東方萃儀伝   作:こまるん

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先日おみな様が投稿された「どやさとりん」。この話は、この絵をどうしても表現したくて内容を調整しました。
更に、ツイッターにてご本人様に許可を頂きまして、挿絵として掲載させて頂くことになりました。本当にありがとうございます!

素晴らしすぎる絵に全く釣り合ってない私の文章ではありますが、どうか今話もお付き合いいただけますようよろしくお願いいたします。




第三章 想い
普段見られないさとり様


 

 

 

 

 さとりを抱え上げ、去っていく萃儀の姿を眺めていた燐と勇儀は、どちらともなく溜息をついた。

 

 奇しくも同時にため息をついたことに、二人は顔を見合わせ苦笑する。

 

「…あれで自覚なしだもんなぁ…。」

 

 そう呟く勇儀の視線の先には、愛おしそうにさとりをなでる萃儀の姿が。

 

「お兄さん、実はあたいたちにみせつけようにしているんじゃ…。」

 

「いや、流石にあの反応でそれはないだろう…。」

 

 はっきり口に出されるまで全く意識していなかった様子の萃儀。

 流石に無自覚にもほどがあるだろう。

 

「そういや、さとりのほうがどうなんだい?

 ずっと一緒に暮らしてきた燐からみて、どこか変わったところとか。」

 

 さとりの様子にも興味を持ったらしい勇儀が燐に問いかける。

 

「いやぁ…さとり様もさとり様で、そういうものには滅法疎そうだからね…。

 心を読むことに慣れ過ぎて、そういう表に出ない深いところの想いはわからないんじゃないかな?」

 

 あけすけとした物言いに、思わず吹き出す勇儀。

 

「はははっ、主のことなのにかなりはっきり言うんだなっ!」

 

「一緒に住んできたうえでの分析を述べただけだよー。

 それに、お姐さん相手に変に取り繕うほうが不味いんじゃないかな?」

 

 燐の物言いに、勇儀は更に笑みを深くする。

 

「違いない。

 …まぁ、それならさとりの方にもとくに変わった様子はないか。」

 

 どこか残念そうに言う勇儀に対し、燐は頷きを返そうとして…その動きを止め、小さく叫んだ。

 

「あっ!」

 

 突然叫んだ燐に、勇儀は訝しむような目を向ける。

 

「どうした?」

 

「変わったことと言うか、普段全く見ないようなさとり様なら、昨夜みれたよー。」

 

「ほう!?普段みられないさとりが?」

 

 格好のネタがみつかったとばかりに生き生きとし出す勇儀。

 大方、酒宴の席で酒の肴にでもするつもりなのだろう。

 

「昨日の夜遅くのことなんだけれど…。」

 

 

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 深夜、ふと目が覚めた燐は、二階の廊下を歩いていた。

 さとりの寝室の前を通り過ぎようとしたところ、部屋から灯りが漏れていることに気付く。

 一瞬、また夜遅くまで仕事をしているのかと思ったが、さとりは仕事をする際、必ず書斎でするという事実を思い出す。

 

 仕事じゃないのなら、なんで起きているのだろう。

 …まぁ、さとり様のことだし、本を持ち込んで読んでいるのかな。

 

 適当にそう結論付けてその場を後にしようとした燐。

 しかし、その時、部屋から漏れ聞こえてきた声が、燐をその場に縫い付ける。

 

「…眠りを覚ますトラウマで、眠るが良いっ!」

 

 それはとても小声ではあったが、扉の前にいた燐にはしっかりと聞こえてきた。

 

 …何をやっているんださとり様は。

 

 半ば呆れながらも、燐は部屋の扉を開ける。

 

「さとり様ー?いったい何を…」

 

 そう声をかけながら部屋に入った燐であったが、部屋に入った瞬間、その思考は完全に停止した。

 

――左半身を前に半身(はんみ)の姿勢。

 

――右手には何か分厚い本を持ち、

 

――左手は何かを放出しているかのように開いて突き出している。

 

――表情は、どこか自慢げ――いわゆるドヤ顔である――な様子で。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「――決まった…。」

 

「いやいや、何が決まったんですか。」

 

 燐の言葉に、初めてさとりは燐へ視線を向け――一瞬で顔が真っ赤になった。

 

「なっ…!お燐…!?

 いたのなら声をかけてよっ…!」

 

 真っ赤な顔で怒るさとり。

 理不尽である。

 

「いえ…一応入るときに声はかけたんですけど…。

 まったく気づいておられなかったようですね。」

 

「そ、そうなの…?それは悪かったわ…。」

 

 未だ紅い顔で、動揺冷めやらずといった様子のさとり。

 落ち着くのを待っているわけにもいかないので、燐はすぐに問いかける。

 

「…で?あんな決めポーズとって、一体なにやってたんです?」

 

 燐の問いに、さとりは俯きながら、か細い声で答える。

 

「それは…その…指導のために…。」

 

「指導?」

 

「ほら…明日、萃儀さんにスペルのことを教えることになっているから…。」

 

――成程。あのお兄さんが原因か。

 

 一つ納得した燐ではあったが、まだ腑に落ちないことはある。

 

「それはわかりましたけど…。それと、あのポーズと何の関係が?」

 

「それは…ほら…私って誰かにモノを教えたことって殆どないから…。」

 

「ないから?」

 

 さとりは視線を彷徨わせながら続ける。

 

「その…本で指導方法の勉強を…。」

 

 本の指導方法の勉強をするのと、決めポーズと、どんな関係が…?

 

 余計困惑が深まった燐は、さとりの手にもつ本に目を向ける。

 その本は、参考書レベルの分厚さで、表紙には大きくタイトルが書かれていた。

 

『魅せる!カリスマ指導術!~これであなたも尊敬の的~』

 

――さとり様…!それは読むものを間違えているからっ!

 

 燐の心の叫びに、さとりはきょとんとする。

 

「え…?」

 

「普通の指導書なんていくらでもあるはずなのに、なんでよりにもよってこんな本なんですか…?」

 

 燐のに問い詰められ、さとりはまたしどろもどろになって言う。

 

「それは…その、ほら…。

 あんなに純粋に期待されるのって初めてだったから…。」

 

――少しでも、その想いに応えたくて――

 

 先程とは違う理由で顔を赤らめだしたさとりに溜息をつきそうになり、なんとか抑える燐。

 

「張り切るのは良いですけど、方向間違えてますから…。」

 

 呆れながら言う燐に、少しショックを受けたという様子のさとり。

 

「そ、そうなの…?」

 

 今からでも新しい本を読もうとするさとり。

 しかし、その手に取った本に、『何か難しい本』と書いてあるのをみて、これではだめだと思った燐は、さとりを呼び止める。

 

「待ってください。それも方向性が間違ってると思います…!」

 

「え…?」

 

 張り切るあまりか、完全に空回っている様子。

 

 これは、さとり様一人に任せてはだめだ…!

 

 そう悟った燐は、主の為に自分の睡眠も諦める覚悟を決める。

 

「もうあたいも手伝ってあげますから、一緒に準備しましょう?

 誰かに相談しながらの方が考えは纏めやすいでしょうし。」

 

 お燐の提案に、さとりは燐の顔を見て、言う。

 

「確かに…本を読むよりもそのほうがずっといいわね…

 申し訳ないんだけれど、お燐、少しだけ手伝ってもらっても良いかしら?」

 

「任せてください!」

 

 燐の力強い宣言に、さとりはこの夜初めての笑顔を見せる。

 

「ありがとう。助かるわ…。」

 

 敬愛する主からの、笑顔での感謝の言葉。

 それだけで、今日一日睡眠がとれなくなることくらい良いやと思えてしまう燐であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前書きが長すぎたのでこちらに分割。
お気に入りが30超えました。
10話で10越えたいなと言っていたころからは想像もできないレベルで、本当に感無量です。
宜しければこれからも宜しくお願い致します。

…尚、テストが近いため、来週、再来週は更新できるか怪しいです。そこのところ、ご了承いただけますと幸いです。

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