気付けばここ最近家に帰ってない。
毎日毎日、泊まり込みでこのお店で働かされている。しかも賃金は全て吸収されていく。働く意欲も何もかもも吸われていく気分だ。「お客さんに食べてもらい、美味しいと言ってもらえればモチベーションも上がる」とか抜かす奴もいるけれど、そんな事はなかった。
あー、なんかもう。何だよこれ、全然冒険者でもなんでもないよ。ダンジョンとか全然潜ってねえよ。
最近、ベルとも全然会ってないし。なんかもう嫌だ。女の子と出会いが欲しい。あ、【ロキ・ファミリア】みたいな脳筋達は別。あんなん出会っても尻に敷かれる未来しか見えない。
かといって、うちの女店員達も血の気の多いのが多いらしいし、それはそれで勘弁だわ。
「この世にまともな女はいないのか……」
「何様ですか」
後ろからシュドッと頭にチョップを食らった。この声はリューさんか。
「あ、リ、リューさん……」
「そんな怖がらないでください」
そうは言われても……。この人の攻撃力は【ロキ・ファミリア】の方々と大差なかった。そんな人を怖がるなと言う方が無理だ。でも、この人のパンツは可愛かった、うん。
「それより、これお願いできますか?」
「は?」
リューさんの手に握られているのは財布だ。
「実は、怪物祭りを見に行ったシルが財布を忘れて行ってしまったみたいで。持って行ってあげてくれませんか?」
「はぁ、いいですけど……店はいいんですか?」
「大丈夫です。ロウガさんもいますし」
「はぁ、では行ってきます」
確か、怪物祭りは闘技場だったっけか?うし、行って少し遊んでくるか。せっかくのお祭りだし。………まぁ、お金はないんですけどね。
念のため、盾を持って店を出た所で、ちょうどベルとばったり出会った。
「あっ、ベル」
「! ウラ。なんか久し振りだね」
「ああ。ちょうどいいところに来たな。ちょっと怪物祭り行こうぜ」
「へっ?あ、うん」
俺はベルを連れて怪物祭りに向かった。
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「つまり、シルさんにこの財布を渡せばいいのね?」
ベルが確認を取るように俺に聞いた。
「ああ。だから一緒に探してくれ」
「いいけど……。そういえば大丈夫?最近、ダンジョンに全然行けてないけど……」
「大丈夫じゃないよ。お前の分は金返してもらったにしても、まだまだ借金はあるんだ」
「僕も手伝おうか?」
「いや、いい。元々、俺が壊したんだしな」
「そ、そう。でも、無理しないでね」
「してねーよ」
たまーに女性店員の着替えシーンを目撃してボコられることはあっても、無理はしてない。ベートさんと楽しく仕事してるし。
「それより、悪いな。最近、全然帰れてなくて」
「ううん。……ああ、帰れてないといえば、神様も最近帰ってこないんだよね」
「ヘスティア様が?」
「うん。なんか全然帰って来なくて」
「ふぅん……。なんかあったのか?」
「うーん、それが分からなくて」
まぁ、大丈夫だとは思うけど……。あの神様ってアホだけどしっかりはしてるだろうし。バイトとかキッチリやってるの見たことあるし。
「ま、大丈夫だろ」
「僕もそこまで心配してるわけじゃないけど……」
そんな話をしてる時だ。いや、そんな話をしてたからかな。「おーいっ」と聞き覚えのある声がした。
「ベールくーんっ!」
神様が人混みをかき分けてこっちに駆け寄ってきていた。
「神様⁉︎どうしてここに⁉︎」
「おいおい、バカ言うなよ。ベルくんに会いたかったからに決まってるじゃないか!」
ほぉう、いきなりハブられましたよ。初っ端からいない子認定ですよ。
「いえ、僕も会いたかったですけど、そういうことじゃなくて……あの、今日まで一体どちらに……」
「いやぁー、それにしても素晴らしいね!会おうと思ったら本当に出くわしちゃうなんて!やっぱり僕たちはただならない絆で結ばれているんじゃないかなー、ふふふっ」
「あの、僕もいるんすけど……」
まるで嫁の実家に帰った時の義父さんに対するような言葉で言ってしまった。
「なんだ、君もいたのか。借金は?」
「いきなりとんでもないこと聞きますね……。今日も仕事の一貫です。財布を届けに来てまして……」
「じゃあ君は仕事をしてなよ。僕はベルくんとデートするからさ」
ひでぇ!こいつ本当に俺の主神か⁉︎
「ふん……。悪いけど僕聞いてるんだからな。ロキの所のレベル5、三人の胸を揉んだらしいじゃないか」
ギクッと俺の肩が震え上がった。
「お陰で神の宴で大恥かいたんだからな」
「………わかりましたよ。じゃあベル。俺はシルさんに財布届けに行くから」
「ええっ⁉︎さ、三人で探したほうが……」
「いいから。お前は楽しんで来い……」
まぁ、神様の邪魔するのもアレだしな。……はぁ。
俺は一人寂しくシルさんを探しに行った。