東方萃儀伝   作:こまるん

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渦巻く謎の想い

 

 

 

 …さて、さとりさんには一つ聞いておきたいことがある。

 

「さとりさん、もし良ければで良いんですけど、先程何があったのか教えて貰えませんか?」

 

 今でこそ、先程のことが嘘であったかのように落ち着いているが、先程のさとりさんの取り乱し方は、生半可なものではなかった。

 あれを繰り返えしてしまわないためにも、いったい何が彼女をパニックに陥らせたのかを知っておきたい。

 

 俺の問いに対し、さとりさんは小さな声で答える。

 

「あの謎の力が収まった後、貴方の心の声が突然聞こえなくなって…

 私は、また心を閉ざさせてしまったのかと……。」

 

 殆ど消え入りそうな声で答えるさとりさん。

 何かを悔いるかのように、その手は硬く握りしめられている。

 

 …ん、ちょっと待った。

 俺の心の声が聞こえないってのはどういうことだ?

 

「待ってください。俺の心の声が聞こえなくなったって…、どういうことですか?」

 

 問うてみると、さとりさんはきょとんとした顔になる。

 

「えっと…現状、萃儀さんの心を全く読めないのですが…気づいておられなかったのですか?」

 

 首を傾げるさとりさん。 

 

 心を読めない…? なんでまた急に…

 

――あ、

 

『身体の深部と、外部との力の流れを遮断する。』

 

 あれが原因だろうか。

 さとりさんの心を読む能力が、妖力によるものだとしたら、その妖力の流れを遮ってしまっている可能性がある。

 今すぐにでも能力を解除して確かめてみたいところだが、そういうわけにもいかないよなぁ…。

 

 どこか不安げにこちらを見つめるさとりさん。

 その顔は、何かに怯えるように、かなりこわばっている。

 

 言い方から察するに、彼女は、俺が心を閉ざしてしまったと思ったのではないか。

 …とすると、その誤解はなんとしても解かねばならない。

 

「あー…えーと…、まず一つ言わせて下さい。

 心を読めなくなったのは、俺の能力制御上での事故のようなもので、俺の意思ではないんです。」

 

「そう…なの…?」

 

 まず最初にはっきり結論を言っておいたのが功を奏したのか、さとりさんの顔から怯えるような表情は抜けていた。

 

 …あとは、少しでも現状をわかりやすく伝えないと。

 

「ええ。俺は、突然暴走を始めた力を抑え込むために、覚醒したばかりの能力を用いて、身体の深部と内部との力の流れを遮断しました。

 さとりさんの心を読む能力も、力の一種として一緒に遮ってしまっているんじゃないかと…。

 …つまり、何が言いたいのかと言いますと、決して心を読ませないようにしているわけでも心を閉ざしたわけでもなく、あくまで俺の能力の制御力不足による事故であるということです。

 正直、自分でもあまり良くわかっていないもので、上手く理解を得られるのか不安ですが…。」

 

「いえ…大丈夫です。ありがとうございます。」

 

 俺の説明を聞き、肩の力が抜けた様子のさとりさんをみて、どうにか最低限の事は伝わったらしいということに安堵する。

 

「良かった…。あなたまで心を閉ざしてしまったのではないかと不安で……。」

 

 ほっと息をつくさとりさん。

 

 あそこまで取り乱すくらいだ、よほど胸につかえていたのだろう。

 その要因を少しでも取り除けたのであれば良いんだけど…。

 

 彼女は、胸元の第三の眼に手を添え、静かに続ける。

 

「私には、心を閉ざしてしまった妹がいるんです…。」

 

 儚げにつぶやくさとりさん。

 

 妹…? そういえば、さっき聞きなれない名前を呼んでいたような…。

 

「名前は、古明地こいし。 私と同じ、覚り妖怪です。

 …すこし、長くなってしまうのですが、聞いて頂けますか?」

 

 そう、先程呼んでいた名前も『こいし』だった。

 その子が、さとりさんが胸に抱えるものと大きく関係しているのだろう。

 当然、さとりさんの支えになりたいと考えている身としては、知っておきたい。

 

――それに、理由は良くわからないが、さとりさんに関わることなら何でも知りたい。

 

 自分の中に妙な気持ちが芽生えているのを感じながらも、さとりさんに頷きを返す。

 

「…それでは。

 あれは、私たちがまだ地上に住んでいたころの話です…。」

 

 視線を上に向けながら、話し始めるさとりさん。

 

 

――貴女の支えになりたい。この気持ちに間違いはない。

 

 

――だけど、この妙な気持ちはいったい何なんだろう…。

 

 

 彼女の話に耳を傾けつつ、頭の片隅でふとそんなことを考える。

 

 別の事を考えるなんて失礼だと思いつつも、一度頭に渦巻いた想いは中々消えないのであった。

 

 

 

 


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