東方萃儀伝   作:こまるん

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プチプチシリアス(多分)

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能力覚醒

 闇に飲まれたはずの俺の意識に、何かのイメージが流れ込んでくる。

 

『あらゆる流れを遮断し、拒絶する。』

 

 概要と共に、大まかな使い方が頭の中に浮かび上がる。

 

 これが…俺の能力…?

 

 意識が浮上する。

 

 すると、自分を中心として凄まじい力が暴走していることに気付いた。

 その力は、とどまるところを知らず、どんどん膨れ上がって行く。

 

 原因はすぐにわかった。

 

 先ほどまで身体の奥底に確かに存在していたものの、動かそうとしてもびくともしなかった謎の力。

 それが、外にとめどなく流れ出して、凄まじい力を発揮している。

 

 大方、さっきの何かが割れるような音は、封印か何かが壊れた音だったんだろうなぁ…。

 で、それが機能しなくなったため、俺の内面にあった力が枷を失い暴走している、と。

 

 さらに、さとりさんの妖力と合わさることで、相乗効果によりさらに強力になっているようだ。

 

 早急に抑え込まなければ、取り返しのつかないことになるぞ――

 

 幸い、内面から溢れ出る謎の力が原因であることは明白なので、それを止めれば良い。

 何の因果か、丁度良い能力に覚醒したばかりだ。

 

『身体の深部と、外部との力の流れを遮断する。』

 

 瞬間、俺を中心に渦巻いていた力が消え失せる。

 上手く、能力は作用したようだ。

 巻き起こっていた風も止んだのでゆっくりと目を開ける。

 

 徐々に開けていく視界に、こちらへ駆け寄ろうとしているさとりさんの姿を確認できた。

 …が、どこか様子がおかしい。

 

 何か、あったのか。

 

 そう確認しようとして、彼女に歩み寄る。

 さとりさんの目は、こちらを見ているようで、全く焦点が合っていない。

 

 声をかけようとすると、不意に両膝を地に突いた。

 

 そのまま倒れ込もうとするさとりさんの下へ駆け寄り、正面からその身体を支える。

 

「さとりさん、さとりさん…!」

 

 肩をゆすって呼びかけてみるが、目の焦点が俺に定まることはなく、反応も返さない。

 

「こいし……萃儀さん……。」

 

 うわ言のようにつぶやいた彼女が、不意に右手を伸ばし、虚空をつかむ。

 

 その動作は、自分から離れていってしまうものに追いすがるかのような切なさに溢れていた。

 彼女の瞳からは、既に光が失われている。

 

――いかん。なんとかして正気に戻さないと!

 

 俺はさとりさんの耳元に口を近づけ、声を張り上げる。

 

「さ、と、り、さん!!」

 

 流石に、耳元での大声は届いたのだろう。

 びくっと身体を震わせたさとりさんの目に徐々に光が戻っていく。

 

「…萃儀さん……?」

 

 か細くはあるが、確かに俺の言葉に反応を返してくれたことに心底安心しながら、次にかける言葉を考える。

 

「俺は、大丈夫です。」

 

 何を言うべきか、どう切り出すべきか。

 色々と考えを巡らせてみたものの、結局口から出せたのはその一言だけだった。

 

 これじゃ足りない。

 せめて、俺が無事にここに居る事だけでもしっかり言葉で伝えないと。

 

 俺は、人間だ。

 当然ながら、さとりさんのように心を読むことはできない。

 

――だが、彼女を元気づけるために言葉をかけることくらいならできる!

 

「さとりさん、あなたが何を想っていたのかは俺にはわかりません。」

 

 さとりさんが何を考え、何に苦しんでいたのかを今の俺が正確に知ることは出来ない。

 だが、少なくとも今回の引き金になったものは明確だ。

 

 だから、この一言だけははっきりと伝えておく。

 

「俺は、大丈夫です。ちゃんとここに居ます。」

 

 言葉足らずなもので伝わるか不安だが…。

 

 さとりさんの表情を確認しようとして、顔を覗き込むと、今にも泣きだしそうな顔をしていた。

 

――やべ、失敗したかな…?

 

 あわててフォローの言葉を探そうとしたものの、何を言ったものかさっぱりわからない。

 

 とりあえず謝っておこうか――?

 

 しかし、その思考は、さとりさんの取った行動により四散させられる。

 

 俺にしがみ付き、俺の胸に顔を押し付けるさとりさん。

 

――えーっと、これはどういう…

 

 どうしたものかと迷っていると、彼女は殆ど消え入りそうな声で囁く。

 

「ごめんなさい…少しだけ…このままで…。」

 

 それを聞いた俺の身体は、殆ど考えるまでもなく勝手に動いていた。

 さとりさんの背中に腕を回し、彼女の華奢な身体を抱きしめる。

 

――今にも消えてしまいそうに弱弱しいその身体を、離してしまわないように。

 

――俺はここにいるからと安心させられるように。

 

――少しでも彼女が落ち着くことができるように。

 

 拒まれるような様子はなかったので、俺の行動は間違っていなかったのだろう。

 

 安心したことで過度の緊張の疲れが一気に来たのか、寝息を立て始めてしまったさとりさんをみながら、そんなことを考える。

 

『――少なくとも、私からみたら、自らの能力と立場に苦悩している少女のように見えたね――』

 

 不意に、勇儀の言葉が頭によみがえり、自らの腕の中で眠るさとりさんを見つめる。

 

 

 心を読む能力を持ち、地底をまとめ上げる立場にいるという、古明地さとりさん。

 彼女は、その華奢な身体に、一体どれほどの重圧をかけられているのだろうか。

 

 

 俺が少しでもその支えになろう……。

 

 

 そんな決意を固めながら、改めて、腕の中で眠る少女を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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