マンモスマンがアタルに連れてこられた先にいたのは悪魔超人の『ザ・ニンジャ』
アタルの指示の下、散っていく。
キン肉マンたちはネプチューンを誘うも「資格はない」と断られ…
何を思ったか左腕に埋め込まれている〝 ロングホーン 〟を手術して取り出し、代わりに骨の形に整えた〝 ビッグ・タスク 〟を埋め込んだ。
キン肉マンの左腕の手術が無事に終わり、病院内で一晩を過ごした翌日の朝。
病院の出入口に俺達一行がいた。
「次の試合まで時間があるんだ、ゆっくりしていってもよかったんじゃねぇのか?」
俺達が次に戦う相手はキン肉マン・ゼブラが率いる技巧チーム。
だがその前に『強力チーム』と『知性チーム』との一戦が行われる。
次の試合まで時間の余裕があるとはいえ、昨日が手術で翌日に退院なぞ正気の沙汰とは思えん。
タッグトーナメントの時はこれ以上に無茶をしていたが…
「ずっと病室のベッドで横になっていたら体が鈍ってしまうからのぉ、それにこの腕も馴らしておきたいし」
ギプスで固められた左腕を動かして見せる。
超人医師達がキン肉マンのために施したものだ。
「強力チームと知性チーム。勝利した方といずれ戦うことになる。見といて損はない」
アホみたいな緩んだ顔から気を引き締めた表情に切り換えてキン肉マンが語り、ミートも頷く。
俺も特に否定する理由もなく賛同した。
…というのも俺がいない知性チームの先鋒を誰がやるのか興味がある。
戴冠式でキン肉マンを弾き飛ばした白熊の毛皮を纏った超人がやるだろうと思うが…
*** *** *** *** ***
試合に出場する選手達のために用意される宿泊施設というものがある。
当然、それは俺がいるキン肉マン・チームにも用意されている。
試合会場となる会津若松城の近くにある公園の一角に人目を避けるようにそれは建てられていた。
「これを建てるぐらいならホテルでも借りた方が安上がりな気がするんだが…?」
木々の合間に、キン肉マンを模した「キン肉ハウス」が鎮座していた。
後から聞いた話だと元々倉庫として使っていたものを人が住めるように改装したもので、ホテルで一泊するよりも安上がり、とのこと。
「昨日はゴタゴタしてて聞きそびれたが、お前さんに聞きたいことがある。だがその前に一つ言っておきたいことがある」
ちゃぶ台を挟んで向かいの席に正座し、やおら頭を下げると…
「マンモスマン。お前のおかげで一回戦を突破することができた。感謝する」
目を瞑って、深く頭を下げたまま感謝の言葉を述べる。
隣にいるミートも倣って頭を下げた。
「俺は俺の目的のために戦ってるだけだ。感謝される覚えはない。……で、お前の聞きたいこととは何だ? 昨日の試合に出てきたフードの男のことか?」
問う俺に頷く。
コイツらが疑問に思うのは当然、何しろアタルはコイツらにキン肉王族について喋ってたからなぁ…
「やつはキン肉族の超人で『アタル』という男だ。今、俺が言えるのはここまでだ。あとは本人に直接聞いてみるんだな」
「ですが、ただのキン肉族にしてはキン肉王族について詳しすぎます! 何よりもマスクを捲ったときに出た光が王子のものと似すぎています! それにどこにいるんですか彼は!?」
俺が話す説明だけでは納得しないのかミートが急に立ち上がって問い詰めてくるが、だんまりを決め込んで無視する。
やがて見かねたキン肉マンがミートを宥めかして落ち着かせ…
「ことが終わってから、その時に改めて聞こう。今は王位争奪戦に集中すべきだろうしな、それでよいか?」
ミートは不機嫌そうな態度を取っていたが、キン肉マンの言う提案に承諾し、この話題はこれで終わった。
もっとも俺もアタルの素性について語れるほど詳しくは知らないが…
*** *** *** *** ***
キン肉ハウス擬きに滞在すること幾日、強力チームと知性チームの対戦が前日に控える日の朝。
一人の超人が俺達の元に訪れた。
赤文字で胸に「BH」と書かれた全身黒ずくめのボディに、赤いマントをした目立つ風貌の超人。
だが一番に目を引くのは顔面に空いた大きな穴だろう。
「ブラックホール!?」
キン肉マンがタッグトーナメントの一回戦で相見えた四次元殺法コンビの片割れ。
対戦以来の登場に思わず驚くキン肉マン。
「カカカ~ッ。久しぶりだなキン肉マン。生憎、今日はお前に会うのが目的じゃない」
顔面の穴の奥の空間が揺らめき、こことは違う別の場所の光景を映し出す。
どこか見知らぬ雪の積もった山中、おそらく残虐チームがいる富士山の麓。
「私のこのフェイス・ホールは遠く離れた場所の空間を繋ぎ、この穴を通じて転移することができる。さぁ、飛び込んで来いマンモスマン!」
顔面の奥にある景色を指差すブラックホール。
なるほど、ニンジャの言う通り打ってつけの能力を持っている。
「ちょっと野暮用で出掛けてくる! 安心しろ、試合前には戻ってくる!」
ブラックホールのフェイス・ホールに飛び込み、文字通りキン肉ハウスから姿を消す。
*** *** *** *** ***
顔面の穴を通り抜けた先は一面を雪で覆いつくされた銀景色。
到着した場所には既にニンジャとアタルが待っていた。
「残虐チームがエサに食いついてきた」
〝 エサ 〟という単語に思わず聞き返すと、アタルはアゴで前方を指し示す。
そこにはチームメイトを連れたソルジャーマンが雪の積もる山道を登っているところだった。
「げぇ~~~っ、マンモスマン!? キサマはキン肉マン達と一緒にいるハズだぞ! 何故、ここにいる!? それにニンジャも何でそっち側にいるんだ!? 俺達を騙してたのか!?」
俺達の姿を見つけた残虐チームの一人がこちらを指差して叫ぶ。
どういうことだ? …とニンジャに視線を向ける。
「『熊本城から消えた〝 フードの男 〟が富士山麓に潜伏している』…という情報を拙者直々にあやつらに教えてやったわけよ。拙者としては騙しているつもりはないのだがな、現にこうしてアタル殿がここにいるではないか?」――とアタルを指す。
「つまり、俺たちはお前たち三人に嵌められたってわけか…」
いけしゃあしゃあと言うニンジャに憎々しげに吐き捨てるソルジャーマン。
ザ・ニンジャを含む悪魔超人達は正義超人どもと死闘を繰り広げた過去がある。
ソルジャーマンからしてみれば正義超人の敵である筈の悪魔超人に嵌められるとは思わなかっただろう。
「どちらにしろ要注意人物である〝 フードの男 〟を倒すことに変わりはない! いくぞ!」
ソルジャーマンの号令の下、動き出す残虐チーム。
うち細身の二人が左右両脇からニンジャの頭と腰を掴んで体を天地逆さまに持上げると、地面を蹴って空高く跳躍。
通常の《ブレーンバスター》を二人掛かりで、さらに高所からの落下、如何に超人といえど重体は免れない。
『 順 逆 自 在 の 術 ―――― ! ! 』
しかし、ニンジャがその術の名を口にした瞬間、技の受け手であるニンジャと掛け手である残虐チーム二人が入れ替わり、双方が入れ替わったまま地面に向かって背中から落ち始める。
「このままではウールマンとヘビー・メタルがやられてしまう! ブルドーザーマン、ザ・ゴッド・シャーク、何としてでも技をカットしろ!」
ソルジャーマンの命を受け、大柄の超人二人が救出すべく駆け付ける。
「悪いが弱小チームにはご退場願いましょうか? 残虐チームの皆さん?」
左右それぞれの腕で2体の超人の首下を掴んで持ち上げ、宙に吊り上げる。
さらに背中を見せながら落ちてくるニンジャ目掛けて跳び、ニンジャが拘束している二人の背骨と、俺が掴んでいる二人の頭頂部を互いにぶつけ合わせる。
「ゴッ!」という硬いもの同士がぶつかり合う鈍い音を鳴らして残虐チームの四名が地面に向けて落下、受け身を取れないまま激突する。
「くぅっ、せめてフードの男だけでも!」
ソルジャーマンがアタル目掛けて飛び蹴りを放つも、アタルは両手でその足首を掴んで阻止し、頭上に放り投げる。
さらに跡を追って跳躍、空中で仰向け状態のソルジャーマンの両足を曲げて両脇に挟み、相手の背に跨がるような格好に乗ってから反転、うつ伏せになったソルジャーマンの両手首を掴むと、落下の体勢に入る。
『 ナ パ ー ム ・ ス ト レ ッ チ ! ! 』
ソルジャーマンの胸部を下に向けての落下。
地面に近づくにつれて胸がへこんで「A」の文字を形作り――――地面と激突、雪が砂塵のように宙に舞い散る。
「バ、バカな……今の俺は邪悪の神の力で超人強度が1億パワーに膨れ上がっている筈なのに…」
「自分自身の力ではなく、邪悪の神の、他者の力を頼った。それが、お前の敗因だ」
「ちげぇねぇなァ……軍人として、あるまじき行為だったな…」
壮絶な笑みを浮かべてから気を失う。
「これであとはメンバーのスカウトをするだけだな」
今はニンジャを入れても二人しかいないが、アタル率いる「超人血盟軍」は正義、悪魔超人からなる混成チーム。
超人血盟軍に関してはアタルがいれば問題はないだろうが……
俺が在籍しているキン肉マン・チームには未だに悩みの種がつきない。
本来ならば、この時点でメンバーになるテリーとロビンは未だに姿を見せず、次の対戦場所である姫路城で加わるウォーズマン、ラーメンマンがどう動くのか予測がつかない。
最悪、俺とキン肉マンの二人で戦うことになる可能性も考えられる。
「ハーハハハ、
ソルジャーマンから剥ぎ取ったマスクと、マントを染めるための血液が入ったビンを手にしたニンジャが近寄ってきた。
運命の5王子の血液は〝 血染めの儀式 〟に必要不可欠。
ソルジャーマンに関しては、格好だけを見れば本人と判断されるが素顔は誰も知らない。
マスクを剥ぎ取れば、多少の時間は稼げるだろう。
「拙者の《人心露わの術》で連中の思考を読み取ってみたが……ここにいる残虐チームを含め、どの陣営もキン肉マンの〝 火事場のクソ力 〟を手に入れておらぬようだ。もっとも、残虐チームだけ知らされていないという可能性もあるが…?」
「――――その可能性は低いだろうな、邪悪の神たちは〝 火事場のクソ力 〟の存在を危惧し、その使い手であるスグルを危険視している。共通の目的を持っている奴等が足を引っ張り合う理由はない」
腕を組みながら真剣な表情でアタルは答えた。
「奴等も未だに手に入れていない、と考えていいだろう」――――と。
(´・ω・)にゃもし。
戦闘描写に毎回頭を悩ませております。
ここまで読んでくれて Thank You