、正式に住む場所が見つかるまでここに居候させてほしい

 

 というものらしい。

 

 どうやら、萃儀さんは、私の能力に…その、期待してくれている様子。

 今まで疎まれることはあれど、期待なんてされたことが無かった私にとって、それは本当に嬉しいことで。

 

 萃儀さんの期待に応えたい。私は萃儀さんに宣言し、萃儀さんの心の深層まで踏み込む。

 

――っ!?

 

 萃儀さんの心の深層には、深いもやのようなものが掛っていて、この私でも見通すことは全くできなかった。

 

 これは…拒まれているわけでは無い。本人の意識とはかかわらないところで自動的に能力を弾いている…?

 この感じ、どこかで…

 

 唐突に、私の頭に、最愛の存在であるこいしの姿が思い浮かぶ。

 そうだ、この感じ、こいしの心を読めない感覚と酷似しているんだ。

 

 …となると、この方も無意識を? いえ、それだと一部でも心を読めることに矛盾する…。

 

 やめましょう。これ以上は考えても分からない事ですね。

 何か能力のようなものが作用しているのは間違いないとは思いますが…。

 

 集中を解き、いつもの表層を読み取る状態に戻る。

 周囲の心の声が聞こえるようになったことで、萃儀さんの心の声が流れ込んでくる。

 

(足元にいる猫、さっき庭先にいた黒猫じゃないかな?さとりさんの飼い猫だったんだ。)

 

 足元に意識をやってみると、お燐がくるくると私の周りをまわっている。

 

 お燐は、先に猫の姿で会ってたんですね。

 

(それにしても、猫に懐かれる姿と言い、物腰と言い、とても地底中で嫌われている妖怪とは思えないなぁ。)

 

 こんなことを想ってくれる方もいるんですね…。

 そんな人はこれまでいなかった。もっと早くこの方に出会えていたらこいしも…

 いえ、それを考えるのはやめましょう。

 

 それにしても、かなり個性的な方のようですね。私を前にして、一切物怖じせず物事を考えている…。

 

(外見だって、どれだけ恐ろしい姿をしているのかと思えば、むしろ逆。めっちゃ可愛いし)

 

 なっ!?

 か、かわいい!?

 

 なんでことを言い出すんですかこの方は!?

 不気味だとか気持ち悪いだとかはそれこそ耳と心が腐るほど言われてきましたが、可愛いなんて一度も…!

 

 とにかく、なにか、何か言わないと。

 

「あ、あの。萃儀さん?」

 

 とっさに彼の名前を呼んだのは良いものの、言葉が続かない。

 いつものように淡々と結果を告げればいいだけなのに…!

 

(ん?なんかさとりの様子がおかしくないか?)

 

「何か、分かったのか?」

 

 私の様子を不審に思ったらしい勇儀さんが問う。

 

 おかげで少しだけ落ち着けた。

 

「い、いえ、残念ながら。

 深層を視ようとしても、黒い靄のようなものがかかっていて上手く視ることができませんでした。

 ご期待に副えず申し訳ありません。」

 

 そういって頭を下げる。

 

「いえ。そんなことで頭下げないでください。過去の俺の事は自分でどうにかしますよ。」

 

 心の奥底までみせて見返りが無かったのにもかかわらず、責めるような思いは一切持っていない萃儀さん。

 

 …優しい方なのですね。

 人間ですが、この方なら。

 この方となら、楽しく過ごせるかもしれませんね…。

 

 確か、二階の、突き当りの部屋は常に綺麗にしておいたはず。

 お燐も、お空も、そしてこいしも、この方なら大丈夫でしょう。

 

「その代りというわけではありませんが、もう一つの件はお任せください。

 萃儀さんが望む限り、ここ地霊殿で受け入れますよ。」

 

 私がそう告げると、萃儀さんから喜びと感謝の気持ちが流れ込んでくる。

 

 ふふ。そこまで喜んでいただけると私も嬉しいです。

 

(ホントに、卑怯で卑劣とか根も葉もない噂流したやつ誰だよ殴り飛ばしに行ってやろうか。)

 

 萃儀さん!?そう思っていただけるのはすごく、物凄く嬉しいですけど危ないからやめてくださいよ!?

 

「萃儀!良かったじゃあないか!」

(流石さとりだ!これで安心だな!)

 

「ホントだね!勇儀がここに行くって言った時は正直不安だったけど、来てよかったよ!」

(古明地さとり…不安だったが、確かに、噂は大きな間違いのようだねぇ。)

 

(萃香、勇儀、そしてさとりさん。今日は本当にいい出会いに恵まれているな…。)

 

 …私との出会いを良いと想って頂ける日が来るとは思ってませんでした。

 

「……それでは、早速ですが空いている部屋へ案内しますね。」

 

「ああ、さとり。ちょっと待ってくれ。」

 

 案内しようとしたところで、勇儀さんに呼び止められた。

 

「折角こうして対面してるわけだし、軽く話さないか? 萃香もいるし。」

(折角だし、一杯やろうぜ。地霊殿の酒は美味いからなぁ。)

 

(お?お?宴会かい?いいねぇいいねぇ!)

 

 …まったく、どうして鬼というものはお酒のことばかりなんですか…。

 

 二人して既に酒の事しか考えていないことにため息が出る。

 

 …まぁ、今日は萃儀さんを連れてきてくださったことに感謝もしていますし、秘蔵のお酒でも出して差し上げましょうか。

 

 萃香さんと勇儀さんに居間で待つように伝え、お燐には萃儀さんの案内を頼む。

 

「さっすがさとり!話がわかる!」

 

 杯を掲げ、嬉しそうな顔をする勇儀さん。

 

 どうせなら私も飲みたいところですが、この後の晩御飯は萃儀さんの紹介を兼ねたものになるのは間違いないので、ここで酔いつぶれてしまうわけにはいきませんね…。

 …と言っても、鬼二人に同席する時点で、ある程度は飲まされるのでしょうが…。

 

(え?さっきまでこの子猫だったよな?

 動物って皆こんな感じに人になれるのか?)

 

 そんなことを考えていると、萃儀さんの困惑した様子が伝わってくる。

 

「いえ、人の姿をとるにはかなりの力が必要です。それ程の力を持つのは、そこのお燐と、地獄烏のお空だけですよ。」

 

 (すぐさま答えてくれるのってホント便利だよね。助かります。)

 

 ついお節介で聞かれてもないことを答えてしまったが、不快に思われるどころか、感謝の想いが流れ込んでくる。

 

 これを便利と思ってくれる時点で、萃儀さんは普通の人とはどこか違うのだろう。

 これまでは心を読むたびに疎まれるのが大半だったので、感謝を向けられるだけでも慣れなくて顔が熱くなる。

 

 階段を駆け上がっていくお燐を追いかけようとする萃儀さんだったが、ふいに立ち止ると、こちらへ振り返る。

 

(追う前に…。)

 

「さとりさん、俺なんかを拾ってくれて本当にありがとうございます。

 暫くの間、宜しくお願いします。

 勇儀、萃香も、見ず知らずの俺に名前を授けてくれたばかりか、ここまで付き合ってくれてありがとう。この借りはいつか返すよ。」

 

 そう言って私たちに頭を下げ、階段を駆け上がっていく萃儀さん。

 勿論、その言葉は本心からの物。

 …少しだけ雑念も混じってましたが。

 

「あはは。こう言ってもらえると、私たちも拾った甲斐があったってものだな!」

 

「ほんとだねぇ~。あんな純粋な人間、もういないんじゃないかい?」

 

 二人して萃儀さんをほめたたえる鬼達。

 

 …私ですか?彼は人間の割に礼儀がなっていて良いと思いました。

 

「おんやぁ~?さとり、顔が赤いんじゃないかい?」

(へえ。さとりもこんな顔するんだなぁ。)

 

「な、何を言ってるんですか。さっさと居間に行きますよ。」

 

 なるべく顔を見られないように足早へ台所へ向かう。

 当然それは遅くて、心を読まなくても面白がっているのがわかる勇儀さんと萃香さんは中々腹立たしかった。

 

 

 

「『さとりさん可愛いうえに優しいとか最高。』…ですか。」

 

 …萃儀さん、不意打ちはずるいと思うんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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