試合直後の不穏な空気を打ち消したのは超人委員会のハラボテだった。
「大王としての品格」が必要と語る委員長に押し黙る候補者たち。
ニンジャから告げられるアタルの行き先である西ドイツ。
目的はチームメンバーのスカウト。
そして聞かされる正義超人たちの動き。
新たな技の特訓
病室の奥、窓際の方に行くと上半身を起こしてベッドに腰掛けている三人を発見。
口を真一文字に結んだマリポーサ、沈んだ表情で下を向いているビッグボディ、何をしていいのか分からずに挙動不審のキン肉マン……と、三者三様の姿を見せていた。
「お前のところの大将がケガを負ったというのに随分とのんびりなんだな」
皮肉なのか、素直に思ったことを口にしてるだけなのか判断しかねるマリポーサの物言い。
「本題に入る前にまずは確認したいことがある。俺がキン肉マンに敗れた直後、俺に憑依していた『飛翔の神』はいなくなった。ビッグボディ、お前はどうだ?」
ビッグボディが首を縦に振るのを確認すると…
「俺たちはこの王位争奪戦に向けて各自チームを結成して勝負に挑んだ。方法は様々だが、
王位継承の儀で提唱された「キン肉星王位争奪サバイバル・マッチ」
それを言ったのは知性の神が連れてきたフェニックス。
だが奴はこの団体戦を提案する前に、既にメンバーを集め終えていた。
マリポーサはそのことを口にする。
「その中に一人異質なのがいる。それが〝 キン肉マン スーパー・フェニックス 〟だ」
マリポーサが病室に備え付けられているテレビに電源を入れると……前もって録っておいたのか、一回戦の終盤、敵味方入れ乱れての場外乱闘の場面を映し出す。
『――――知るかよ! 俺たちは知性の神の部下であって、フェニックスの部下じゃねぇ!』
やがて場面はプリズマンが自分から神の僕ということをバラしているところで一旦止めて重々しく語る。
「聞いての通り、フェニックスのチームメイトの中に〝 知性の神 〟の部下がいる。確たる証拠はないが、この『キン肉星王位争奪サバイバル・マッチ』は邪悪の神たちがフェニックスを勝たせるために仕組んだ出来レースの可能性がある。……でなければ知性の神が自分の部下をチームメイトとして潜り込ませる説明がつかない」
「待ってくれマリポーサ、仮にそれが本当だしたらフェニックス以外のチームは何のために戦わせているんだ?」
恐る恐る尋ねるビッグボディにマリポーサは答える。
「キン肉マンとぶつかるチームは力量を計るため、もしくは疲労させて戦力を削るための捨て石。フェニックスとぶつかるチームはフェニックスたちを鍛えるための踏み台、或いは技の実験台かもしれんな」
憶測ではあるがマリポーサの考えは納得できる部分がある。
邪悪の神々が直々にメンバーを集めていたのはフェニックスだけだった。
それ以外はマリポーサの言う通りに候補者がわざわざ声をかけていた。
「俺は俺のために信じて戦った奴らのために、キン肉マンのサポートをすることにした。キン肉マン・チームにメンバー入りするのも考えたが……他のチームから難癖をつけられる可能性が高いからな。それでビッグボディ、お前はどうする? このままギブアップするか? それとも足掻いてみせるか?」
マリポーサからの質問を受けて、ビッグボディは……
*** *** *** *** ***
翌日、ゼブラとの試合が控えている姫路城の屋外にて対策会議をしている俺たちがいた。
そこに新たにマリポーサとビッグボディの面々が加わっている。
「キン肉マンがかけている《マッスル・スパーク》は、この『フィニッシュ・ホールドの壁画』に描かれているものと比べると遜色はないが…」
スクリーンに映し出されている二つの《マッスル・スパーク》
マリポーサはキン肉マンの空いている両腕を指差して…
「この二つの腕で相手の手首を掴めば、技の精度と威力がさらに増すハズだ」
そう力説し、キン肉マンたちも同意して頷く。
それはサタンクロス戦で見せた《スグル版マッスル・スパーク》ともいうべき技。
ニンジャを惨殺し、アシュラマンに重傷を負わせたサタンクロスをキン肉マンはこの技で打ち負かせて勝利を手にした。
そして未来でアタルが見せたもう一つのマッスル・スパークが合わさって初めて完成するのだが……今はまだ言うべきじゃないだろう。
ここで完成されたら知性チームに対策を練られてしまう。
「まずは俺が技を受けよう。開拓地で体を鍛えたおかげで体力には自信がある」
ビッグボディがリングに入り、キン肉マンが技を仕掛ける。
ブリッジ体勢からの腹筋で空中に打ち上げ、跡を追って跳躍、首と片足に脚をかけて固定させるまでは成功したが、片方の手首を掴むところで体勢を崩し、両者ともリングに落ちて失敗する。
「さすがにそう簡単にはいかないか……次は俺がやろう」
ビッグボディと入れ替わるようにしてマリポーサがリングに立ち、特訓は続けられる。
交互に入れ替わって特訓することで徐々に形になっていく《スグル版マッスル・スパーク》
未完全版でもゼブラを倒すだけの威力があるので問題はないが……それまでに先鋒から副将までの四人を倒さなければなければならない。
その間にキング・ザ・100トンのように相討ち覚悟で引き分けに持っていかれると……やはり人数差をどうにかしたいところだ。
ニンジャの情報を信じたいところだが…
もはや数えるのも億劫になる程の回数をキン肉マンがこなしていると、一人の男が近づいてきた。
赤い龍をあしらった黒の中華服に身を包んだ、だが何よりも頭頂で結った髪と細長いドジョウ髭が特徴の細身の超人。
「ラーメンマン!」
特訓を中断して駆けつけるキン肉マンに、左手の掌に右手の拳を当てる大陸特有の挨拶を交わす。
「すまないな。本来なら、いの一番に駆けつけるべきなのだが……これを用意するのに手間取っていた」
左側頭部に装着したヘッドギアを指差す。
過去にウォーズマンのベアー・クローでつけられた箇所。
「後れ馳せながらもこのラーメンマンをキン肉マン・チームに入れさせてもらえないだろうか?」
無論、キン肉マンたちにこれを断る理由などあるわけもなく、ラーメンマンを快く迎え入れた。
この時点でメンバー入りを果たしたとなると……技巧チームのバイクマンを背後から襲って成り代わる場面はどうなるのか…?
まぁ、姫路城でも超人委員会の真似事をするであろうネプチューンたち
「それでラーメンマン。お前以外の正義超人はどうしたんだ?」
この場に来ているのはラーメンマンただ一人。
ニンジャの語る情報では複数の正義超人たちが動いているという話だったが……キン肉マンもラーメンマン以外の正義超人が気になり問いただす。
「私の口からは多くは言えないが…」
その細い目でキン肉マンをじっと見つめて一言だけ「信じろ」…と述べてから押し黙った。
テリーマンや、ロビンマスクほどではないにしろ、それなりに付き合いの長い二人。
キン肉マンも「分かった」と言うだけで深くは追及はしなかった。
「飛翔チーム相手に三人を倒し、四人目は引き分けに終わったが……一人で四人を無力化した腕前は見事だった」
賛辞を述べつつ、キン肉マンのときと同様に同じ挨拶を行うラーメンマン。
「ふん。俺は俺の目的のためにこのチームに入っているだけにしか過ぎない。お前たちとは馴れ合うつもりは端からない」…と力強く断言する。
「ふむふむ。そうなると目的は違えど、手段は私と同じかもしれない。
私は私を敗ったキン肉マンの強さを知るために彼と同じ正義超人になり、彼に近づいたのだよ。
その強さの秘密は彼の持つ〝 火事場のクソ力 〟…だと思っていたが、先日の試合でキン肉マンはその力を失っている状態にも関わらず勝ってしまった。
私が見誤っていたのか、〝 火事場のクソ力 〟以外にも特殊な力があるのか、私はキン肉マンの近くでそれを知りたい」
長々と話すラーメンマンに俺は「勝手にしろ」と言葉を吐いた。
(´・ω・)にゃもし。
週一投稿で頑張りたい(希望)。