目を覚ますと、おそらくギルドの一室だった。ソファーの上に寝かされている。
おかしい、確か俺は【剣姫】に殴られたはずだ。
「目、覚めた?」
エイナさんの声が聞こえた。
「アイズ・ヴァレンシュタインさんが『やり過ぎた…』って言いながら運んで来たけど……何があったの?」
本当にやり過ぎですよアレは。レベルが全然違うのにあのパンチはやりすぎだと思います。……いや、まぁ俺が悪いんですけどね。
俺は起き上がって、机を挟んでエイナさんと向かい合うように椅子に座った。
「色々あったんですよ。イロイロ」
「ふぅん……ま、その話はあとで聞かせてもらうとして」
後で聞くのかよ。そこは見逃してくれてもいいんじゃないの?
と、思ってるとエイナさんのニコニコ笑顔が変わった。接客用から説教用に、だ。
「さて、ベルくんに聞いたよ?ウラくんが5階層に行こうって行ったんだってね?」
「はぁ⁉︎ちがっ……!何それ誰から聞いたんですか⁉︎」
「ベルくん」
「あんにゃろ……!後で殴る」
「さて、どういうことかな?」
「あ、いやそれは違くて……」
「言い訳はいいから、話してくれないかな?」
ズイッと顔を俺に近付けて来る。ちょっ、近い近い近い、近いっつーの。
俺は後ろにのけ反った。それでも、逃すまいとエイナさんは顔を近付けてくる。
「ねぇ、早く答えて?」
「い、いやその……」
チョッ……本当それ以上は……!
思わず顔を逸らすと、俺の足が机の脚に当たった。蹴られた机は、後ろに大きく下がり、エイナさんの脚を取った。
後ろに足を取られたエイナさんは、俺に抱き付いてくるように転んだ。
「キャッ!」
「あぶねっ……!」
俺は抱きかかえて、エイナさんを受け止めた。急だったもんだから、俺も体勢を崩しかけたが、なんとか受け止められた。
「だ、大丈夫ですか?」
「……………」
「エイナ、さん?」
な、なんだ?不機嫌?さっきから返事がないぞ?
「………ウラくん」
「は、はい?」
「さっきからどこ触ってるの?」
「へっ?」
自分の手の先を見ると、エイナさんのプリッとしたお尻をガッツリ掴んでいた。柔らかっ。
「って、ふおお⁉︎ご、ごめんなさい!」
「このっ……スケベ男‼︎」
「あふん⁉︎」
可愛らしく頬を赤らめた顔とは裏腹に、割と男前な拳が俺の顎を殴り飛ばした。
「もう知らないっ!バカ!」
プンプン怒ったまま、エイナさんは仕事に戻ってしまった。
1
女性から2発のパンチをもらった俺は、自分の分の魔石などを換金してから教会に戻った。
「……ただいまー」
「やぁ、おかえりー。遅かったじゃないか」
ヘスティア様が迎えてくれた。机の上に晩飯などが揃えられているところを見ると、俺が来るまで待っていてくれたようだ。
「すいません。……そこの白髪野郎に逃げられまして」
「死にかけたんだって?」
「はい。白髪の所為で」
「ウラ!さっきから白髪白髪って何だよ!ウラだって紫髪じゃないか!」
「………え、なんかダメ?」
「だ、ダメじゃないけど」
こいつ、口喧嘩の才能ねーなー。
しみじみそう思ってると、ヘスティア様が俺の顔をジト目で睨んでいた。
「………確かに、死にかけたみたいだね」
「はっ?」
「顎と頬の青タン、どうしたんだい?」
「あ、あーこれは……」
………オッパイと尻を揉んだ代償です、なんて言えない。
「ダンジョンで、その、何。爆発して……」
「爆発⁉︎」
「腰が、ちょっと……」
「しかも腰⁉︎」
やべっ……無理あったか。
「と、とにかく、イロイロあったんです。それよりほら、お腹空いてるんでしょう?ご飯にしましょう」
「ふぅん……?ま、いいや。そうしようか」
ふぅ……なんとか誤魔化せたか。
2
飯が終わり、【ステイタス】の更新。俺は服を脱ぎ捨てて、ベッドに寝転がった。
その上に跨り、俺の背中に自分の血を垂らした。
「ふむ……うん、割といつも通り……んっ?」
「何ですか?」
「…………早速、やらかしたみたいだね」
「ええっ⁉︎」
ば、バレた!なんで⁉︎【ステイタス】見ただけで⁉︎
「むっ、その反応。やっぱりか」
か、カマかけられた⁉︎クッ、俺としたことが……!
「………まぁいいさ。でも程々にしてくれよ?ただでさえ弱小の【ファミリア】なのに、悪い評判が広まるとますます誰も来なくなる」
「すいません……」
「いいよ。ほら、これ【ステイタス】」
「ありがとうござい……ん?」
ウラカゼ・クラスタ
Lv.1
力:I65→I66
耐久:H189→G203
器用:H101→I97
敏捷:I76→I78
魔力:I0
「………えっ、えっ?」
「どうしたんだい?」
「あの、耐久の上がり方おかしくないですか?確かに俺、盾持ちですから敵の攻撃何発か受けてましたけど……。それ以外に食らったと言えば、女の子二人に殴られただけですよ⁉︎」
「それだよ」
「へっ?」
「何でもない。さ、次はベルくんの番だ」
何か隠してる、そう思わざるをえなかった。