東方萃儀伝   作:こまるん

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訪問者が持ち込んだモノ

 

「これ、地霊殿に届けるように頼まれたんだ。」

 

 手渡された紙に書いてあったのは、働き手募集の文字。しかも、『飛行可能』『人間』ときた。

 求められている条件としては、適正この上ない訳だが…

 

「魔理沙、詳しく話を聞いても良いか?」

 

 俺が食いついたことに、魔理沙は驚いたという顔をする。

 

「お?あんた、もしかして興味があるのか?」

 

「ああ。『空を飛べる人間』ということだからな…。ピッタリなんだよ。」

 

 それを聞き、面白そうに笑う魔理沙。

 

「へえ…空を飛べる人間ね…こんなところにもいたんだなぁ。」

 

「良い方から察するに、あまり数は多くないのか?」

 

「…そうだな…人間相手でも容赦なく札や針を飛ばしてくる赤巫女や、時間を止めてナイフを投げてくるメイドは自由自在に飛んでやがるけども、殆どの人間は空を飛ぶのは不可能だな。」

 

 若干遠くなった目線で言う彼女に、軽く吹き出しそうになる。

 …それにしても、普通並び立つはずのない単語が並んでいる気がするのだが…。

 

「色々突っ込みたくなるワードが混ざっていたような気もするが、取り敢えず、『飛行可能』ってのが武器になるのはわかったかな。」

 

 空を飛べる人間が少ないってのは有難い。

 …まぁ、少ないからこそ、この地底にまで求人が届くんだろうけど…。

 

「で?どうする?興味があるなら軽く教えるぜ?詳しい話は当人に聞いてもらうことになるけどな。」

 

「助かるよ。取り敢えず居間に案内しても良いかな…?」

 

 後半はさとりへ向けて言ったのだが、当の彼女は反応を示さない。

 

「…さとり?」

 

 呼びかけると、はっとしたように顔を上げる。

 

「えっ、あ、はい。居間ですね。大丈夫ですよ。お茶を用意しますので先に向かっておいて下さい。」

 

 そうまくしたてると、こちらが返事を返す間もなく食堂の方へぱたぱたと走り去って行った。

 

「えっと、じゃあ、居間で話を聞かせて貰えるか?」

 

「……ああ。」

 

 

 魔理沙と萃儀は詳しい話をするために居間へ向かう。

 居間に走りさる時のさとりの顔が辛さに満ちていたことには、今の彼には気づけなかった。

 

 

 

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「…それで、早速なんだが、この紙に書かれていることについて説明するぜ。」

 

 居間のソファに対面して座ったところで、魔理沙がそう切り出す。

 

「まず、依頼主についてだが、『森近霖之助』という男だ。一応、人間だぜ。

 場所は、『香霖堂』。まぁ雑貨屋みたいなところだな。

 仕事内容は…配達作業と言ってたな。主に人里相手への配送をやってほしいそうだ。」

 

「ふむふむ。だから飛行能力が必要って訳ね。」

 

 それに対し、魔理沙が頷いたところで、コンコンと扉がノックされる。

 

「お茶をお持ちしました。失礼しますね。」

 

 そう言って部屋に入ってきたさとりは、ニコりと笑うと、お茶を二つ並べてくれる。

 

「ありがとう。さとりは呑まないんです?」

 

 俺の問いに対し、彼女は首を振る。

 

「…いえ、私は事務仕事が詰まっていますので、少し席を外させて貰いますよ。」

 

 相席できないことへの申し訳なさからか、目を合わせようとしないさとり。

 正直な話、彼女も一緒に話を聞いて欲しかったが、仕事ならば仕方ないか。

 

「わかりました。じゃあ、また後で話の内容は纏めて報告しますね。」

 

「ええ、お願いします。それでは。」

 

 最後まで目線を合わせないまま、さとりは退室していった。

 

 …まぁ、さとりには後で伝えれば良いか。

 

「それで、他に何かあるか?」

 

 そう聞くと、魔理沙は首をひねる。

 

「うーん…。いや、だいたいこんなところだな。

 もし興味があるなら、実際に会いに行くと良い。送るぜ?」

 

 送ってもらえるなら、地上に出たことのない俺も安心かな。

 

「ああ、悪いけど頼んで良いか?」

 

 任せろとばかりに親指を立てて笑う彼女に、こちらも笑みが漏れる。

 しかし、魔理沙はすぐにその笑みを引っ込め、まじめな表情を作る。

 

「…でも、さとりは良いのか?」

 

 声を落として、そう問いかけてくる魔理沙。

 

「良いのか、とは?」

 

 質問の意図が掴めない。

 

「いや、ほら、地上で仕事なんか始めたら、簡単にあえなくなるかもしれないぜ?」

 

 確かに、地上に住むことになるだろうし、仕事内容によっては会うことすら滅多にできなくなるかもしれない…。

 

「…それでも、いつまでも中途半端な居候のままでいる訳にはいかないからな。」

 

 俺がそう答えると、魔理沙は少し困ったような顔をする。

 

「いや、そういう意味じゃなくてだな…。」

 

 言葉を探すように視線を少しの間さまよわせた魔理沙は、その思考を振り払うように首を振り、続ける。

 

「あー、もう、単刀直入に言うぜ?

 好き。なんだろ?さとりのこと。」

 

 その言葉に、はっと魔理沙を見つめる。

 

「ははは。まさかとでも言いたいような顔だな。それくらい誰でもわかるぜ?

 …さとりは全く気付いていないみたいだったが。」

 

 …そんなにわかりやすかったのだろうか。

 まぁ、さとりに気取られていないだけ幾分もマシだが…。

 

「見た感じ、まだ伝えていないんだろう?良いのか?そんな状態で別れても。」

 

 伝えられるうちに伝えたほうが良い。彼女の目はそう物語っている。

 

 確かに、出来る事ならさとりに想いを伝えたい。

 この溢れんばかりの『好き』を彼女に伝えたい。

 

 …けれど、それは決してやってはいけないことだ。

 

「心配してくれるのは嬉しいが…俺にはできない。

 さとりは、俺なんかが好きになって良いような存在じゃないんだ。

 それに、あの人は優しいから、俺の想いを知ってしまったらきっと気に病んでしまう。

 そんな思いをさとりにさせる訳にはいかないからな…。」

 

 殆ど自分に言い聞かせるように言ったその言葉。

 自分の言葉であるはずなのに、胸がキリキリと痛むような心地がした。

 

 魔理沙は、暫く腕を組んで黙った後、口を開く。

 

「…成程な。確かに、そういう考えもあるのかもしれない。

 伝えないほうが良い。伝えるべきではない。という答えもありなのかもしれない。」

 

――けどな。

 

 そこで一度言葉を切った魔理沙は、しっかりと俺を見据えて、言い放った。

 

 

『お前の出した答えは、ただの逃げなんじゃないか?』

 

 魔理沙の最後の言葉は、彼女が退出した後も彼の胸の深くに突き刺さっていた。

 

 

 

 










20160604。京都みやこめっせにて開催される『古明地こんぷれっくすよっつめ』にて頒布が決定致しました。
詳細は近づき次第少しずつ公開することになると思います~

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