オリジナルヒロインが偽王として立ったという内容です。
pixivに投稿していますが、加筆修正、ラスト補少し変えてあります。
信じられるか、 胎果は人の腹から産まれるのだ」
おぞましいと言わんばかりに吐き捨てた言葉、それを聞いた時、彼女は否定するだけで精一杯だった。
だが、その言葉は届かないし、響く事もない。
王が失道すれば、最初に麒麟が病にかかる。
「儂は王の器ではなかった」
今からでも遅くはありません、自分の言葉は,あまりにもむなしく響く、主上の耳には届くことはないと思いながらも。
「胎果には何か、秘密があるのか」
呪うような、妬むような言葉を聞くたびに辛い気持ちで胸が一杯になった。
病にかかったとき、自分はもう死んでしまう、そう思ったのに。
何故か、今も生きている自分がいる。
「塙麟、儂は王位を返上する」
その言葉を聞いたとき、哀しかったのか、苦しかったのか、わからない。
王と離れてしまうことを喜ぶ麒麟などいないというのに。
「おまえのせいだ」
かって、巧州国の王だった男が一人の女性に向かって叫んだ。
彼女は海客だった。
そして慶王の友人でもあった。
「麒麟を、塙麟を生か師、国を救うのは儂が王でなくなることだ、おまえのせいだ、何故だ、胎果は何故に」
責める言葉は尽きないし、やめて欲しいと言っても止まる事はない、主上の命令で慶王を妖魔達に襲わせた。
そのときに、彼女は巻き込まれた、関係のない人に怪我を負わせてしまった。
全てが終わった時に真実を知っても彼女は自分を責めなかった。
麒麟の私の病がはやく治り、元の綺麗な姿に戻るようにといってくれた。
王を失った私にだ。
民に不安を与えぬように仮の王をたてることにした。
それが彼女、木桜春雨だった。
私は、今、それを、とても嬉しく思い、悔やんでいる。
「主上はお出かけになりました」
女怪の言葉に、どこへと聞き返す、街ですと言われて、彼女はいぶかしげな顔をした。
傾きかけた国を立て直すために、少しでも知ろうと彼女は日夜、忙しく働いている。
先日までは慶王の元に行き、国の理や色々と学んでいた、寝る間も惜しんでである。
「儂は王にはなれぬ、ならば、国が滅びようがどうなろうが、構わぬ、儂を責めるか、ならば、おまえが助けろ、塙麟を、この国を、ただの人に、胎果のおまえに何ができる、時間はないぞ」
王ならば永遠に等しい時間がある。
巧州国が、少しでももよくなるようにと彼女は奔走しているが、ただの人に与えられた時間は決して多くはない。
元、海客だという壁落人の住む家を訪ねると彼女がいた。
迎えに来た自分に彼女は驚いたようだった。
塙麟、学校を作るのよと突然言われて、すぐにはなんのことがわからなかった。
「海客が一番困るのは言葉よ、大きな学校を作って言葉を覚える場所があれば、助かると思わない」
「それは」
「海客だけでない、半獣も勉強できるような場所にしようと思うの、楽俊にも話をね」
その為に壁落人さんにも協力してもらいたいと話をしているのだと聞かされ、そうですかと頷いた。
どうして、彼女が王でないのだろうと、思わずにはいられなか。
願ってしまわずにはいられない、彼女に王気を感じる事ができれば、すぐにでも膝をつくことがきる。
「命をもって主上にお迎えする御膳を離れず、勅命の背かず、忠誠を誓うと、誓約申しあげます」
「塙麟、まだ完全によく鳴ってはいないのだから、ゆっくり、休まないと、新しい王を見つける為にも」
(見つからなければいい、新しい王など)
「巧州国が落ち着いたら」
「蓬莱へ、帰られるのですか」
声が思わず、手が、顔が強ばりそうになる。
だが、そんな自分よりも驚いたのは海客、そばにいた、壁落人という男の顔は、平静を装っているが。
(どうして、貴方が、そんな顔を)
人の、貴方が、男の。
蓬莱では人は子をなすとき、愛する時、体の交わりで愛を確かめるのだという。
その話を聞いたのは随分と昔で教えてくれたのは麒麟だった。
そんなことを思い出してしまった、でも知りたくなかった。
あの海客、壁落人と共にいる姿を見るたび、そこにいるのは立つべきなのは麒麟の自分だと言いたくなる。
王の隣に立つのは麒麟なのだ。
王は結婚などできない、伴侶など求めない、一人だ、死ぬまでずっと。
だからこそ、麒麟がいるのだ、死ぬまで、ずっと。
居てくれるなら、蓬莱へなど帰らないと言ってくれたら。
どんなに、どんなに。
麒麟の自分が持つ、この感情は、あまりにも醜すぎる。
巧州国は変わりましたね。
しばらくして、景国を訪れた自分に楽俊という半獣が驚いたように話しかけてきた。
民もだが、半獣の姿を多く見かけるようになった。
旅の途中で色々と噂を聞いたというのである。
「王でないのが残念ですね」
そんなこと、周りの誰よりも自分が思っているというのに。
「もしかして、どこかの国の王かもしれませんね」
言葉を飲み込んだ、考えもしなかった、全ての王が揃っているわけではない。
公にはされていないが、あの国は偽王ではないかという噂の国も幾つかあるのだ。
怖い、国が滅ぶことが、民が苦しむこと、いや、それ以上に。
彼女は、いずれ死ぬ、ただの人は長くは生きられない、百年もたたないうちに別れが来るのは避けられない、別れがくる。
永遠の別れが。