東方萃儀伝   作:こまるん

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第四章 外へ…?決断。そして。
訪問者


 

 

 

 夏も終わり、地上では徐々に気温が下がり始めたころ。

 

 地底には久しぶりの訪問者がやってきた。

 

 彼女のとの出会いをきっかけに、運命は動き出す。

 

 全身を白黒の衣服に包み、いかにも魔法使いというような帽子を被った彼女の名前は、霧雨魔理沙。

 

 人の身でありながら魔法を操る、当代博麗の巫女の親友である。

 

 

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 ある日の昼下がり、仕事もひと段落した萃儀とさとりは、中庭でお茶を飲んでいた。

 

 さとりは、手に持っていたカップをコトリと置くと、ふうと息を吐く。

 

「貴方がここへ来てから…もう半年になるんですね。」

 

 彼女のつぶやきに合わせて、萃儀もカップを置く。

 

「もうそんなになりますか。…日々が充実していて、あっという間でしたよ。」

 

 そう答えながらも、萃儀は内心で焦りを覚えていた。

 

 

 幸い、出て行けと言われるようなことはないものの、流石に半年も居候の状態はまずいんじゃないだろうか。

 いつまでも中途半端な状態で、迷惑をかけ続けたままでいいのか。

 

 自分だって、この半年間、遊んで暮らしていたわけでは無い。

 

 率先して力仕事を行っていたため、力はかなり付いた。

 それに、さとり達に教えてもらったおかげで、空を飛ぶこともできる。 

 空を飛ぶことは、普通の人間にはできないはずのことだそうなので、これは地上でも結構な武器になるんじゃないだろうか。

 

 …といっても、地上には住む場所も仕事先もあてがないのだが…。

 

 幸いな事には、心を読まれなくなっているお蔭で、さとりへの想いには気が付かれていない。

 尤も、これがもしバレてしまった時には、いよいよここにはいられないのだが…。

 

「さとりさまー!」

 

 暫く無言で過ごしていると、お燐が駆け込んできた。

 

「あら、お燐、どうしたのかしら?」

 

 穏やかな笑みを向けるさとり。

 彼女の笑顔をいているだけで心が癒されるのは、惚れた弱みというやつだろうか。

 

「来客が――」

 

 そう、お燐が言いかけたところで、さとりの顔が曇る。

 恐らく、来客が誰であるかまで読み取ったのだろう。

 

「俺が応対しましょうか?」

 

 そう申し出るが、さとりは首を振る。

 

「いえ、地霊殿への来客なのですから、私が出ないと。

 …それに、あの人は油断するとすぐに……。」

 

 そう言って立ち上がり、溜息をつく。

 

「そんなに嫌な相手なんですか?」

 

 そう聞くと、さとりは少し考えるような素振りをみせてから答える。

 

「…嫌というよりは、少しばかり面倒な相手なんです。

 それでは、少し相手してきますね。」

 

「あ、俺も行きますよ。」

 

 さとりに続き、自分も玄関へと向かう。

 

「…ところで、何が面倒なんですか?」

 

 歩きながら、興味本位で聞いてみる。

 

「うーん……。まぁ、会ってみればわかると思いますよ。」

 

 百聞は一見に如かずというやつだろうか。

 …さて、一体どんな相手なのかな?

 

 

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 さとりに続いて玄関まで行くと、白黒を基調とした服を着て、箒と紙束を持った金髪の少女が立っていた。

 

 彼女は、さとりに気付くと快活に笑う。

 

「よう、今回も本を借りに来たぜ!」 

 

 えっと…、わざわざ本を借りに地底に来たのか?

 

「…返すつもりがないのに『借りる』とは言わないんですよ?」

 

 溜め息を付いて答えるさとり。

 

「失敬だなぁ。ちゃんと返すぜ?」

 

 心外だとばかりに首を振る少女に、さとりはより一層深い溜息を付く。

 

「…『貴方が死ぬまで』返さないのでしょう?」

 

 そう指摘され、少女はニコリと笑う。

 

「どうせ私たち人間の一生なんて、あんた達に比べれば光のようなものなんだし、別に問題ないだろ?」

 

 何の問題もないとばかりに堂々と答える少女。

 

 …何が面倒か少し分かった気がする。

 口調や、さとりの対応から、悪い人では無さそうだということは分かるが、中々特徴的な考えをお持ちのようだ。

 

 …でもまぁ、確かに、寿命は10倍以上違う訳だが……

 

「…はぁ。私が気になるのは、死ぬまで借りて当然というその態度なのだけれど…。」

 

 そうなんだよなぁ。モノを借りるにしては少しばかり態度が大きいというか図々しいというか。

 

「…まぁ、いいわ。持ち出して良い本は書斎の左側に纏めてあるから、そこからなら好きに持って行きなさい。」

 

 やったぜ!と快活に笑う少女。

 …何だかんだで、貸すつもりで準備してたんだな。

「…貴方は何を笑っているんですかっ!」

 

 おっと、うっかり表情に出ていたようだ。

 

「いえ…さとりは優しいなって思っただけですよ。」

 

「や、優しいなんてことは…!」

 

 顔を逸らすさとりだが、照れているのはまる分かりだ。

 …さとりって、直接的な褒め言葉に弱いよなぁ…。

 

 そんなことを考えていると、コホン、と少女が咳払いをする。

 

「…さっきから気になってたんだが、後ろの男は誰だ?

 見たところ人間のようだが、こんな所に人間が居るなんて…。」

 

 …そういえば、この地底では1人も人間を見かけてないな。

 地上にしか住んでないというのは聞いているが、本当に俺以外一人もいないというのは正直驚いた。

 

「彼は、半年ほど前にこの地底に迷い込んできたのよ。

 記憶も、住む場所もないと言うことで、取り敢えずここで住んで貰っているわ。」

 

 さとりの説明を聞き、納得したという顔でこちらを見る少女。

 

「成程ね。迷い人ってやつか。

 私は、霧雨魔理沙。こんな身なりだが、人間だぜ。

 同じ人間同士、仲良くしようぜ!」

 

 成程、魔理沙って名前なのか。

 

「俺は、萃儀。苗字はありません。

 魔理沙さん、宜しくお願いします。」

 

 そう言って頭を下げるが、どうも…。

 

「その『さん』ってのやめてくれないか?気持ち悪いったらありゃしない。

 …それに、私に敬語は不要だぜ?」

 

 そう言って頭をかく魔理沙。

 正直、『さん』呼びはしっくりこなかったので助かる。

「ああ、宜しく、魔理沙。」

 

 満足気に笑う魔理沙。

 彼女は、ふと思いついたかのように俺とさとりを交互にみる。

 

「…ところで、あんた達、やけに仲が良いみたいだが…

 ひょっとして、コレか?」

 

 そう言って小指を立てる魔理沙。

 

 その意味するところを理解して、顔が熱くなるのを感じた。

 

 チラっと横目でさとりをみると、顔を真っ赤にして怒っている。

 

「…こっ、コレって…! 違います!私達はそんなんじゃ…!」

 

 …まぁ、さとりにとってはそんな誤解されたら迷惑だろうし怒るのは当然か…。

 ちゃんと俺も否定して置かないとな。

 

「俺はあくまで居候させてもらってるだけで、そういう特別なことは全く無いぞ。」

 

 自分でそう言いながらも、心に刺すような痛みを感じる。

 自分の気持ちに嘘を付くってのは、こんなに辛いものなのか。

 

 

 魔理沙は、俺たちを見比べて、一瞬驚いたような顔をするが、直ぐに引っ込めて口を開く。

 

「…まさかとは思ったが……いや、これ以上私から話すのは止めておいた方が良さそうだぜ。」

 

――ゆっくり2人で確かめ合うと良いさ。

 

 そう付け足す魔理沙。

 気になる言い方ではあったが、聞き返せる雰囲気ではなかった。

 

「…そ、それで、本来の用件は何なのですか?

 本を借りるためだけにここへ来た訳ではないのでしょう?」

 

 どこか上ずった声で話題を変えるさとり。

 

「…ああ、忘れるところだったぜ。

 これ、地霊殿に届けるように頼まれたんだ。」

 

 そう言って差し出された紙束を、俺も横から見る。

 

 それをみた俺は、これしかないと思った。

 これで、俺も今の中途半端な現状を脱却出来るかもしれない。

 地上に出るというのは少し不安だし、さとりから離れるというのは本当に辛いが……。

 

 

『働き手募集。空を飛べる人間求む。 香霖堂』

 

 

 


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