東方萃儀伝   作:こまるん

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章のつなぎ目的な感じの回となります。


第間章 つなぎめ
しあわせ


 

 

 

 

 

 さとりの書斎へ戻り、コンコンと扉をノックする。

 

「…どうぞ。」

 

「失礼します…。」

 

 了承を得たので、そう声をかけつつ部屋に入る。

 部屋に入ると、相変わらず書類の山と格闘しているさとりの姿を確認できた。

 

「お疲れ様です。こちらは運搬完了しました。そちらは…まだかかりそうですか?」

 

「わざわざありがとうございます。…いえ、この一枚で、全て終わりましたよ。」

 

 そう言って手に持つ書類をひらひらとさせるさとり。

 

 その仕草がどこかおかしくて、思わず吹き出してしまった。

 

「…もう、なんでそこで笑うんですか。」

 

 腕を組んで怒ってみせる彼女だが、その顔には笑みが浮かんでいる。

 

「いえ、すみません。なんでもないです。

 …ところで、お互いに仕事も終わったことですし、良かったらお茶でもしませんか?」

 

 すんなりと言えたことに内心でホッとしながら、さとりの反応をうかがう。

 

「そうですね…。今日の夕食はお燐の担当ですし、それまでゆっくりしましょうか。」

 

 そう言ってほほ笑む彼女に、心の中でガッツポーズをする。

 

 さとりとお茶をする。ただそれだけの筈なのに、心が浮つくのを感じた。

 

 ほんの少し前までは理由が分からなかったが、今でははっきりとわかる。わかってしまう。

 それは、言うまでもなく……

 

「それでは、行きましょうか。」

 

 そう言って立ち上がるさとり。

 

「ええ。」

 

 その声で意識を現実に引き戻し、肩を並べて部屋を出る。

 

「そ、そういえば、こいしとは上手く行きましたか?」

 

 どこか上ずった声でそう切り出すさとり。

 そんなに妹のことが心配だったのだろうか。

 

「大丈夫ですよ、安心してください。

 しっかり打ち解けることができたと思います。」

 

――パワフルすぎて少し圧倒されましたけどね。

 

 そう付け足すと、さとりはクスリと笑う。

 

「あの子は昔から元気だから……。特に問題が無かったようでなによりです。

 …ところで、そのこいしはどこに?」

 

「あー…それなんですけど、少しやりたいことがあるみたいだったので、俺が先に報告に行くことにしたんですよ。」

 

 俺の答えに、さとりは少し困ったような顔をする。

 

「…こいしは相変わらずね。ちゃんと戻ってくるのなら良いのだけど……。

 萃儀さんも、手間かけてすみませんね。」

 

 そう謝ってくるさとりだったが、それこそ見当違いな謝罪だ。

 

「いやいや、とんでもないですよ。報告するだけですし。

 それに、こうしてさとりと話すのが、俺は好きですから。」

 

 

 彼の素直な言葉は、いつもさとりの心にまっすぐに響く。

 さとりは、その想いに少しでも応えようと、赤らめた顔に精一杯の笑顔を浮かべた。

 

「えっと…その、わたし、も…大好きです…。」

 

 

 いじらしささえ感じさせる。また、ある種の誤解をも生んでしまうような、その声、言葉に、今度は彼が顔を紅潮させる番だった。

 

 溢れ出しそうになる想いを押し隠しながら、彼も笑みを浮かべる。

 この生活《 しあわせ》 がずっと続くことを願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

――出来るならば住み続けたいけれど、出ていくべきなんだろうなぁ…。

 

 

――出来るならば住み続けて欲しいけれど、引き留めてはいけないのでしょうね…。

 

 

 通じているような、相反しているような、想いのすれ違い。

 互いが互いを想うが故に、そのズレは大きくなって二人の間に立ちはだかる……

 

 

 

 

 


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