東方萃儀伝   作:こまるん

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第一章 地霊殿の主 古明地さとり
勇儀の後悔


「さぁて、アンタの名前も決まったところで、今後の身の振り方を決めないといけないね。」

 

「うーん、私たち『鬼』と一緒って訳にはいかないだろうからね。」

 

 勇儀の問いかけに、萃香が答える。

 

「やっぱり、ここらじゃ地霊殿にいってみてみるのがベストじゃないかい?」

 

「うーん、私は地霊殿は苦手なんだよねぇ…。」

 

 勇儀の提案に対し、少し腰が引けた態度の萃香。

 

「それは萃香がさとりのことをよく知らないからさ。」

 

「勇儀だって、いつぞやの異変までは、『あいつは気持ち悪い。碌な奴じゃない。』って言ってたじゃあないか。」

 

「異変まではな。間欠泉異変の時に、さとりとは幾らか話した。

 私のこれまでのイメージは誤解だって気付いたよ。

 あいつは、好き好んで皆に忌み嫌われる能力を手に入れたわけでは無いんだ。

 さとりはさとりでいろいろ悩んでいるんだよ。」

 

「うーん。それでも、心を読んでくるのは慣れないからねぇ…。」

 

「そういうものだと割り切ればそこまで苦痛でもないぜ?

 …まぁ、ちょっと空気読めないところがあるけど…。」

 

 

 あのー、相談してくれるのはありがたいんだけれども、俺完全においてけぼりなんですが…。

 

「おおっと、悪い悪い。私たちだけで話し込んじまったね。」

 

 俺の心の声が通じたのか、萃香が謝ってくる。

 

「いや、大丈夫。地霊殿ってところのさとりさんに会いに行くってことで良いのかな?」

 

 俺が確認すると、勇儀が頷く。

 

「そうだ。これから地霊殿の主、さとりに会いに行くが、いくつか注意がある。

 まあ、歩きながら話そうか。こっちだよ。」

 

 そう言って歩き出してしまう勇儀と萃香。

 勿論俺は遅れないように後を追う。

 

 二人に肩を並べたところで、勇儀に問いかける。

 

「注意ってのは?」

 

「ああ。さとりは、『心を読む程度の能力』を持っているんだ。」

 

 心を読む程度の能力?

 内心で考えていることがわかるってことか?

 

「多分萃儀が想像しているものであってるよ。

 あいつは、左胸の前に配置された第三の目によって、相手の思考を読み取ることができる。」

 

 思考を読み取る…

 

「他人の心に容赦なく踏み込み、一方的に全ての情報を握ることができるその能力は、とても強力なものであったが、それと同時に、あいつは他の全ての妖怪から徹底的に嫌われた。」

 

「…。」

 

「皆、ただあいつが持つ能力を嫌い、さとりを忌み嫌った。

 『サトリ妖怪である古明地さとりは、相手の心を読み、卑劣な手段を用いる卑怯者。』

 その噂だけを信じ、さとりの本質など一切見ようともしなかった。

 私もその中の一人だった。

 私は、さとりを避け、とにかく関わりを絶った。」

 

 自嘲気に吐き捨てる勇儀。

 その言葉には、後悔のようなものが感じられた。

 

「萃儀は知らないかもしれないが、この前、この地底で異変が起こり、地上から人間たちが調査にやってきた。

 その過程で、私はさとりと顔を合わせることになったんだが、驚いたよ。

 あいつは噂のような卑劣な卑怯者なんかじゃなかった。

 確かに、多少ひねくれてはいたが、その程度だ。

 少なくとも、私からみたら、自らの能力と立場に苦悩している少女のように見えたね。

 私たちは、根も葉もない噂に踊らされて、一人の少女を孤立させていたんだよ。」

 

 勇儀の独白は続く。

 

「異変を機に誤解を知った私は、さとりに謝罪し、さとりはそれを受け入れた。

 私たちは多少打ち解け、地底一の戦闘力を持つ私が認めたことで、さとりは地底の中でも少しずつだが認められ始めた。

 しかし、これまでの負い目もあり、真の意味で打ち解けるにはまだまだ時間がかかるだろう。

 未だにサトリという種族を徹底的に嫌うやつもまだまだ多数いるしな。」

 

 ――だがな。

 

 勇儀はそこで言葉を切り、俺を見据える。

 

「萃儀、お前はこれからが初対面だ。

 別に、さとりと仲良くしろって強制したいわけじゃあない。

 さとりと関わってみて、どうしても合わない様だったり、悪い奴にしか思えなかったとしたら、それはそれでお前が感じることだから仕方ない。

 その時は、私がどうにか住むところをみつけてやるさ。

 ただ、根も葉もない噂に惑わされて、鼻から決めつけてかかるのだけはやめてくれ。

 私と同じ轍を踏むな…。」

 

 勇儀の言葉は、心に深くしみこんできた。

 それだけ、彼女は深く後悔しているのだろう。

 

「大丈夫。俺は人を見かけや噂だけで判断しない。それは誓えるよ。」

 

 力強く宣言する俺に対して、勇儀は満足げに笑う。

 

「お前は澄んだ目をしている。さとりともうまく打ち解けられると信じているよ。」

 

 そういうと、また前を向き、今度は何も話さなくなった。

 

 

「うーん、私もさとりと一度腹を割って話してみようかねえ…。」

 

 俺の右を歩く萃香が小さな声で呟くのが聞こえる。

 それは俺の左を歩いている勇儀には聞こえなかったようだが、俺の耳にはしっかりと届いていた。

 

 

 これから向かう地霊殿の主だという、古明地さとり。

 心を読む能力があるという彼女と、俺は上手く付き合っていけるのだろうか…。

 内心がすべて見抜かれるということなので、うっかり失礼なことを考えないようにしないといけないな。

 

 

 

 

 …ということを考えては見たものの、どうせ俺の性格上、心を読まれる読まれないにかかわらず、どうせ自分の考えていることなんて筒抜けになるんだろうから、深く考えるだけ無駄なんじゃないだろうか。

 

 取り敢えず会って話してみよう。話はそれからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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